僕の家にアルファがやってきた

白雨あめ

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アルと一緒に家までの道を歩く。

僕の家は村より少し外れたところにあって、大きな木々に囲まれた場所にある。
家から出ることになったとき、家の執事が勧めてくれたところだ。

ドアを開けて中に入る。
あまり大きな家ではないから、部屋は3部屋しかない。
玄関から、普段食事などをする少し大きめの部屋と、寝室、収納部屋という感じだ。
部屋には丸いテーブルが一つと椅子が2つ、最近育て始めたミントが飾ってある。

アルも家に招き入れて、僕は物置部屋から昔着ていた服を探す。
今のアルが着れるくらいの大きさのものなら、この家に来るときに半強制的に持たされた。
それから捨てる理由もとくになくクローゼットにしまっていたけど、とっていてよかった。

目当ての服を部屋に持ち帰り、アルに着てもらう。
アルは不服そうにしながらも、黙って着てくれた。

「似合うね。よかった」

白のシャツと紺色のズボンという地味な色合いだけど、アルは顔面が煌びやかだから、それが逆に似合っていていいと思う。
着替えたアルを見て満足気にしてると、アルは床に放っておいた鞄を指さした。

「それはいいのか? 放っておいたら痛むぞ」

「あっ、忘れてた!」

急いで中を確認する。

鞄のなかにはシグーンが入ってる。
アルのこととか色々あって完全に忘れていた。

「まだ痛んではないや。よかった」

「なんだ、それ食うのか?」

「ううん。これは依頼達成の証拠として持っていくよ。毛皮と肉も売れるから」

「お前、冒険者なのか?」

「うん、一応。冒険者っていうのもおこがましい底辺だけど」

なんとなく恥ずかしくなり、頬をかく。
底辺冒険者というのは本当だ。

今回は特例で魔獣狩りをしたが、いつもは薬草などを採取する依頼をこなしている。
シグーンも、強さで言ってたら最低ランクの魔獣だ。
剣を初めて握る駆け出しの冒険者でも倒せるレベルなのだ。

とりあえずシグーンをギルドに提出しておきたい。
痛んでしまったら、肉がお金にできなくなるし。

そこまで考え、アルを見る。
ギルドがあるのは村の中心に位置する場所だ。
この国は冒険者業が盛んなため、どんなに小さな村でも1つはギルドが設置されている。

金髪に碧瞳の美少年。
彼を連れて行くのはどう考えても目立つ気がする。

考えを巡らせながら、椅子に座るアルを見ていると、彼も僕をみた。

「なんだよ?」

意を決して聞く。

「……、留守番できそう?」

「なっ、………できるに、きまってんだろ! 子ども扱いすんなと何度いったらわかるんだよ!」

怒りのためか、またも顔が真っ赤になる。
肌が白いから、色の変化がわかりやすいのだ。

「ちっ、さっさと行ってこいよ」

「……うん。じゃあ行ってくるね。くれぐれも」

「わかってるよ! 家からは出ないから安心しろ」


アルの言葉を信じて、いつもの上着を着て、家を出る。
日が落ちてきて、目の前がオレンジ色に染まっていく。

僕はフードで顔を隠して、速足でギルドへと向かう。
村の人たちの視線を感じながら歩いていくと、ギルドのシンボルマークである剣と盾の旗を掲げる建物が見えてきた。

建物が近づくたび、少し早くなる心臓を落ち着かせる。
ひとつ深呼吸をして、大きなドアを右手で押して中に入るとその場にいた人の視線が一斉にこちらを向いた。

「……っ」

この感じにはいまだになれない。
なにもされないと分かってるのに、大勢が僕をみているこの現状が怖い。

視線を合わせないよう俯いていると、ひとつまたひとつと意識がそれていくのがわかる。

よかった、緊張した。

フードを深く被りなおして、依頼達成の窓口へと急ぐ。

早く家に帰りたい……。

その一心で依頼達成の報告とシグーンの換金をする。
ついでに次の依頼もゲットしておく。

「ありがとうございました。またお願いしますね」

笑顔で見送ってくれる職員の人にお辞儀を返して、外へ出る。

早く帰りたい。
早く帰ってアルの可愛い顔をみたい。

何年もこの生活をしているのに、一向に慣れない自分が嫌になる。

どうして僕はこうなんだろう。
僕がオメガじゃなかったら……。


「だめだ、だめ」

陰気なことを考えそうになり、急いで打ち消す。
そんなこと今更考えたって仕方ない。
どうにもならないことなんだから。

とりあえず早く家に帰ろう。

そう気持ちを切り替えて歩き出した僕の肩を誰かがつかんだ。

「おい、もう帰るのか」

「あ、……エッド」

「今日こそ一緒に飲もうぜ。この前は断られたしよ」

振り向いた僕の目に映ったのは赤い髪の大男。
筋肉はごつごつしていて男らしく、堀の深い顔立ち。
その顔には軽薄そうな笑みが浮かんでいる。

「なあ、いいだろ」

そう言って、僕の肩に置いた手に力を込めてくる。

「い、いたいっ。離してっ! 今日は無理だよ。忙しいんだ」

「ちっ、そうかよ。んじゃ、また誘うわ」

諦めてくれたのか、背を向けて歩いていくエッドを見送る。
握られた肩が痛い。

エッドには偶然、フードの下を見られてしまってから今みたいに声をかけられることが増えた。
こんな田舎町に銀髪なんていたらすぐ噂になるだろうに、エッドが黙ってくれているのか、他の人にバレているような感じはない。

「よくわかんないな……」

握られた左肩をさすりながら、家にむかって歩く。
痣になってないといいけど。

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