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5 淑女とは
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頑張ったことと、淑女の事情に何の関連が……?
困惑する俺に、フラウはそっと言葉を続けた。
「私、とても、頑張ったので。……ですが、努力をひけらかすのはみっともない真似です。淑女とは、玉の肌と美貌を保つ努力をし、夫となる方を支えるべくたゆまぬ努力をし、守り、慈しむ努力をするものです。努力の結晶が淑女、しかしそれを悟らせないのが淑女たる者」
「そ、そう……だったか?」
間違ってはいない気もするが、極端ではないだろうか。
ああ、そうだった。彼女は、極端だった。
哀しみの翌日から笑顔を振りまけるほどに、極端で、鋼の意思を持っていた。
「だけど、それとこれとは関係ないだ……でしょう? 賊は、どうして倒れていたの? フラウは、どうやってここへ来たの?」
フラウは、いかにも嬉しげに俺の隣に腰掛けた。見つめる視線には確かに温度を感じるけれど、それが恋慕だと思えないのが辛い。
10歳は、まだ子どもなのか。こんな話し方が相応しいほどに、フラウにとって子どもなのか。
ひそかに落ち込む俺を知るよしもなく、話すと決めたフラウは簡単に質問に答えてくれる。
「言いましたでしょう、淑女として頑張ったので。淑女たるもの、守るべきお方の嘆きに気付かないはずはありません。その御許に駆けつけられないはずはありません。もとより、御身を襲う凶刃からお守りできなくて、何が淑女ですか。そのために、私は努力致しましたから」
……俺の知っている淑女とは、ちょっと違う気がする。
「あの、つまりフラウは何を努力したの?」
まずは、そこか。色々と掛け違っているらしいボタンは、元を正せばそこだろう。
フラウは穏やかな笑みを浮かべて語り始めた。
「私はまず、賢智の鏡に問いかけました。淑女として必要なこと、ひとつひとつについて、何をすべきか知るために」
「賢智の鏡に」
当たり前のような顔をして頷いたフラウに、さっそく先行きが怪しくなってきたと頭を抱えそうになった。
賢智の鏡は、おばあちゃんの知恵袋では決してない。厳しい修行を納め、身を清め、儀式を経て召喚が叶う人外の神秘だ。占いの最高峰とも言える。
ただし、鏡への問いかけは非常に難しい。鏡は、こちらの意図など汲まない。質問に対する答えを示すだけ。幸せになる方法、などと言おうものなら、幸せと感じることをすべし、と返ってくるような。
「傷1つつかない肌を手に入れるために、何をすべきかと問いました」
俺は、ごくりとつばを飲む。果たして、その答えは――
「賢智の鏡に授かった解は……そう、『身体強化を極めるべし』」
「身体強化」
フラウはまた、当たり前のように頷いた。
「賢智の鏡は、正しかったのです。私は、頑張って極めました。身体強化を。……ご覧下さい」
無造作に振られた腕が、飛来した何かを弾いた。
困惑する俺に、フラウはそっと言葉を続けた。
「私、とても、頑張ったので。……ですが、努力をひけらかすのはみっともない真似です。淑女とは、玉の肌と美貌を保つ努力をし、夫となる方を支えるべくたゆまぬ努力をし、守り、慈しむ努力をするものです。努力の結晶が淑女、しかしそれを悟らせないのが淑女たる者」
「そ、そう……だったか?」
間違ってはいない気もするが、極端ではないだろうか。
ああ、そうだった。彼女は、極端だった。
哀しみの翌日から笑顔を振りまけるほどに、極端で、鋼の意思を持っていた。
「だけど、それとこれとは関係ないだ……でしょう? 賊は、どうして倒れていたの? フラウは、どうやってここへ来たの?」
フラウは、いかにも嬉しげに俺の隣に腰掛けた。見つめる視線には確かに温度を感じるけれど、それが恋慕だと思えないのが辛い。
10歳は、まだ子どもなのか。こんな話し方が相応しいほどに、フラウにとって子どもなのか。
ひそかに落ち込む俺を知るよしもなく、話すと決めたフラウは簡単に質問に答えてくれる。
「言いましたでしょう、淑女として頑張ったので。淑女たるもの、守るべきお方の嘆きに気付かないはずはありません。その御許に駆けつけられないはずはありません。もとより、御身を襲う凶刃からお守りできなくて、何が淑女ですか。そのために、私は努力致しましたから」
……俺の知っている淑女とは、ちょっと違う気がする。
「あの、つまりフラウは何を努力したの?」
まずは、そこか。色々と掛け違っているらしいボタンは、元を正せばそこだろう。
フラウは穏やかな笑みを浮かべて語り始めた。
「私はまず、賢智の鏡に問いかけました。淑女として必要なこと、ひとつひとつについて、何をすべきか知るために」
「賢智の鏡に」
当たり前のような顔をして頷いたフラウに、さっそく先行きが怪しくなってきたと頭を抱えそうになった。
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ただし、鏡への問いかけは非常に難しい。鏡は、こちらの意図など汲まない。質問に対する答えを示すだけ。幸せになる方法、などと言おうものなら、幸せと感じることをすべし、と返ってくるような。
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「賢智の鏡に授かった解は……そう、『身体強化を極めるべし』」
「身体強化」
フラウはまた、当たり前のように頷いた。
「賢智の鏡は、正しかったのです。私は、頑張って極めました。身体強化を。……ご覧下さい」
無造作に振られた腕が、飛来した何かを弾いた。
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