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ep.1
しおりを挟むふぅ……っとため息をつく、この男。
つまりは俺だが、なぜこんな状況になっているのかよく分かっていない。
「元ちゃん!そんな持ち方しないでよ。怪我しちゃう……!!」
そう叫んでいる女性の目線の先は、赤ちゃんである。そして、その赤ちゃんを持っている男は元という俺の兄であった。
「えー?どう持てばいいんだよ……」
そう言って、焦る兄の様子を見て俺はまたため息を着く。
どうしたものか…………。
そうだ、この2人は新婚ホヤホヤしかも、ちまたによくある、授かり婚。しかもしかも、かなりの年の差婚なのだ。
2人の馴れ初めを聞いてはいるので、別に変に思ってはいないし。
寧ろ、こんな兄が素敵な若い女性と結ばれたことは本当に喜ばしい。
だが……。
俺は頭を抱えて、考える人になった。
「俺、邪魔でしょ?」
ふと出た言葉に、周りはシーーーンと静まり返った。
「いや、そんなことないぞ。次朗!人が沢山いた方が楽しいだろう!?」
「そうだよ。次朗さん、気にしなくて大丈夫ですよ?」
俺の名前を呼んで大丈夫だとこの新婚夫婦は言うが、流石に俺も肩身が狭いのだ。
だって、邪魔者でしかないだろう。せっかくの新婚生活に、元々いた同居人がまだ暮らしてるって状況…………。
俺だったら嫌だと思う。うん、正直に嫌だわ。
「2人ともお幸せに…………!」
そう言いきって俺は貴重品だけ持って、一緒に暮らしていた家を飛び出した。
何も考えず適当に電車に乗って、たまに歩いて乗り換えて、そして、辿り着いた先は見覚えのある場所だった。
今は春、立ち並ぶ桜に、ボーッと懐かしさを感じながら見つめる。
「ごめん……!」
そう聞こえた先に、人が見える。
2人だ、しかも、男と女。
これはもしや……っと思ってその場を立ち去ろうとする。
「他に好きな人が出来た。別れて欲しい」
そんな男の声が聞こえると、やっぱり別れ話か……。自分のタイミングの悪さに呆れてしまいそうである。
それを聞いた女は引き止めることなく、大丈夫だよと言っている様子だ。
引き止めないのか、潔いというか、なんというか…………。
せっかくの桜並木なのに、こんな会話を聞いてしまった桜たちが可哀想に見える。俺も含めてだけれど。
男の方は直ぐに立ち去り、取り残された女性はうぅ……っと唸り始めた。
やはり未練が残っているのかもしれない。お互い同じ気持ちな訳では無いのだから。
「なんで……」
「頑張ってスキンケアしたし、全身脱毛とかお金かけたし、色々つくしたのに…………」
うんうん。頑張ってるなぁ。偉いぞっと感心している俺がいた。
「結局、若い子かよ…………っ!!? アラフォー舐めんな死にやがれ!!!!」
その言葉に全ての感情が消えた。
どうしよう。どうしたものかと口を抑えた。
くく…………っ
笑うつもりはなかったのだが、何故だか笑ってしまう自分がいた。
そんな俺に気づいたアラフォー女性は俺を見て真っ赤になり、何かに気づいたのか口を開いた。
「じろちゃん……?」
その言葉に最初から気づくべきだったのに、俺はこの時、全く気づきはしなかった。呼ばれた名前も何もかも。
君の名前さえも俺は覚えていなかった。
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