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第二章
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(「こい。そうして手なずけてみよ、わしらを」)
大帝を?
声の答えはなかった。
アーテ王女はしばらくその場に立ちつくした。
「アーテ王女」トックヴィル。
「壁」アーテ王女。
「あん?」リットン。
帰るためには、まずはなんとしても、あの、四人の魔導師を倒さなくてはならない。それには新たな魔法の力が必要。
そうして、もしもそれが自身の運命ならば、それに向かって漫然と立ち向かう準備は出来ている。
もしも、力、お前がわたしを食い殺そうというのなら、それでいい。わたしはそれに立ち向かう。
竜王はいった。
それがわたしの役割。
アーテ王女は扉を開けた。
そうして入っていった、扉の中へ。
「壁に行きましょう。そうして手に入れるの、最高の力を」アーテ王女。
「なんか知らないが、話はまとまったらしいな」トックヴィル。
「いいでしょう。それを、しましょう」アーテ王女。
五人は、階段を降りていった。
「ずいぶん古い建物だろう。いつぐらいに出来たのかね」
「なかには、西洋風のお城。調度類も、みんな、西洋風。いったいどういうわけだろうかね」
外にでた。そうすると、そこには中庭がある。
その中央に、何ものかが立っている。
魔導師?
「ようこそ、我が、魔法の館へ。わたしは第一の門番。わたしをお前のものとしたければ、わたしに打ち勝って見せよっ」
そういうと、魔導師は巨大化した。
「わたしはエイクス・ド・ラ・エイクス。炎の魔人。お前の氷と、水の力を試そう。どうだ、魔術、わたしを攻撃してみよ」
アーテ王女は身構えた。
「遅い」
炎の魔人エイクス・ド・ラ・エイクスが、先攻した。
「fire strom!!!(ファイヤー・ストーム)」
演唱なしで魔術を唱えたっ。
強力な魔導師っ。
じりじりじり。
「なにがどうなってのよ」レイラ。
「なんだかわけのわからないものと対峙することになったらしい」トックヴィル。
「やる?」レイラ。
「ああ、この魔導師さんをお助けだ」トックヴィル。
「でもいいのか?」リットンがおっとりいった。
「なにが」トックヴィル。
「おれたちかのリーグの連中に対してじゃなくちゃ魔術は使わない予定ではなかったか?」
「リーグ?」アーテ王女。
「『奇跡を行う国』を支配している、魔導師たちだよ」リットン。
「彼らを倒すの?」アーテ王女。
「そのために、ここにきたんだ」トックヴィル。
「そう。サーカス団というのは、表の顔。われら、トラキラ団は、正義を行い悪を倒す。そうして、この世に笑顔と、怒りと、悲しみを、人間一般に与えるために、生きる、正義の力、悪を打ち倒す。団」
炎の旋風が、アーテ王女の肌を焦がす。
くっ。
アーテ王女は演唱を開始した。
氷の力、トール。
水の力、ヒュン。
合体。
氷塵、熱破。
「toll bell hyunn kuira!!!(トール・ベル・ヒュン・クイラ)」
氷をまとった流水が、出現。
エイクス・ド・ラ・エイクスを襲う。
「ぐあわ」
魔人が持っていた、炎の妖気が凍りつく。
立て続けに第二撃。
アーテ王女は再び演唱した。
食らえ。
氷の稲妻よ。
トール。
光よ。
ハン。
合体。
雷撃、氷刃。
「han bell toll!!!(ハン・ベル・トール)」
凍結した氷の稲妻が、エイクス・ド・ラ・エイクスを貫いた。
「ガビーン」
エイクス・ド・ラ・エイクスは、アーテ王女の魔法に負けて、消えていく。
アーテ王女は戦いに勝った。
「わたしの力はお前のもの、お前の炎の魔力を極限まで強めよう」
アーテ王女の炎の魔力が増した。
エイクス・ド・ラ・エイクスを自分のものとした。
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女は自分の腕を見、そうして手を、開いたり閉じたりした。
アーテ王女の手に残った炎の感触。
そうしてその中の感触。
アーテ王女の炎の魔力は上昇した。
アーテ王女はあるいていった。
城。中には二重の城壁があり、アーテ王女の行く手を、門が阻んでいた。
その門の前に、人がいる。
黒服の男。編み笠をかぶっている。
「わたしの名は降魔の剣。いにしえに捨てられし剣。故あって、この場所に世話になっている」
降魔の? つるぎ?
「聞いた話では、お前はわたしの力を借りたいと、そのようにいう。いいだろう、それならこのわたしを、見事倒してみよ」
そういうと、男は、指先に、青く輝く鋭い閃光を発生させた。
降魔の剣?
アーテ王女が見ていると、男は、アーテ王女に接近し、たぶん降魔の剣を使用するつもりであるらしかった。
男は、もう片方の手にも、剣を出した。
両手に降魔の剣、二刀流?
