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4 もう一つの寝室
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結婚後2ヶ月程経ったある晩、寝室に行くとベッドに腰掛けたアンリエッタがいた。
グレイに気がつくと神妙な顔で言った。
「今日は旦那様にご報告があります」
アンリエッタの話は執務室の隣の部屋にベッドを入れたのでそこを簡易寝室にし、多忙時はそこを使ったらどうかとの提案だった。
「なぜそんな事をしなければならないのか?」
疑問をそのまま口にしていた。
「執務が大変な時にこそ身体を休めるのが大事です。なので少しの空いた時間にもすぐに休めるようにと思ったのです。」
アンリエッタは一度目を逸らした後言い出した。
「それと、単純に逃げ場所を作ったというのもあります。
私達夫婦は一生添い遂げるのではなく、離婚前提なのです。相手のことを気にすることなく1人で過ごす時間も大切でしょう?
仲の良い夫婦なら喧嘩して気まずくても同じ部屋で寝泊まりすることでお互い歩み寄る事も必要かもしれません。ですが、離婚するのが決まっているのにそこまで我慢を強いるつもりはありません。」
正論を言われ思い出す。
そうだ。アンリエッタに対し自分は、他に好きな人がいると言い結婚を取りやめにしようとしたのだ。この生活があんまり居心地良くて忘れていた。
アンリエッタは夫婦での夜会に文句も言わず笑顔で付き合ってくれた。社交も完璧で有力な貴族への顔つなぎや新たな交流も増えた。
継いだばかりのクオンテオ子爵家を盛り立ててくれている。
アンリエッタは理想的な妻を演じてくれている。
「休憩室の清掃管理は全てエリナにお任せします。」
貴族とは物事をぼんやりとどちらでも取れるニュアンスで言うことがある。
仮眠を取ると言い休憩室でエリナと睦み合ってもわからない。証拠となる情事の後のシーツは清掃するエリナの目にしか映らない。周りにバレる事はない。
これは暗に執務室の隣の休憩室で見つからないならエリナと閨を共にしてもいいと言われたのか?
「貴女はそれで良いのか?」
なぜそんな言葉が出たのか自分でも不思議だった。閨を共にしないが妻としての役目を立派に果たす彼女に遠慮したのか?
「勘違いなさらないでください。当初のお約束通りお相手の方との身体的接触はお控えください。ただ、身体を重ねることだけが想いを伝えることではありません。想いや気持ちを言葉でお伝えできます。いくら旦那様が想いあっていると思っていてもそれが伝わらなければ彼女は不安になってしまうかもしれません。
清掃を彼女が担当するのなら他の使用人は入ってくる事はありません。2人きりでいるところを見られても邸の主人がメイドに手を出したと悪い噂にならない様にと考えたのです。」
聞き分けのない小さな子供に言い聞かせる様に言われた言葉に、それともアンリエッタが自分に微塵も期待を持っていない事にかショックを受けた。
「奥様は旦那様のお身体を心配されて執務の合間に少しの時間で心も身体も休めれるお部屋をと仰いまして旦那様に内緒で改装しておりました。
本当にお優しい方です。」
侍女頭のマーサはそう言い執務室の隣の部屋を案内した。
室内は落ち着いた色合いで纏められており置かれている家具は必要最小限で同じ色で統一されており居心地が良かった。シャワーも完備して本当に簡易とは言えないほど立派だった。
「奥様のお父上は執務が溜まってくると食事も執務机で、しかも夜も執務机で倒れるように寝てしまう事がありお母上と心配していたそうです。
それで結婚したらまず最初に執務室の隣に仮眠の取れる休憩室を用意しようと思っていたそうです。」
きっと少しはそんなこともあったかもしれないが本音は自分と閨を共にしないための理由づけだろう。そう思うとなんだか腹が立ってきた。
ここは俺を寝室から追い出す為に作った部屋なのだ。
グレイに気がつくと神妙な顔で言った。
「今日は旦那様にご報告があります」
アンリエッタの話は執務室の隣の部屋にベッドを入れたのでそこを簡易寝室にし、多忙時はそこを使ったらどうかとの提案だった。
「なぜそんな事をしなければならないのか?」
疑問をそのまま口にしていた。
「執務が大変な時にこそ身体を休めるのが大事です。なので少しの空いた時間にもすぐに休めるようにと思ったのです。」
アンリエッタは一度目を逸らした後言い出した。
「それと、単純に逃げ場所を作ったというのもあります。
私達夫婦は一生添い遂げるのではなく、離婚前提なのです。相手のことを気にすることなく1人で過ごす時間も大切でしょう?
仲の良い夫婦なら喧嘩して気まずくても同じ部屋で寝泊まりすることでお互い歩み寄る事も必要かもしれません。ですが、離婚するのが決まっているのにそこまで我慢を強いるつもりはありません。」
正論を言われ思い出す。
そうだ。アンリエッタに対し自分は、他に好きな人がいると言い結婚を取りやめにしようとしたのだ。この生活があんまり居心地良くて忘れていた。
アンリエッタは夫婦での夜会に文句も言わず笑顔で付き合ってくれた。社交も完璧で有力な貴族への顔つなぎや新たな交流も増えた。
継いだばかりのクオンテオ子爵家を盛り立ててくれている。
アンリエッタは理想的な妻を演じてくれている。
「休憩室の清掃管理は全てエリナにお任せします。」
貴族とは物事をぼんやりとどちらでも取れるニュアンスで言うことがある。
仮眠を取ると言い休憩室でエリナと睦み合ってもわからない。証拠となる情事の後のシーツは清掃するエリナの目にしか映らない。周りにバレる事はない。
これは暗に執務室の隣の休憩室で見つからないならエリナと閨を共にしてもいいと言われたのか?
「貴女はそれで良いのか?」
なぜそんな言葉が出たのか自分でも不思議だった。閨を共にしないが妻としての役目を立派に果たす彼女に遠慮したのか?
「勘違いなさらないでください。当初のお約束通りお相手の方との身体的接触はお控えください。ただ、身体を重ねることだけが想いを伝えることではありません。想いや気持ちを言葉でお伝えできます。いくら旦那様が想いあっていると思っていてもそれが伝わらなければ彼女は不安になってしまうかもしれません。
清掃を彼女が担当するのなら他の使用人は入ってくる事はありません。2人きりでいるところを見られても邸の主人がメイドに手を出したと悪い噂にならない様にと考えたのです。」
聞き分けのない小さな子供に言い聞かせる様に言われた言葉に、それともアンリエッタが自分に微塵も期待を持っていない事にかショックを受けた。
「奥様は旦那様のお身体を心配されて執務の合間に少しの時間で心も身体も休めれるお部屋をと仰いまして旦那様に内緒で改装しておりました。
本当にお優しい方です。」
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室内は落ち着いた色合いで纏められており置かれている家具は必要最小限で同じ色で統一されており居心地が良かった。シャワーも完備して本当に簡易とは言えないほど立派だった。
「奥様のお父上は執務が溜まってくると食事も執務机で、しかも夜も執務机で倒れるように寝てしまう事がありお母上と心配していたそうです。
それで結婚したらまず最初に執務室の隣に仮眠の取れる休憩室を用意しようと思っていたそうです。」
きっと少しはそんなこともあったかもしれないが本音は自分と閨を共にしないための理由づけだろう。そう思うとなんだか腹が立ってきた。
ここは俺を寝室から追い出す為に作った部屋なのだ。
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