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8 幼なじみ登場

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彼にエスコートされて劇場から出た。見たかった劇だけど、その前の事で頭がいっぱいでなにも覚えていない。

劇場の高位貴族のための個室に入る前にフェルマン様のもう1人の幼なじみに会った。彼が話があるというので私だけ先に部屋に入って2人は扉の前で話をしていた。

「ミラが………。」
「関係ない。」
「恋人…だろう。それに……聞いている。」
「確かに……だ。だけど……ない。婚約は……。」
「好きなのか?」
「ああ。……会う……。」
「伝えとくよ。」

扉越しで切れ切れに聞こえてくるその内容はフェルマン様の元恋人が帰ってきた。と教えるものだろう。それに対してフェルマン様はまだ彼女の事が好きで友人に会う段取りをお願いしたのだろう。


私の思い出づくりもここまでね。部屋に入って来たフェルマン様にいつもの笑顔を向けているつもりだけれど、彼の顔を見ると上手く笑えていないようだ。
こんな事で狼狽えてるなんてフェルマン様を解放してあげる事が出来るのかしら?




会場の外に出た。たくさんの人で賑わっている。そこで聞こえてきたのは

「フェルマン、やっと会えた。会いたかったわ。」

こちらを見て涙を流している彼女はフェルマン様の元恋人だろう。噂でしか聞いた事がなかったが美しい人だ。涙を流してこちらを見る姿など庇護欲を掻き立てる。
フェルマン様は隣にいる婚約者に気を遣っているのか、平坦な声で彼女を呼んだ。
そんな彼の言葉を彼女は聞きたくないのだろう。遮るように話す。

「ノイマン伯爵夫人。「あの人とは離縁して帰ってきたの。だからミラと呼んで。」

幼なじみとはいえ婚約者のいる男性、それも元恋人に昔のように呼び捨てで呼んでと言うなんて常識では考えられない。
しかもここにはたくさんの人がいるのに。それがわかっているのだろうフェルマン様は冷たく突き放すように言われた。

「ミラ嬢、おれには婚約者がいます。いくら幼なじみとはいえ、その婚約者をおいて他の女性を呼び捨てで呼ぶなんてできませんよ。」

「フェルマン、昔の事をまだ怒っているの?別の人と結婚したのは悪かったわ。でもあれは仕方なかったのよ。わたしは貴方の事を忘れたことはなかったわ。わたしは今でも貴方のことが好きよ。貴方も好きでもない婚約者とは別れて、今度こそ2人で幸せになりましょう。」

元恋人に多くの人の前でここまで言ったのだ。
彼がそれを突っぱねれば、彼女は政略で嫁いだ夫に裏切られて離縁され、ずっと想っていた元恋人にも捨てられた哀れな女に、私はそんな想いあっている2人を政略で引き裂く悪女って噂になる。
反対にフェルマン様が彼女を選べば引き裂かれていた恋人たちが紆余曲折あったが再び結ばれた美談となる。
その一方で今フェルマン様には私という婚約者がいる。元恋人を取ると美談だけでは済まないだろう。彼は婚約者を捨てた不誠実な人だと、私は捨てられた可哀想な傷もの令嬢と噂されてしまう。
人は他人の醜聞が好きなのだから。
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