愛に一番近い感情

小波ほたる

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3幕:優しさを求める共鳴

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 おじさまの手前にはブラックコーヒー、私の前にはさび色の紅茶だ。
 本当なら少しだけミルクが欲しいけど、あるのは常温保存できるポーションだけだった。仕方なくそのまま口に含むと、逆に口内が乾燥しそうなシャープで渋い風味が舌に広がった。やっぱり、向こうとこっちとでは味が違う。
 かちり、とソーサーがテーブルに置かれる音とともに、おじさまは話を再開した。
「似合うのは間違いない。女性の方……池端さんですか、は特に……私には、役が本人に憑依しているように感じました」
「惹きつけられましたか」
 好きな人を追う女の子のほうに。
「はい。彼女の台詞や感情には、まるで自分のことのように強く響くものがありました。少し、痛いくらいに」
 そして彼は少しつらそうに目を伏せて、コーヒーを口に運んだ。私も続く。
 しばらくは、誰も何も言わなかった。
 他にも脚本や制作の話について聞かれるのかと思っても、何も続かない。
 だが、そのわりにおじさまは何かを言いたそうにする。
 自分から沈黙を破っていいものか、迷った。だけど、このままでいても何も進まないし幕も引けない。
「……作品について聞きたいことだけではない、のでしょうか」
 恐る恐る自分から尋ねてみると、不意を突かれた表情がこっちを向いた。
 たぶん、これは当たってる。
「他に、何か違う、本当に話したいことがおありなのでは。作品そのものについてではなく、たとえば、テーマや刺激された感情に関係した、ご自身の体験について、とか」
 そっと畳みかけるように加えると、彼は少し困ったような表情を見せてから、控えめな口調で尋ねた。
「この年になって今さら聞くことではないかもしれませんが……女性の方は、恋愛関係になる相手や、生涯のパートナーとなるかもしれない相手に何を求めるのでしょう?」
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