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シリル視点
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俺はシリル・ブラック。この国の第一王子だ。
10歳の誕生日の前の大規模なお茶会で何人かの同じ年頃の令嬢達と顔合わせがある。ここで婚約者を決める。ただ、決めると言ってはいるが相手は既に決まっているらしい。
その相手は侯爵令嬢であるリュエル・ピンクだ。噂では幼いながらに整った顔立ちで将来が楽しみな女の子らしい。
ピンク侯爵は王族派の筆頭で、所詮政略結婚の相手だと、幼いながらもわかっていた。
だが、リュエルはお茶会前に流行病にかかり、療養で隣国へ渡っていた。お茶会前に帰ってくると思われていたがお茶会には欠席だった。
この数日後に俺の10歳の誕生日がくる。そのパーティーで婚約発表をする予定なのだ。
両親はリュエルがお茶会に来てなかった事を知り焦った。顔合わせをしていないのだから。急遽招待リストの上から婚約者のいない中立派の娘を選んだ。
それがオリビア・グレイテス伯爵令嬢だ。
お茶会で会ったオリビアは目を見張るほどではないが美人の部類に入る。性格は穏やかで頭も良いらしい。媚をうることなく、会話をしていても苦にならない。シリルはリュエルの代わりがオリビアで良かったと思った。
婚約から5年、お茶会や手紙や贈り物のやりとりなどでゆっくりと距離を縮めていった。
愛はないが友人以上で好感を持っていると言えるくらいになっていた。
学園では俺とオリビアはクラスが分かれた。
俺が第一王子だと周りが一歩引いて対応する中、リュエルは同じクラスで気さくに話しかけてくる。
隣国に長くいたため俺の知らない隣国の話など、一緒にいて刺激をもらえる。だから自然とリュエルと過ごす時間が多くなっていた。
その間、婚約者のオリビアに会いに行くとかは考えていなかった。婚約者として良好な関係だし、まずはお互い学園生活に慣れる事を優先するべきだと考えたからだ。
俺には婚約者を蔑ろにしているという意識はなかった。知識を得る事で自分を成長させているだけだと思っていた。
そうして入学してからしばらくたったある日リュエルが包帯をしているのに気がついた。どうしたのか問うと何かを言いかけて言葉を濁す。
あまりに頻繁だから問い詰めると弱々しくいじめを受けていると言った。
「わたくしの事をよく思ってない方がいるようですの。1人の時を狙って背後から押されますの。独り歩きが怖いわ。」
そう言って震えるリュエルがかわいそうでつい言ってしまった。
「では、学園にいる間は出来るだけ俺が側にいてあげるよ。」
それからは以前にも増してリュエルと行動を共にする。
学園内にいる時はほぼ一緒にいるようになっていた。それでもリュエルのケガはなくならない。一体いついじめに遭っているのか不思議だ。
ある日、移動教室でリュエルと移動していると、リュエルが怯えたようにしがみついてきた。
「どうした?」
「う、ううん。なんでもない。」
そう言うリュエルの視線の先にはオリビアがいた。リュエルはオリビアから逃げるように俺の影に隠れた。
もしや、リュエルをいじめているのはオリビアなのか?
リュエルに聞くと
「あ、あの。背後から押された時たまたま近くにいたのを何度か見かけただけなの…。彼女がしたのかどうかわからないわ。他にも人はいたし…。
オリビア様はシリル様とクラスも離れていますし、いつもシリル様と一緒にいるわたくしに良い感情を持ってないのもわかりますわ。オリビア様は伯爵令嬢とはいえ王太子であるシリル様の婚約者ですもの。シリル様の側にいるわたくしはいじめられても仕方ありませんわ。」
オリビアがリュエルに対していじめをしていた?今までの彼女からしたら信じられない。
リュエルは嫉妬からのいじめだと言った。
オリビアはリュエルに俺が取られると思って?それだけ俺の事を好きでいてくれるのか。という自惚れがある一方で、オリビアはいじめをするなどそんな陰湿な性格ではなかったが、学園に入学して会わない間に変わってしまったのか?
もしそうならこのまま結婚して良いのか?と疑問に思ってしまう。
なんともスッキリしないまま思考の海に沈んでいた。
「本来ならシリル様の婚約者はわたくしになるはずだったとお聞きしましたわ。わたくしがいなくて困り急遽婚約者はオリビア様になったと。
オリビア様は婚約者なのに同じ学園にいるにも関わらず会いにも来ないなんてシリル様の事を好いておられないのですね。王太子妃になりたいだけなのかしら?
