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9 縛られているのはどっち?

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彼女の声は思ったより大きくて人の目を集めている。
このままではここにいる誰もが悪く言われてしまう。
ルーリラはフェルマンの服の裾をそっと引っ張り、

「場所を移動しましょう。このままでは醜聞になります。」

彼にだけ聞こえるように言った。
だが、その行為は彼女を煽るだけだったようだ。

「貴女が彼の婚約者なの?侯爵家の令嬢だそうね。騎士団にいた彼とは接点はなかったそうじゃない。お嬢さまのわがままで無理矢理婚約したのでしょう?」

大きな声でキッと睨みつけられる。侯爵令嬢として余り悪意に晒されてこなかったので萎縮してしまい彼の服を握る手が震えて放そうと思っているのに手が離れない。
そんな私の震える手を彼がゆっくりと服から引き剥がした。
私たちの関係は私が彼を縛り付けている様にしか見られていない。心が痛みを訴えて涙が溢れそうになっている。
ああ、欲張って思い出を欲しがったりしないで彼女の噂を聞いた時に彼を解放していたらこんな所で振り払われないで済んだのに。
彼は私の前に出ると

「俺と彼女の婚約は確かに政略的なものだ。」

ミラ様は勝ち誇ったような顔で私たちを見ている。

「やっぱり、貴族の特権を利用して縛られているのね。可哀想なフェルマン。」

フェルマン様は呆れた表情をして首を横に振った。

「君はいつまで思い違いをしているんだ。
騎士で将来平民になる俺を捨て家の為と言いつつ金と地位を持っているノイマン伯爵を選んだ時点で君への想いはなくなっている。」

マリエッタ様は彼の言葉が信じられないようで必死の形相で言い募る。

「うそよ。だって私と別れてから貴方は誰とも付き合ったりしなかった。騎士団で爵位を求めてがむしゃらに働いていたって。それは私が忘れられなかったからでしょう?私とよりを戻すためでしょう?そう聞いたわ。」

そんな元恋人を見ても表情を変えず

「君の行為で女性に対して失望してたから誰とも付き合う気になれなかっただけだ。他にやることもないからと仕事に打ち込みあれほど欲しかった爵位が手に入るまでになるなんて皮肉なものだ。結婚する気もなく爵位も面倒だからと辞退していたが、今は爵位があって良かったと思っているよ。
今は君に何の興味もない。君が離縁されて戻ってこようと、君とは二度とやり直す気はない。
そしてもう一つ、この婚約を望んだのは彼女じゃない、俺だ。そのため彼女が拒否できないように王家を巻き込んだ。」

自分に都合の良い言葉が聞こえた。…気がする。
呆然となりながら彼の方を向けば、離されたはずの手を引かれ彼の懐へ飛び込むかたちで抱き込まれた。

「わかったら、さっさと消えてくれ。」

これは私に言われている言葉なのかしら?頭が完全に働く事を放棄している。そっと伺うように見上げるとフェルマン様は幼なじみの方を向いて苦々しい顔をしていたが私の動きに気がついたのか、弱々しく言った。

「ごめんね。こんな風に逃げられないように君を縛って。」

信じられない。

「縛られたのは貴方の方じゃなかったの?」

気づいたら言わないでおこうと思っていた言葉が溢れていた。
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