聖なる森と月の乙女

小春日和

文字の大きさ
上 下
25 / 62
聖なる森と月の乙女

公爵令嬢と命のタイムリミット②

しおりを挟む
私はロンと一緒に教会周辺に自生している薬草を急いで採取し、お湯を沸騰させた大きな鍋に薬草をありったけ入れる。
鍋の縁に薬草が焦げ付かないように丁寧に混ぜながら、毒素を体内から排出する作用のある薬草と、ラフィールほどではないが回復する作用を持つ薬草を見つけた時に、思わず大きな歓声をあげて隣で薬草を摘んでいたロンを大いに驚かせてしまったことを思い出す。

爪が紫色に変色する病気。
普段薬草を取り扱うことから、どの薬草が何に効果があるのか知りたくて、その辺りの書物も際限なく読み漁っていた。
それなのに、こんな病気は書物の中に出てきた記憶がない。
忘れただけ?
でも、これだけ特徴があれば、頭のどこかには引っ掛かりそうなものなのに。

むしろ、こういう特徴が出やすいのは毒物を摂取したときではないか?

毒素を体内から排出する薬草を見つけたとき、ふとその可能性が頭を過った。
もしかしたら、少しは進行を抑えることができるかもしれない。

ロンは、今は母親の側に付いている。
ここに戻ったときに、爪の色は少し濃くなっていた。
母を失うかもしれないことに青ざめたロンの顔が脳裏をちらつく。
徐々に薬草の色にお湯が色づいてくるのをもどかしく思いながら、ロンの母親の回復を願って、鍋をかき混ぜる手に力を入れた。

ーーーーーー

「ロン。これをお母様に飲ませて。」

薬草を煎じた薬湯を、母親の側に寄り添うロンに渡す。
疑心暗鬼を隠そうともしない表情で私を見上げるロンに、大丈夫だという気持ちを込めて大きく頷いて見せる。
しばらく、コップの中に注がれた緑色の液体を見つめていたロンは、意を決したように母親の頭を抱え薬湯を母親の口に流し込んだ。
少し咽ながらも、こくりと飲み干した母親にホッと息をつく。

「良かった、飲んでくれて。
ロン、できるだけお母様に水を飲ませてあげてね。」

私の言葉にロンが頷くのを見たあと、私は他の人にも薬湯を飲んでもらうよう声を掛けて回る。
藁にもすがる思いなのは皆同じで、次から次に薬湯を求める声が上がる。
その声一つ一つに応え、自分の飲める人には自分で、ロンのような家族が付いている人は家族に手伝ってもらって、一人では飲めない人には飲む手伝いをした。
結局、教会内のすべての人が薬湯を飲んだ。
最後の一人に薬湯を飲ませた後、水分もたくさん摂るように全体に声をかけ、薬草を採るために協会を出る。

「日が沈みきるまでにできるだけたくさん採らなくちゃ。」

意気込んで薬草狩に励んでいると、教会から家族に付き添っていた人たちが、ガヤガヤと協会から出てくるのに気付く。
先頭にロンがいて、先ほど摘んだ薬草を手に、他の付き添っていた家族へ何かを伝えている様子だ。
ロンの言葉に皆頷くと、それぞれ草むらに分け入って行く。
不思議に思って見ていると、私に気付いたロンが小走りで駆け寄ってくる。

「リズ!薬草採るのみんなも手伝ってくれるって!」

こんなに小さい子が、みんなを先導して薬草を集めようとしてくれていることに驚いた。

「でも、お母様の側に着いていたいんじゃない?
さっき手伝ってくれたので十分だから、お母様の側にいてあげていいのよ?」

戸惑ってそういう私にロンはふるふると頭を振る。

「さっき、リズが言ったんだ。私は私にできることをするって。俺も母さんのために何かしたい。みんな同じ気持ちだったよ。」

私を見てにっこり笑うロンに、ありがとうと笑い返す。

明日の朝までに城に戻るのは難しいだろう。
城からいなくなった私に気付いて、青褪めるリリーの顔が想像できて申し訳ない気持ちになる。
そして、ただでさえ忙しいアルフレッドに心配を掛けてしまう申し訳なさも。
でも、ここで投げ出して城へ戻ったら、きっとずっと後悔する。
そして、そんな私はアルフレッドを幸せになんてできない。
そんなの絶対に嫌。

「日が落ちる前にできるだけ薬草を採っておきたかったから助かるわ。お母様たちが早くよくなるように、一緒に頑張りましょう。」

うん、と大きく頷くロンに、今私がしていることは間違っていないと言ってもらっている気がした。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

人違いで恋してしまった私を許してください。溺愛伯爵様は旅に出ました。

Hibah
恋愛
ジュリエッタは、父親が決めた相手であるローレンス伯爵と婚約する。結婚に向けて使用人リリアンと準備を進めるが、ある日二人で買い物をしていると、「ローレンス」と呼ばれている男を偶然目撃してしまう。まだローレンスに会ったことのない二人だったので、その男がローレンスだと思いこむ。しかし、初めての顔合わせで現れたのは、以前に街で見かけた「ローレンス」とは別人。顔合わせの日まで恋心を募らせていたジュリエッタは、”本物の”ローレンスを前にして期待を裏切られた気持ちになる。ローレンスは、ジュリエッタが落ち込んでいる理由がわからないまま、なんとか振り向いてもらおうとするが……?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

【完結】さいこん!〜最悪の政略結婚から始まる(かもしれない)愛〜

しゃでぃや
恋愛
聖王国第四皇女セラスティアは、突然の勅命に驚いた。 兄である聖王猊下から、自身の婚姻が発表されたのだ。 セラスティアが一度は嫁いだ小国は兄王の統治する祖国によって滅ぼされ、出戻って来たばかりだというのに。 しかも相手はよからぬ噂の絶えない筆頭宰相ザカリアス。 曰く付きの皇女を下賜することにより、宰相の力を削ごうというのが王の狙いだった。 お互い意に染まぬ政略結婚。 宰相と皇女は反目しすれ違いながらも、しかし少しずつ心を通わせ合う…… ※葦(奇数話)としゃでぃや(偶数話)の合作小説です。 葦     →https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/680880394 しゃでぃや →https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/467163294 ※合作の為、文体などに多少の違いがあります。奇数話は宰相寄り、偶数話は皇女寄りの視点です。 ※ほぼ打合せなし、見切り発車ではじめたので設定にはいい加減なところがあります。“ぽさ”を重視しています。 ※完結済みハッピーエンドです。全22話。 ※なろうにも同じものをあげています。 イラストは炉鳩様(@rohatomura )に描いて頂きました。

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

処理中です...