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はじまり

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伯爵令嬢リーズはエステル王国第一王子アルフレッドの妃となるべく育てられた。
数多の令嬢たちを蹴落とし、圧倒的な美貌と実力でその場に上り詰めた彼女を待っていたのは、王太子となったアルフレッドの冷たい視線だった。

「リーズ、君がこんな低俗なことをする人だとは思ってもいなかったよ。コレット、…こんなに震えてかわいそうに。」

そう言い、右腕に抱くのは、まだ幼さの残る顔立ちの女生徒。名をコレット=二コラという。
最近、二コラ子爵家に迎えられた平民出の養子だという。
学園に入学早々、アルフレッドに付きまとい婚約者として看過できぬほどに親しくなっていた。

「殿下ありがとうございます……。」

囁くようにそう言い、アルフレッドの胸によりかかるコレット。
それを嬉しそうに抱き締めるアルフレッドを見据え、リーズは努めて冷静に言葉を返した。

「恐れ多くも、殿下。いったい何をおっしゃっているのか理解しかねます。私がいったいなにをしたというのです。」

「しらばっくれるな。コレットに酷いことをしたのはお前だろう。私はコレットから相談されてここにいるんだぞ。お前から悪質なイジメを受けているといわれてな!」

リーズはアルフレッドの物言いに本当に驚いた。
まったく身に覚えのないことだったからだ。
リーズはコレットをイジメたことなどない。確かに、アルフレッドとの距離が近すぎることに不満はあったが、リーズがこれまで培ってきた教養や知恵はリーズに絶対の自信を与えていた。

「そのようなこと本当に身に覚えのないことでございます。」

「黙れ! 嘘をつくなっ! このような低俗なおこないをするものと婚約者など王族の沽券に関わる! 解消だっ。お前との婚約をここで破棄する!」

「殿下っ! なにをおっしゃっているのです! 婚約破棄など……、この婚約は陛下の名の下に決められたものなのですよ! それを勝手に破棄するなどっ。」

「今回の件については陛下に申し上げ、許可もいいただいているさ。」

アルフレッドの言葉に目を見開く。
陛下の許可がでている? 
到底信じられることではない。リーズは困惑した。

この国の王太子であるアルフレッドと伯爵家令嬢であるリーズとの婚姻関係が、ありもしない嘘によって破棄されるなど信じられない。
リーズには弁解の場さえ設けられていないというのに。


「殿下! 本当に私はなにもしていないのです。学園のみなに聞けばわかりましょう。……私の話を聞いてくださいっ。殿下っ。」

アルフレッドは、リーズの言い分に耳をかさずコレットと共にその場を去ろうとする。
リーズはたまらずアルフレッドを追いかけたが、コレット付きメイド、衛兵たちに阻まれ、その背中をおうことはできなかった。



その後、リーズは無実を訴えるも国王、王太子の命により学園を追放。
アルデンヌ伯爵家は今回の事件で王家の怒りをかうのを恐れ、リーズを領のさらに辺境、ムスタム子爵がおさめる地へと送った。
王都のなにも届かぬ辺境へ。

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