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第五部第一章 奈落の世界の監獄
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奈落の世界の監獄
アーテ王女はおもっていた。
いったいいつから決まっていたのだろう。運命?
わたしはいったい何に首を突っ込んだのだろう。
アーテ王女はおもっていた。
そうして、これは笑ってごまかせるものなのだろうか。笑う。
そういえば、いつのころからか、忘れていた。人間の笑顔。
笑うには、いったいどうすればいいのだろうか。
アーテ王女はおもっていた。
倒す? あの四人の魔導師を。
その手下にすら、負けたわたしが?
いや、あれは試合で疲れていたため。
完全な状態ならば、絶対に負けない。
アーテ王女はおもっていた。
やめろ。
馬鹿な。魔導師などと。
これは夢だ。夢。さめろ、いやな夢。
しかし、夢は覚めない。
これは現実。揺るがしがたい悪夢・・・・・・。
アーテ王女はおもっていた。
奈落の世界の監獄にアーテ王女が落とされると、アーテ王女は独房に入れられた。
連日、アーテ王女を苦しめたのは、竜の力のテストである。
これは聞くに堪えない。
竜よ。
どうしてあなたはわたしに力を与えたの?
わたしを苦しめるため?
いや、魔導師になる。
それを決めたのはわたし。
それはわたしがしたこと・・・・・・。
「今からきみに電極をつける。もしもこちらの質問につまったたり、誤った答えを出すと、電極から電気が流れるからそのつもりで」
電気ショック?
「君は魔導師かね」
はい。
電気ショック。
きゃあ。
「君は何をしに、この場所にやってきたのかね」
観光。
電気ショック。
きゃあ。
「・・・・・・・・・・・・」
「君は四人の魔導師をどうおもっている?」
わからない。
電気ショック。
きゃあ。
「君は、四人の魔導師をどうするつもりだね」
わからない。
電気ショック。
きゃあ。
「・・・・・・・・・・・・」
さんざん電気ショックを浴びせられたあと、独房に放置されるアーテ王女。アーテ王女は体に残る痛みにもだえた。
しかし、アーテ王女に敵するものは、何ものも待ってはいくれない。
あるいは次のようなテストが行なわれた。
魔物との戦いである。強力な魔物と対決させられることが多かった、リカント、ドラゴン、サーベルウルフ、首刈り族人、ガルーダ。魔物とのたたかいは、アーテ王女に生傷と恐怖を残した。
それに体にメスを入れての解剖検査である。(このためアーテ王女の体はつぎはぎだらけになった)。
「今から君の体にメスをいれ、体の各部を調べる。麻酔」
と、医師らしい人は、
「あれ? 麻酔が切れている。仕方がない。麻酔なしでやろう」
そういうと、切れ味鋭いナイフが、アーテ王女の体にいれられた。
痛みが、からだの全体に走った。
いやあああああああああああああああああああああああああああああ。
肺も見られたし、心臓も、胃も、腸も見られた。
「どこにも異常はないようだ、どうやら竜の力の正体を見つけるとは出来ない」
すると、看護師らしき人が、
「ないんじゃないかしら」
「馬鹿な、ははは」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女は連日、厳しい竜の力の存在を審査された。
悲鳴を上げることは、毎日のように当然になっていたし、アーテ王女の悲鳴は、たぶん刑務所中に響き渡っていただろう。
竜よ、お前はどうしてわたしに力を与えた。
どうしてこんな中途半端な力をわたしに与えた。
くれるなら、もっと圧倒的な力だったらよかったのに。
くそう、くそう、くそう・・・・・・。
やっと、大部屋(刑務所内ではこれを『町』と呼んだ。刑務所ながら、自治が認められた区画だったからである。そのためここには宿屋から、商店、服の仕立て屋まであった)に移されたころ、アーテ王女は廃人同然になっていた。
はじめ、アーテ王女は人間を拒絶した。
そんなことはするわけがない、同じ人間から。
その思いが強く、また、そのために、人間不信を与えられたのである。
アーテ王女がそれでも人間らしさを取り戻すことが出来たのは、刑務所内の人々からの、手厚い介護があったからある(もしも、これがなかったならば、アーテ王女は二度と、人などというものを信じることは出来なくなっていただろう)。
アーテ王女は日に日に回復してはいった。
魔術は使えなかった。
刑務所の中は、完全に結界が張られ、それを二十四時間担当の魔導師が、管理していたからである。
「娘さんや、よくなったのお、ひどいことをされて、いったいどうしてこんなかわいい娘さんに、こんなひどい」
