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聖なる森と月の乙女
皇太子殿下の側近と怒れる皇太子殿下③
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リリーから報告が入ったのは、3日目の夕方だった。
「殿下、井戸に不審なものを入れようとする者を捕らえました。」
「物は?」
「こちらに。」
そう言って差し出された物は、ガラスの小瓶に入っていた。
ルナマリア様が言っていたように、無色透明で無臭。無味かどうかは口に入れなければ分からないから確かめようがない。
「これを至急調べるように。」
アルフレッドは近くにいた医術院の者にそれを手渡す。
幼い頃からアルフレッドに仕えており、冷静沈着な上に実直で、純粋にアルフレッドに敬意を抱いているため、信用できる人物だ。
「殿下、もう一つ報告が。」
「何だ。」
リリーからの言葉に、秘薬を持って部屋を出ていく医術院の者の背中を見送りながら変事をする。
「奇病はまだ終息に至らず。
王女の癒しをもって回復しているのは、余程の金持ちか貴族のみ。平民はまだ奇病に侵され苦しんでいます。」
「奇病は終息に向かっていると報告が陛下に上がっていたが?」
「王女の協力者がそのように誘導したのでしょう。癒しで集めた金をたんまり懐に貰い込んでいるみたいですから。
王女が助ける者は金持ちだけだと知られては、月の乙女とは言えないですしね。
平民は郊外の教会に追いやられているとのことです。」
我が国の貴族も絡んでいると知らされ、反吐が出そうになる。
「井戸に秘薬を混入しようとしていたのは、最近王女と近しく付き合うようになった男爵令嬢の従者でした。」
「何だって?!じゃあ、王女から秘薬をもらった男爵令嬢が従者に実行させたってことか?
何だってそんなことを。」
頭を抱える俺に、リリーは淡々と告げる。
「周囲には、もう少ししたら私が皇太子殿下の寵愛をいただくのよ!と息巻いて言っていたそうです。」
女って怖えぇぇ。
何だってそんな思い込みの激しいことを。
いや、待てよ。
以前ティアリーゼが、可愛いけど色んな男を手玉に取ってる脳内お花畑な男爵令嬢がいるって呟いてたな…。あいつか?あいつなのか?
そんなことを悶々と思いながら、隣から冷気が漂ってくるのを肌で感じる。
「男爵令嬢の従者は地下牢につないであります。従者が姿を消したことは、まだ男爵令嬢にも王女にも気付かれていません。」
空気を読んだリリーが瞬時に報告を付け足す。
が、そんなことはどうでもいい、と一蹴される。
「それで?お前にはティアの捜索を命じていたはずだが。見つけたのか?」
そのアルフレッドの問いかけに、リリーが嬉しそうに報告する。
「殿下、その郊外の教会に、女神が現れたそうです。」
「は?」
いきなりファンタジーな報告をするリリーに俺たちは首を傾げる。
「女神は薬草と慈愛をもって、人々に癒しを与えたと。」
ガタンと、椅子を大きく鳴らしてアルフレッドが立ち上がる。
そのまま部屋を出ていこうとするのを俺は必死で止めた。
「離せ、エマ。私は今すぐにティアを迎えに行く。」
「いやいやいや、気持ちは分かるけど!分かるんだけど、もう外真っ暗だよ!こんな暗闇の中を行ってらっしゃいって送り出せるわけないだろう!?それに、まだリーゼを迎えに行く前にやることがあるだろ!?」
男爵令嬢と王女が絡んでることの裏を取るだとか、王族に虚偽の報告をした貴族の処分だとか、今後隣国とどう交渉するとかさあ!
ね!?
ちょっと考えただけでもこんなにあるんだよ!?
まさか、それを全部俺に押し付けてうふふあははしに行こうなんて思ってないよね?
思ってないよねーーー!?
