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ゲイル視点
出会い
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俺と彼女、ティナとの出会いは騎士団で街を巡回している時に猫を虐待している輩の間に入り猫を救おうとして逆に暴力を振われそうになっていた彼女を助けた時だ。
そういう事は巡回途中にはたまにある。街の荒くれ者は貴族というだけで目の敵にしているものが多いからだ。
今回はむしゃくしゃした気分の時にたまたま目に入った猫を痛めつけたら彼女が猫を庇い非難してきたので、手が出たという事だ。
幸い、引きづられ殴られそうになったところで止めに入れたので、怪我はない。だが、掴まれた腕には痣ができていた。
「止めに入るのが遅く、怪我をさせてしまい申し訳ありません。」
そう言うと、彼女はキョトンとして
「いいえ、怪我などしておりません。こちらこそ助けていただきありがとうございます。」
「ですが、腕に痣が…」
貴族令嬢の細く白い肌に男が握った手の痣がくっきりと付いている。
「これは……怪我ではありませんわ。冷やせばすぐになくなります。痛みもほとんどありませんし。」
彼女はそう言うとそっと腕を隠した。
彼女の気遣いに心がほっこりとした。
送り届けるのが俺になったのは巡回メンバーの中で俺の家が一番爵位が高かったからだ。
貴族は助けられたとしても平民を人として見ない者が多い。送り届けても礼の一つもなく、門前払いを食らうなどよくある話だ。更に今回は怪我をしている。
嫌な思いをしないように貴族相手は爵位持ちが行く事になっている。
邸に着くとメイドが泣きそうになりながら「ティナ様。お怪我はありませんか?ご無事で何よりです。」そう言いながら駆けつけた。
それに対して令嬢は
「リザ。謝らないで、私が悪かったのよ。ごめんなさいね。勝手に離れてしまって。それより誰からも叱られなかった?貴女たちも無事で良かったわ。」
通常、貴族は使用人に対して謝ることはしない。酷くなると使用人は人ではなく物扱いする者もいる。
そんな輩を見ているから目の前の令嬢は好感が持てる。
無事送り届けて任務完了とばかりに帰ろうとすると、引き止められた。
「助けていただき、その上邸まで送っていただきありがとうございました。後日改めてお礼に参ります。」
数日後、本当に騎士団に侍女を連れたカクテスト伯爵令嬢がお礼にやってきた。
「菓子折りをお持ちしようとしたのですが、それよりも軽食の方が喜ばれると聞きまして、お持ちしました。」
テーブルには沢山のパンやサラダ、肉、サンドウィッチからフロランタンのような菓子までテーブルに並んだ。
万年腹ヘリの騎士団の隊員たちは御礼もそこそこに食べ物にかぶりついていた。
令嬢はゲイルに向かい
「騎士様、先日汚してしまったハンカチの代わりにならないかもしれませんが、お使いくださいませ。」
そう言って、我が騎士団の紋章の刺繍したハンカチを手渡された。
「私の拙い刺繍で申し訳ありません。でも、ないよりは良いかと思いまして…。ああ、いらなければお捨て「いや、ありがたくいただいておく。上手にできているのに反対に申し訳ない。」
ハンカチの刺繍をしげしげと見つめていると気まずそうに捨ててくれと言いそうになっていた。それを言わさないように敢えて言葉をかぶせた。
騎士団の紋章は簡単ではない。拙いと言っていたが、なかなか上手にできていた。
ゲイルは伯爵家の次男だが、騎士なので護衛の任務もあり夜会などにはあまり出席しない。それでも数は少ないが出席した夜会などでは女性が彼を囲むのはいつものことだ。
紳士として無碍にも出来ず、辟易として周囲を見渡せばあの時の彼女が、彼女に似合うシンプルなドレスで数人の女性と静かに佇んでいた。
しばらくしてやっと女性陣から逃れたゲイルは友人に聞いた。
「カクテスト伯爵家の令嬢の名前を知らないか?金髪碧眼の。」