アーテ王女は呪文を演唱した。
土の力よ。木の精霊よ。
「thertumunt yugmunnt gurramuras!!!(ザルツムント・ユグムント・グラームラス)」
発生した剣を手に取ると、再び演唱を開始した。
光の力、土の壁。
「saint wall!!!(セイント・ウォール)」
アーテ王女を光の盾が包み込む。
さあ、こい。
男は、じりじりとした接近をやめない。
そうしてアーテ王女と一跨ぎの位置まで来ると、突如、攻撃に転じた。
降魔の剣を振りかざし、薙いだ。
課金。
小気味いい音がして、アーテ王女の光の盾を、剣は砕いた。
なんという攻撃力だろう。
この光の幕を、砕くとは。
そうしているうちに、第二撃が加わった。
光の盾が、壊れて消える。
アーテ王女はグラームソードで攻撃。
土の剣を手で、しっかりと握ると、男に袈裟懸けを与えた。
飛びのいた。
すると、ダメージがない。
「ふふふ」
「?」
「わたしには、剣の攻撃は通用しない、もしもわたしを魔法の剣で攻撃したければ、わたしの剣の効果を越えるものを持て」
「・・・・・・・・・・・・」
剣が消える。
ならば、ハン。
聖なる魔法で攻撃だ。
アーテ王女は即座に演唱を開始した。
光殺、円陣。
『deisunar hant!!!(デイスナー・ハント)』
無数の雷光の束が、降魔の剣を包み込む。
「くっ」
きいた。
片膝をついて、降魔の剣はその場に剣を立てて倒れた。
ついでにもう一撃。
地獄の風、地獄の閃光。
光炎、粉塵。
「hann berut hert rant!!!(ハン・ベルト・ヘルト・ラント)」
光のいかずちが、敵を捉える。
がんがんがんがん。
男はまばゆい光に包まれ、その場に倒れた。
「さ、さすがだな。竜の力、良かろう。おぬしに力を貸そう」
降魔の剣を倒した。
降魔の剣を、アーテ王女は自分のものとした。
「・・・・・・・・・・・・」
指先、人差し指と、中指を見ると、青光りする剣の感触が残っている。
アーテ王女は降魔の剣を手に入れた。
アーテ王女は、城壁の中にはいった。階段。
目の前には階段が迫っていた。
上るのだろうか。
そうらしかった。
アーテ王女は階段を登る。
すると、上からなにやら落ちてくる
かかん、かかん、かかん、かかん。
拾うとドングリである。
「むっしゃしゃ、むっしゃしゃ」
「?」
「われは伝説の巨人、トロル。もしもお前が伝説の力を手に入れたいと、そのように申すのであれば、見事このわたしを倒してみよ」
その途端。
ヒュっ、という音がして、
ずががががががががっ。
なんと、トロルは階段を転がり降りてきた。
アーテ王女が脇によけると、トロルは?
「ううう、痛い、痛いよ」
アーテ王女は泣き叫ぶトロルに近づくと、やさしく傷口に手を当て、
「berlltornn…(べラトーン)」
回復の魔術をかけてあげた。
「やさしいね、しかし、あんたはどうも優しすぎる。それが命取りにならなければいいが、いいだろう、貸してあげるよ。わたしの力を、そう、わたしの名前はベルヘン・トロル。きっと君がわたしを呼ぶときは、敵をなぎ倒して、そこいらじゅう引っ掻きまわすだろう。でも注意することだ。あんたがその旋風に飲み込まれないようにね」
アーテ王女はトロルの力を手に入れた。
さて。
階段を上がる、中二階まで上がると、そこから今度は反対方向に、二階への階段がのびている。
アーテ王女は階段を曲がって、二階へ。
すると、そこにはまた、一人、人が待っていた。
女?
たぶん女は、
「わたしが稲妻の力、アペロ・ポン・ディウム。見事わたしを倒すことが出来たら、きっとあなたの稲妻の魔術に貢献できるとおもうわ。すでに聞いたでしょう? 古代の魔術は単なる飛び道具ではありえない、術者の能力を限界を超えてに引き出す、道具。さあ、来なさい」
稲妻? それなら風の魔術で攻撃。
アーテ王女は階段下から身構えた。
そうして演唱。
しかし、一瞬はやく、アペロ・ポン・ディウムの演唱が終了した。
「雷神、空殺」静かな声だった。「ditona thia!!!(デイトナ・ティア)」
ずごごごごんっ
すさまじい閃光が、アーテ王女を包み込む。
くそうっ
一日にこれだけの相手と勝負しろというの?
アーテ王女は階段中二階までたたき落とされた。
アーテ王女はそれでも魔術を演唱を忘れない。
空殺、円陣。
「hork bread!!!(ホーク・ブレード)」
とどろく閃光の風の刃が、アペロ・ポン・ディウムを吹きぬける。
アーテ王女の魔術は敵を捕らえた。
ざまあみろっ。
アーテ王女は階段を、体の痛みをこらえながら上がった。
すると、アペロ・ポン・ディウムは、まだたっている。
アーテ王女が魔術を演唱すると、向こうもなにやら口をもごもご動かしている。
これ以上のダメージは避けたい。
アーテ王女は攻撃を先攻させた。
闇の風雷よ。
ホーク。
ムーン。
合体。
黒風、砂塵。
「hotk dora bell ras moon!!!(ホーク・ドラ・ベル・ラス・ムーン)」
とどろく閃空が、敵を捕らえる。
アペロ・ポン・ディウムは、黙ってこちらの攻撃を受けた。
黒い風の魔術に、その身を裂き裂かれる。
アペロ・ポン・ディウムは地に、片膝をついた。
「さすがに強い。あなたの中にあるという、竜の力は本当ね」
アペロ・ポン・ディウムは、苦痛をこらえながら、立ち上がった。
「いいわ、あなたの力になりましょう。以後、かみなりの魔術を使うときはご用心。あたしはいつでもあなたが、油断したならば、その機会を狙っているわ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女はアペロ・ポン・ディウムの魔法を手に入れた。
二階はまだ、誰かのこっているだろうか。
しかしアーテ王女は三階にむかった。
それが、アーテ王女の魔術のみちびきである。
三階に上がる。
やはり中三階があって、再び、その上に、一人の男がいる。
やはり魔導師? いや、魔術。
今度はなんだ?
