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空野らん

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story 1

Beautiful girl

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庭に這い出すかのような体制で一生懸命に掌の感覚だけで見つけようとしている俺をよそに、在校生である女子生徒は何処かどこかと目と手で探しているようだ。まあ、普通はそれが当たり前なのだが今の俺では視力は壊滅的だった。いま見えている事は庭にある草の色のみで、ふと頭を上げれば女子生徒である人の影がぼやけて見えるだけだ。
何というか普通に見えていることが羨ましい。眼鏡がないだけでここまで不自由になってしまうなんて、会ったばかりの人に迷惑をかけてしまうなんて正直に言って俺の中の良心が黙ってないだろう。
そんな事を考えていると。

「あったよ」


見つかったと達成感を感じさせる声色で、俺の背後から声が掛かってきた。
それを聞いた俺は汚れたであろう膝や制服のスカートを叩きながら、その声のする方に体を向けた。
一緒に眼鏡を探してくれた女子生徒が俺のすぐ傍まで来ており、見えない俺に気を使ってくれたのが伝わり。
本当にいい人だと思い。俺の目に前に差し出してくれた眼鏡を受け取ると、俺は泣きそうだったが堪えた。


「ありがとうございますっ!」

感謝の気持ちを言葉に表しても足りない。この人は間違いなく女神であり。敬うべき存在である。この気持ちをどう伝えたらいいのか、分からなくなっていると。つけないの?っと思わせるジェスチャーが女子生徒の影から伝わってきて。

あ、そうだ。眼鏡をつけなければ、見えるものも見えなければ、この女神の顔も拝めないのである。
眼鏡をつけて、また、ちゃんと感謝の気持ちを伝えようと思い。俺は自分の眼鏡をやっとつけた。
そして、俺は眼鏡を探してくれた女子生徒の顔を見て心から逃げたくなった。


「見える?」

そういう、女子生徒は片手を振り見えているか確認をしてきた。
待ってくれ意味が分からない。そう思っていたら、勝手に体が後ろに下がっていた。
なぜ逃げたいのか、女神が不細工だったから?それならいいさ。まだこんな追い打ち寧ろなかっただろう。流石、戌野岡。流石すぎて胃がキリキリしてきた。


「び…」


自身から漏れ出た言葉に、目の前の女子生徒は何?何?と不安げに顔を傾けた。
なんだこれ、何だこの光景。キャパオーバーだ。また体が勝手に彼女から離れていく。


「美少女に俺の眼鏡を探させてしまっ…た……」


そうだ、目の前にいるのは紛れもなく、美少女である。
完全に雑誌でよく見るモデル体型で、髪はロングヘアで尚且つサラサラ、目鼻立ちも整い過ぎてて人形みたい。
あと俺が頑張れば、骨なんて砕けそうなくらい細いのに、清楚系女子だからか、膝下までスカートがある。だが、気にならなかった。だって、似合ってるから。超絶好みの美少女だったから。


そんな俺の反応を見た女子生徒は、ふふふっと笑っているようだ。

「怖がらないでよ。別に私、美少女なんかじゃ」

そう言ってはいるが、俺は待ちなさい。そんな可愛い顔をしながら言われも説得力がない。
謙遜しているが、本当悪気がないのは俺でも分かってはいたが、言わなくては気が済まなかった。
だってだって本当の事なのだ。


「いやいや、美少女ですよ!俺じゃなくても分かります!!超絶美少女ですよ!!!」

だって彼女は本当に誰もが認めるであろう美少女像、そのものなのだから。


そんな俺の言った言葉を聞いた彼女は、先程笑っていた時よりも明らかに笑っているように見えはしたが、そんなのどうでもいい。今起こっている事のみに、判断すべき所は他にもあったのだ。


「美少女だからって、気にしないでよ。別に顔に泥がついてる訳じゃないんだから」

そう言っている彼女の顔を見ながら俺はううっと声を漏らした。そうだ、そうなのだ。


「ついてます」

感謝する前に、俺は謝らなくてはならない。


「何が?」

そう返す彼女に返す言葉はこれしかない。



「泥が顔についてます」



「うそでしょ」

俺が言った言葉でああそうかと彼女は頬をなぞった。
それを見た俺は、本当謝らなくてはと心より体が勝手に動いていた。




「本当に申し訳ありません。俺も泥まみれになりますから!許してくださいぃぃぃぃいいいいっ!!!!」


そう言葉を放ち体が勝手に地面にダイブしていく。
「えっ?ちょ…とまっ」っという止めの言葉も全て聞けなかった。
俺はそのまま、止まることなく泥まみれになる未来しか待ていなかった。

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