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しおりを挟むこの世界には男と女という性別のほかに、アルファ、ベータ、オメガというバース性がある。
一番多いのはベータ、次に多いのはアルファ、もっとも少ないのがオメガだ。
オメガの男は体内に子宮をもち、妊娠も出産もできる。
またオメガには発情期というものがあり、その間はアルファ、ベータを無自覚に誘ってしまうので、番のいないオメガは家に閉じこもるか、抑制剤を服用するしかない。
オメガはアルファと番うことによって、お互いにしか発情しない身体になるという話だ。
バース性の差別が世界で問題になり、それが廃止ないし緩和されてから久しい。
僕が住むエスターサ王国では、以前と比べオメガの差別や偏見はなくなってきたが、男のオメガに対する差別や偏見はいまだ根強かった。
とくに上級階級のオメガは、その存在が良くないものと言われてきた。
そういう僕も、オメガだ。
15歳でバース性がわかってから、家族にも、他人にも、劣っている存在として扱われてきた。
そんな訳もあって、今はこのマーサ村で一人冒険者をしながら暮らしている。
マーサ村は人口が50人ほどしかいない小さな村だ。
食料の調達や生活品などは、隣街に行かなければ買えないので少し不便だが、人と関わることが怖くなってしまった僕にはちょうどいい場所だった。
一人は気楽でいい。
殴られることも蹴られることも、罵詈雑言を浴びせられることもない。
抑制剤さえ飲んでおけば僕をオメガだなんて思う人もいない。
「そろそろ仕事するか」
話相手は最近育て始めたミントという葉っぱだ。
不思議なにおいがして、小さくて可愛い。
いつものように小型ナイフと鞄、お昼を用意して家を出る。
少し歩くと、草木が生い茂る小さな森が見えてくる。
ここが僕の狩り場。
ナイフを構えて、どこから襲われても大丈夫なように集中する。
とっ、とっ、とっ、と足音のようなものが聞こえてくる。
きたっ! シグーンだ!
目の前に現れたのは僕の腰ほどの背丈の魔獣だ。
大きい口に鋭い牙。
目がぎょろぎょろと大きく、お腹が空いているのか口からは大量の涎が溢れている。
お世辞にも可愛いとはいえない顔をしている。
鋭い爪で切りかかってきたシグーンを横にかわし、その首筋にナイフを突き立てる。
「ぎゃうん!」
叫んだのは一瞬で、その後すぐに動かなくなった。
シグーンの死体を回収し、素早く血ぬきをする。
皮と肉は冒険者の買い取り場に持っていけば2ベアで売れる。
近くには僕も暮らす村があるため、シグーンが増える時期に定期的に狩りにこないといけない。
増えすぎると森だけの食料で足りなくなり、村にでてきて村人を襲うこともあるからだ。
「よし、やるか」
血ぬきの終わったものを鞄に収納する。
気合を入れなおし、僕は森の奥へと入った。
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