21 / 41
3幕:優しさを求める共鳴
8
しおりを挟む
「いや。まだ三十五年、と言うべきか……」
なのに、この人はそれをまだ短いと感じている。
「これだけの時間がたっても、まだ大事なことを知れていないままなのですから」
「お二人の仲が悪いわけでは……」
「いえ、決して。むしろ仲の良いほうだと思います。私は一番の敬意を持って妻と向き合っていますし、彼女も誠実に接してくれているのがわかります。ただ、未だお互いの間に何かが欠けているような気がするんですね」
何かを思い返すように、視線が斜め上を向いた。
「あの女の子は強い。一番になれずともただ覚えていてもらえるなら勝ちとは。私はとてもそうは割り切れない。男女間の違いしょうか?」
急に舞台の話に戻って、ついていくのに一瞬遅れた。
「……彼女だって、始めは彼の一番になろうと必死になってたじゃありませんか」
答えが出せず、なんとなくただ反論するようなことを返す。
「最終的に諦められる力があるだけで強いと思います。いや、諦めではなくけじめ、と言ったほうが適切でしょうか? どちらにしても、私はどうもそれができないでいます」
言い出しにくいように、抽象的な言葉が続く。そっと、質問を差し出してみる。
「今、似たような状況に置かれているんですか?」
「そうですね……妻ではなく私が、ですが」
最後の部分が少し強調されたように聞こえたのは気のせいだろうか。
「良い夫婦仲で家庭もとりあえずは平和なのですが、それでも私はずっと何か違和感を拭えないままでいます。本当にこれで良いのだろうか、という」
「何か、不満に思うことが?」
「『不満』と言うと強い言い方ですが……もうすぐ三十五年にもなって、それでもまだ彼女は私のことを見てくれている気がしないんですね。昔を懐かしむ言葉がいつまでたっても出てきたり、私と他の誰かを脳内で比べてるように思える、冷めた目線を向けられたり……見ていると、悔しいような、怒りたい、でも怒れないような気になります」
話してほしいと尋ねたことはないですか?
そう聞こうとしたけど、やめた。きっと劇中の彼女と同じく、歩み寄ろうとしてもはねのけられてばかりいたのだろう。
なのに、この人はそれをまだ短いと感じている。
「これだけの時間がたっても、まだ大事なことを知れていないままなのですから」
「お二人の仲が悪いわけでは……」
「いえ、決して。むしろ仲の良いほうだと思います。私は一番の敬意を持って妻と向き合っていますし、彼女も誠実に接してくれているのがわかります。ただ、未だお互いの間に何かが欠けているような気がするんですね」
何かを思い返すように、視線が斜め上を向いた。
「あの女の子は強い。一番になれずともただ覚えていてもらえるなら勝ちとは。私はとてもそうは割り切れない。男女間の違いしょうか?」
急に舞台の話に戻って、ついていくのに一瞬遅れた。
「……彼女だって、始めは彼の一番になろうと必死になってたじゃありませんか」
答えが出せず、なんとなくただ反論するようなことを返す。
「最終的に諦められる力があるだけで強いと思います。いや、諦めではなくけじめ、と言ったほうが適切でしょうか? どちらにしても、私はどうもそれができないでいます」
言い出しにくいように、抽象的な言葉が続く。そっと、質問を差し出してみる。
「今、似たような状況に置かれているんですか?」
「そうですね……妻ではなく私が、ですが」
最後の部分が少し強調されたように聞こえたのは気のせいだろうか。
「良い夫婦仲で家庭もとりあえずは平和なのですが、それでも私はずっと何か違和感を拭えないままでいます。本当にこれで良いのだろうか、という」
「何か、不満に思うことが?」
「『不満』と言うと強い言い方ですが……もうすぐ三十五年にもなって、それでもまだ彼女は私のことを見てくれている気がしないんですね。昔を懐かしむ言葉がいつまでたっても出てきたり、私と他の誰かを脳内で比べてるように思える、冷めた目線を向けられたり……見ていると、悔しいような、怒りたい、でも怒れないような気になります」
話してほしいと尋ねたことはないですか?
そう聞こうとしたけど、やめた。きっと劇中の彼女と同じく、歩み寄ろうとしてもはねのけられてばかりいたのだろう。
10
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
フリー台詞・台本集
小夜時雨
ライト文芸
フリーの台詞や台本を置いています。ご自由にお使いください。
人称を変えたり、語尾を変えるなどOKです。
題名の横に、構成人数や男女といった表示がありますが、一人二役でも、男二人、女二人、など好きなように組み合わせてもらっても構いません。
また、許可を取らなくても構いませんが、動画にしたり、配信した場合は聴きに行ってみたいので、教えてもらえるとすごく嬉しいです!また、使用する際はリンクを貼ってください。
※二次配布や自作発言は禁止ですのでお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる