上 下
7 / 10
憑かれる彼女と祓う彼のファーストコンタクト

しおりを挟む
「素敵!それこそ幼馴染みの恋愛の醍醐味よね!あった瞬間に運命を感じるの。
それを胸に秘めて長年温めて、15年越しに恋が成就したのよ!」
「感じたのは運命じゃなくて神々しい同族意識で、秘められた思いでもなんでもなかったけどな。
俺、高校最後の一年砂吐きっぱなしだったから!
…まぁ、何で蓮花が斎しか見えてないのか良ぉく分かったわ。」

純香さんが興奮したように、臣くんが呆れたように口々に話す。
でもさ、とふといたずらを思いついたように、ニヤリと悪い笑みを漏らす臣くんに、気味の悪さを感じて少しだけいっくんとの座る距離を詰める。

「もし、斎以外に助けてくれるやつが現れたら、お前どうするんだ?」

「どうするって?」

臣くんが言いたいことが全然分からなくて、きょとんと首を傾げる。

「だってさ、斎がお前の正義のヒーローだから好きになったんだろ?
斎以外のヒーローが現れたら、シチュエーションによっちゃあ、そっちの方を好きになる可能性もあるってことじゃん。」

正臣!と、純香さんが窘めるようにキツく臣くんの名前を呼ぶ。

「えぇ…?そうかなぁ?」

それって私、かなりちょろインなんじゃ、と考え込む私に、純香さんが焦ったように声を上げる。

「待って蓮花ちゃん!気にするとこそこじゃないから!」

んー、と考え込む私は、そこではたと気付く。

「…ん?ちょっと待って?
私がいっくんじゃない人に助けられるってことは、いっくんが私じゃない人を助けるってことだよね?」

鬼気迫るように設定を確認する私に、臣くんがうおっと言って仰け反った。

「そんなにホイホイ不幸体質なやつがいるとは思わないけど…、結果的にそうなる、のか?」

私の脳内にもわわんと、シチュエーションが再生される。
いっくんが美女を助け出して、熱く見つめ合って、そして…ーーーー。

「ダメー!ダメダメダメダメ!絶対ダメ!」

その妄想を掻き消したくて、手をバタバタと振り回す。
ヤバい、何その恐ろしいシチュエーション。
考えただけでHPに恐ろしくダメージを与えられた気がする。
先日、純香さんをいっくんの彼女だと勘違いして、ジェラシーなるものを学んだばかりの私には、致命的なシチュエーションだった。

「助けてくれるからって好きになるわけじゃないよ!
いっくんだから好きなんだよ!
いっくんだから、他の女の人とイチャイチャしてたら死にたくなるくらい嫌だし、いっくんに嫌われたら生きていけないし、いっくんが助けてくれないならいっそ殺された方がマシだもん!」
「驚くほど重いな!」

私の魂の叫びに臣くんがドン引きしているのが分かる。
臣くんが聞いたから素直に思いのまま答えてあげたのに。
失礼な。

「15年分の愛だもの。重くもなるわよね。」

純香さんが臣くんの隣で訳知り顔で頷いている。
重いのは否定してくれないらしい。
何故だ。

むぅっと頬を膨らませていると、それまで静かな目で私たちを眺めていたいっくんが、テーブルの下でそっと私の手を握った。

いわゆる恋人繋ぎというやつだ。

驚いて隣のいっくんを見上げると、いっくんは私の方を見ずに、反対側に顔を背けていた。

「いっくん、耳が赤いよ?」

目についたことをそのままいっくんに伝えると、いっくんは顔を背けたまま、私に「バカ。」と言った。

何で悪口言われないといけないのと、繋ぐ手に力を込めてぎゅうぎゅうと握り締める。
クスクスと笑う声に顔を上げると、もう耳が赤くないいっくんが、優しい顔で笑っていた。

ーーーーー

「やっぱりちゃんと人間なのよねぇ…」
「あ?」
「だって、斎ったら蓮花ちゃんがいないときは能面被ってるのかってくらい無表情じゃない?
だけど、あれ見てたらちゃんと感情あるんだなぁって…。」
「まぁ、結局あいつらどっちが違ってもダメなんだろ。」
「私も、正臣じゃないとダメよ?」
「……………ばーか。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。

杉本凪咲
恋愛
愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。 驚き悲しみに暮れる……そう演技をした私はこっそりと微笑を浮かべる。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

三度目の結婚

hana
恋愛
「お前とは離婚させてもらう」そう言ったのは夫のレイモンド。彼は使用人のサラのことが好きなようで、彼女を選ぶらしい。離婚に承諾をした私は彼の家を去り実家に帰るが……

処理中です...