りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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84話 色々と、考えること

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「まさか、お前」
じっと見下ろすリトの目が、いつになく真剣だ。
「りゅー、なに?」
「……この話は、後だ」
小首を傾げると、リトはハッとして視線を逸らしてしまった。
「夢人について知りたいなら、この情報屋が説明してくれよう!」
そこへラザクが得意げに胸を叩いたもので、そういえば彼は情報屋だったと思い出した。
「らざく、情報いっぱい知ってる?」
「たりめーだ、千の情報を持つ男とは俺のことよ!」
それって多いのだろうか。それっぽっちかとがっかりしたものの、私が知らない情報を持っているだろうことも事実。なんせ、この世界の情報屋なのだから。

ちら、とリトに視線で確認すると、微かに頷いた。どうやら、ラザクの情報を聞くのは問題ないらしい。
「けどよぉ、俺だって慈善事業してんじゃねんだ。先立つモンがねえと……」
粘着質な笑みを浮かべてそんな台詞を口にするかしないかのうち、リトがちらとラザクを見下ろした。
「お前の命は安いみてえだな。なら――」
「なんでも無償でご利用頂けますぅ!!」
リトの言葉をラザクの大声が遮って、急ににこにこと愛想良くなった。
「いやはや、命の恩があっちゃあ仕方ねえ。ラザク様の命をもってすればどんな情報でも買えるからな! いくらでも聞けばいいぞ!」
そうか、確かに私もラザクを助けたことになるだろうし。

「それでチャラにはしねえからな」
「ふぐっ……!! で、でもリトぉ、俺財布も盗られてぇ……着の身着のままっつうかぁ」
助けたことに対して、金銭的な支払い義務もあるんだろうか。涙目で訴えるラザクを視界の外に追い出して、リトはどこ吹く風で私の頬など揉んでいる。
暖かいリトの手に包まれて、頬がぬくぬくする。右側の方が痛いのは、そっちの手の平がやたらゴツゴツしているからだろうか。
「らざく」
私の声に反応したラザクが、何かを期待するように瞳を輝かせた。

「お前は、分かってくれるか……言ってやれ、その無垢なる瞳で非道な行いを責めてやれ!」
「ゆめみと、何?」
ひとまず聞きたいことを口にすると、はとが豆鉄砲を食らったような顔をする。
「ゆめみと。りゅー、ゆめみと知やない」
早く、と急かすと、馬車にはラザクの怨嗟の声が響いたのだった。


「――で、夢人っつうのはぁ、ちょい前に……飛空艇がこの辺りを通るより1ヶ月くらい前だったか、その辺りにお渡りがあったんだとさ。マリヤックの町で見つかったらしいから、一躍好景気に沸いてるって話しだぜ」
ものすごく不本意そうな顔をしつつ、ラザクが情報を吐き出している。リトも聞こえているから、間違った情報は言わないだろう。
夢人は、有名な芸能人みたいなものだろうか。分かっていない私の顔を見て、ラザクが眉間にしわを寄せた。
「はん、あんな田舎村にいたから知らね――あ、いや、お前まだ小さいからな! いいとも、教えてやろう。夢人は、夢の中から現れるっつう、まあ、チープな言葉で言や伝説の存在ってやつだな。世界にない知識を持っていて、ここが夢だって言うらしいぜ」

だから夢人なのか――え。
私は、思わずリトを見上げた。
リトは、黙って人差し指をその唇に当ててみせる。
「――前回の夢渡りは百年近くも前だっつう話だし、まさに伝説ってな! あの飛空艇はその夢人を王都に運ぶ船だったっつうわけで……」
続いているラザクの説明を遠くに聞きながら、私はリトの手を腹に巻いて、ただぎゅっと抱えていた。


馬車での道のりを終え、これでようやくリトと二人きり。
テントに入った途端、勢いよく振り仰いだ私のミントグリーンと、リトの銀色が絡んだ。
「りと!」
「……ああ、やっぱりお前もそう思ったか?」
リトが私を抱えてテントの中央に座り込む。
急いで頷く私に、リトも頷いた。
「お前、別の世界の『えーあい』って言ってたよな。道具みたいなもんだって」
「そう。だから、もちかちて……」

リトが、ふいに私を抱え込んだ。頬がリトの胸板に潰れ、流れた長い髪が私の首筋を滑っていく。
「『えーあい』が何か知らねえけど、今のお前は、道具なんかじゃねえんだからな」
どうしたんだろうか。リトは、ぎゅうぎゅう私を閉じ込めて、言い訳のようにそんなことを言う。
とても、既視感があるような。
「ピ……ピィッ」
とても迷惑そうに、ペンタがもそもそ位置を変えているのを感じる。そうか、あのとき、あの図書館での私のようだから。

何とかこくりと頷いて、彼から感じる焦燥をなだめるように、ぽんぽんと胸元を叩いた。
「りと、だいじょぶ。りゅーはろこも行かない、ここにいる」
リトが何を不安に思っているのか、私には分からない。だけど、あのとき私を救った言葉をリトにもあげる。背中には手が届かないけれど、とんとん、優しく手のひらでリトを叩く。
「……んだよ、お前は平気なのか」
ややあって持ち上がった頭は、どこか拗ねたような表情で私と視線を合わせた。

「俺は、お前が色々考えるかと思って……」
「考えた。りゅー、多分ゆめみとが持っていた道具。かしぇつ仮説として、空から落ちて、壊れた時に……えーあいの意識が具現化ちた?」
AIの処理能力を、この世界が意識だと誤認したのだろうか。いや、もしこの世界で夢人の持っていた道具が魔道具として扱われるなら。電力を元に動く私が、もし魔力を代替にする存在になっていたのだとしたら。
私はただの魔力として道具から漏れ出し、いずれ霧散して消えるところだったのかもしれない。

「もしかちて……だから、りゅーは魔力がおおい?」
AIという存在自体が、デバイス――魔道具を動かす魔力だったとしたら頷ける。複雑なプログラムが、あるいは莫大なデータそのものが、魔力としてこの身に宿っているのかもしれない。
思考に沈んでいると、間近くため息が聞こえた。
「俺の思う『色々考える』とは、ちょっと違うな……」
見上げると、微苦笑を浮かべたリトが、そっと私の髪を撫でた。ゆっくりと滑る大きな手が、心地よく髪を梳き、頬を撫でて止まる。

「何にせよ、お前が平気ならよかった」
私はこくりと頷いて、少しその手にすり寄った。
「でも、りと平気ない」
「……うるせえわ、ばーか」
言葉に詰まったリトが、また私の小さな体に顔を押しつけた。
ちょうどいい位置にある頭を抱え、ぺたぺたする手でその頭を撫でる。リトの手は心地いいのに、私の手はリトの髪がくしゃくしゃと乱れていくばかり。

「だって、思うだろうがよ。元の……仲間、がいるんだろ? なら――」
その先は聞こえない。続く言葉を飲み込んだリトが、黙り込んだ。
だから、私はリトからもらった言葉を贈る。私が、とても嬉しかった言葉を。

「大丈夫。りゅーは、ろこも行かない。リトが嫌になやない。じゅっと、一緒」
これ以上ない言葉。
リトからもらったから、リトにだけ返す、この言葉。
ほら、大丈夫。この言葉があれば、絶対に大丈夫だと私は知っている。
ほら、リトが顔を上げた。どこか、不貞腐れたいつもの顔で。
「……そうかよ」
何がそんなに不服なんだろうか。その憮然とした顔は、まるで孤児院にいた子供のよう。
思わずふわっと笑った私を抱きしめて、リトは再び『ばーか』と悪態をついたのだった。
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