四季を彩るアルビノへ

夜月 真

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二章 冬

杏色

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 画面を付けると、颯から引越しを手伝ってくれる旨の返信が送られてきていた。そしてもう一件、メッセージが届いた。
「お誕生日おめでとう」
 彩音に言われ、時刻を見ると十二時を一分ほど回ったところだ。颯からの文章も、似たようなものだった。その文末には多すぎるほどの絵文字がずらりと並んでいる。
「覚えててくれたの?」
 以前、手紙で互いの誕生日についての話を持ち出していた。僕は今日で、二十歳はたちとなったのだ。
「うん、だから今日、こっちまで来たんだよ」
 小さな紙袋を手渡され、僕はそれを受け取る。

「開けていい?」
「うん。気に入ってもらえるかはわからないけどね」
 袋を閉じるテープを剥がし、さらに包装された紙を広げる。中から出てきたものは、白い三毛猫が描かれたマグカップだった。縁に耳を模した凹凸まであり、見ているだけでも癒されるようなものだ。
「ありがとう。すごく可愛い」
「見ていたら、私も欲しくなっちゃって、自分のも買っちゃったの」
「これは欲しくなっちゃうよ」
 喜び方がわからないほどに、嬉しさがあった。薄情な人と思われないかが心配だ。心から嬉しいのに、表現の仕方がいまいちわからない。
「貴方、どうして泣いてるの?」
 言われるまで気づくことがなかった。右頬に熱を持った水が伝っていた。

「何でだろう」
「そんなに嬉しかった?」
 涙を拭って、的外れに思いついたことをそのまま言った。
「ドライアイだから、こっそり目薬注したんだ」
「ふふっ、嘘つき。私は黄色のものを買ったの。何だかお揃いみたいになっちゃったけど、ごめんね」
 首を横に振って、マグカップを再び紙袋へ仕舞う。
「ううん。ありがとう。これでコーヒーを飲むようにするよ」
 微笑む横顔を見るのは何回目だろうか。僕よりも彩音の方がどことなく嬉しそうだった。何度見ても飽きないその表情を眺めるのが好きだった。
「そういえば、彩音は誕生日いつなの?」
「え? 忘れちゃったの?」
 冷や汗のようなものが出た。必死に記憶を辿り、手紙のやり取りを思い出す。

「あはは、冗談だよ。教えてなかったもんね」
 肩の力がどっと抜けた。安心してからいつなのかを問うと、いつだと思うかと訊き返された。
「うーん、ヒントとかないの?」
 彩音は指を顎に添えると、その日は貴方と一緒にいたよ、と言う。僕は深く考える。
「初めて一緒に写真を撮りに行った日?」
「あー惜しい」
 あの日は確か、十一月の二週目あたりの日曜だった気がする。
「うーん。わからないなぁ」
「貴方と出会った日だよ」
 僕は一拍置いて、声を出す。

「十月の二十五日か!」
 そんなに大きな声出さなくても、と彩音は笑っていた。
「じゃあ今年の誕生日は空けておいてね。何を渡すかも考えておかなきゃ」
「無理しなくていいからね」
「まあ楽しみにしててよ」
 風のせいか、一段と冷えてきた気がした。
「寒いね。そろそろ行こうか」
 僕らはきた道をそのまま戻る。危ないからと言ってマフラーを彩音の首に柔らかく巻き付け、先に下る。転ばないようにと手を差し伸べる。キザなことだと自分でもわかっているつもりではあった。
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