いったのは、毎日アーテ王女の看病に、宿屋につめていた、おじいさんである。
大丈夫、体のほうは、結構回復してきています(事実そうだった。アーテ王女の自然治癒力はすさまじいものがあり、日に日に、検査で受けた体力の消耗は、回復してった。もっとも、手術でつけられた醜い傷跡は残ったが。この回復力は、おそらく竜の力だと、アーテ王女にもおもわれた)。
中にはアーテ王女のことを、化け物扱いする受刑者もいたが、たいていの人間は、アーテ王女が受けた苦しみを理解してくれた。
伝説の魔導師。
世界を変えに来たもの。
それらに対する恐れの感情が、人々を動かしたりした。
アーテ王女のこのころの日々は、瞑想ですぎさっていった。
体が回復したとしても、まだ寝たきりの多いアーテ王女であった。
それをするには、瞑想、おあつらえ向きだった。
さまざまなことを、考える。
自身の身の上、これからのこと。
答えは出たり、出なかったりした。
四人の魔導師。
そいつらとの対決は、あまりしたくはない。
もしも、これより先、四人の魔導師をかかわるなら、命はないことは想像できた。手下であの強さなのである。大本は、もっと強いに違いない。強力な魔導師。強かった。その手下。腕一本を引っ張った? それは、相手が油断していたから。こんなちいさな魔導師など、なめられて当然。しかし、それが通用するのも今回限り。もしも全力の戦いを、やつらとしたならば、あの炎の竜の魔術。あれは、アーテ王女を一撃で倒すだけの力を持っている。
アーテ王女がおもったのは、微妙なことである。
油断していなければ、もしも試合前ならば、勝つことはできただろうか。
わからない。
勝つには、とにかく一撃で相手を倒せるぐらいの、強力な魔術が必要となる。息の根を、一撃で止める・・・・・・。それには魔力の上昇が不可欠なようにおもわれた。
アーテ王女がおもったのは、訓練である。
もしも、これよりももう少し強くなれば、伝説の、四人の魔導師も倒すことが出来るかもしれない・・・・・・。
しかし、訓練といっても、ただ、魔術力を挙げる修行をしても仕方ない。戦いなれなければならない。
アーテ王女は瞑想した。
勝つ。
しかし、それには、まずはこの牢獄から抜け出さなくてはならない・・・・・・。
治療の日々をアーテ王女が続けていると、だいぶよくなったころ、ジルがアーテ王女を見舞った。
ジルにあえる。
アーテ王女は喜んだ。
面会室にいくと、ジルはすでに待っていて、
「あなたがここに落とされたと聞いたときは、おどろいたわ。はじめは面会謝絶。あってみると、このありさま。どうしたの? アーテ。大丈夫」
だいぶ良くなってきてはいる。
しかし、まだ体の各所は痛い。
「そう、あなたが苦しみを受けていると知って、あたし、本当に喜んでいたのよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ははは、ははははははははっ」
おのれ、四人の魔導師。
アーテ王女は宿屋の自室にこもることが多くなった。
手下との対決、それから数ヶ月。
そうしたある日。
意外なことがおこった。
釈放が通知されたのである。
これはどういうことだろう。
しかし、アーテ王女は不審におもいながらも、その通知を喜んだ。
でられる。もう、あの、竜の力のテストから逃れることが出来る。
アーテ王女は、その通知に、何事もなく、したがった。
荷物はなかった。
釈放。
アーテ王女は看守に見送られ、身一つ、奈落の世界の刑務所の外にでた。
自由?
アーテ王女は息を吸った。
それは、アーテ王女にとって自由を痛感させる瞬間だった。
アーテ王女は家に向かった。
帰ると、ジルが、アーテ王女を出迎えた。
ジル?
「アーテ。どうだった? ひどいことされなかった?」
「された」
「それで、どうするの、これから」
アーテ王女は少し考えてから、しばらく考えてから決めたいと、いった。
アーテ王女は自室に戻ると、すぐにその日はふとんをひいて寝た。
翌朝。
ジルが、朝、起こしにきたが、アーテ王女は寝ていた。
食事の用意をしようというが、断った。
もっと寝ていたい、考え事がある。
アーテ王女は考えたし、あまり話したくなかった。
あんな辱めをうけて、それをぺらぺら、アーテ王女にはしゃべれなかった。
考えることはいろいろあった。
これからのこともあったし、どうしてアーテ王女が釈放されたのかについても、考えることはあった。そうして、この世界を支配しているという四人の魔導師についても、思考はまた、当然にとんだ。
アーテ王女はこのときおもったのは、四人の魔導師にわざと、刑務所を出された気がされたことである。
対決する。
その日はおのずと来るようにおもわれた。
しかし、やつらの狙いはなんなんだろう。
竜の力?