「最強の防御の魔術、それをお前に与えよう」
「?」
「見事、わたしの作ったベールをはがしてみよ」
アーテ王女は演唱した。
すると、向こうはこちらに攻撃する気がないらしい。
不意に。
手を大きくかざし、
「gill herut ran bell!!!(ギル・ヘルト・ラン・ベール)」
と唱えると、もうそれ以上何をする様子もない。
なめるな。
アーテ王女は攻撃した。
ヒュン。
ベグ。
トール。
合体。
合成、灼熱。
「hyun begg la toll(ヒュン・ベグ・ラ・トール)」
ずごごん
すさまじい稲光がして、アーテ王女の魔法が炸裂した。
舞い散る煙。
煙が消える。
すると、しかし魔導師、いや、魔術は、光のたてに守られていた。
きかない?
アーテ王女は再び演唱した。
地獄の閃光よ。
ラント。
ムーン。
合体。
「rant bell dora moon!!!(ラント・ベル・ドラ・ムーン)」
激しい黒色の閃光が、空気を切り裂く。
アーテ王女のはなった魔術は、敵の目前に炸裂した。
しかし、今度も、光の盾は、その攻撃を防いだ。
ギル・ヘル・ベール?
くそおっ。
それなら今度は炎。
火炎、殺風。
「ritonar binnkusu!!!(ライトナー・ビンスク)」
炎と風の塊が、魔術の前で炸裂する。
埃が舞い散る。
それが消える。
すると、光の盾にひびが入っていることに気がついた。
アーテ王女の魔術は、光の盾にまさった。いや、ギル・ヘル・ベール。
「あんなどるな。これは、契約された魔術。七種類以上の攻撃をしかけると、破壊されるよう、決定されている」
「・・・・・・・・・・・・」
「よいか、注意することだ。七種類までは、この光の盾は、お前を守るだろう、しかし、その攻撃に第七撃が加われば、たちまちのうちにそののろいは解けるだろう」
「・・・・・・・・・・・・」
すると、ギル・ヘル・ベールはアーテ王女の前で光の玉となり、その光の玉は、アーテ王女に吸収された。
アーテ王女はギル・ヘル・ベールの魔術を覚えた。
階段を上がると、そこは四階。しかし、そこは何もない、屋根裏部屋だった。
アーテ王女が階段を降りようとすると、
「待て」
不意に、氷の結晶が集まる。
出てきたのは、氷の魔人?
「我が名は氷の魔人。アイス・ソナ・デスペリウス。お前の炎の魔術、われに示せ」
そういうと、魔導師は演唱をはじめた。
アーテ王女は防御。
真空、火壁。
「fire wall!!!(ファイヤー・ウォール)」
次の瞬間魔導師の魔術が炸裂した。
「hell birizardo!!!(ヘル・ブリザード)」
吹き荒れる氷の竜巻が、アーテ王女を包み込む。
アーテ王女の炎の盾は、氷河を飲みこんだ。
アーテ王女は、演唱。
炎のいかづちよ。
ベグ。
ラント。
合体。
火雷、斬劇。
「begg bell rant!!!(ベグ・ベル・ラント)」
巨大な真紅の稲妻が、アイス・ソナ・デスペリウスを攻撃。
激しい火柱がたち、アイス・ソナ・デスペリウスは、丸焼けになった。
「さ、さすがはエイクス・ド・ラ・エイクスの力を手にしたことはある。つ、強い。よかろう、お前に力を貸そう」
アーテ王女はアイス・ソナ・デスペリウスの力を手に入れた。
階段を降りる。
そうして三階。
アーテ王女は、部屋を探した。大帝。
きっと、どこかの大広間にでもいるはず。
そうしていると、巨大な扉を三階に発見。
アーテ王女が扉の中にはいると、中部屋があり、その向こうに、もうひとつの扉が立っている。
アーテ王女が扉に手をかけようとすると。
「またれい」
「?」
アーテ王女の影が、変形した。
「わたしはアク・ゾラ・ベルト。闇の魔術を極めしものよ。わしにその力を示せ」
攻撃の正体がわからない。
一瞬黒い閃光が走ったかとおもうと、アーテ王女の手足に、無数の傷が走っていた。
魔術?
「われは闇の魔術、おぬしの影を攻撃した。ためさせてもらうぞ、おぬしの光の力」
光?
それなら得意よ。
光の力よ。
「hann!!!(ハン)」
きら、と光ったのは、アーテ王女の光の魔術である。
すると、まばゆい光が部屋に満ちて、敵の存在を確認。
「light bighm!!!(ライト・ビーム)」
アーテ王女の手から、閃光がはしった。
閃光は、闇に潜む、アク・ゾラ・ベルトを捕らえた。
闇が、正体を明かす。
まばゆい光の中から現れたのは、黒い魔導師。
見ると、肩が打ちぬかれている。
「よかろう。おぬしならば、やれるかもしれん。貸そう力を。それを、思う存分発揮するといい。地獄の魔王の咆哮」
アーテ王女は闇の魔術、アク・ゾラ・ベルトを手に入れた。
アーテ王女は扉にむかって歩いた。
その向こうに、大帝がいるのだろうか?
そのようだった。
扉のノブに手をかけた。
すると、静かな摩擦音を立てて扉が開く。
薄暗かった。
しかし、アーテ王女が室内に侵入すると、あの、竜王の部屋で見たような、たいまつが、両側ひとつずつ、ともされた。
たいまつに、ぼんやりと照らされる室内。
アーテ王女はその奥に、人、いや、魔術の気配を察知した。
大帝?
(よいか、わしはのろい。おぬしに力を与えはするが、おぬしの何かを犠牲にする)
「・・・・・・・・・・・・」
(それでもおぬしは余がほしいと、そのように申すか? エンシャントレスっ)
あなたの力は何?
エンシャントレスとは?
(それは古代の魔法を使いしもの。しかし、手下どもならいざ知らず、おぬしには、残念ながら、わしを使いこなす腕前はないわ。魔力。それが、おぬしには足りぬ)
でも、力を貸してくれると。
(そう、それはいった。しかし、おぬしには魔力のほかに、何かわしに与えるべきものはないか?)
アーテ王女は考えた。
そうして答えを出した。
命なら、差し出すことが出来る。
もしも、わたしがあの、四人の魔導師と戦うことになるなら、あなたの助けが必要になりはしまいか?
「よかろう、その心がけ、まことにもって見事。おぬしに与えよう。伝説の、闇に中に封印されし、魔術。それはこのわし。しかし注意することだ、もしもお前の今の魔力でわしを召還するならば、それは即座に死を意味する。たりぬのだ。今のお前には、わしを使いこなすことは出来ぬ。よいか、おぼえておくことだ。伝説の超魔術、その名はギル・フラメイカ・バハナ・パレト・ディウム。忘れぬことだ。それはおぬしの命を削る魔術。きっとおぬしの力になるが、また、弊害も残す。召還時、一時たりとも忘れずに、相手の目線をはずさぬこと。集中だ。何度もいうが、今のおぬしには、この魔術は荷が重い。魂の行き場に気をつけよ。そうして唱えよ。おぬしの命を、下界にとどめるように。よいな」
その瞬間、アーテ王女は飛んだのを覚えている。
もと来た道を、もとに戻る。
空、地中、マグマ。
マグマ、地中、空。
アーテ王女が気がつくと、朝になっていた。
徹夜で、魔術を覚え、そうしてアーテ王女は見につけた、古代の魔術の数々。
「どうだったね、あんたの魔界へのたびは? うまくいったかね?」
「ありがとう」アーテ王女は、朦朧とする意識の中でいった。「おばあさん、きっと、わたしは何とかやれそう」
「ああ、そうかい。では、魔界の大帝には、会うことが出来たのか?」
「大帝は、わたしに古代の大魔術を授けました」
「そうかい、それはよかった」
おばあさんの魔導師が、にこにこ笑っていった。
「いいね、アーテ王女。死ぬんじゃないよ」
「わかっています」アーテ王女は、気丈にいった。「きっと、取り戻してみせます、人々から、感情を。自由を。笑顔を」
最後の戦い
アーテ王女は東の森から帰った。
しかし、アーテ王女に変化があったかというと、そうではなかった。
ジルは、そうしたアーテ王女の態度に、不審を抱いたが、何も、聞かなかったようである。知りたがりのジルにとっては、これは珍しいことだった。
かかしたちの処刑の日まであと、四日。
周囲の人間は、アーテ王女がその日までに何かの行動をするのではないかと、うわさしたが、アーテ王女はなんのことはない。ほとんど変わらぬ態度で、日常を過ごした。
洗濯もしたし、食事も作って食べた。
中には、かかしたちを見殺しにするのではないかと、疑るものもいたが、アーテ王女はそうした人の声を無視した。
かかしたちの処刑の日まであと、三日。
アーテ王女の日常はかわらなかった。
朝、起きると、飯炊きをして、その後図書館に出かける。
そうして夕刻まで、図書館で勉強して、帰る。
かかしたちの処刑の日まで、あと、二日。
アーテ王女の日々は、やはり変わらなかった。
かかしたちの処刑の日まで、あと、一日。
アーテ王女は、終始、本を読んですごした。
「いいんですかい? 彼らはあんたの友達でしょう。それが死のうとしている。それを、あんたは黙ってみているおつもりですか?」
アーテ王女は黙って応えなかった。ただ、読書の最中だから、邪魔しないでくれと、いった。
かかしたちの処刑の当日。
時刻は正午。
場所は町の闘技場で、公開処刑となった。
アーテ王女は出かけた。
誰にも、ジルにも伝えなかった。
ただ一人、闘技場に向かう。
土管の迷路を経て、マンホールから外にでると、そこは思いのほか、闘技場に近かった。
会場は、黒山の人だかりである。
みんな、かかしたちの最後を見に来た。
人が死ぬのが、そんなに楽しいのだろうか?
アーテ王女がおもっていると、そのようだった。
見ると、お弁当まで持参して、見物に来ているものもいる。
アーテ王女は会場を目指した。
そうして闘技場の最前列についた。
やっぱりわたしは一人、ただ一人で運命に立ち向かう定めになっている。
ふと、そんなことをおもった。
見ると、まだ、処刑は始まってはいない。
闘技場中央にすえつけられた処刑台には、人影がない。
大きな処刑台である。しかし、二十六人を、一度に手にかけるには小さい。たぶん、処刑されるのは、主要な犯人なのだろう。
アーテ王女が見ていると、時刻は正午の鐘がなった。
始まる。
かかしたちが入場した。
手かせ、足かせ。
アーテ王女は見入った。
八人。
これから首に縄をかけて、そうして台から落とす気である。
「やれっ」
「反逆者を処刑しろ」
観衆から声が上がった。
アーテ王女が見ていると、どうやら処刑に恩赦は与えられないらしかった。
処刑台に上る、八名。
見ていると、おのおのくろいほおかぶりをつけられ、吊るされる様子であった。
縄が、八人の首にかけられる。
「・・・・・・・・・・・・」
今か。
アーテ王女は魔術を演唱した。
黒い稲妻、地獄の世界の咆哮。
降魔の剣よ、今、その姿をわれに示せ。
アーテ王女の手に、青い閃光がおこった。
閃光を投げる。
飛べ、降魔の剣よ。
同時に処刑台の床が割れた。
しかし、アーテ王女の降魔の剣は、処刑のロープを渡ると、次々ときり落としていった。
成功。
どよめく観衆。
その声に混じって。
(やはり来たか)
「?」
(待っていたぞ、伝説の竜の力、デイスナー、エンシャントレスっ)
「何ものだ」アーテ王女。
大帝を?
