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忘却の空と追憶の月
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一晩中寝ずの番で薬草を煎じ、できた分からシスターに負傷者へ配ってもらい、日が昇ると同時に使えそうな薬草を探しに教会の裏にある森へリリーと向かった。
森に入ると、鳥のさえずりと木漏れ日の柔らかな光に、思わず暖かな心地になるのを感じる。
森から一歩外へ出れば、騒然とした空気であるのに、それらがまるで夢のよう。
本当に夢ならば良かったのに。
夢ならば、こんなひどい夢早く覚めて。
目が覚めたら、どうしたのと優しく問いかけるアルフレッドが目の前に居て、こんなにひどい夢をみたのだと、とても怖くて寂しくて悲しくて、気が狂いそうだったのだと伝えて、そしたらアルフレッドが優しく抱き締めてくれる。
そして、大丈夫だと言ってくれるはずだ。
だから、こんな夢、早く覚めて。
流れる涙そのままに、だけど、叫び出してしまいそうな唇を噛み締めて、静かに泣く私をリリーが優しく支えてくれる。
今だけ。
リリーと私しかいない間だけ、この不安と恐怖をさらけ出させて。
この森から出るときには、きっと気丈に振る舞ってみせるから。
弱いところは見せずに、不安を与えないように。
アルフレッドが帰ってきたら、たくさんたくさん褒めてもらえるように頑張るから。
今だけは…ーーー。
「ーーー様ぁ!ーーーゼ様!!」
ひとしきり泣いて、泣きながらも探しだした薬草を採取して、また探してを繰り返して半刻が過ぎた頃、森の静寂の向こう側から急いでいるような、焦っているような緊迫した声が聞こえてきた。
薬草を探すために下を向いていた視線を、声の方に向けるとちょうど木々の間から現場で捜索に当たっていた騎士が姿を現したところだった。
「ティアリーゼ様!こちらにいらっしゃったのですね!」
相当急いできたのだろう。
騎士は額に汗を浮かべ、息を切らしこちらへ駆け寄ってきた。
私の前まで来ると、片膝を地面に突き騎士の礼を取った。
その畏まった態度に、私も自然と背筋が伸びる。
「皇太子殿下が、皇太子殿下が見つかりました!ご無事です!」
「…!!」
喜色の浮かんだ声の報告に、はっと息が漏れる。
行方不明の報せを受けて、灰色だった私の視界が一気に色を取り戻した。
「ティアリーゼ様!」
リリーが喜びと安堵に満ちた声で私の名を呼ぶ。
それに小さく頷きながら、自分の顔中に笑みが広がるのを感じる。
「案内を!」
伝えに来た騎士へ短く告げると、歩くスピードがもどかしかった私は、ドレスの裾を持ち上げて森の外へと駆け出した。
「ティアリーゼ様!」
私の突然の奇行に、早くも通常運転を取り戻したリリーが非難めいた声色で私の名を呼ぶ。
「リリー!遅いわよ!速く!!」
そんなリリーを振り返って、先を促す私にリリーは諦めたように首を振ると、しょうがないなという風に苦笑を浮かべて駆けて来る。
この時の私は、これからも今までと同じようにアルフレッドとともに歩いていけるのだと信じて疑わなかった。
森に入ると、鳥のさえずりと木漏れ日の柔らかな光に、思わず暖かな心地になるのを感じる。
森から一歩外へ出れば、騒然とした空気であるのに、それらがまるで夢のよう。
本当に夢ならば良かったのに。
夢ならば、こんなひどい夢早く覚めて。
目が覚めたら、どうしたのと優しく問いかけるアルフレッドが目の前に居て、こんなにひどい夢をみたのだと、とても怖くて寂しくて悲しくて、気が狂いそうだったのだと伝えて、そしたらアルフレッドが優しく抱き締めてくれる。
そして、大丈夫だと言ってくれるはずだ。
だから、こんな夢、早く覚めて。
流れる涙そのままに、だけど、叫び出してしまいそうな唇を噛み締めて、静かに泣く私をリリーが優しく支えてくれる。
今だけ。
リリーと私しかいない間だけ、この不安と恐怖をさらけ出させて。
この森から出るときには、きっと気丈に振る舞ってみせるから。
弱いところは見せずに、不安を与えないように。
アルフレッドが帰ってきたら、たくさんたくさん褒めてもらえるように頑張るから。
今だけは…ーーー。
「ーーー様ぁ!ーーーゼ様!!」
ひとしきり泣いて、泣きながらも探しだした薬草を採取して、また探してを繰り返して半刻が過ぎた頃、森の静寂の向こう側から急いでいるような、焦っているような緊迫した声が聞こえてきた。
薬草を探すために下を向いていた視線を、声の方に向けるとちょうど木々の間から現場で捜索に当たっていた騎士が姿を現したところだった。
「ティアリーゼ様!こちらにいらっしゃったのですね!」
相当急いできたのだろう。
騎士は額に汗を浮かべ、息を切らしこちらへ駆け寄ってきた。
私の前まで来ると、片膝を地面に突き騎士の礼を取った。
その畏まった態度に、私も自然と背筋が伸びる。
「皇太子殿下が、皇太子殿下が見つかりました!ご無事です!」
「…!!」
喜色の浮かんだ声の報告に、はっと息が漏れる。
行方不明の報せを受けて、灰色だった私の視界が一気に色を取り戻した。
「ティアリーゼ様!」
リリーが喜びと安堵に満ちた声で私の名を呼ぶ。
それに小さく頷きながら、自分の顔中に笑みが広がるのを感じる。
「案内を!」
伝えに来た騎士へ短く告げると、歩くスピードがもどかしかった私は、ドレスの裾を持ち上げて森の外へと駆け出した。
「ティアリーゼ様!」
私の突然の奇行に、早くも通常運転を取り戻したリリーが非難めいた声色で私の名を呼ぶ。
「リリー!遅いわよ!速く!!」
そんなリリーを振り返って、先を促す私にリリーは諦めたように首を振ると、しょうがないなという風に苦笑を浮かべて駆けて来る。
この時の私は、これからも今までと同じようにアルフレッドとともに歩いていけるのだと信じて疑わなかった。
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