悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです

白雨あめ

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第一話

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「アンリ! 君との婚約を破棄する!」

王子はこの大部屋に響き渡るような声で告げた。

王子の声があたりに反響し、痛いくらいに私の耳を打った。
目の前が真っ暗になる。


婚約破棄…………、?


「そ、そんないきなりどうしてっ?」

「どうしてだと? アンリ、貴様がこのミミ嬢に数多くの嫌がらせをしていたこと、忘れたとはいわせないぞ。そんな奴と婚約関係にあるなど我慢ならん。」

嫌がらせ? 
そんなことはしていない。そんなのは誤解だ。

王子が私をあまり好いていないのは知っていた。私も王子に気持ちがあったかといわれればわからない。
だけど、国のため、民のために。幼い頃からそう決めていた。
それなのにどうして急に…。

思わず、ミミ嬢をみる。彼女はいつもの勝気な表情ではなく、なにかに怯えるヒロインみたいな顔をしていた。

そういうこと…………。

私は彼女のことをイジメたことなんかない。
彼女をイジメていたのは私ではない。イジメていたのはミミ嬢。イジメられていたのは私………。
だけど、こんなことで王子に迷惑はかけたくなかった。
だから黙っていたのに…。それがこんなことになるなんて。

悲しくて、悔しくて涙が出そうになる。

「殿下! 聞いてください! ミミ嬢をイジメていたのは私ではありません! それに……、私がミミ嬢にイジメられていたんです。本当です。信じてください。」

そうだ。
教科書を隠されたことだって1度や2度ではなかった。
彼女はその類まれなる美貌で取り巻きを増やし、私へのイジメをエスカレートさせていった。
最初は教科書を隠される程度だったことも、最後には頭から水をかぶせられることもあった。

あのときは本当に傷ついた…。
人からの悪意がこんなに怖いものだったなんて……。
それに加え王子まで奪われようとしている。こんな私なんて……、

「ふざけたことをいうな! ではミミ嬢が嘘を言っているとそういうのか、貴様はっ!」

「そんなこと……、でも」

「アンリ、どうして私をイジメたの? 私なにか悪いことしたのかな……。」

ミミ嬢が怯えた風にいう。

「ミミ嬢。貴方は何も悪くない。この女が金輪際貴方を傷つけることがないようこの学園から追放してあげよう。…おい、女。いますぐここから去れ。今回のことは私から陛下に伝えておこう。おい、クリス。この女を連れ出せ。」

王子の言葉でここが学園の大部屋だということを思い出した。ここにいるのは私と王子、ミミ嬢だけではない。
あたりを見回す。みんながみんな私の敵にみえる。
誰も味方なんていない。

こわい、なにもかもが恐い。



「アンリ嬢。」

震える私にかけられる声。この声は…。

「……、クリス様。」

公爵令息のクリス様。
王弟の息子で、王子の側近。個人的なお話をしたことは数回しかないけれど……。

そうか、私この方に連れ出されるんだ。
みんな私の言葉なんて信じてくれない。
私のイジメを見ていた学友も、なにもいってくれないのね…。

「アンリ嬢、お気をたしかに。」

「え?」

「あなたはなにも間違っていません。」

俯く私にかけられた言葉に目を見開く。
この方はいったいなにをいっているの。

クリス様は王子に向き直ると、非常に通る声で言った。

「恐れ多くもシルヴァ殿下、あなたは間違っておられる。」

「なんだと?」

「アンリ嬢はミミ嬢をイジメてなどおりません。アンリ嬢は間違っておられない。証人をここに連れてきております。」

クリス様はそういうと懐を探り、1冊のノートを取り出した。

「5月21日、ミミ嬢とその取り巻きマーリン嬢がアンリ嬢の教科書をゴミ箱に遺棄するのを発見。5月22日、ミミ嬢その他取り巻きがアンリ嬢の昼食に水をかけているのを発見。5月23日、ミミ嬢以下略がアンリ嬢の机に罵詈雑言の数々を書きなぐっているのを確認。5月24日、ミミ嬢以下略がアンリ嬢の」

「もうやめてっ!」

ミミ嬢が叫んだ。

「なぜそんな嘘をいうの? そんなの証人でもなんでもないじゃない!」

「そうだっ! そんないくらでもでっち上げられるものを出しても無駄だぞ! アンリがミミ嬢イジメていた事実は変わらん!」

王子の発言にクリス様は、プラチナブロンドの髪をかきあげた。

「いいですか。このノートにはミミ嬢の悪行が事細かに記されています。私の学園の協力者が見たこと、聞いたことがね。私の協力者には見たことをそのまま【記録】できる能力者もいます。意味わかりますか?」

「あ……。」

ミミ嬢の顔色がかわる。
私はわけがわからない状況にただクリス様をみていた。

「あなたはおわりだということです、ミミ嬢。この件については、昨日殿下から婚約破棄の件を聞いた時点で父上に報告しています。追って沙汰があるでしょう。ひとまず自宅で謹慎を。マルコ、連れていけ。」

「はっ。」

屈強そうな男が一人でてくると、ミミ嬢の右腕をつかみ大扉まで連れて行こうとする。

「おいっ! クリスどういうことだ! なぜミミ嬢がっ。悪いのはアンリだろうっ!」

連れていかれそうなミミ嬢に慌てる王子。クリス様は……、

「殿下、あなたも同罪です。嘘つきの言葉に簡単に耳をかし、挙句の果てに婚約破棄までなさるとは。陛下はたいそうご立腹でした。今日はこのまま自室に帰り、陛下のお言葉を待ったほうが賢明かと存じます。」

「く、クリス、お前!」

クリス様に掴みかかろうとする王子をどこから来たのか学園在中の兵士が止めに来る。

「殿下、ここはおおさめください。」

「陛下から早急に連れ帰るようお達しがでております。」

「くっ。」

兵士からの言葉に静かになる王子。
そのときちょうど先ほどの男に連れられたミミ嬢が王子とすれ違った。

「なんでよーっ! なんでこんなことにっ。いやっ、いやっ! 私は王妃になる女なのよーっ!」

「ミミ嬢!」

「なんで、なんでよっ! 守ってくれなきゃ意味ないじゃない! 役立たずっ。これで全部終わりよっ。なにもかもっ。」

ミミ嬢の悲鳴に王子の顔がゆがむ。

私はただ茫然と目の前の光景をみていた。


「アンリ孃。」

「クリス様、これはいったい。」

近寄り、声をかけてくれたクリス様に尋ねる。
さっきまであんなに暗い気持ちだったのに、いろんなことが一度におこりすぎて、頭がついていかない。だけど、

「クリス様が守ってくださったのですか?」

クリス様に守られたのは確かだ。
彼がいなければ今ごろ私はこの学園にいられなくなっていた。
だけど、クリス様は暗い顔で違う、とおっしゃった。

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