【完結】これじゃあ、どちらが悪役かわかりません!

里音

文字の大きさ
上 下
2 / 7

シリル視点

しおりを挟む
俺はシリル・ブラック。この国の第一王子だ。

10歳の誕生日の前の大規模なお茶会で何人かの同じ年頃の令嬢達と顔合わせがある。ここで婚約者を決める。ただ、決めると言ってはいるが相手は既に決まっているらしい。
その相手婚約者は侯爵令嬢であるリュエル・ピンクだ。噂では幼いながらに整った顔立ちで将来が楽しみな女の子らしい。

ピンク侯爵は王族派の筆頭で、所詮政略結婚の相手だと、幼いながらもわかっていた。
だが、リュエルはお茶会前に流行病にかかり、療養で隣国へ渡っていた。お茶会前に帰ってくると思われていたがお茶会には欠席だった。
この数日後に俺の10歳の誕生日がくる。そのパーティーで婚約発表をする予定なのだ。
両親はリュエルがお茶会に来てなかった事を知り焦った。顔合わせをしていないのだから。急遽招待リストの上から婚約者のいない中立派の娘を選んだ。
それがオリビア・グレイテス伯爵令嬢だ。

お茶会で会ったオリビアは目を見張るほどではないが美人の部類に入る。性格は穏やかで頭も良いらしい。媚をうることなく、会話をしていても苦にならない。シリルはリュエルの代わりがオリビアで良かったと思った。

婚約から5年、お茶会や手紙や贈り物のやりとりなどでゆっくりと距離を縮めていった。
愛はないが友人以上で好感を持っていると言えるくらいになっていた。

学園では俺とオリビアはクラスが分かれた。
俺が第一王子だと周りが一歩引いて対応する中、リュエルは同じクラスで気さくに話しかけてくる。
隣国に長くいたため俺の知らない隣国の話など、一緒にいて刺激をもらえる。だから自然とリュエルと過ごす時間が多くなっていた。

その間、婚約者のオリビアに会いに行くとかは考えていなかった。婚約者として良好な関係だし、まずはお互い学園生活に慣れる事を優先するべきだと考えたからだ。
俺には婚約者を蔑ろにしているという意識はなかった。知識を得る事で自分を成長させているだけだと思っていた。


そうして入学してからしばらくたったある日リュエルが包帯をしているのに気がついた。どうしたのか問うと何かを言いかけて言葉を濁す。
あまりに頻繁だから問い詰めると弱々しくいじめを受けていると言った。

「わたくしの事をよく思ってない方がいるようですの。1人の時を狙って背後から押されますの。独り歩きが怖いわ。」

そう言って震えるリュエルがかわいそうでつい言ってしまった。

「では、学園にいる間は出来るだけ俺が側にいてあげるよ。」

それからは以前にも増してリュエルと行動を共にする。
学園内にいる時はほぼ一緒にいるようになっていた。それでもリュエルのケガはなくならない。一体いついじめに遭っているのか不思議だ。

ある日、移動教室でリュエルと移動していると、リュエルが怯えたようにしがみついてきた。

「どうした?」

「う、ううん。なんでもない。」

そう言うリュエルの視線の先にはオリビアがいた。リュエルはオリビアから逃げるように俺の影に隠れた。
もしや、リュエルをいじめているのはオリビアなのか?
リュエルに聞くと

「あ、あの。背後から押された時たまたま近くにいたのを何度か見かけただけなの…。彼女がしたのかどうかわからないわ。他にも人はいたし…。
オリビア様はシリル様とクラスも離れていますし、いつもシリル様と一緒にいるわたくしに良い感情を持ってないのもわかりますわ。オリビア様は伯爵令嬢とはいえ王太子であるシリル様の婚約者ですもの。シリル様の側にいるわたくしはいじめられても仕方ありませんわ。」

オリビアがリュエルに対していじめをしていた?今までの彼女からしたら信じられない。
リュエルは嫉妬からのいじめだと言った。

オリビアはリュエルに俺が取られると思って?それだけ俺の事を好きでいてくれるのか。という自惚れがある一方で、オリビアはいじめをするなどそんな陰湿な性格ではなかったが、学園に入学して会わない間に変わってしまったのか?
もしそうならこのまま結婚して良いのか?と疑問に思ってしまう。

なんともスッキリしないまま思考の海に沈んでいた。

「本来ならシリル様の婚約者はわたくしになるはずだったとお聞きしましたわ。わたくしがいなくて困り急遽婚約者はオリビア様になったと。
オリビア様は婚約者なのに同じ学園にいるにも関わらず会いにも来ないなんてシリル様の事を好いておられないのですね。王太子妃になりたいだけなのかしら?