アーテ王女のもっている不思議な道具?
しかし、もしもそうなら荷物から、いつでも盗み出せるようにおもわれた。
いや、竜のちから。それを、求めているものがいる。
何ヶ月も留守にしたのである。しかし、荷物はそのままあったし、手の触れられた様子はなかった。アーテ王女はこのとき、不思議な魔術の力を持っていた。自身の荷物が、誰か魔導師に触られたら、わかるぐらいの力をもっていた。
しばらく、水を飲んで暮らす暮らしが続いた。
やっとジルの朝御飯の手伝いに応じるようになったのは、釈放から一週間もたったあとだった。
そのうち、日はすぎた。
そのうち、アーテ王女の元を訪れる人間は戻っていた。
哲学、政治学、経済学。アーテ王女は経済学は弱かったので、答えをはぐらかすことが多かった。
運命は、そうした人に混じっていた。
かかしが会いに来たのである。
そういえば、かかしはこの、奈落の世界で暮らしているひとりだった。
会いたくない。
アーテ王女ははじめは警戒した。
しかし、どうしてもということだった。
一日目はかえったが、かかしはその次の日もやってきた。
もう、傷つくのはごめん。
アーテ王女が追いやると、かかしは三日目を会いに来た。
何か、相当大切な話らしい。
アーテ王女が自身の宿屋の家に、招きいれると、ずいぶんと、この前あったときとは違って、いきようようとした、かかしを見ることが出来た。
いったいこんなところにいて、そうしてどうしてそんなに元気なの?
しかしかかしは、アーテ王女の質問には答えない。ただ、自身の理論を展開した。
「アーテ王女。あんた、ついにここにも来なさったか、奈落の世界。わかっている。観光で来たんだろう? あんたのすることは何でもお見通しだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「しかしすごいじゃないか。評判だよ。あんた。あの、四人の魔導師と、対等に戦える魔導師といったら、あんた以外にはないと。その手下に負けたのは、それ以前のヘルショットの試合で疲れていただけ、それに油断していただけだって、万全の君なららきっと、四人の魔導師にも勝てるとね。それと、油断してなければ。デイスナーなんだろう? あんたの使う合成魔術は、そんじょそこいらの魔導師にはあつかえない魔術であるらしい。それに、実際に、魔術の力できり飛ばしたんだろう? 四人の魔導師の手先の腕を。それだけの威力がある魔術が使えれば、あんた、きっと四人の魔導師とやらを退治して、この世界に笑いと、怒りと、悲しみの感情を、人々に取り戻させることが出来る」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、かかしさん」
と、付き添いのジルがいった。
「アーテは疲れているのよ。話はまた次の機会にしておいてもらえないかしら」
「いいえ」アーテ王女はジルを否定した。「大丈夫よ、ジル」
「そう、あんたが、そういうんだったらいいのよ。だけど・・・・・・、あんまり馬鹿な考えは起こさないようにね」
「・・・・・・・・・・・・」
「それはそうと」
と、かかしは、
「あんた、わたしらの計画に参加する気はないかね」
「?」
「転覆作戦さあ。『奇跡を行う国』。この世界を、あんた変えたいんだろう? それにはなによりあの。魔導師を倒さなくてはならない、しかし、あの魔導師たちに敵うのは、あんたしかいない。あんたが、魔導師を倒して、そうしてわたしらが行動を行なう。そういうはなしでどうだろう。あんたのバックアップは、わたしらの仲間でやる。あんたは、魔術を二三放出して、四人の魔導師を、一人ずつ消していけばいいってことさ。魔導師を、一人ずつにするには、わたしらが行動する、作戦があんだ。どうだい? やってみてはいかがだろう」
倒したい、しかし、今のままじゃ無理。簡単にやられるのが関の山。
たとえ一人ずつあっても。
警戒している。
それが一番怖いのである。
こちらのことは、研究済み。
きっと手の内は読まれている。
「しかし・・・・・・」アーテ王女は質問した。「どうやって、相手を一人ずつにするの?」
「あいつらの動向はわかっている。まず、魔導師の一人、ロンバルキアは、三日後から、一週間、地方に所要があって、出かける。事態は速攻だ。一か八かかける。町で暴動を起こして、後の三人の一人だけでも、そちらに向かわせる」
「だけど、やつらには」そうである。「手下が数人いるんじゃないの?」
「やつらのてだれの手下は五人。まずもって、あんたの敵ではないだろう」
「都合がよすぎる」アーテ王女は、かかしの楽観主義を否定した。
手下だって、たいした強さだった。
アーテ王女がいうと、
「そうかね、しかしあんたが腕を切り飛ばしたやつ、あいつが。その一人さ、そう、ベルグ・・・・・・一人ずつならね。四人の魔導師たちは、『伝説』を警戒して、自身の近辺に、いつも手下を配置している。そいつらを引き剥がすことが出来れば、まずもって、作戦は成功だ。そうして、あと三人、彼らのうち一人、ランドマスタは、いつも図書館に行くときは、同じ道を通って、通う。そのときは、いつも一人だ。そこを狙う。いいね、作戦はこうだ。四人の魔導師を同時に攻撃する。魔導師はそろっている。ランドマスタには三人」
さあ、あと二人。これをどのように引き剥がすかだ。
「あとの二人は、残念ながらいつもいっしょにいて、離れようとしない。氷のレイドに、炎のルーウィン。こいつらは、こっちで用意した、魔導師を一人おとりにして、あんたには残ったほうと戦ってもらう。どうだい? 完璧な作戦だろう? いいね、やるかい?」
「少し考えたい」アーテ王女は、いった。
いったように、もしもやつらに勝つには、相当強力な魔法が必要になる。ただの合成魔術では、到底歯が立たないだろう。
「そうか、でも、もうあんまり時間がないよ、作戦は、ロンバルキアが所要で出かける十日間が勝負だ。もしもあんたが加わらなくても、わたしらだけで戦闘は行なうよ、あんたのポジションには、別の魔導師を立てる」
「・・・・・・・・・・・・」アーテ王女は、少しだまってから、「死にますよ」
「あんた、どれほどの力を持っているというんだ。あんたがいなくったって、わたしらだけで十分できる力は持っている」
「見くびっている」と、アーテ王女は、いった。
あの、魔導師たちの力を。
「あんたの批判は受け付けないよ。やるのか、やらないのか、はっきりしてもらえるかな?」
アーテ王女はしばらくかんがえて。
話をもっと聞いてから、といった。
しかしそれが自身に与えられた運命なら、やるしかない。
竜はいった。
(「事態はお前のすぐ目の前にあること」)
「・・・・・・・・・・・・」
「そうかい、まあいい、あんたなら,よそでは話さないだろう。では仲間に紹介しよう」
そういうと、かかしはジルに、
「いいかね、王女を少し借りますよ」
「ちょっと待った。アーテはまだ、完全に回復していないんだよ。体の、麻酔もせずにされた手術のあとだって、まだふさがっていない。ふとした拍子に開くともかりない。あなた、アーテの体の心配していないの? それとも、自分のことしか、考えていないの。何度もいうけどアーテは疲れているのよ。死ぬほどね」
「・・・・・・・・・・・・」アーテ王女は、気丈にいった。「いいえ」
いいのよ、ジル・・・・・・。
「あんたがいいというんだったら、あたしにはとめる権利はないわ」
かかしとアーテ王女は出かけた。
「この奈落の世界は、広いからね、迷子になってしまうよ」と、かかしが、楽なことばかりをいった。「さあ、こっちだ、ちなみに、ここでの会話は、やつらに盗聴されていないから、安心したまえ。この近くは・・・・・・、絶対に出ることが出来ないというのが、彼らのつよみさ。しかし、わたしらは、その、のど元で、やつらの転覆を計画していると、そういうことだ」
「・・・・・・・・・・・・」
わけがわからない。
しかしかかしは、なにやら自身の行動に確信したような感じを見せている。それが、アーテ王女にとっては不安の種だった。
「・・・・・・・・・・・・」
仲間のところまでは、角をいくつか曲がって、土管の通りをいくつか進んだところにだった。
距離にして、第六区から一、二キロ。
「何ものだっ」
ドアがある。
その中の部屋が、仲間たちの住まいなのだろうか。
「作戦室さ」かかしがいった。
しかし、その前には男の子が棒を持って控え、「ああ、かかしさん、どうぞお入りください、・・・・・・その子は?」
「運命の子だよ。伝説的、竜の力を宿した少女」
「それじゃあもう、作戦は決行なんですか?」
「そういうことだ」
「やった。これで僕も家に帰れる」
アーテ王女はおもっていた。
いったいいつから決まっていたのだろう。運命?
わたしはいったい何に首を突っ込んだのだろう。
アーテ王女はおもっていた。
そうして、これは笑ってごまかせるものなのだろうか。笑う。
そういえば、いつのころからか、忘れていた。人間の笑顔。
笑うには、いったいどうすればいいのだろうか。
アーテ王女はおもっていた。
倒す? あの四人の魔導師を。
その手下にすら、負けたわたしが?
いや、あれは試合で疲れていたため。
完全な状態ならば、絶対に負けない。
アーテ王女はおもっていた。
やめろ。
馬鹿な。魔導師などと。
これは夢だ。夢。さめろ、いやな夢。
しかし、夢は覚めない。
これは現実。揺るがしがたい悪夢・・・・・・。
アーテ王女はおもっていた。
奈落の世界の監獄にアーテ王女が落とされると、アーテ王女は独房に入れられた。
連日、アーテ王女を苦しめたのは、竜の力のテストである。
これは聞くに堪えない。
竜よ。
どうしてあなたはわたしに力を与えたの?
わたしを苦しめるため?
いや、魔導師になる。
それを決めたのはわたし。
それはわたしがしたこと・・・・・・。
「今からきみに電極をつける。もしもこちらの質問につまったたり、誤った答えを出すと、電極から電気が流れるからそのつもりで」
電気ショック?
「君は魔導師かね」
はい。
電気ショック。
きゃあ。
「君は何をしに、この場所にやってきたのかね」
観光。
電気ショック。
きゃあ。
「・・・・・・・・・・・・」
「君は四人の魔導師をどうおもっている?」
わからない。
電気ショック。
きゃあ。
「君は、四人の魔導師をどうするつもりだね」
わからない。
電気ショック。
きゃあ。
「・・・・・・・・・・・・」
さんざん電気ショックを浴びせられたあと、独房に放置されるアーテ王女。アーテ王女は体に残る痛みにもだえた。
しかし、アーテ王女に敵するものは、何ものも待ってはいくれない。
あるいは次のようなテストが行なわれた。
魔物との戦いである。強力な魔物と対決させられることが多かった、リカント、ドラゴン、サーベルウルフ、首刈り族人、ガルーダ。魔物とのたたかいは、アーテ王女に生傷と恐怖を残した。
それに体にメスを入れての解剖検査である。(このためアーテ王女の体はつぎはぎだらけになった)。
「今から君の体にメスをいれ、体の各部を調べる。麻酔」
と、医師らしい人は、
「あれ? 麻酔が切れている。仕方がない。麻酔なしでやろう」
そういうと、切れ味鋭いナイフが、アーテ王女の体にいれられた。
痛みが、からだの全体に走った。
いやあああああああああああああああああああああああああああああ。
肺も見られたし、心臓も、胃も、腸も見られた。
「どこにも異常はないようだ、どうやら竜の力の正体を見つけるとは出来ない」
すると、看護師らしき人が、
「ないんじゃないかしら」
「馬鹿な、ははは」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女は連日、厳しい竜の力の存在を審査された。
悲鳴を上げることは、毎日のように当然になっていたし、アーテ王女の悲鳴は、たぶん刑務所中に響き渡っていただろう。
竜よ、お前はどうしてわたしに力を与えた。
どうしてこんな中途半端な力をわたしに与えた。
くれるなら、もっと圧倒的な力だったらよかったのに。
くそう、くそう、くそう・・・・・・。
やっと、大部屋(刑務所内ではこれを『町』と呼んだ。刑務所ながら、自治が認められた区画だったからである。そのためここには宿屋から、商店、服の仕立て屋まであった)に移されたころ、アーテ王女は廃人同然になっていた。
はじめ、アーテ王女は人間を拒絶した。
そんなことはするわけがない、同じ人間から。
その思いが強く、また、そのために、人間不信を与えられたのである。
アーテ王女がそれでも人間らしさを取り戻すことが出来たのは、刑務所内の人々からの、手厚い介護があったからある(もしも、これがなかったならば、アーテ王女は二度と、人などというものを信じることは出来なくなっていただろう)。
アーテ王女は日に日に回復してはいった。
魔術は使えなかった。
刑務所の中は、完全に結界が張られ、それを二十四時間担当の魔導師が、管理していたからである。
「娘さんや、よくなったのお、ひどいことをされて、いったいどうしてこんなかわいい娘さんに、こんなひどい」
いったのは、毎日アーテ王女の看病に、宿屋につめていた、おじいさんである。
