四季を彩るアルビノへ

夜月 真

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四章 夏

栗色

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 後ろでポニーテールを作っていた栗色くりいろのヘアゴムを解き、太もも辺りで服に結びつける。
「ほら、これでどう? ちょっと無理矢理だけど、短くなったよ」
 脛のあたりまであった丈は、膝下まで長さを変えた。制服のスカートほどの長さだ。
「うん、それなら大丈夫そう。じゃあ、海まで行こう」
 麦わら帽子を被り直した彩音を連れ、僕は足を踏み出す。夏にしては人が少なかった景色を、歩きながらカメラに収める。シャッターを切った後で、潮風で錆びないかどうか不安が湧いた。一瞬だし、後で拭けば大丈夫か。そう考えながら波打ち際はみるみる近づいていた。そして砂の色の変わり目で、彩音は足を止めた。
「どうしたの?」
 左足をゆっくりと差し出し、その灰色を帯びた砂を指先で確かめている。触れた箇所に窪みができる。

「冷たい……」
 彩音は潮水に固められて砂色すないろに変色している場所に、二十センチメートル余りの足跡を残しながらゆっくりと歩く。ふらふらと体を傾けながら進む姿を見て、僕はその手をいつの間にか引いていた。
「海には、触っても大丈夫なの?」
 僕は小さく息を漏らして、笑みを溢す。
「大丈夫だよ。ほら、あそこに泳いでる人だっているから」
「私たちも泳がないといけないの?」
 その一言に僕は大きく笑いを再び溢した。
「泳がなくても、足だけ触れよう。今日は水着もないし、泳ぐのは無理かな」
 ほっと一安心をしたような表情を作り、彩音は僕の真後ろを着いて歩く。うねる様な波が僕らへ接近する。遠くには波の峰がちらつく。そして、浜辺から去っていく瓶覗色かめのぞきいろをした海水を見て、僕は足を止める。後ろにいた彩音は隣に移動する。自然と手は離れていた。

 水が空気を巻き込む音を掻き立てながら、勢いよく足元に迫りくる。横顔を確認すると、両手を握りしめ、目にグッと力を入れていた。小さく泡立てられた空気が弾ける音を立てながら、足首から下を飲み込んだ。力んだ瞼は、ゆっくりと目を開いていく。
「あれ? 熱くない」
 そう言ってしゃがみ込み、両手で透明な水を掬い上げる。服が海に触れそうで、僕はそこにひとりハラハラしていた。
「ねぇ! どうして熱くないの!? 砂はあんなにも熱かったのに、海はどうして日差しで温度が上がらないの⁉︎」

「どうして……って言われてもなぁ」
 純粋な眼差しをした質問に僕は答えが出せない。しゃがみ続け、波が打ち寄せてくる度にパシャパシャと小鳥の水浴びのように海を弾けさせる姿が、どこか見飽きない。肩から斜めに下げていたカメラで、上から一枚想い出として残す。そのうちに、大きく砂浜から水を吸い寄せられるのを見て、僕は声を掛ける。
「あ、一回立ち上がった方が良いかも」
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