9 / 12
9 縛られているのはどっち?
しおりを挟む
彼女の声は思ったより大きくて人の目を集めている。
このままではここにいる誰もが悪く言われてしまう。
ルーリラはフェルマンの服の裾をそっと引っ張り、
「場所を移動しましょう。このままでは醜聞になります。」
彼にだけ聞こえるように言った。
だが、その行為は彼女を煽るだけだったようだ。
「貴女が彼の婚約者なの?侯爵家の令嬢だそうね。騎士団にいた彼とは接点はなかったそうじゃない。お嬢さまのわがままで無理矢理婚約したのでしょう?」
大きな声でキッと睨みつけられる。侯爵令嬢として余り悪意に晒されてこなかったので萎縮してしまい彼の服を握る手が震えて放そうと思っているのに手が離れない。
そんな私の震える手を彼がゆっくりと服から引き剥がした。
私たちの関係は私が彼を縛り付けている様にしか見られていない。心が痛みを訴えて涙が溢れそうになっている。
ああ、欲張って思い出を欲しがったりしないで彼女の噂を聞いた時に彼を解放していたらこんな所で振り払われないで済んだのに。
彼は私の前に出ると
「俺と彼女の婚約は確かに政略的なものだ。」
ミラ様は勝ち誇ったような顔で私たちを見ている。
「やっぱり、貴族の特権を利用して縛られているのね。可哀想なフェルマン。」
フェルマン様は呆れた表情をして首を横に振った。
「君はいつまで思い違いをしているんだ。
騎士で将来平民になる俺を捨て家の為と言いつつ金と地位を持っているノイマン伯爵を選んだ時点で君への想いはなくなっている。」
マリエッタ様は彼の言葉が信じられないようで必死の形相で言い募る。
「うそよ。だって私と別れてから貴方は誰とも付き合ったりしなかった。騎士団で爵位を求めてがむしゃらに働いていたって。それは私が忘れられなかったからでしょう?私とよりを戻すためでしょう?そう聞いたわ。」
そんな元恋人を見ても表情を変えず
「君の行為で女性に対して失望してたから誰とも付き合う気になれなかっただけだ。他にやることもないからと仕事に打ち込みあれほど欲しかった爵位が手に入るまでになるなんて皮肉なものだ。結婚する気もなく爵位も面倒だからと辞退していたが、今は爵位があって良かったと思っているよ。
今は君に何の興味もない。君が離縁されて戻ってこようと、君とは二度とやり直す気はない。
そしてもう一つ、この婚約を望んだのは彼女じゃない、俺だ。そのため彼女が拒否できないように王家を巻き込んだ。」
自分に都合の良い言葉が聞こえた。…気がする。
呆然となりながら彼の方を向けば、離されたはずの手を引かれ彼の懐へ飛び込むかたちで抱き込まれた。
「わかったら、さっさと消えてくれ。」
これは私に言われている言葉なのかしら?頭が完全に働く事を放棄している。そっと伺うように見上げるとフェルマン様は幼なじみの方を向いて苦々しい顔をしていたが私の動きに気がついたのか、弱々しく言った。
「ごめんね。こんな風に逃げられないように君を縛って。」
信じられない。
「縛られたのは貴方の方じゃなかったの?」
気づいたら言わないでおこうと思っていた言葉が溢れていた。
このままではここにいる誰もが悪く言われてしまう。
ルーリラはフェルマンの服の裾をそっと引っ張り、
「場所を移動しましょう。このままでは醜聞になります。」
彼にだけ聞こえるように言った。
だが、その行為は彼女を煽るだけだったようだ。
「貴女が彼の婚約者なの?侯爵家の令嬢だそうね。騎士団にいた彼とは接点はなかったそうじゃない。お嬢さまのわがままで無理矢理婚約したのでしょう?」
大きな声でキッと睨みつけられる。侯爵令嬢として余り悪意に晒されてこなかったので萎縮してしまい彼の服を握る手が震えて放そうと思っているのに手が離れない。
そんな私の震える手を彼がゆっくりと服から引き剥がした。
私たちの関係は私が彼を縛り付けている様にしか見られていない。心が痛みを訴えて涙が溢れそうになっている。
ああ、欲張って思い出を欲しがったりしないで彼女の噂を聞いた時に彼を解放していたらこんな所で振り払われないで済んだのに。
彼は私の前に出ると
「俺と彼女の婚約は確かに政略的なものだ。」
ミラ様は勝ち誇ったような顔で私たちを見ている。
「やっぱり、貴族の特権を利用して縛られているのね。可哀想なフェルマン。」
フェルマン様は呆れた表情をして首を横に振った。
「君はいつまで思い違いをしているんだ。
騎士で将来平民になる俺を捨て家の為と言いつつ金と地位を持っているノイマン伯爵を選んだ時点で君への想いはなくなっている。」
マリエッタ様は彼の言葉が信じられないようで必死の形相で言い募る。
「うそよ。だって私と別れてから貴方は誰とも付き合ったりしなかった。騎士団で爵位を求めてがむしゃらに働いていたって。それは私が忘れられなかったからでしょう?私とよりを戻すためでしょう?そう聞いたわ。」
そんな元恋人を見ても表情を変えず
「君の行為で女性に対して失望してたから誰とも付き合う気になれなかっただけだ。他にやることもないからと仕事に打ち込みあれほど欲しかった爵位が手に入るまでになるなんて皮肉なものだ。結婚する気もなく爵位も面倒だからと辞退していたが、今は爵位があって良かったと思っているよ。
今は君に何の興味もない。君が離縁されて戻ってこようと、君とは二度とやり直す気はない。
そしてもう一つ、この婚約を望んだのは彼女じゃない、俺だ。そのため彼女が拒否できないように王家を巻き込んだ。」
自分に都合の良い言葉が聞こえた。…気がする。
呆然となりながら彼の方を向けば、離されたはずの手を引かれ彼の懐へ飛び込むかたちで抱き込まれた。
「わかったら、さっさと消えてくれ。」
これは私に言われている言葉なのかしら?頭が完全に働く事を放棄している。そっと伺うように見上げるとフェルマン様は幼なじみの方を向いて苦々しい顔をしていたが私の動きに気がついたのか、弱々しく言った。
「ごめんね。こんな風に逃げられないように君を縛って。」
信じられない。
「縛られたのは貴方の方じゃなかったの?」
気づいたら言わないでおこうと思っていた言葉が溢れていた。
776
お気に入りに追加
1,416
あなたにおすすめの小説
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
騎士の元に届いた最愛の貴族令嬢からの最後の手紙
刻芦葉
恋愛
ミュルンハルト王国騎士団長であるアルヴィスには忘れられない女性がいる。
それはまだ若い頃に付き合っていた貴族令嬢のことだ。
政略結婚で隣国へと嫁いでしまった彼女のことを忘れられなくて今も独り身でいる。
そんな中で彼女から最後に送られた手紙を読み返した。
その手紙の意味をアルヴィスは今も知らない。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥
矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。
でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。
周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。
――あれっ?
私って恋人でいる意味あるかしら…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる