四季を彩るアルビノへ

夜月 真

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三章 春

青色

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 考えた様子のまま、僕らは川沿いのT字路で足を止めた。
「春風と光かな」
 呼ばれたと勘違いしたように現れた旋風が、アスファルトに作った水溜りのような多くの花びらを巻き上げた。一枚一枚が、踊っているようだった。花粉を混ぜた春の優しげな風が桜を巻き上げてはただ落とす。そして時折、その溜めた花びらで遊んでいるようだった。僕らはその生きているような姿に魅了され始めている。
「春風はわかるけど……光?」

「そうだよ」
 彩音は再び歩き出した。僕はその後ろを追いかけるように足を動かす。手を伸ばすとギリギリ届かなそうな距離感だ。花柄に描かれた川沿いを移動しながら、その意味を考える。
「光……」
 口から飛び出した僕の声に、彩音はふふっと笑う。
「そうだなぁ、今日、わかるかもね」
 僕はまたしても理解ができないことが増えた。光とはなんのことなのだろうか、今日見られるかもしれないとは、一体なんのことなのだろうか。僕はそれがなんなのか、わからない。
 ぼうとして立ち止まり、頭上を見上げる。枝から散り落ちた花の一部が額に着地する。桜色さくらいろの、近い空のようだ。時間を忘れているような気分だった。誰かが僕のことを呼んでいる気がしてハッと意識が戻るように視線を下げた。彩音の後ろ姿が随分と遠くにあり、僕は走り出して追いつく。

「ずっと立ち尽くしたままだったよ?」
 僕のことを確認することもせず、彩音は話を始める。
「春が一番好きなんだ。桜って、満開とは言うけど、完璧な状態はないんだ。咲いては散って、咲いては散ってを繰り返すから、常に未完成な姿であることが、僕にとってはすごく不思議で美しいって感じるんだ」
 花びらと木々がざわめいている音を聞きながら、僕らは足を止めなかった。川の流れに運ばれる切り離された桜の一部が、春真っ只中ということを伝えると同時に、春も終わりがあることを教えられているような気分だった。真上の枝先から鳩が飛び立つ音が聞こえる。巣作りのために枝を咥えていた。そして口元から落とした枝のようなものが、彩音のジージャンから飛び出す鼠色ねずみいろのフードの中へ落ちたように見えた。
「あの川、写真撮ってみようよ」

 僕は彩音の腕を掴んでその足を引き留めた。彩音は驚いた表情を一瞬だけ浮かべたが、何も言わずにカメラを手に取ってレンズを覗く。カシャッとした音が、耳につく。
「どう?」
 僕の期待は外れ、彩音は首を横に振る。カメラを手放し、再び歩き出す背中を僕はゆっくりと追いかける。強い風が、足元をふらつかせ、歩く速度を落とさせた。水面で昼寝をしているような花びらも、僕らから離れるように流されていく。彩音が橋の下にできた影に入り込むときに、僕はシャッターを切る。デニムを羽織った背中を画面に表示する。綺麗な画質とは言えないけれど、それでも満足できるものだった。
「今日は、この後どこに行くか決めてある?」
 振り向き切らない後ろ姿が、僕に問いかけた。
「多摩川の方に行こうよ」
 僕の返事で、彩音の僅かに見えていた鼻筋は進行方向を向いてしまった。
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