声の答えはなかった。
アーテ王女はしばらくその場に立ちつくした。
「アーテ王女」トックヴィル。
「壁」アーテ王女。
「あん?」リットン。
帰るためには、まずはなんとしても、あの、四人の魔導師を倒さなくてはならない。それには新たな魔法の力が必要。
そうして、もしもそれが自身の運命ならば、それに向かって漫然と立ち向かう準備は出来ている。
もしも、力、お前がわたしを食い殺そうというのなら、それでいい。わたしはそれに立ち向かう。
竜王はいった。
それがわたしの役割。
アーテ王女は扉を開けた。
そうして入っていった、扉の中へ。
「壁に行きましょう。そうして手に入れるの、最高の力を」アーテ王女。
「なんか知らないが、話はまとまったらしいな」トックヴィル。
「いいでしょう。それを、しましょう」アーテ王女。
五人は、階段を降りていった。
「ずいぶん古い建物だろう。いつぐらいに出来たのかね」
「なかには、西洋風のお城。調度類も、みんな、西洋風。いったいどういうわけだろうかね」
外にでた。そうすると、そこには中庭がある。
その中央に、何ものかが立っている。
魔導師?
「ようこそ、我が、魔法の館へ。わたしは第一の門番。わたしをお前のものとしたければ、わたしに打ち勝って見せよっ」
そういうと、魔導師は巨大化した。
「わたしはエイクス・ド・ラ・エイクス。炎の魔人。お前の氷と、水の力を試そう。どうだ、魔術、わたしを攻撃してみよ」
アーテ王女は身構えた。
「遅い」
炎の魔人エイクス・ド・ラ・エイクスが、先攻した。
「fire strom!!!(ファイヤー・ストーム)」
演唱なしで魔術を唱えたっ。
強力な魔導師っ。
じりじりじり。
「なにがどうなってのよ」レイラ。
「なんだかわけのわからないものと対峙することになったらしい」トックヴィル。
「やる?」レイラ。
「ああ、この魔導師さんをお助けだ」トックヴィル。
「でもいいのか?」リットンがおっとりいった。
「なにが」トックヴィル。
「おれたちかのリーグの連中に対してじゃなくちゃ魔術は使わない予定ではなかったか?」
「リーグ?」アーテ王女。
「『奇跡を行う国』を支配している、魔導師たちだよ」リットン。
「彼らを倒すの?」アーテ王女。
「そのために、ここにきたんだ」トックヴィル。
「そう。サーカス団というのは、表の顔。われら、トラキラ団は、正義を行い悪を倒す。そうして、この世に笑顔と、怒りと、悲しみを、人間一般に与えるために、生きる、正義の力、悪を打ち倒す。団」
炎の旋風が、アーテ王女の肌を焦がす。
くっ。
アーテ王女は演唱を開始した。
氷の力、トール。
水の力、ヒュン。
合体。
氷塵、熱破。
「toll bell hyunn kuira!!!(トール・ベル・ヒュン・クイラ)」
氷をまとった流水が、出現。
エイクス・ド・ラ・エイクスを襲う。
「ぐあわ」
魔人が持っていた、炎の妖気が凍りつく。
立て続けに第二撃。
アーテ王女は再び演唱した。
食らえ。
氷の稲妻よ。
トール。
光よ。
ハン。
合体。
雷撃、氷刃。
「han bell toll!!!(ハン・ベル・トール)」
凍結した氷の稲妻が、エイクス・ド・ラ・エイクスを貫いた。
「ガビーン」
エイクス・ド・ラ・エイクスは、アーテ王女の魔法に負けて、消えていく。
アーテ王女は戦いに勝った。
「わたしの力はお前のもの、お前の炎の魔力を極限まで強めよう」
アーテ王女の炎の魔力が増した。
エイクス・ド・ラ・エイクスを自分のものとした。
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女は自分の腕を見、そうして手を、開いたり閉じたりした。
アーテ王女の手に残った炎の感触。
そうしてその中の感触。
アーテ王女の炎の魔力は上昇した。
アーテ王女はあるいていった。
城。中には二重の城壁があり、アーテ王女の行く手を、門が阻んでいた。
その門の前に、人がいる。
黒服の男。編み笠をかぶっている。
「わたしの名は降魔の剣。いにしえに捨てられし剣。故あって、この場所に世話になっている」
降魔の? つるぎ?
「聞いた話では、お前はわたしの力を借りたいと、そのようにいう。いいだろう、それならこのわたしを、見事倒してみよ」
そういうと、男は、指先に、青く輝く鋭い閃光を発生させた。
降魔の剣?
アーテ王女が見ていると、男は、アーテ王女に接近し、たぶん降魔の剣を使用するつもりであるらしかった。
男は、もう片方の手にも、剣を出した。
両手に降魔の剣、二刀流?
アーテ王女は呪文を演唱した。
土の力よ。木の精霊よ。
「thertumunt yugmunnt gurramuras!!!(ザルツムント・ユグムント・グラームラス)」
発生した剣を手に取ると、再び演唱を開始した。
光の力、土の壁。
「saint wall!!!(セイント・ウォール)」
アーテ王女を光の盾が包み込む。
さあ、こい。
男は、じりじりとした接近をやめない。
そうしてアーテ王女と一跨ぎの位置まで来ると、突如、攻撃に転じた。
降魔の剣を振りかざし、薙いだ。
課金。
小気味いい音がして、アーテ王女の光の盾を、剣は砕いた。
なんという攻撃力だろう。
この光の幕を、砕くとは。
そうしているうちに、第二撃が加わった。
光の盾が、壊れて消える。
アーテ王女はグラームソードで攻撃。
土の剣を手で、しっかりと握ると、男に袈裟懸けを与えた。
飛びのいた。
すると、ダメージがない。
「ふふふ」
「?」
「わたしには、剣の攻撃は通用しない、もしもわたしを魔法の剣で攻撃したければ、わたしの剣の効果を越えるものを持て」
「・・・・・・・・・・・・」
剣が消える。
ならば、ハン。
聖なる魔法で攻撃だ。
アーテ王女は即座に演唱を開始した。
光殺、円陣。
『deisunar hant!!!(デイスナー・ハント)』
無数の雷光の束が、降魔の剣を包み込む。
「くっ」
きいた。
片膝をついて、降魔の剣はその場に剣を立てて倒れた。
ついでにもう一撃。
地獄の風、地獄の閃光。
光炎、粉塵。
「hann berut hert rant!!!(ハン・ベルト・ヘルト・ラント)」
光のいかずちが、敵を捉える。
がんがんがんがん。
男はまばゆい光に包まれ、その場に倒れた。
「さ、さすがだな。竜の力、良かろう。おぬしに力を貸そう」
降魔の剣を倒した。
降魔の剣を、アーテ王女は自分のものとした。
「・・・・・・・・・・・・」
指先、人差し指と、中指を見ると、青光りする剣の感触が残っている。
アーテ王女は降魔の剣を手に入れた。
アーテ王女は、城壁の中にはいった。階段。
目の前には階段が迫っていた。
上るのだろうか。
そうらしかった。
アーテ王女は階段を登る。
すると、上からなにやら落ちてくる
かかん、かかん、かかん、かかん。
拾うとドングリである。
「むっしゃしゃ、むっしゃしゃ」
「?」
「われは伝説の巨人、トロル。もしもお前が伝説の力を手に入れたいと、そのように申すのであれば、見事このわたしを倒してみよ」
その途端。
ヒュっ、という音がして、
ずががががががががっ。
なんと、トロルは階段を転がり降りてきた。
アーテ王女が脇によけると、トロルは?
「ううう、痛い、痛いよ」
アーテ王女は泣き叫ぶトロルに近づくと、やさしく傷口に手を当て、
「berlltornn…(べラトーン)」
回復の魔術をかけてあげた。
「やさしいね、しかし、あんたはどうも優しすぎる。それが命取りにならなければいいが、いいだろう、貸してあげるよ。わたしの力を、そう、わたしの名前はベルヘン・トロル。きっと君がわたしを呼ぶときは、敵をなぎ倒して、そこいらじゅう引っ掻きまわすだろう。でも注意することだ。あんたがその旋風に飲み込まれないようにね」
アーテ王女はトロルの力を手に入れた。
さて。
階段を上がる、中二階まで上がると、そこから今度は反対方向に、二階への階段がのびている。
アーテ王女は階段を曲がって、二階へ。
すると、そこにはまた、一人、人が待っていた。
女?
たぶん女は、
「わたしが稲妻の力、アペロ・ポン・ディウム。見事わたしを倒すことが出来たら、きっとあなたの稲妻の魔術に貢献できるとおもうわ。すでに聞いたでしょう? 古代の魔術は単なる飛び道具ではありえない、術者の能力を限界を超えてに引き出す、道具。さあ、来なさい」
稲妻? それなら風の魔術で攻撃。
アーテ王女は階段下から身構えた。
そうして演唱。
しかし、一瞬はやく、アペロ・ポン・ディウムの演唱が終了した。
「雷神、空殺」静かな声だった。「ditona thia!!!(デイトナ・ティア)」
ずごごごごんっ
すさまじい閃光が、アーテ王女を包み込む。
くそうっ
一日にこれだけの相手と勝負しろというの?
アーテ王女は階段中二階までたたき落とされた。
アーテ王女はそれでも魔術を演唱を忘れない。
空殺、円陣。
「hork bread!!!(ホーク・ブレード)」
とどろく閃光の風の刃が、アペロ・ポン・ディウムを吹きぬける。
アーテ王女の魔術は敵を捕らえた。
ざまあみろっ。
アーテ王女は階段を、体の痛みをこらえながら上がった。
すると、アペロ・ポン・ディウムは、まだたっている。
アーテ王女が魔術を演唱すると、向こうもなにやら口をもごもご動かしている。
これ以上のダメージは避けたい。
アーテ王女は攻撃を先攻させた。
闇の風雷よ。
ホーク。
ムーン。
合体。
黒風、砂塵。
「hotk dora bell ras moon!!!(ホーク・ドラ・ベル・ラス・ムーン)」
とどろく閃空が、敵を捕らえる。
アペロ・ポン・ディウムは、黙ってこちらの攻撃を受けた。
黒い風の魔術に、その身を裂き裂かれる。
アペロ・ポン・ディウムは地に、片膝をついた。
「さすがに強い。あなたの中にあるという、竜の力は本当ね」
アペロ・ポン・ディウムは、苦痛をこらえながら、立ち上がった。
「いいわ、あなたの力になりましょう。以後、かみなりの魔術を使うときはご用心。あたしはいつでもあなたが、油断したならば、その機会を狙っているわ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女はアペロ・ポン・ディウムの魔法を手に入れた。
二階はまだ、誰かのこっているだろうか。
しかしアーテ王女は三階にむかった。
それが、アーテ王女の魔術のみちびきである。
三階に上がる。
やはり中三階があって、再び、その上に、一人の男がいる。
やはり魔導師? いや、魔術。
今度はなんだ?
「最強の防御の魔術、それをお前に与えよう」
「?」
「見事、わたしの作ったベールをはがしてみよ」
アーテ王女は演唱した。
すると、向こうはこちらに攻撃する気がないらしい。
不意に。
手を大きくかざし、
「gill herut ran bell!!!(ギル・ヘルト・ラン・ベール)」
と唱えると、もうそれ以上何をする様子もない。
なめるな。
アーテ王女は攻撃した。
ヒュン。
ベグ。
トール。
合体。
合成、灼熱。
「hyun begg la toll(ヒュン・ベグ・ラ・トール)」
ずごごん
すさまじい稲光がして、アーテ王女の魔法が炸裂した。
舞い散る煙。
煙が消える。
すると、しかし魔導師、いや、魔術は、光のたてに守られていた。
きかない?
アーテ王女は再び演唱した。
地獄の閃光よ。
ラント。
ムーン。
合体。
「rant bell dora moon!!!(ラント・ベル・ドラ・ムーン)」
激しい黒色の閃光が、空気を切り裂く。
アーテ王女のはなった魔術は、敵の目前に炸裂した。
しかし、今度も、光の盾は、その攻撃を防いだ。
ギル・ヘル・ベール?
くそおっ。
それなら今度は炎。
火炎、殺風。
「ritonar binnkusu!!!(ライトナー・ビンスク)」
炎と風の塊が、魔術の前で炸裂する。
埃が舞い散る。
それが消える。
すると、光の盾にひびが入っていることに気がついた。
アーテ王女の魔術は、光の盾にまさった。いや、ギル・ヘル・ベール。
「あんなどるな。これは、契約された魔術。七種類以上の攻撃をしかけると、破壊されるよう、決定されている」
「・・・・・・・・・・・・」
「よいか、注意することだ。七種類までは、この光の盾は、お前を守るだろう、しかし、その攻撃に第七撃が加われば、たちまちのうちにそののろいは解けるだろう」
「・・・・・・・・・・・・」
すると、ギル・ヘル・ベールはアーテ王女の前で光の玉となり、その光の玉は、アーテ王女に吸収された。
アーテ王女はギル・ヘル・ベールの魔術を覚えた。
階段を上がると、そこは四階。しかし、そこは何もない、屋根裏部屋だった。
アーテ王女が階段を降りようとすると、
「待て」
不意に、氷の結晶が集まる。
出てきたのは、氷の魔人?
「我が名は氷の魔人。アイス・ソナ・デスペリウス。お前の炎の魔術、われに示せ」
そういうと、魔導師は演唱をはじめた。
アーテ王女は防御。
真空、火壁。
「fire wall!!!(ファイヤー・ウォール)」
次の瞬間魔導師の魔術が炸裂した。
「hell birizardo!!!(ヘル・ブリザード)」
吹き荒れる氷の竜巻が、アーテ王女を包み込む。
アーテ王女の炎の盾は、氷河を飲みこんだ。
アーテ王女は、演唱。
炎のいかづちよ。
ベグ。
ラント。
合体。
火雷、斬劇。
「begg bell rant!!!(ベグ・ベル・ラント)」
巨大な真紅の稲妻が、アイス・ソナ・デスペリウスを攻撃。
激しい火柱がたち、アイス・ソナ・デスペリウスは、丸焼けになった。
「さ、さすがはエイクス・ド・ラ・エイクスの力を手にしたことはある。つ、強い。よかろう、お前に力を貸そう」
アーテ王女はアイス・ソナ・デスペリウスの力を手に入れた。
階段を降りる。
そうして三階。
アーテ王女は、部屋を探した。大帝。
きっと、どこかの大広間にでもいるはず。
そうしていると、巨大な扉を三階に発見。
アーテ王女が扉の中にはいると、中部屋があり、その向こうに、もうひとつの扉が立っている。
アーテ王女が扉に手をかけようとすると。
「またれい」
「?」
アーテ王女の影が、変形した。
「わたしはアク・ゾラ・ベルト。闇の魔術を極めしものよ。わしにその力を示せ」
攻撃の正体がわからない。
一瞬黒い閃光が走ったかとおもうと、アーテ王女の手足に、無数の傷が走っていた。
魔術?
「われは闇の魔術、おぬしの影を攻撃した。ためさせてもらうぞ、おぬしの光の力」
光?
それなら得意よ。
光の力よ。
「hann!!!(ハン)」
きら、と光ったのは、アーテ王女の光の魔術である。
すると、まばゆい光が部屋に満ちて、敵の存在を確認。
「light bighm!!!(ライト・ビーム)」
アーテ王女の手から、閃光がはしった。
閃光は、闇に潜む、アク・ゾラ・ベルトを捕らえた。
闇が、正体を明かす。
まばゆい光の中から現れたのは、黒い魔導師。
見ると、肩が打ちぬかれている。
「よかろう。おぬしならば、やれるかもしれん。貸そう力を。それを、思う存分発揮するといい。地獄の魔王の咆哮」
アーテ王女は闇の魔術、アク・ゾラ・ベルトを手に入れた。
アーテ王女は扉にむかって歩いた。
その向こうに、大帝がいるのだろうか?
そのようだった。
扉のノブに手をかけた。
すると、静かな摩擦音を立てて扉が開く。
薄暗かった。
しかし、アーテ王女が室内に侵入すると、あの、竜王の部屋で見たような、たいまつが、両側ひとつずつ、ともされた。
たいまつに、ぼんやりと照らされる室内。
アーテ王女はその奥に、人、いや、魔術の気配を察知した。
大帝?
(よいか、わしはのろい。おぬしに力を与えはするが、おぬしの何かを犠牲にする)
「・・・・・・・・・・・・」
(それでもおぬしは余がほしいと、そのように申すか? エンシャントレスっ)
あなたの力は何?
エンシャントレスとは?
(それは古代の魔法を使いしもの。しかし、手下どもならいざ知らず、おぬしには、残念ながら、わしを使いこなす腕前はないわ。魔力。それが、おぬしには足りぬ)
でも、力を貸してくれると。
(そう、それはいった。しかし、おぬしには魔力のほかに、何かわしに与えるべきものはないか?)
アーテ王女は考えた。
そうして答えを出した。
命なら、差し出すことが出来る。
もしも、わたしがあの、四人の魔導師と戦うことになるなら、あなたの助けが必要になりはしまいか?
「よかろう、その心がけ、まことにもって見事。おぬしに与えよう。伝説の、闇に中に封印されし、魔術。それはこのわし。しかし注意することだ、もしもお前の今の魔力でわしを召還するならば、それは即座に死を意味する。たりぬのだ。今のお前には、わしを使いこなすことは出来ぬ。よいか、おぼえておくことだ。伝説の超魔術、その名はギル・フラメイカ・バハナ・パレト・ディウム。忘れぬことだ。それはおぬしの命を削る魔術。きっとおぬしの力になるが、また、弊害も残す。召還時、一時たりとも忘れずに、相手の目線をはずさぬこと。集中だ。何度もいうが、今のおぬしには、この魔術は荷が重い。魂の行き場に気をつけよ。そうして唱えよ。おぬしの命を、下界にとどめるように。よいな」
その瞬間、アーテ王女は飛んだのを覚えている。
もと来た道を、もとに戻る。
空、地中、マグマ。
マグマ、地中、空。
アーテ王女が気がつくと、朝になっていた。
徹夜で、魔術を覚え、そうしてアーテ王女は見につけた、古代の魔術の数々。
「どうだったね、あんたの魔界へのたびは? うまくいったかね?」
「ありがとう」アーテ王女は、朦朧とする意識の中でいった。「おばあさん、きっと、わたしは何とかやれそう」
「ああ、そうかい。では、魔界の大帝には、会うことが出来たのか?」
「大帝は、わたしに古代の大魔術を授けました」
「そうかい、それはよかった」
おばあさんの魔導師が、にこにこ笑っていった。
「いいね、アーテ王女。死ぬんじゃないよ」
「わかっています」アーテ王女は、気丈にいった。「きっと、取り戻してみせます、人々から、感情を。自由を。笑顔を」
最後の戦い
アーテ王女は東の森から帰った。
しかし、アーテ王女に変化があったかというと、そうではなかった。
ジルは、そうしたアーテ王女の態度に、不審を抱いたが、何も、聞かなかったようである。知りたがりのジルにとっては、これは珍しいことだった。
かかしたちの処刑の日まであと、四日。
周囲の人間は、アーテ王女がその日までに何かの行動をするのではないかと、うわさしたが、アーテ王女はなんのことはない。ほとんど変わらぬ態度で、日常を過ごした。
洗濯もしたし、食事も作って食べた。
中には、かかしたちを見殺しにするのではないかと、疑るものもいたが、アーテ王女はそうした人の声を無視した。
かかしたちの処刑の日まであと、三日。
アーテ王女の日常はかわらなかった。
朝、起きると、飯炊きをして、その後図書館に出かける。
そうして夕刻まで、図書館で勉強して、帰る。
かかしたちの処刑の日まで、あと、二日。
アーテ王女の日々は、やはり変わらなかった。
かかしたちの処刑の日まで、あと、一日。
アーテ王女は、終始、本を読んですごした。
「いいんですかい? 彼らはあんたの友達でしょう。それが死のうとしている。それを、あんたは黙ってみているおつもりですか?」
アーテ王女は黙って応えなかった。ただ、読書の最中だから、邪魔しないでくれと、いった。
かかしたちの処刑の当日。
時刻は正午。
場所は町の闘技場で、公開処刑となった。
アーテ王女は出かけた。
誰にも、ジルにも伝えなかった。
ただ一人、闘技場に向かう。
土管の迷路を経て、マンホールから外にでると、そこは思いのほか、闘技場に近かった。
会場は、黒山の人だかりである。
みんな、かかしたちの最後を見に来た。
人が死ぬのが、そんなに楽しいのだろうか?
アーテ王女がおもっていると、そのようだった。
見ると、お弁当まで持参して、見物に来ているものもいる。
アーテ王女は会場を目指した。
そうして闘技場の最前列についた。
やっぱりわたしは一人、ただ一人で運命に立ち向かう定めになっている。
ふと、そんなことをおもった。
見ると、まだ、処刑は始まってはいない。
闘技場中央にすえつけられた処刑台には、人影がない。
大きな処刑台である。しかし、二十六人を、一度に手にかけるには小さい。たぶん、処刑されるのは、主要な犯人なのだろう。
アーテ王女が見ていると、時刻は正午の鐘がなった。
始まる。
かかしたちが入場した。
手かせ、足かせ。
アーテ王女は見入った。
八人。
これから首に縄をかけて、そうして台から落とす気である。
「やれっ」
「反逆者を処刑しろ」
観衆から声が上がった。
アーテ王女が見ていると、どうやら処刑に恩赦は与えられないらしかった。
処刑台に上る、八名。
見ていると、おのおのくろいほおかぶりをつけられ、吊るされる様子であった。
縄が、八人の首にかけられる。
「・・・・・・・・・・・・」
今か。
アーテ王女は魔術を演唱した。
黒い稲妻、地獄の世界の咆哮。
降魔の剣よ、今、その姿をわれに示せ。
アーテ王女の手に、青い閃光がおこった。
閃光を投げる。
飛べ、降魔の剣よ。
同時に処刑台の床が割れた。
しかし、アーテ王女の降魔の剣は、処刑のロープを渡ると、次々ときり落としていった。
成功。
どよめく観衆。
その声に混じって。
(やはり来たか)
「?」
(待っていたぞ、伝説の竜の力、デイスナー、エンシャントレスっ)
「何ものだ」アーテ王女。
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