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ゲーム前

一難去って?

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王城から屋敷に帰る馬車の中、送ると申し出てくれたルー様の隣で腰を抱えられながら座る。
言葉は交わさない中でも、離さないとばかりにぐっと抱き寄せられる感覚に、えらく心配させてしまったのだと申し訳なさを感じながら、それでも好きな人の隣に居られる幸せを感じる。
きっと、陛下とカルマ様も今幸せを噛み締めているに違いない。
王妃のことを思うと胸がツキンと痛むけれど、彼女にもいつかこんな幸せが訪れるといいと思う。
どうか、陛下が温情を与えて下さいますようにと、馬車の窓から流れる夜空の星に願う。

そんなことを考えながら、ぼんやりと外の景色を眺めているうちに、いつの間にか屋敷に着いていた。

「アナ」

気遣わしげにこちらを窺うルー様に、大丈夫と頷こうとした瞬間、ピンと張り詰めていた物がパチンと弾けたのを、ぼんやりする頭の隅っこで自覚する。

チカチカと点滅し、歪む視界。
そして、ぐらりと傾ぐ重心。

ーーーあぁ、ルー様にまた心配掛けちゃう…。

「ルー様…」

ごめんなさい、と口にする前に、目の前は黒一色に塗りつぶされた。

ーーー

夢を見た。

行ったことのない離宮で、今よりまだ少し幼いルー様が1人庭に生えた刀草を手入れしていた。

ルー様の瞳には影が落ち、まるで抜け殻のようで、そこには今にも消えてなくなりそうな儚さがあった。

ルー様に走り寄って抱き締めようと足を動かすけど、全然彼との距離は縮まらない。

ルー様、と彼の名を呼ぼうとしても、息の音さえ漏れ出てこない。

今この時、私はこの空間では無の存在なのだと、頭のどこかで理解する。

そんな状況にもどかしさを感じる私の視界の端に、黒くふよふよしたものが漂う。

それは、禍々しい気配と明らかな悪意を持ってルー様に近づいていく。

やめて、近づかないでと叫んでも、無の私にはどうすることもできない。

ルー様も、ハッとその禍々しい黒い塊に気づいた様子だったが、逃げようとか威嚇しようとか、そういう様子を全く見せなかった。

何してるの!早く逃げて!と必死に願っても、ルー様は諦めたように小さく息を吐いてーーー。

小さく笑った。

ホッとしたように。
嬉しそうに。
恍惚と。

そして呟いた。

「これで、ようやく解放される」

生命から。
生きることから。
悪意から。
孤独から。

次の瞬間、大きく口を開けた黒い塊に、ルー様は頭から飲み込まれた。

「あぁああああああああああああ!」
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