俺の必死の声が届いたのか、その後アルフレッドはすごい勢いで決裁をかけていく。
量刑がいつもより少し重めなのは、気のせいだと思う。
うん、王族は私情を挟まないはずだから…。
この調子だと明日には迎えに行けそうだなー。
今のうちにしっかり寝とけよーと、心の中で妹にエールを送っておいた。
「殿下、井戸に不審なものを入れようとする者を捕らえました。」
「物は?」
「こちらに。」
そう言って差し出された物は、ガラスの小瓶に入っていた。
ルナマリア様が言っていたように、無色透明で無臭。無味かどうかは口に入れなければ分からないから確かめようがない。
「これを至急調べるように。」
アルフレッドは近くにいた医術院の者にそれを手渡す。
幼い頃からアルフレッドに仕えており、冷静沈着な上に実直で、純粋にアルフレッドに敬意を抱いているため、信用できる人物だ。
「殿下、もう一つ報告が。」
「何だ。」
リリーからの言葉に、秘薬を持って部屋を出ていく医術院の者の背中を見送りながら変事をする。
「奇病はまだ終息に至らず。
王女の癒しをもって回復しているのは、余程の金持ちか貴族のみ。平民はまだ奇病に侵され苦しんでいます。」
「奇病は終息に向かっていると報告が陛下に上がっていたが?」
「王女の協力者がそのように誘導したのでしょう。癒しで集めた金をたんまり懐に貰い込んでいるみたいですから。
王女が助ける者は金持ちだけだと知られては、月の乙女とは言えないですしね。
平民は郊外の教会に追いやられているとのことです。」
我が国の貴族も絡んでいると知らされ、反吐が出そうになる。
「井戸に秘薬を混入しようとしていたのは、最近王女と近しく付き合うようになった男爵令嬢の従者でした。」
「何だって?!じゃあ、王女から秘薬をもらった男爵令嬢が従者に実行させたってことか?
何だってそんなことを。」
頭を抱える俺に、リリーは淡々と告げる。
「周囲には、もう少ししたら私が皇太子殿下の寵愛をいただくのよ!と息巻いて言っていたそうです。」
女って怖えぇぇ。
何だってそんな思い込みの激しいことを。
いや、待てよ。
以前ティアリーゼが、可愛いけど色んな男を手玉に取ってる脳内お花畑な男爵令嬢がいるって呟いてたな…。あいつか?あいつなのか?
そんなことを悶々と思いながら、隣から冷気が漂ってくるのを肌で感じる。
「男爵令嬢の従者は地下牢につないであります。従者が姿を消したことは、まだ男爵令嬢にも王女にも気付かれていません。」
空気を読んだリリーが瞬時に報告を付け足す。
が、そんなことはどうでもいい、と一蹴される。
「それで?お前にはティアの捜索を命じていたはずだが。見つけたのか?」
そのアルフレッドの問いかけに、リリーが嬉しそうに報告する。
「殿下、その郊外の教会に、女神が現れたそうです。」
「は?」
いきなりファンタジーな報告をするリリーに俺たちは首を傾げる。
「女神は薬草と慈愛をもって、人々に癒しを与えたと。」
ガタンと、椅子を大きく鳴らしてアルフレッドが立ち上がる。
そのまま部屋を出ていこうとするのを俺は必死で止めた。
「離せ、エマ。私は今すぐにティアを迎えに行く。」
「いやいやいや、気持ちは分かるけど!分かるんだけど、もう外真っ暗だよ!こんな暗闇の中を行ってらっしゃいって送り出せるわけないだろう!?それに、まだリーゼを迎えに行く前にやることがあるだろ!?」
男爵令嬢と王女が絡んでることの裏を取るだとか、王族に虚偽の報告をした貴族の処分だとか、今後隣国とどう交渉するとかさあ!
ね!?
ちょっと考えただけでもこんなにあるんだよ!?
まさか、それを全部俺に押し付けてうふふあははしに行こうなんて思ってないよね?
思ってないよねーーー!?
俺の必死の声が届いたのか、その後アルフレッドはすごい勢いで決裁をかけていく。
量刑がいつもより少し重めなのは、気のせいだと思う。
うん、王族は私情を挟まないはずだから…。
この調子だと明日には迎えに行けそうだなー。
今のうちにしっかり寝とけよーと、心の中で妹にエールを送っておいた。
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