幻獣店

ひつじのはね

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2章 幻獣使いを目指して

幻獣使いへの一歩

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こんなナリでドラゴン? とは思うものの、スピーと比べれば、まだこっちの雛の方が大きい。

「上手にお腹の下に隠してるけど、しっぽもあるよ。あと、翼を開けば全然違うって分かるよ」
にこにこしたレリィスは、何か思いついたようにぽんと手を打った。
「そうだ、この子、リーヤに預けるね」
レリィスは鳥……いや、ドラゴンを湯たんぽを敷き詰めた木箱に移し、ずいっとリーヤへ押しつけた。

「え……はあっ?! いや師匠、俺まだ実践初めてなんすけど!」
まずはお手本じゃないのかと声を荒げかけ、雛に視線を落としてトーンダウンする。
「そうだけど、リーヤは今までぼくがお世話するのを見ていたでしょう? お手伝いだってしてくれてるから、見学はもう十分だと思うよ?」
痛いところを突かれ、うっと言葉に詰まる。確かに、他の幻獣使いの研修よりよっぽど手本は見てきているはずだ。こうしてしょっちゅう何かしら拾ってくるのを、既に何年も見ていたのだから。

「でも俺……もしこいつを生かしてやれなかったら……」
食おうとしていたことを棚に上げ、リーヤは情けなく眉尻を下げた。
「大丈夫、ぼくもちゃんと様子を見るから。どうしても分からないことや、確認したいことは聞いてくれればいいよ? 調べずに聞くのはナシだけど、ちゃんと調べたなら教えてあげる。むしろあやふやなまま対処することは絶対に避けてね。まだ生きられる命だから」
リーヤはじっと木箱の中を見つめた。落としてしまえば、それで死んでしまいそうな儚い命。
「まずは、この子の種族を調べるところからだね」
そっと頭を撫でた大きな手に、リーヤはこくりと頷いた。


「あった!! これだ!」
突如跳び上がったリーヤに、眠っていたスピーがぱちりと目を開け恨めしげな視線を向けた。
昼食もそこそこに書物と格闘していた彼は、頬を上気させ小さなドラゴンにページを開いて見せた。
「な、な! これだろ? スピーもそう思うよな!」
フスッと鼻を鳴らしたのは同意だったのかどうなのか。リーヤは確認を取るべく階下へ走った。

「師匠! 分かった! あいつ、『トリモドキ竜』だろ?!」
期待を込めた眼差しに、レリィスはくすっと笑った。
「正解。よく調べたね。じゃああとは大丈夫だね?」
種族が分かれば調べ物は簡単だ。まずは食性と習性を調べなくては。
リーヤは下りてきた階段を再び駆け上がった。


開いたドアを几帳面にノックする音に、リーヤはちらりと視線を向けた。
「リーヤ、君も夕食を食べないといけないよ?」
食性に合わせた飼料を選び、レリィスに確認し、成長と体調に合わせ潰してふやかして。
真剣な顔で書物と手元のどろどろ飼料を見比べていたリーヤは、言われて始めて外が真っ暗であることに気がついた。途端に腹の虫が騒ぎ出して、階下から漂う香りに気がついた。
「あっ……師匠、ごめん」
夕食を作ってくれたのだと悟り、リーヤは自分の失態に肩を落とした。

「ううん、それほど真剣になれるなら、君は素質があるってことだよ。さあ、この子も眠っているし、お世話する側が倒れちゃだめだからね。まずは君が食べようか」
『幻獣たちに食わせて師匠が飢え死にするつもりっすか!』普段口を酸っぱくして言っていることを思い出し、リーヤは少々気まずげに視線を逸らしたのだった。


「――美味かったっす!」
いつもの倍の速度で食べ終わったリーヤは、椅子を蹴倒す勢いで飛び出していった。呆気にとられて見送ったレリィスが視線を下げるか下げないかのうちに、再び顔をのぞかせたリーヤが怒鳴った。
「師匠っ、ちゃんと食うんすよ!!」
どうやらレリィスのお世話も忘れていなかったらしい。
「大丈夫だよ、お世話する側が倒れちゃいけないからね」
くすくす笑うレリィスに、どういう意味だとひと睨みを残し、リーヤは今度こそ部屋へ駆け込んだ。

木箱の中のふわふわした塊が、ゆっくりと膨らんではしぼむのを見つめ、リーヤはホッと息を吐いた。
目を離せば死んでしまうような気がして、離れているのが不安で仕方ない。
どさりと椅子に腰掛け、傍らの書物に手を伸ばしたとき、トリモドキ竜がもぞもぞと身じろぎして首をもたげた。
「あっ……悪い」
起こしてしまったかとそうっとのぞき込むと、トリモドキ竜は大きな目を瞬かせて小首を傾げた。

「……かわいい」
思わず手を伸ばすと、ぱかっと大きな口が開いて、慌てふためき手を引いた。やはり、小さくてもドラゴン。噛みつかれるかと思ったリーヤだったが、落胆したように口を閉じたトリモドキ竜に首を傾げた。
「もしかして……」
ドキドキと胸を高鳴らせ、まだほの温かいどろどろをかき混ぜると、ひと匙すくい取った。
「ほら、腹減ってんだろ? 美味い……かどうかは知らねえけど、腹は膨れるぞ!」
恐る恐る差し出した匙に、トリモドキ竜は先ほどと同じように目一杯口を開けた。思い切って匙を突っ込むと、奪い取る勢いで食らい付いた。
「お、おお!! 食った! 食ったぞ!!」

リーヤは目がちかちかしそうな程の興奮を感じつつ、驚かせないようにと叫び出したいのをなんとか自制する。
4杯目をすくった頃には、もうささじを近づける前から大きな口が開きっぱなしだ。
「ちょ、ちょっと待て待て。お前、腹大丈夫なの? もっとゆっくり食えば?」
せっせと給餌しながら、その勢いに安堵と共に不安も押し寄せる。けれど、レリィスが魔法をかけた後だ。きっと問題ないのだろう。

用意した餌が残り2割ほどになった頃、口を開ける勢いが衰えてきた。しばらく見守っていると、段々と瞬きの回数が増え、ゆっくりになり……閉じたままになった。

「寝た……」
リーヤは静かに餌を置き、木箱の中の命を見つめる。
手づから餌を食べ、安堵して眠った儚い命に、胸の内からふつふつと何かが湧き上がってくる気がした。
「守ってやるからな……!! 絶対、元気になれよ!」
リーヤは静かに傍らの本を引き寄せ、貪るように知識を取り入れ始めた。

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