りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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128話 召喚獣

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「そう。これは、生き物を模しただけの、魔法……なんだって」

セリナが送還、と言うと、鳥はふわりと光をまとって――消えた。
リトも以前、仮初めの命だと言っていた。そして、魂がないとも。

「召喚獣はさ、言うことをきかないだとか、思い通りにならない、なんてことはないんだ。もちろん、能力的に可能か不可能かはあるんだけど、わがままを言ったり命令を聞かないってことがないの」

少しだけ寂しそうな顔でそう言って、だけど、と付け加える。

「世間一般ではそう言うし、実際命令を無視するなんてことはないんだよ? だけど、何て言うのかな、その子の好みだとか、性格だとか、そういったものまで『ない』とは思えないんだよね。だってさ、召喚するエアリアルファルコは、毎回『アオ』だって分かるんだよ?」

私も、じっと考えてみる。
召喚は、ただの魔法。本当にそうだろうか。
さっきケリーが使っていた、火の魔法と同じように。

……違うのでは。

そもそも、召喚、という言葉自体が、どこかから喚び出すという意味だ。
火の魔法は、どこかから喚びだしたものじゃない。その場で、術者が作り出したものだ。

あのエアリアルファルコを、術者がその場で作り出す――そんなことはできない、と思う。だって、リトは言っていた。クリームパンを作り出すことはできないと。
それなら、生き物なんてなおのこと。

「人の世ではかように教わるのか。面妖なことよ。仕方在るまい、このルミナスプたる我が、知恵を授けてしんぜよう」
「うわぁ、君のカエル妖精? って結構偉そうなんだね」
「気安く触れるでないわ!」

つん、とセリナにつつかれたファエルが、ぺちっとその手を払った。

「ふぁえる、召喚知ってる?」
「ルミナスプが魔法について、知らぬはずなかろう! 召喚とは、契約した魂に、仮初めの身体を与える魔法よ。なればこそ、契約済みの同じ個体が召喚されるというもの」

仮初めなのは、命ではなく身体の方? 

「召喚獣の魂、ある?」

だったら、それは私よりもずっと生き物だと言えそうなのに。

「そっかあ、そういう話だったとしたら素敵だね。ただの魔法じゃなくて、アオも魂があってさ、私に協力してくれてるんだって思えたらさ」

ふふっと笑ったセリナは、怪しいカエルの言うことなど、信じてはいないようで。
ちょうど食事ができたと言われたので、憤るファエルを掴んで立ち上がった。

「後で、まだお話する」
「ええ、もちろん」

にっこり微笑んだセリナに安堵して、私はリトの元へ駆け戻った。



「召喚できるやつは魔法使いより珍しいから、良い機会があって良かったな」

あぐらをかくリトの腿に座り込んだ私は、頷いて銀色を見上げた。

「とり、かわいかった」

召喚魔法は、最初に『召喚の儀』に成功した時点で、その人が呼び出せる生き物が固定されるらしい。一体も召喚できない人が多く、何体も召喚できる人や、強力な個体を召喚できた人が召喚士と名乗るよう。セリナは、召喚もできる剣士、なんだとか。

「チョットチョット、我が説明してやるって言ってんのにぃ! 聞きなさいよ弟子ぃ!!」

怒ったファエルが、ぺたぺたする手でしきりと私の頬を叩く。
リトがちぎってくれたお肉の皿を受け取って、まず口に入れてから親指を立てる。準備は万端だ、もう話してもいい。



「――つまりぃ、召喚獣となる者の魂と契約するでしょぉ、で、以降はその魂の一部を魔法として行使するわけ」
「へえ、それだと召喚獣は言うことを聞かなくなるんじゃねえ? つうか、召喚獣から魂は感じねえけど」
「そこが召喚のミソよ! あくまで魂の一部を、力として行使しているにすぎないってコト」

なるほど。私としては、あの生き物がただの魔法だと言われるよりは、ファエル説の方が納得できる。

「かやだは? 召喚獣の、かやだ」

クリームパンすら作れない魔法で、仮初めとはいえ、生き物の身体が作れるのだろうか。
重々しく頷いたファエルが、ピッと指を立てた。

「弟子、良い質問である。術者は魔力を用いて仮初めの身体を与える……が、『我の考えた最強!』を作ることは叶わぬ。その者の記憶・かの者の記憶と密接に結びつき、かつ世界に合致し矛盾ない時、初めて仮初めの身体は形作られる」

