世界の中心は君だった

KOROU

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二章

傲慢の玉座

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 それから数日後。ゴールデンウィークの始まった日に訪問看護の風間さんが訪れた。
 風間さんはいつも通りに座ると、様子などを尋ねてきた。私が変わりない事を伝えると、風間さんは早速こう言った。

「鈴城に尋ねた質問を僕が代わりに答える事になりました。鈴城の答えとしては、『心に役割を持たせて分裂させた子が居たのであれば、どうしてそうなってしまったのか理由を知って理解したいです』との事です」
「そうですか。鈴城さんらしいお答えですねとお伝えください」

 私は及第点だなと思いつつ、ふむふむと忘れん坊な記憶の中に放り込む。面白みはあまりない。

「そのお話なのですが、僕で良かったら聞きますよ」
「あ、別にいいです」
「え、どうしてですか?」

 きょとんとする風間さんに対して、私は少し驚く。ああ、この人自分の立ち位置分かっていないんだと。

「んー、理由はいくつかありますけれど、大まかに言えばあなたでは理解出来ない話なので」
「どうして僕だと理解出来ないのですか?」

 私はこの人は本当に分からず聞いていると思い呆れた。溜息が思わず出る。

「では、理由を言いますね。よろしいですか?」
「はい、構いません」

 私の血管の中のどこかがブチッと鳴った気がした。

「まず、『良かったら聞きます』ではなく、『よろしければお聞きします』が正解です」
「えっと、それは失礼しました」
「『失礼しました』ではなく『失礼致しました』です。次に、私はあなたとそこまで仲を深めたつもりはありません。それから、そのお話と仰いましたが、人の過去に土足で踏み込むか否かも見極められない人にする話ではないからです。最後に――私はあなたを見下しています」
「なぜ、ですか?」
「半人前なのに自信満々に僕はあなたをサポートします的な態度が気に入らないからです」

 私は言った後に肘を着いて手を組む。あなたの話は受け入れないというポーズとあなたを下に見ているというポーズだ。このポーズを私は退屈さを表す時や考える時にもするが、今は風間さんが受け入れられない事を意味している。

「そう、ですか……なぜ、そんなに嫌うのですか?」
「嫌うのと見下しているのは別です。その違いも分からない半人前だから気に入らないんです。あえて言うのであれば、あなたは私を知ってどうしたいですか?」
「どうって、理解した上でお手伝いを……」
「何の手伝いをするんですか?」
「えっと、それは……」

 言葉に詰まる風間さんを私は軽蔑した目で見据える。答えられないでしょう。鈴城さんも答えられないから濁した答えを、伝令役として遣わされたあなたが答えられるはずがない。
 それを知りもしないで『聞きたい』と言う。甚だおかしな事である。

「私はあなたが思うよりも傲慢でわがままです。その手伝いをどうするのですか?」
「ですから、理解した上でお手伝いをして社会復帰出来るようにして」
「それは誰からの指示ですか?」
「え、いや、誰からの指示でもなく」

 その言葉に私は眉間にシワを寄せる。

「いや、別に私はあなた方が居なくても社会復帰できるんですけれど。仕事は見つけられますし、特段仕事の内容で困っているわけでもないですし、続かない事が困っているだけです。それをあなたは社会復帰と仰るのですか?」

 あたふたする風間さんに私は余計イライラしてくる。話しにならない。そう思って切り上げる。

「分かりました。今日の所はお引き取り頂いて構いません。でも、鈴城さんにはお伝えください。あなた方との交流は考えます、と。あと、謝罪の言葉は要りません。謝罪されるだけ腹立たしいので」

 そう伝えると、風間さんは謝りながら帰って行った。
 福祉事業の人にたまに見られる行為。それが私には凄く腹立たしく思える。
 お手伝いします。サポートします。

 何を――?

 そう言って答えられた人はただ一人だ。その人はベテラン中のベテランの方だった。その人と同じ言葉を口にした人は今までおらず、私を含めた人格を手懐けたのもその人と本間先生だけだ。
 私の過去に土足で踏み入ろうとして、思いや思い出を無理矢理理解しようとして、背景も知らずに『お手伝いしますね』『サポートさせて頂きます』と言う人が私は嫌いだ。正直、話す価値もないと思ってしまう。

 私は傲慢不遜で傍若無人を地で行くタイプだ。それでいて、母にも本間先生にもベテランだった人にも良くも悪くも頭脳派と言われたタイプでもある。
 私は傲慢と言う玉座に座っている。それは絶対に崩れる事がない。

 だけど待っているのだ。この玉座を崩してくれる誰かを――。
 とはいえ、それが風間さんではない事ははっきりとした。残るはつまり……。
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