世界の中心は君だった

KOROU

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三章

狼の憂鬱

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 お盆に入る前。自分はいつも通り布団で目覚めた。
 記録や日記を確認したところ、今日は訪問看護の日だった。あまり乗り気はしないが、致し方ないと思いその時間を待った。

 鈴城さんは、いつもの事のようにダイニングキッチンの椅子に座る。

「狼さん、梟さんに話していただけるように許可をいただけませんか?」

 やっぱりその話か。なんだか悪い予感はしていた。的中したその予感に自分はがっかりする。
 ここは大人しくしておいた方が良いのかもしれないと思い、素直に従う。

「分かりました。梟に許可した事は伝えます」
「ありがとうございます」

 鈴城さんは嬉しそうに言うが、自分は全然嬉しくない。
 なぜなら、自分の家の鍵を他人に渡したような気分だからだ。不安と心配が同時に押し寄せる。

「ところで、蟻さんと話しましたけど、あまり会話にはならなかったです」
「そうですか。恐らく好きな物を伝えるという事で終わった感じですか?」

 鈴城さんは一瞬驚いたような顔をしたが、「そうなんです」と頷いた。
 それに関しては自分もどうしようもないため、しかし、心の中でほっとする。蟻は見事に役目を果たしたのだろう。でも、鈴城さんはそれに気が付いていない。
 たぶん、”それ”はまだ先の事なのだろうと思った。

 だとしたら、自分は鈴城さんに言わないといけない事がある。

「鈴城さん、質問を一ついいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
「本間先生の指示書に、訪問して解離性同一性障害の糸口を見つけて欲しいと書いてあったかと思います。その糸口は見つかりそうですか?」

 そう言うと、鈴城さんは目を丸くした。なぜ、その事を知っているのか。
 自分は指示書を見ていない。けれど、鈴城さんが色んな人格と話して、ましてや記憶の管理人と話そうとしている事から、それは容易に想像できた。
 そして、蟻との会話が会話にならなかったと言った事。そこから察するに、鈴城さんは蟻が言った事は無意味だと思っている事も推察出来る。

 これらが導き出す答えは一つ。鈴城さんは、本間先生に自分達の事を詳しく、なおかつ解き明かすとまではいかなくてもそういう事をして欲しいと頼まれている。
 狐はそれを知っていて自分達に後を託したのだろう。自分達がどう動くかワクワクしていたのだろう。
 狐は頭が良い。そしてコピーの自分も型落ちとはいえそれなりに良い。そして他の人格もそうだ。

 だとするのであれば、誰かが言わなくてはならない。皆が気付いている事を――。

「自分は真実を話しても、はぐらかしてもどちらでも良いのですが、鈴城さんに一つだけ質問があります」
「はい‥‥‥」
「自分の考えとして、他人の懐に踏み入るという事は地獄や絶望も味わう覚悟があるという事を意味するなと考えています。その覚悟が鈴城さんにはありますか。これは次回の時までに考えておいてください」

 そう言ってその日の訪問看護は終わりを迎えた。
 とりあえず自分は、梟にコンタクトを取って鈴城さんには話しても良い事を伝えた。その前に、今日尋ねた事の確認をしておくようにも伝えた。

 さて、盤上の駒を次にどう動かすか。
 見物だなと思いつつ自分は眠りに就く。

 あとは、梟に任せる事にしよう。
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