世界の中心は君だった

KOROU

文字の大きさ
5 / 45
一章

語り始めると尽きないので

しおりを挟む
 週明けの月曜日。訪問看護の『すずかぜ』の人達がやってきた。一人は眼鏡を掛けている女性、もう一人は体格の良い男性だ。
 母とも挨拶を交わして名刺を渡す辺り、礼儀作法は問題ないように思えた。さすが、市内の大病院の訪問看護だけはある。その辺りの礼節はしっかりとしているのだろう。

 しかし、私が重要視する点は他にもある。そこは話しながら一つ一つチェックしようと思った。私の警戒心が心の中で顔を出す。
 二人はダイニングキッチンにある椅子に座る前に失礼しますと言った。うん、問題はない。ここまでは。

「狐さん、はじめまして。『すずかぜ』で管理責任者をしている鈴城です」
「初めまして。『すずかぜ』で精神保健福祉士をしている風間です」
「初めまして。狐です。本日はお越しいただきありがとうございます」

 私の心の硬直が解けない。二人はそれを礼儀正しそうと取るのかもしれないし、最初だから緊張していると取るのかもしれない。今まで私が対応してきた中で言われた言葉だ。
 それでも眼鏡を掛けている女性が鈴城さん、体格の良い男性が風間さんと覚える。忘れるか忘れないかはこの人達次第だと思いながら。

 概要を説明する鈴城さんの横で、風間さんは何やらアレコレ書いている。今そんなにメモするところあるだろうか。それともメモ魔なのかなと思いながら、メモしている風間さんにも気を配りつつ、鈴城さんの話はちゃんと聞いているふりをする。

 概要の説明が終わると、鈴城さんが私に尋ねてきた。

「続いて、狐さんの今の状況とかをお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」

 私が頷くと、鈴城さんは少し様子を見る。私が話すのか、それとも鈴城さんが話すのか。こういう人の機微を私は敏感に感じ取る。恐らくこの流れから察するに、鈴城さんが話すパターンだ。

「それでは、まず今までの事をお伺いしても宜しいですか?」

 今度は私が話す番と受け取る。正直、会話はキャッチボールという言葉があるけれど、アレはイマイチ分かりにくい。私から言わせれば会話はカードゲームやターン制バトルのように、交互に行うのが適切ではと感じる。
 言うなれば、それが出来ない時点で私からするとお話しにならない相手と見てしまう。

「そうですね。今まで色々あって、直近だとお仕事を辞めて、事務職に転身しようかなと思ってお仕事を探しているのかいないのかよく分からない状況です」
「そうなんですね。直近のお仕事は何をしていましたか?」
「コールセンターのSV、スーパーバイザーをしてました」
「それは凄いですね。どうでしたかSVのお仕事は?」

 鈴城さんは聞くスタイルなんだなと思いながら、横でメモ書きをする風間さんをチラ見する。風間さんは今日はメモに徹する係なのかもしれない。鈴城さんは時たまメモ書きする程度だから、役割分担があるのかもしれない。
 そんな事を考えながら、私は鈴城さんの問いに答える。

「まぁ、大変でしたけど楽しかったです」
「そうでしたか。どういう所が楽しかったですか?」
「人に教えたり、成長している姿を見られたり、私もそれで成長する感覚が楽しかったです」

 本心を言うと、鈴城さんは深く頷いた。風間さんも深く頷いてメモを走らせる。

「差し支えなければそのお仕事を辞めてしまった理由をお教えいただけますか?」
「結構体力勝負で、スタミナ切れです」
「あらら、では、人との関係とか激務だったとかそういう事ではないですか?」
「それは今回なかったですね。単に私の体力が持たなかっただけです」

 うーん、と鈴城さんはまた深く頷く。風間さんはコクコク首を縦に振っている。三者三様ならぬ二者二様。人の受け取り方って違うんだなと私は勝手に思う。
 たぶん風間さんはSVになったのに勿体ないと思っている。鈴城さんはどちらかというと見慣れてきた感がある。”やっぱりそういうもん”なのだなぁと思いながら、私は鈴城さん達の様子を伺いつつ会話を続ける。

「事務職に転身しようと思ったのはなぜですか?」
「事務職に憧れていたからです」
「憧れですか?」
「はい。母が事務職していたので、その流れで憧れました」
「そうなんですね。そうすると、今後お仕事に就く場合は事務職で就職しようと思っているという事ですか?」

 はい、と答えて私は深く頷く。その様子を見てか、鈴城さんと風間さんが同時にメモを取る。そこそんなに重要かなぁと思いながら、それでも私は何でもない事のように鈴城さんと会話する。

 そうして、一通りの状況や今後の展望を聴くと、二人は今日の所は話を終えたように最後の案内をしてくれた。最後の案内は契約を交わすための主治医の本間先生からの情報提供書を貰う事だった。
 それを次の時までに用意する事を約束として、私と母は鈴城さんと風間さんを見送る。二人は最後まで丁寧に礼儀正しく帰って行った。

「どうだった?」

 母の問いに、私はう~んと唸りながら考えて答える。

「悪くはない」

 そう――と母が笑いながら「上から目線で何よりです」と言った。
 そんな母と話しながら、私は次の時に本間先生の情報提供書を貰わねばとリマインダーに予定を入れる。本間先生元気かなぁ。元気だろうな。元気でなければ精神科医なんてやってないだろうから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...