大丈夫、体のほうは、結構回復してきています(事実そうだった。アーテ王女の自然治癒力はすさまじいものがあり、日に日に、検査で受けた体力の消耗は、回復してった。もっとも、手術でつけられた醜い傷跡は残ったが。この回復力は、おそらく竜の力だと、アーテ王女にもおもわれた)。
中にはアーテ王女のことを、化け物扱いする受刑者もいたが、たいていの人間は、アーテ王女が受けた苦しみを理解してくれた。
伝説の魔導師。
世界を変えに来たもの。
それらに対する恐れの感情が、人々を動かしたりした。
アーテ王女のこのころの日々は、瞑想ですぎさっていった。
体が回復したとしても、まだ寝たきりの多いアーテ王女であった。
それをするには、瞑想、おあつらえ向きだった。
さまざまなことを、考える。
自身の身の上、これからのこと。
答えは出たり、出なかったりした。
四人の魔導師。
そいつらとの対決は、あまりしたくはない。
もしも、これより先、四人の魔導師をかかわるなら、命はないことは想像できた。手下であの強さなのである。大本は、もっと強いに違いない。強力な魔導師。強かった。その手下。腕一本を引っ張った? それは、相手が油断していたから。こんなちいさな魔導師など、なめられて当然。しかし、それが通用するのも今回限り。もしも全力の戦いを、やつらとしたならば、あの炎の竜の魔術。あれは、アーテ王女を一撃で倒すだけの力を持っている。
アーテ王女がおもったのは、微妙なことである。
油断していなければ、もしも試合前ならば、勝つことはできただろうか。
わからない。
勝つには、とにかく一撃で相手を倒せるぐらいの、強力な魔術が必要となる。息の根を、一撃で止める・・・・・・。それには魔力の上昇が不可欠なようにおもわれた。
アーテ王女がおもったのは、訓練である。
もしも、これよりももう少し強くなれば、伝説の、四人の魔導師も倒すことが出来るかもしれない・・・・・・。
しかし、訓練といっても、ただ、魔術力を挙げる修行をしても仕方ない。戦いなれなければならない。
アーテ王女は瞑想した。
勝つ。
しかし、それには、まずはこの牢獄から抜け出さなくてはならない・・・・・・。
治療の日々をアーテ王女が続けていると、だいぶよくなったころ、ジルがアーテ王女を見舞った。
ジルにあえる。
アーテ王女は喜んだ。
面会室にいくと、ジルはすでに待っていて、
「あなたがここに落とされたと聞いたときは、おどろいたわ。はじめは面会謝絶。あってみると、このありさま。どうしたの? アーテ。大丈夫」
だいぶ良くなってきてはいる。
しかし、まだ体の各所は痛い。
「そう、あなたが苦しみを受けていると知って、あたし、本当に喜んでいたのよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ははは、ははははははははっ」
おのれ、四人の魔導師。
アーテ王女は宿屋の自室にこもることが多くなった。
手下との対決、それから数ヶ月。
そうしたある日。
意外なことがおこった。
釈放が通知されたのである。
これはどういうことだろう。
しかし、アーテ王女は不審におもいながらも、その通知を喜んだ。
でられる。もう、あの、竜の力のテストから逃れることが出来る。
アーテ王女は、その通知に、何事もなく、したがった。
荷物はなかった。
釈放。
アーテ王女は看守に見送られ、身一つ、奈落の世界の刑務所の外にでた。
自由?
アーテ王女は息を吸った。
それは、アーテ王女にとって自由を痛感させる瞬間だった。
アーテ王女は家に向かった。
帰ると、ジルが、アーテ王女を出迎えた。
ジル?
「アーテ。どうだった? ひどいことされなかった?」
「された」
「それで、どうするの、これから」
アーテ王女は少し考えてから、しばらく考えてから決めたいと、いった。
アーテ王女は自室に戻ると、すぐにその日はふとんをひいて寝た。
翌朝。
ジルが、朝、起こしにきたが、アーテ王女は寝ていた。
食事の用意をしようというが、断った。
もっと寝ていたい、考え事がある。
アーテ王女は考えたし、あまり話したくなかった。
あんな辱めをうけて、それをぺらぺら、アーテ王女にはしゃべれなかった。
考えることはいろいろあった。
これからのこともあったし、どうしてアーテ王女が釈放されたのかについても、考えることはあった。そうして、この世界を支配しているという四人の魔導師についても、思考はまた、当然にとんだ。
アーテ王女はこのときおもったのは、四人の魔導師にわざと、刑務所を出された気がされたことである。
対決する。
その日はおのずと来るようにおもわれた。
しかし、やつらの狙いはなんなんだろう。
竜の力?