わたくしはシリル様をお慕いしております。
婚約を本来の形に戻されたらよろしいのではないかしら?」
オリビアには少なからず好かれていると思っていたのに好かれていないと聞かされて心が揺れてしまう。そしてそんな時に事件は起こった。
リュエルが階段から突き落とされたというのだ。
今までの比にならないくらい手足に包帯を巻いて学園に登校してきた。
誰が突き落としたのか問い詰めると、後ろ姿しか分からないがオリビアに似た女性だったという。
こんな卑劣な事をするはずはないとその足でオリビアを探すと学園を休んでいると分かった。
横でリュエルが「罪悪感から学園に来れないのでは?」と言うのを聞いて、それなら逃げずにきちんと謝らせないと。そんな正義感を持って勢いのままグレイテス伯爵家に乗り込んだ。
グレイテス家に着くと先触れもなく来たからか、いつもは好意的に案内してくれる執事に止められオリビアの元へ案内しようとしない。
婚約者であったので何度も通った邸だ。間取りはわかっている。執事を押し除けるようにしてオリビアの部屋へ行き、ノックもせずに部屋に入った。オリビアは季節に合わない詰め襟の長袖の服を着て窓辺に座っていた。
王子の俺が来たというのにこちらを向いただけで立ち上がりもしない。
俺が来た意味がわかってないようだ。
「リュエル嬢が何者かに階段から突き落とされて大怪我をおった。それについて何か言いたい事はあるか?」
「いいえ。お気の毒としか言いようがありません。」
俺が知らないと思ってシラをきるのか?
「リュエル嬢は君に似た人物を見たと言っている。突き落としたのは君ではないのか?」
「突き落とすなどそんな馬鹿なことはいたしません。」
彼女は悪びれず、しっかりと視線を合わせて言い切った。だが、俺の妃になるのならキチンと諫めなければ。
「君がリュエル嬢に嫉妬していじめをしていると聞いた。婚約者は君なんだから嫉妬もいじめもする必要はない。いじめなんて止めたまえ。」
オリビアは一瞬絶望と諦めの混ざったような表情を見せたが、すぐに感情を削ぎ落とした顔で
「私は誓っていじめなどしておりません。
ですが、私の言い分は信じてもらえないのですね。」
そこで一度言葉を切ると決意した顔で
「では信じることのできない私との婚約など解消して信頼できる方と新たに婚約を結ばれたらいかがでしょうか?
お互い信頼できない相手と結婚しても上手くいくはずありませんもの。」
リュエルに嫉妬していたのではなく婚約解消を狙っていじめをしていたのか?
お互いとは俺を信頼できないと言うのか?そう問いただそうと口を開きかける。それを見越したのか
「体調が優れませんのでこの辺でお帰りくださいませ。お見送りはご容赦ください。
マリエッタ、私の代わりにシリル様を玄関までお送りして。」
俺の全てを拒否するようにオリビアは視線を窓の外に向けてそう言った。完全なる拒絶だ。
その行為に腹が立ち「見送りは結構」と言い捨てると部屋を出た。
10歳の誕生日の前の大規模なお茶会で何人かの同じ年頃の令嬢達と顔合わせがある。ここで婚約者を決める。ただ、決めると言ってはいるが相手は既に決まっているらしい。
その相手は侯爵令嬢であるリュエル・ピンクだ。噂では幼いながらに整った顔立ちで将来が楽しみな女の子らしい。
ピンク侯爵は王族派の筆頭で、所詮政略結婚の相手だと、幼いながらもわかっていた。
だが、リュエルはお茶会前に流行病にかかり、療養で隣国へ渡っていた。お茶会前に帰ってくると思われていたがお茶会には欠席だった。
この数日後に俺の10歳の誕生日がくる。そのパーティーで婚約発表をする予定なのだ。
両親はリュエルがお茶会に来てなかった事を知り焦った。顔合わせをしていないのだから。急遽招待リストの上から婚約者のいない中立派の娘を選んだ。
それがオリビア・グレイテス伯爵令嬢だ。
お茶会で会ったオリビアは目を見張るほどではないが美人の部類に入る。性格は穏やかで頭も良いらしい。媚をうることなく、会話をしていても苦にならない。シリルはリュエルの代わりがオリビアで良かったと思った。
婚約から5年、お茶会や手紙や贈り物のやりとりなどでゆっくりと距離を縮めていった。
愛はないが友人以上で好感を持っていると言えるくらいになっていた。
学園では俺とオリビアはクラスが分かれた。
俺が第一王子だと周りが一歩引いて対応する中、リュエルは同じクラスで気さくに話しかけてくる。
隣国に長くいたため俺の知らない隣国の話など、一緒にいて刺激をもらえる。だから自然とリュエルと過ごす時間が多くなっていた。
その間、婚約者のオリビアに会いに行くとかは考えていなかった。婚約者として良好な関係だし、まずはお互い学園生活に慣れる事を優先するべきだと考えたからだ。
俺には婚約者を蔑ろにしているという意識はなかった。知識を得る事で自分を成長させているだけだと思っていた。
そうして入学してからしばらくたったある日リュエルが包帯をしているのに気がついた。どうしたのか問うと何かを言いかけて言葉を濁す。
あまりに頻繁だから問い詰めると弱々しくいじめを受けていると言った。
「わたくしの事をよく思ってない方がいるようですの。1人の時を狙って背後から押されますの。独り歩きが怖いわ。」
そう言って震えるリュエルがかわいそうでつい言ってしまった。
「では、学園にいる間は出来るだけ俺が側にいてあげるよ。」
それからは以前にも増してリュエルと行動を共にする。
学園内にいる時はほぼ一緒にいるようになっていた。それでもリュエルのケガはなくならない。一体いついじめに遭っているのか不思議だ。
ある日、移動教室でリュエルと移動していると、リュエルが怯えたようにしがみついてきた。
「どうした?」
「う、ううん。なんでもない。」
そう言うリュエルの視線の先にはオリビアがいた。リュエルはオリビアから逃げるように俺の影に隠れた。
もしや、リュエルをいじめているのはオリビアなのか?