「金髪碧眼のカクテスト伯爵令嬢?ああ、マリアティナ嬢か。なんだ、お前も狙っているのか?マリアティナ嬢はなかなかの人気者だ。
カクテスト伯爵家は男児がいないから貴族の次男、三男が挙って求婚してると聞いたぞ。」
「いや、この前巡回で助けただけだ。それに爵位はいらない。この前の仕事の功績が認められて、やると言われていたが、騎士としてやっていくには邪魔だと辞退したくらいだ。」
そう言って友人と笑い合った。
それからも夜会にはあまり出席することもなく、彼女との接点はなかったが、なんとなく忘れる事はなかった。
そういう事は巡回途中にはたまにある。街の荒くれ者は貴族というだけで目の敵にしているものが多いからだ。
今回はむしゃくしゃした気分の時にたまたま目に入った猫を痛めつけたら彼女が猫を庇い非難してきたので、手が出たという事だ。
幸い、引きづられ殴られそうになったところで止めに入れたので、怪我はない。だが、掴まれた腕には痣ができていた。
「止めに入るのが遅く、怪我をさせてしまい申し訳ありません。」
そう言うと、彼女はキョトンとして
「いいえ、怪我などしておりません。こちらこそ助けていただきありがとうございます。」
「ですが、腕に痣が…」
貴族令嬢の細く白い肌に男が握った手の痣がくっきりと付いている。
「これは……怪我ではありませんわ。冷やせばすぐになくなります。痛みもほとんどありませんし。」
彼女はそう言うとそっと腕を隠した。
彼女の気遣いに心がほっこりとした。
送り届けるのが俺になったのは巡回メンバーの中で俺の家が一番爵位が高かったからだ。
貴族は助けられたとしても平民を人として見ない者が多い。送り届けても礼の一つもなく、門前払いを食らうなどよくある話だ。更に今回は怪我をしている。
嫌な思いをしないように貴族相手は爵位持ちが行く事になっている。
邸に着くとメイドが泣きそうになりながら「ティナ様。お怪我はありませんか?ご無事で何よりです。」そう言いながら駆けつけた。
それに対して令嬢は
「リザ。謝らないで、私が悪かったのよ。ごめんなさいね。勝手に離れてしまって。それより誰からも叱られなかった?貴女たちも無事で良かったわ。」
通常、貴族は使用人に対して謝ることはしない。酷くなると使用人は人ではなく物扱いする者もいる。
そんな輩を見ているから目の前の令嬢は好感が持てる。
無事送り届けて任務完了とばかりに帰ろうとすると、引き止められた。
「助けていただき、その上邸まで送っていただきありがとうございました。後日改めてお礼に参ります。」
数日後、本当に騎士団に侍女を連れたカクテスト伯爵令嬢がお礼にやってきた。
「菓子折りをお持ちしようとしたのですが、それよりも軽食の方が喜ばれると聞きまして、お持ちしました。」
テーブルには沢山のパンやサラダ、肉、サンドウィッチからフロランタンのような菓子までテーブルに並んだ。
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令嬢はゲイルに向かい
「騎士様、先日汚してしまったハンカチの代わりにならないかもしれませんが、お使いくださいませ。」
そう言って、我が騎士団の紋章の刺繍したハンカチを手渡された。
「私の拙い刺繍で申し訳ありません。でも、ないよりは良いかと思いまして…。ああ、いらなければお捨て「いや、ありがたくいただいておく。上手にできているのに反対に申し訳ない。」
ハンカチの刺繍をしげしげと見つめていると気まずそうに捨ててくれと言いそうになっていた。それを言わさないように敢えて言葉をかぶせた。
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「いや、この前巡回で助けただけだ。それに爵位はいらない。この前の仕事の功績が認められて、やると言われていたが、騎士としてやっていくには邪魔だと辞退したくらいだ。」
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