アーテ王女のもっている不思議な道具?
しかし、もしもそうなら荷物から、いつでも盗み出せるようにおもわれた。
いや、竜のちから。それを、求めているものがいる。
何ヶ月も留守にしたのである。しかし、荷物はそのままあったし、手の触れられた様子はなかった。アーテ王女はこのとき、不思議な魔術の力を持っていた。自身の荷物が、誰か魔導師に触られたら、わかるぐらいの力をもっていた。
しばらく、水を飲んで暮らす暮らしが続いた。
やっとジルの朝御飯の手伝いに応じるようになったのは、釈放から一週間もたったあとだった。
そのうち、日はすぎた。
そのうち、アーテ王女の元を訪れる人間は戻っていた。
哲学、政治学、経済学。アーテ王女は経済学は弱かったので、答えをはぐらかすことが多かった。
運命は、そうした人に混じっていた。
かかしが会いに来たのである。
そういえば、かかしはこの、奈落の世界で暮らしているひとりだった。
会いたくない。
アーテ王女ははじめは警戒した。
しかし、どうしてもということだった。
一日目はかえったが、かかしはその次の日もやってきた。
もう、傷つくのはごめん。
アーテ王女が追いやると、かかしは三日目を会いに来た。
何か、相当大切な話らしい。
アーテ王女が自身の宿屋の家に、招きいれると、ずいぶんと、この前あったときとは違って、いきようようとした、かかしを見ることが出来た。
いったいこんなところにいて、そうしてどうしてそんなに元気なの?
しかしかかしは、アーテ王女の質問には答えない。ただ、自身の理論を展開した。
「アーテ王女。あんた、ついにここにも来なさったか、奈落の世界。わかっている。観光で来たんだろう? あんたのすることは何でもお見通しだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「しかしすごいじゃないか。評判だよ。あんた。あの、四人の魔導師と、対等に戦える魔導師といったら、あんた以外にはないと。その手下に負けたのは、それ以前のヘルショットの試合で疲れていただけ、それに油断していただけだって、万全の君なららきっと、四人の魔導師にも勝てるとね。それと、油断してなければ。デイスナーなんだろう? あんたの使う合成魔術は、そんじょそこいらの魔導師にはあつかえない魔術であるらしい。それに、実際に、魔術の力できり飛ばしたんだろう? 四人の魔導師の手先の腕を。それだけの威力がある魔術が使えれば、あんた、きっと四人の魔導師とやらを退治して、この世界に笑いと、怒りと、悲しみの感情を、人々に取り戻させることが出来る」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、かかしさん」
と、付き添いのジルがいった。
「アーテは疲れているのよ。話はまた次の機会にしておいてもらえないかしら」
「いいえ」アーテ王女はジルを否定した。「大丈夫よ、ジル」
「そう、あんたが、そういうんだったらいいのよ。だけど・・・・・・、あんまり馬鹿な考えは起こさないようにね」
「・・・・・・・・・・・・」
「それはそうと」
と、かかしは、
「あんた、わたしらの計画に参加する気はないかね」
「?」
「転覆作戦さあ。『奇跡を行う国』。この世界を、あんた変えたいんだろう? それにはなによりあの。魔導師を倒さなくてはならない、しかし、あの魔導師たちに敵うのは、あんたしかいない。あんたが、魔導師を倒して、そうしてわたしらが行動を行なう。そういうはなしでどうだろう。あんたのバックアップは、わたしらの仲間でやる。あんたは、魔術を二三放出して、四人の魔導師を、一人ずつ消していけばいいってことさ。魔導師を、一人ずつにするには、わたしらが行動する、作戦があんだ。どうだい? やってみてはいかがだろう」
倒したい、しかし、今のままじゃ無理。簡単にやられるのが関の山。
たとえ一人ずつあっても。
警戒している。
それが一番怖いのである。
こちらのことは、研究済み。
きっと手の内は読まれている。
「しかし・・・・・・」アーテ王女は質問した。「どうやって、相手を一人ずつにするの?」
「あいつらの動向はわかっている。まず、魔導師の一人、ロンバルキアは、三日後から、一週間、地方に所要があって、出かける。事態は速攻だ。一か八かかける。町で暴動を起こして、後の三人の一人だけでも、そちらに向かわせる」