リュエルに聞くと
「あ、あの。背後から押された時たまたま近くにいたのを何度か見かけただけなの…。彼女がしたのかどうかわからないわ。他にも人はいたし…。
オリビア様はシリル様とクラスも離れていますし、いつもシリル様と一緒にいるわたくしに良い感情を持ってないのもわかりますわ。オリビア様は伯爵令嬢とはいえ王太子であるシリル様の婚約者ですもの。シリル様の側にいるわたくしはいじめられても仕方ありませんわ。」
オリビアがリュエルに対していじめをしていた?今までの彼女からしたら信じられない。
リュエルは嫉妬からのいじめだと言った。
オリビアはリュエルに俺が取られると思って?それだけ俺の事を好きでいてくれるのか。という自惚れがある一方で、オリビアはいじめをするなどそんな陰湿な性格ではなかったが、学園に入学して会わない間に変わってしまったのか?
もしそうならこのまま結婚して良いのか?と疑問に思ってしまう。
なんともスッキリしないまま思考の海に沈んでいた。
「本来ならシリル様の婚約者はわたくしになるはずだったとお聞きしましたわ。わたくしがいなくて困り急遽婚約者はオリビア様になったと。
オリビア様は婚約者なのに同じ学園にいるにも関わらず会いにも来ないなんてシリル様の事を好いておられないのですね。王太子妃になりたいだけなのかしら?
わたくしはシリル様をお慕いしております。
婚約を本来の形に戻されたらよろしいのではないかしら?」
オリビアには少なからず好かれていると思っていたのに好かれていないと聞かされて心が揺れてしまう。そしてそんな時に事件は起こった。
リュエルが階段から突き落とされたというのだ。
今までの比にならないくらい手足に包帯を巻いて学園に登校してきた。
誰が突き落としたのか問い詰めると、後ろ姿しか分からないがオリビアに似た女性だったという。
こんな卑劣な事をするはずはないとその足でオリビアを探すと学園を休んでいると分かった。
横でリュエルが「罪悪感から学園に来れないのでは?」と言うのを聞いて、それなら逃げずにきちんと謝らせないと。そんな正義感を持って勢いのままグレイテス伯爵家に乗り込んだ。
グレイテス家に着くと先触れもなく来たからか、いつもは好意的に案内してくれる執事に止められオリビアの元へ案内しようとしない。
婚約者であったので何度も通った邸だ。間取りはわかっている。執事を押し除けるようにしてオリビアの部屋へ行き、ノックもせずに部屋に入った。オリビアは季節に合わない詰め襟の長袖の服を着て窓辺に座っていた。
王子の俺が来たというのにこちらを向いただけで立ち上がりもしない。
俺が来た意味がわかってないようだ。
「リュエル嬢が何者かに階段から突き落とされて大怪我をおった。それについて何か言いたい事はあるか?」
「いいえ。お気の毒としか言いようがありません。」
俺が知らないと思ってシラをきるのか?
「リュエル嬢は君に似た人物を見たと言っている。突き落としたのは君ではないのか?」
「突き落とすなどそんな馬鹿なことはいたしません。」
彼女は悪びれず、しっかりと視線を合わせて言い切った。だが、俺の妃になるのならキチンと諫めなければ。
「君がリュエル嬢に嫉妬していじめをしていると聞いた。婚約者は君なんだから嫉妬もいじめもする必要はない。いじめなんて止めたまえ。」
オリビアは一瞬絶望と諦めの混ざったような表情を見せたが、すぐに感情を削ぎ落とした顔で
「私は誓っていじめなどしておりません。
ですが、私の言い分は信じてもらえないのですね。」
そこで一度言葉を切ると決意した顔で
「では信じることのできない私との婚約など解消して信頼できる方と新たに婚約を結ばれたらいかがでしょうか?
お互い信頼できない相手と結婚しても上手くいくはずありませんもの。」
リュエルに嫉妬していたのではなく婚約解消を狙っていじめをしていたのか?
お互いとは俺を信頼できないと言うのか?そう問いただそうと口を開きかける。それを見越したのか
「体調が優れませんのでこの辺でお帰りくださいませ。お見送りはご容赦ください。
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