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聖なる森と月の乙女
公爵令嬢と夢の回顧③
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その時ふと、そうか、と納得する。
あの日捨てたはずの恋心は、ひっそりと芽を出して蕾を付け綻び始めていたんだ、と。
でも、まだ大丈夫。まだ間に合う。
花開く前に、もう一度ーーーー。
今まで蓋をして気づかないふりをしていた自分気持ちに戸惑っていると、先程とは打って変わって冷静になったアルフレッドの声が聞こえる。
「ティア。君は、それでずっと私に他の女性を勧めてきていたの?」
確認するように尋ねてくるアルフレッドに、私はそうよ、と頷いた。
「だって、アルは女性嫌いで、そんなアルが幸せになるためには、私がちゃんと相手を知って、取り持てばいいんだって。アルは私を選んでくれなかったけど、アルに幸せになってほしいのは変わらないから、私にできることをしなきゃって思ったの。」
もういいでしょ、とアルの側から離れようと繋がれた手を振り解こうとするが、逆にアルの方へ強い力で引き寄せられる。
「わわっ」
体制を崩した私は、アルに抱き止められ膝の上に抱えられた。
「ちょっと、アル!離してっ!」
バタバタともがく私をアルはぎゅっと抱き締めると、小さな、けれど私にはっきりと聞こえるように呟いた。
「怖かったんだ。」
と。
私はピタリと抵抗を止めて、アルの言葉に首を傾げる。
「怖い?」
「そう。ティアも婚約を迫るあの令嬢たちと同じになってしまうんじゃないかって。そうなるはずはないと思いながらも、そのときの関係が壊れるかもしれないと思うと、怖かった。そうなるくらいなら、このままがいいと思った。それが、こんなにティアを傷つけていたなんて知らなかったんだ。」
ごめん、とアルフレッドは私の肩口に顔を埋める。
「もう、いいのよ。昔のことだもの。私がアルに信じてもらう努力が足りなかったってことだわ。」
そう言って、ふっと息をつく私に、アルフレッドは焦ったように顔を上げると、両手で私の頬を包み込んだ。
「違うんだ!ティアはあんなに真っ直ぐ向かってきてくれたのに、それを素直に受け取ることができなかった。臆病だったんだ。でも、今は違う。」
そっと私の頬を包む手はそのままに、アルフレッドは私の目を真っ直ぐ見て言った。
「愛してるんだ、ティア。他の誰にも獲られたくないと強く思うほどに。」
愛してる、と泣きそうな声で呟いたアルフレッドは、信じて欲しいと私をぎゅっと抱き締めた。
「アル、私ね。アルにお嫁さんにはしないって言われてから、アルを好きって思う気持ちは捨てたと思ってた。」
私を抱き締めているアルフレッドが、私の言葉に息を飲む音が聞こえる。
「でもね、私が一番好きな色はアルの瞳のように深い緑だし、アルの幸せが一番だし、人の観察をしててもやっぱりアルが一番輝いてみえるし、アルが一番大切なの。
おかしいわよね。捨てたと思ってたのに、それでも私の一番は全部アルだった。」
はっと顔を上げたアルフレッドの頬を今度は私がそっと包みこむ。
「好きよ、アル。大好き。」
あの日捨てたはずの恋心は、ひっそりと芽を出して蕾を付け綻び始めていたんだ、と。
でも、まだ大丈夫。まだ間に合う。
花開く前に、もう一度ーーーー。
今まで蓋をして気づかないふりをしていた自分気持ちに戸惑っていると、先程とは打って変わって冷静になったアルフレッドの声が聞こえる。
「ティア。君は、それでずっと私に他の女性を勧めてきていたの?」
確認するように尋ねてくるアルフレッドに、私はそうよ、と頷いた。
「だって、アルは女性嫌いで、そんなアルが幸せになるためには、私がちゃんと相手を知って、取り持てばいいんだって。アルは私を選んでくれなかったけど、アルに幸せになってほしいのは変わらないから、私にできることをしなきゃって思ったの。」
もういいでしょ、とアルの側から離れようと繋がれた手を振り解こうとするが、逆にアルの方へ強い力で引き寄せられる。
「わわっ」
体制を崩した私は、アルに抱き止められ膝の上に抱えられた。
「ちょっと、アル!離してっ!」
バタバタともがく私をアルはぎゅっと抱き締めると、小さな、けれど私にはっきりと聞こえるように呟いた。
「怖かったんだ。」
と。
私はピタリと抵抗を止めて、アルの言葉に首を傾げる。
「怖い?」
「そう。ティアも婚約を迫るあの令嬢たちと同じになってしまうんじゃないかって。そうなるはずはないと思いながらも、そのときの関係が壊れるかもしれないと思うと、怖かった。そうなるくらいなら、このままがいいと思った。それが、こんなにティアを傷つけていたなんて知らなかったんだ。」
ごめん、とアルフレッドは私の肩口に顔を埋める。
「もう、いいのよ。昔のことだもの。私がアルに信じてもらう努力が足りなかったってことだわ。」
そう言って、ふっと息をつく私に、アルフレッドは焦ったように顔を上げると、両手で私の頬を包み込んだ。
「違うんだ!ティアはあんなに真っ直ぐ向かってきてくれたのに、それを素直に受け取ることができなかった。臆病だったんだ。でも、今は違う。」
そっと私の頬を包む手はそのままに、アルフレッドは私の目を真っ直ぐ見て言った。
「愛してるんだ、ティア。他の誰にも獲られたくないと強く思うほどに。」
愛してる、と泣きそうな声で呟いたアルフレッドは、信じて欲しいと私をぎゅっと抱き締めた。
「アル、私ね。アルにお嫁さんにはしないって言われてから、アルを好きって思う気持ちは捨てたと思ってた。」
私を抱き締めているアルフレッドが、私の言葉に息を飲む音が聞こえる。
「でもね、私が一番好きな色はアルの瞳のように深い緑だし、アルの幸せが一番だし、人の観察をしててもやっぱりアルが一番輝いてみえるし、アルが一番大切なの。
おかしいわよね。捨てたと思ってたのに、それでも私の一番は全部アルだった。」
はっと顔を上げたアルフレッドの頬を今度は私がそっと包みこむ。
「好きよ、アル。大好き。」
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