……つまり、私と召喚獣の記憶にある姿が明瞭かつ明確に合致して、この世界に存在している生き物なら完璧ということだろうか。

「ああ、だからドラゴンとか、珍しいのは召喚できねえのかもな」

確かに、強力な個体を間近く観察できる人など、滅多にいないだろう。
だから基本的には身近な魔物になるらしい。

「ごぶいん?」
「ゴブリンは……召喚獣で見たことねえな。居てもしょうがなくねえか?」

人気がないらしい。ゴブリンなら、明瞭に思い浮かべられる人は多いだろうに。
人に近い姿をして、手で物を握ることができるのは大きなメリットだと思ったのだけど。

「召喚の儀、したい」
「そうなるだろうと思ったがな。そんで普通に喚べそうなのが怖え。けど、ゴブリンはやめろ」
「弟子よ、召喚の儀は、己が魔力を込めながら魔法陣を描き上げることが必須条件よ」

描かなくてはいけないのか……。抽象画しか描けなくても、なんとかなるだろうか。

「どっちにしろ、せいぜい6歳にならねえと、儀礼の間に入れてもらえねえだろ。練習でもしてろ」
「ぎれいの間?」
「召喚にしろ、何にしろ、魔法陣とか魔法的な儀式に使う場所のことだ」

専門の設備が必要なのか。
とてもガッカリしたものの、いずれにせよ魔方陣の描き方から知る必要がある。
セリナは自分で描いたことがあるのだから、きっと覚えているはず。


「――召喚陣のこと? うーん、ちょっと記憶が怪しいけど、雰囲気だけでも見てみたいよね」

あらためてセリナの元へ行くと、彼女はちょっと困った顔の後、そう言って紙とペンを受け取った。
私は雰囲気ではなく、正確無比な魔法陣を描いてもらわねば困るのだけど……。

「めちゃくちゃ練習したんだけどね……うう、ここどうだったかなあ」

怪しい。とても怪しい。これは参考にできない気がする。
召喚は一度召喚の儀を経て契約すれば、後は簡単な呪文で呼び出せるお手軽なものらしい。確かにさっきは、送還の一言で終わっていた。

渋い顔でその手元を覗き込むと、大きな紙一面に重なり合った図形と、びっしりと模様のようなものが描き込まれている。
これは、どちらかというと描くより書く、だろうか。
翻訳はできないけれど、びっしり書き込んでいるのは文字だと思われる。

「りゅー、読めない」
「読む? これは召喚陣だから、読むものじゃないのよ」

そうだろうか。この規則性、恐らく文字だと思うのだけど。

「ゴホン、エホン、ンンっ、ンっ!」

ファエルが私の耳元でやたらと咳払いしている。やかましいなと払い落とせば、飛んできてぺちーんとおでこを叩かれた。

「この馬鹿弟子っ! 書物と言えば? 魔法と言えば? まず我に聞くのが筋であろうよ!」
「ふぁえる、召喚陣ちってる?」
「召喚陣は知りませんねえ」

腹を立てて放り投げようとすると、待て待て! とストップをかけられた。

「全く、我が弟子は気が短くっていけない。我が分かるのは、文字よ文字!」
「こえ、やっぱり文字?」
「その通り! この無学な者は悲しくも認識すらしておらぬが、れっきとした文字よ! 理解もせずに魔法を発動させようとは、嘆かわしいことよ」

ファエルのいた時代は、ちゃんと文字として理解して使っていたのだろうか。

「心せよ、文字を理解して書く事と、図形として描くこと、そこには天と地ほどの差がある」

それはそう。ただ、記憶が容易という意味だけならば、私にとって文字でも文字でなくてもそう変わりはしないけれど。

「後で、おちえて」

もしかして、リトも知っているかもしれない。何せ、長く生きているから。
私は合ってるんだか合ってないんだか分からない魔法陣を見つめて、その規則性から翻訳できまいかと目を凝らしていたのだった。
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