2 / 10
憑かれる彼女のビターバレンタイン
上
しおりを挟む
ーーーーどうして?どうして私じゃダメなの?
ーーーーーこんなにあなたのことが好きなのに。
ーーーーーーねぇ、あなたなら分かってくれるでしょう?
アナタモワタシトオナジダモノネ。
パァーーーーーーーーーーーッ
大きな音を鳴らして電車が到着する。
私ははっと我に帰って、首から下げているお守りの石を服の上からぎゅっと握り締めた。
周囲の人は、何事もなく駅のホームを行き交っている。
ホームの向こう側から、こちらをじっとほの暗い目で見つめてくる彼女の存在には、誰も気付かない。
このお守りの石があるから、彼女はこちらへ近づいてこれず、念だけ送ってきているのだろう。
これがなかったら、今頃ホームの下に引き摺り込まれて、先程到着した電車に引かれていたに違いない。
ぞわっと肌が粟立つのを感じ、震える足で何とかその場を離れる。
「いっくん…」
泣きそうになりながら思わず呼んでしまうのは、隣に住む幼馴染みの名前。
幼い頃からずっと一緒にいる榊斎こといっくんには、霊を祓う力がある。
どうやら霊を引き付けてしまう体質であるらしい私、籠池蓮花は昔からいっくんに助けてもらうことが多かった。
今日はバレンタインデー。
いつもお世話になっているお礼にと、いっくんの通う隣町の大学までバレンタインチョコを渡しに行こうと思い、電車を使った途端この有り様である。
家が隣だから帰って来てから渡せばいいのではと思うだろうが、実は私も来年からいっくんの通う大学に入学が決まったのだ。
一足先に大学の雰囲気を感じたいと気合いを入れて出てきたというのに、こんな調子で無事通うことができるのか不安になる。
ふと後ろを見ても、先程の禍禍しい存在が付いてきている様子はない。
そのことにホッと息をつく。
足の震えも治まってきた私は、早くいっくんのところへ行きたいと足早に先を急いだ。
ーーーーーーー
「いっくん、どこにいるかなー?」
大学構内へと辿り着き、いっくんにLINEしようと携帯を取り出したちょうどその時、いっくんが校舎から出てくるのが見えた。
何てラッキー!
いっくんの姿に嬉しくなって、そのままの勢いで彼の名前を呼ぼうと息を吸い込んだ瞬間。
「斎!」
校舎の脇から綺麗な女の人がいっくんに向かって駆け寄っていく。
はっと息を飲んで、思わず木陰に身を隠す。
自分のその行動を不思議に感じながらも、木陰からそっといっくんと女の人の様子を窺う。
女の人はいっくんの腕に腕を絡めて、とても綺麗な笑顔でいっくんを見つめていた。
そうだった。
いっくんはモテるんだった。
今では高校と大学で日中離れているため、忘れかけていたが、いっくんと高校が被った一年間は、それはもう凄かった。
何せ180cmを超える長身に、小顔なため8頭身以上は確実であるスタイルに加えて、切れ長の瞳にスッと通った鼻筋は、どこぞのモデル並みに整っていた。
でも、いっくんはハーレムに興味はないのか、自分の周りに女子が群がるのを嫌っていたため、いっくんの周りを美女が固めることこそなかったが、女子は女子同士でいっくんに変な虫が寄り付かないように厳しく目を光らせていた。
そんなことになっていようとはつゆ程も知らなかった、入学したてのピカピカ1年生だった私は、中学の頃の勢いでいっくんに近づき、案の定周りの女子の怒りを買った。
それを必死にとりなし、いっくんの幼少期の写真をお姉様方に提供することで、ようやくお姉様方の怒りを解くことができたのだ。
それからは、いっくんの周りをウロチョロしても制裁は加えられず、逆にお姉様方から可愛がられて、なんだかんだ平和な高校生活を送れた。
ビバ、幼少期の写真!
ビバ、斎さま!!
あれがなかったら、私は間違いなく抹殺されていたに違いない。
遠い目をしながら昔を思い出し、ふーっと息をついている間に、いっくんと美女が私の前を通りすぎる。
「行きたいカフェがあるのよ。付き合ってくれるでしょう?」
そういう彼女に、いっくんは何て答えたのか。
聞きたくなんてなかったから、咄嗟に2人から目を反らして耳を塞いだ。
ーーーーーこんなにあなたのことが好きなのに。
ーーーーーーねぇ、あなたなら分かってくれるでしょう?