「だけど、やつらには」そうである。「手下が数人いるんじゃないの?」
「やつらのてだれの手下は五人。まずもって、あんたの敵ではないだろう」
「都合がよすぎる」アーテ王女は、かかしの楽観主義を否定した。
手下だって、たいした強さだった。
アーテ王女がいうと、
「そうかね、しかしあんたが腕を切り飛ばしたやつ、あいつが。その一人さ、そう、ベルグ・・・・・・一人ずつならね。四人の魔導師たちは、『伝説』を警戒して、自身の近辺に、いつも手下を配置している。そいつらを引き剥がすことが出来れば、まずもって、作戦は成功だ。そうして、あと三人、彼らのうち一人、ランドマスタは、いつも図書館に行くときは、同じ道を通って、通う。そのときは、いつも一人だ。そこを狙う。いいね、作戦はこうだ。四人の魔導師を同時に攻撃する。魔導師はそろっている。ランドマスタには三人」
さあ、あと二人。これをどのように引き剥がすかだ。
「あとの二人は、残念ながらいつもいっしょにいて、離れようとしない。氷のレイドに、炎のルーウィン。こいつらは、こっちで用意した、魔導師を一人おとりにして、あんたには残ったほうと戦ってもらう。どうだい? 完璧な作戦だろう? いいね、やるかい?」
「少し考えたい」アーテ王女は、いった。
いったように、もしもやつらに勝つには、相当強力な魔法が必要になる。ただの合成魔術では、到底歯が立たないだろう。
「そうか、でも、もうあんまり時間がないよ、作戦は、ロンバルキアが所要で出かける十日間が勝負だ。もしもあんたが加わらなくても、わたしらだけで戦闘は行なうよ、あんたのポジションには、別の魔導師を立てる」
「・・・・・・・・・・・・」アーテ王女は、少しだまってから、「死にますよ」
「あんた、どれほどの力を持っているというんだ。あんたがいなくったって、わたしらだけで十分できる力は持っている」
「見くびっている」と、アーテ王女は、いった。
あの、魔導師たちの力を。
「あんたの批判は受け付けないよ。やるのか、やらないのか、はっきりしてもらえるかな?」
アーテ王女はしばらくかんがえて。
話をもっと聞いてから、といった。
しかしそれが自身に与えられた運命なら、やるしかない。
竜はいった。
(「事態はお前のすぐ目の前にあること」)
「・・・・・・・・・・・・」
「そうかい、まあいい、あんたなら,よそでは話さないだろう。では仲間に紹介しよう」
そういうと、かかしはジルに、
「いいかね、王女を少し借りますよ」
「ちょっと待った。アーテはまだ、完全に回復していないんだよ。体の、麻酔もせずにされた手術のあとだって、まだふさがっていない。ふとした拍子に開くともかりない。あなた、アーテの体の心配していないの? それとも、自分のことしか、考えていないの。何度もいうけどアーテは疲れているのよ。死ぬほどね」
「・・・・・・・・・・・・」アーテ王女は、気丈にいった。「いいえ」
いいのよ、ジル・・・・・・。
「あんたがいいというんだったら、あたしにはとめる権利はないわ」
かかしとアーテ王女は出かけた。
「この奈落の世界は、広いからね、迷子になってしまうよ」と、かかしが、楽なことばかりをいった。「さあ、こっちだ、ちなみに、ここでの会話は、やつらに盗聴されていないから、安心したまえ。この近くは・・・・・・、絶対に出ることが出来ないというのが、彼らのつよみさ。しかし、わたしらは、その、のど元で、やつらの転覆を計画していると、そういうことだ」
「・・・・・・・・・・・・」
わけがわからない。
しかしかかしは、なにやら自身の行動に確信したような感じを見せている。それが、アーテ王女にとっては不安の種だった。
「・・・・・・・・・・・・」
仲間のところまでは、角をいくつか曲がって、土管の通りをいくつか進んだところにだった。
距離にして、第六区から一、二キロ。
「何ものだっ」
ドアがある。
その中の部屋が、仲間たちの住まいなのだろうか。
「作戦室さ」かかしがいった。
しかし、その前には男の子が棒を持って控え、「ああ、かかしさん、どうぞお入りください、・・・・・・その子は?」
「運命の子だよ。伝説的、竜の力を宿した少女」
「それじゃあもう、作戦は決行なんですか?」
「そういうことだ」
「やった。これで僕も家に帰れる」
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