わたくしはシリル様をお慕いしております。
婚約を本来の形に戻されたらよろしいのではないかしら?」

オリビアには少なからず好かれていると思っていたのに好かれていないと聞かされて心が揺れてしまう。そしてそんな時に事件は起こった。

リュエルが階段から突き落とされたというのだ。
今までの比にならないくらい手足に包帯を巻いて学園に登校してきた。

誰が突き落としたのか問い詰めると、後ろ姿しか分からないがオリビアに似た女性だったという。
こんな卑劣な事をするはずはないとその足でオリビアを探すと学園を休んでいると分かった。

横でリュエルが「罪悪感から学園に来れないのでは?」と言うのを聞いて、それなら逃げずにきちんと謝らせないと。そんな正義感を持って勢いのままグレイテス伯爵家に乗り込んだ。



グレイテス家に着くと先触れもなく来たからか、いつもは好意的に案内してくれる執事に止められオリビアの元へ案内しようとしない。

婚約者であったので何度も通った邸だ。間取りはわかっている。執事を押し除けるようにしてオリビアの部屋へ行き、ノックもせずに部屋に入った。オリビアは季節に合わない詰め襟の長袖の服を着て窓辺に座っていた。

王子の俺が来たというのにこちらを向いただけで立ち上がりもしない。
俺が来た意味がわかってないようだ。

「リュエル嬢が何者かに階段から突き落とされて大怪我をおった。それについて何か言いたい事はあるか?」

「いいえ。お気の毒としか言いようがありません。」

俺が知らないと思ってシラをきるのか?

「リュエル嬢は君に似た人物を見たと言っている。突き落としたのは君ではないのか?」

「突き落とすなどそんな馬鹿なことはいたしません。」

彼女は悪びれず、しっかりと視線を合わせて言い切った。だが、俺の妃になるのならキチンと諫めなければ。

「君がリュエル嬢に嫉妬していじめをしていると聞いた。婚約者は君なんだから嫉妬もいじめもする必要はない。いじめなんて止めたまえ。」

オリビアは一瞬絶望と諦めの混ざったような表情を見せたが、すぐに感情を削ぎ落とした顔で

「私は誓っていじめなどしておりません。
ですが、私の言い分は信じてもらえないのですね。」

そこで一度言葉を切ると決意した顔で

「では信じることのできない私との婚約など解消して信頼できる方と新たに婚約を結ばれたらいかがでしょうか?
お互い信頼できない相手と結婚しても上手くいくはずありませんもの。」

リュエルに嫉妬していたのではなく婚約解消を狙っていじめをしていたのか?
お互いとは俺を信頼できないと言うのか?そう問いただそうと口を開きかける。それを見越したのか

「体調が優れませんのでこの辺でお帰りくださいませ。お見送りはご容赦ください。
マリエッタ、私の代わりにシリル様を玄関までお送りして。」

俺の全てを拒否するようにオリビアは視線を窓の外に向けてそう言った。完全なる拒絶だ。
その行為に腹が立ち「見送りは結構」と言い捨てると部屋を出た。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄だと言われたので喜んでいたら嘘だと言われました。冗談でしょ?

リオール
恋愛
いつも婚約者のそばには女性の影。私のことを放置する婚約者に用はない。 そう思っていたら婚約破棄だと言われました。 やったね!と喜んでたら嘘だと言われてしまった。冗談でしょ?

わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?

柚木ゆず
恋愛
 ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。  自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。  マリオン達は、まだ知りません。  それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。

私の婚約者が、記憶を無くし他の婚約者を作りました。

霙アルカ。
恋愛
男爵令嬢のルルノアには、婚約者がいた。 ルルノアの婚約者、リヴェル・レヴェリアは第一皇子であり、2人の婚約は2人が勝手に結んだものであり、国王も王妃も2人の結婚を決して許さなかった。 リヴェルはルルノアに問うた。 「私が王でなくても、平民でも、暮らしが豊かでなくても、側にいてくれるか?」と。 ルルノアは二つ返事で、「勿論!リヴェルとなら地獄でも行くわ。」と言った。 2人は誰にもバレぬよう家をでた。が、何者かに2人は襲われた。 何とか逃げ切ったルルノアが目を覚まし、リヴェルの元に行くと、リヴェルはルルノアに向けていた優しい笑みを、違う女性にむけていた。

婚約者様は連れ子の妹に夢中なようなので別れる事にした。〜連れ子とは知らなかったと言い訳をされましても〜

おしゃれスナイプ
恋愛
事あるごとに婚約者の実家に金の無心をしてくる碌でなし。それが、侯爵令嬢アルカ・ハヴェルの婚約者であるドルク・メルアを正しくあらわす言葉であった。 落ち目の危機に瀕しているメルア侯爵家であったが、これまでの付き合いから見捨てられなかった父が縁談を纏めてしまったのが全ての始まり。 しかし、ある日転機が訪れる。 アルカの父の再婚相手の連れ子、妹にあたるユーミスがドルクの婚約者の地位をアルカから奪おうと試みたのだ。 そして、ドルクもアルカではなく、過剰に持ち上げ、常にご機嫌を取るユーミスを気に入ってゆき、果てにはアルカへ婚約の破談を突きつけてしまう事になる。

王命って何ですか?

まるまる⭐️
恋愛
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

茉丗 薫
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。 どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。 わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。 美辞麗句を並べ立てて。 もしや、卵の黄身のことでして? そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。 わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。 それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。 そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。

親が決めた婚約者ですから

mios
恋愛
「親が決めた婚約者ですから。」 リチャードには、それ以上に話せることはない。 自分の婚約者を貶めようとする奴らに彼女の情報など、それぐらいしか渡せない。 泣く子も黙る冷酷な宰相として有名なあの父が認めた令嬢なのだ。伯爵令嬢だからって、普通のご令嬢な訳がないだろう。

処理中です...