アナタモワタシトオナジダモノネ。
パァーーーーーーーーーーーッ
大きな音を鳴らして電車が到着する。
私ははっと我に帰って、首から下げているお守りの石を服の上からぎゅっと握り締めた。
周囲の人は、何事もなく駅のホームを行き交っている。
ホームの向こう側から、こちらをじっとほの暗い目で見つめてくる彼女の存在には、誰も気付かない。
このお守りの石があるから、彼女はこちらへ近づいてこれず、念だけ送ってきているのだろう。
これがなかったら、今頃ホームの下に引き摺り込まれて、先程到着した電車に引かれていたに違いない。
ぞわっと肌が粟立つのを感じ、震える足で何とかその場を離れる。
「いっくん…」
泣きそうになりながら思わず呼んでしまうのは、隣に住む幼馴染みの名前。
幼い頃からずっと一緒にいる榊斎こといっくんには、霊を祓う力がある。
どうやら霊を引き付けてしまう体質であるらしい私、籠池蓮花は昔からいっくんに助けてもらうことが多かった。
今日はバレンタインデー。
いつもお世話になっているお礼にと、いっくんの通う隣町の大学までバレンタインチョコを渡しに行こうと思い、電車を使った途端この有り様である。
家が隣だから帰って来てから渡せばいいのではと思うだろうが、実は私も来年からいっくんの通う大学に入学が決まったのだ。
一足先に大学の雰囲気を感じたいと気合いを入れて出てきたというのに、こんな調子で無事通うことができるのか不安になる。
ふと後ろを見ても、先程の禍禍しい存在が付いてきている様子はない。
そのことにホッと息をつく。
足の震えも治まってきた私は、早くいっくんのところへ行きたいと足早に先を急いだ。
ーーーーーーー
「いっくん、どこにいるかなー?」
大学構内へと辿り着き、いっくんにLINEしようと携帯を取り出したちょうどその時、いっくんが校舎から出てくるのが見えた。
何てラッキー!
いっくんの姿に嬉しくなって、そのままの勢いで彼の名前を呼ぼうと息を吸い込んだ瞬間。
「斎!」
校舎の脇から綺麗な女の人がいっくんに向かって駆け寄っていく。
はっと息を飲んで、思わず木陰に身を隠す。
自分のその行動を不思議に感じながらも、木陰からそっといっくんと女の人の様子を窺う。
女の人はいっくんの腕に腕を絡めて、とても綺麗な笑顔でいっくんを見つめていた。
そうだった。
いっくんはモテるんだった。
今では高校と大学で日中離れているため、忘れかけていたが、いっくんと高校が被った一年間は、それはもう凄かった。
何せ180cmを超える長身に、小顔なため8頭身以上は確実であるスタイルに加えて、切れ長の瞳にスッと通った鼻筋は、どこぞのモデル並みに整っていた。
でも、いっくんはハーレムに興味はないのか、自分の周りに女子が群がるのを嫌っていたため、いっくんの周りを美女が固めることこそなかったが、女子は女子同士でいっくんに変な虫が寄り付かないように厳しく目を光らせていた。
そんなことになっていようとはつゆ程も知らなかった、入学したてのピカピカ1年生だった私は、中学の頃の勢いでいっくんに近づき、案の定周りの女子の怒りを買った。
それを必死にとりなし、いっくんの幼少期の写真をお姉様方に提供することで、ようやくお姉様方の怒りを解くことができたのだ。
それからは、いっくんの周りをウロチョロしても制裁は加えられず、逆にお姉様方から可愛がられて、なんだかんだ平和な高校生活を送れた。
ビバ、幼少期の写真!
ビバ、斎さま!!
あれがなかったら、私は間違いなく抹殺されていたに違いない。
遠い目をしながら昔を思い出し、ふーっと息をついている間に、いっくんと美女が私の前を通りすぎる。
「行きたいカフェがあるのよ。付き合ってくれるでしょう?」
そういう彼女に、いっくんは何て答えたのか。
聞きたくなんてなかったから、咄嗟に2人から目を反らして耳を塞いだ。
0
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる