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第四章 『奇跡を行う国』市民大会

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 『奇跡を行う国』市民大会

 アーテ王女が鍵師の才能があり、真の王女であることが判明すると、今まで疑心暗鬼であった人の列がアーテ王女を真の王女と認めた。
「君に市民権を与えよう、期間はとりあえず三ヶ月、もしも、それ以上の期間、王女として市民権を獲得したいというなら、また別の奇跡を起こしてはくれるかな? いや、君は確かに鍵師だ。しかし、鍵師は『奇跡を行う国』にも何人もいる。それでは君の希少価値というものが阻害されるだろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
 ほかの奇跡?
「それはそうと、家はあるのかね、聞いた話によると、奈落の世界に落とされたところに、君の住まいがあるらしいが、それから、この、地上の世界に鞍替えするといい、マンションをとってあげよう、三ヶ月だけだけど」
 アーテ王女はいった。
 いえ、ありますからご心配なく。
 アーテ王女基金がありますから、奈落の世界に気に入ったうちを用意してもらいましたので、それ以上は望みません。
「あっぱれ、君は本当に外見を気にしない。中身重視の真の王女ということになった」
「それはそうとあんた、ヘルショットには出ないのかね」
「?」
 ヘルショット?
 そういえば、ウサギたちがそのようなはなしをしていた。
 今、『奇跡を行う国』で最高に熱いゲームである。
「そうだ、そうだ、魔法が使えると、報告書にはあった。あんたほどの秀才だ、きっと、ヘルショットでも、いいところまでいくだろう」
「それに勝ち抜けば、あんたの地位は不動のものとなるだろう。そうすれば、きっと永久市民権を受け取ることが出来るだろうよ。何しろヘルショットは、真の魔導師だけが勝ち抜くことが出来る、魔導師の祭典だからね。見ているほうも楽しいけど、やっている人間はもっと楽しいらしいよ」
(「天才魔導師だ、あんた、こんな幼くて、これほど完璧に魔法の氷を出せるなんて、尊敬するよ、あんたを心から・・・・・・」)
「・・・・・・・・・・・・」
「まあいい。とにかくあんたに市民権を期限付きだが与えよう。この国で自由にするように、それがあれば、ちなみに国立図書館の読書室も、フリーパスで進入可能だ。何か調べ物があったら。そこにはいるといいよ」
 アーテ王女が黙って話を聞いていると、会議はどうやら終わるらしかった。
 アーテ王女は王女として、この場所で認められた。
 そうして自身の運命に、ひとつ、終わりをつけたのである。

  * * *

 アーテ王女がその場で立ち尽くしていると、
「あんた、いや、アーテ王女」
 と高級官僚の一人がいった。
「・・・・・・は、知っておるかね? いや、この『奇跡を行う国』の東の森の中に住んでいる、・・・・・・さ。あんたもしも、このあと、伝説とやらと対決することになるのなら、そのことについて、・・・・・・の、指示を仰ぐといいと思うよ、いいね、この、『奇跡を行う国』の東の森の・・・・・・だよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 しばらくすると、面接官たち、高級官僚は、もはや仕事は終わったとばかりに、おのおの席を立ち、どこへともなく、たぶん仕事に戻っていく様子であった。
 アーテ王女がすることもないので、仕方なくかえることにすると、会議室の外には、なんと、黒山の人だかりである。
 アーテ王女を待っていたのだろうか。
 そのようだった。
 人だかりは口々に、
「あなたがアーテ王女ですね」
「どうですか、アーテ王女、王女になられたご感想は」
 どうやらマスコミの連中らしかった。
「市民権はもらえたのですか?」
「これからのご予定は?」
「何をしに、この『奇跡を行う国』にいらしたんですか?」
 質問攻めになって、アーテ王女が何とか人ごみを掻き分けると、どうやら、プレスの人々は、アーテ王女がいなくなった空間に向かって、質問をし続ける様子であった。
 あなたがアーテ王女? 
 違う。
 写真。
 フラッシュ。
 アーテ王女が何とかエレベーターホールに逃れると、スイッチを押して、エレベーターを呼んだ。
 その間にも、プレスの人々の、質問はつづいた。アーテ王女の後を追って、ぞろぞろぞろぞろ。・・・・・・
「アーテ王女あなたは世界を革命しに来たんですか?」
「ご趣味は?」
「・・・・・・・・・・・・」
 アーテ王女は盆雑な質問に飽きて。
 どこの局の人ですか。
 失礼な、わたくしは王女。
 そこをどきなさい。
「そんなことをいっていると、高慢ちきな王女と、そのように報道しますが、それでもよろしいですか?」
「こっちは生ですよ。あなたの高慢な王女ぶりは、『奇跡を行う国』中に広まってしまっています」
 エレベーターが到着した。
 アーテ王女が乗り込むと、プレスのひとびとは、ドアのそとで待機する様子であった。不思議と、エレベーター内には乗っかってこない。
 それが境界?
 彼らは彼らの範疇を守って行動している・・・・・・。
 アーテ王女がボーとして、エレベーターの階数表示に見入っていると、すぐさまエレベーターは一階に到着した。
「アーテ王女」
 アーテ王女が庁舎の外に出ようとすると、
「アーテ王女」
 また新聞屋さん? あたしは今疲れているんです、あとにしてくれませんか?
 そうではなかった。
 アーテ王女が見てみると、その人は、アーテ王女を出向かいに来た、職員ではないか。
「お忘れものです。これが、市民権証明書」
 と、ちいさなカードを手渡した。
 いつの間にとったのだろう。そこには、しっかり写真までついていた。
「それから、これは、高級官僚の皆さんからの心付けです」
といってわたした箱は、どうやら饅頭らしかった。 
アーテ王女がお礼を言ってそこをあとにしようとすると、
「期待してますよ、ヘルショット、テレビで見ています」
 アーテ王女は後ろから手を振って、その声援にこたえた。
 このときである。
 アーテ王女は気がつかなかったが、アーテ王女を凝視するひとつの視線があった。
「?」
 誰かに見られている。
 しかし、プレスにさんざん見られたアーテ王女である。
 きっとまた、そうした人々に違いない。
 アーテ王女がおもっていると、視線を受けている感じもなくなった。
 しかしそれは、このあとの話し、アーテ王女の運命を変える視線であった。
「・・・・・・・・・・・・」
 疲れた。
 何もしていないのに、へとへとであった。
 アーテ王女は近くのマンホールへ入ると、自身の自宅へ帰路についた。
 しかし、みちがわからない。
 どこを、どう曲がってきたのだろうか。
 アーテ王女が困っていると、
「アーテ、こっちよ」
 ジルがいた。
「どうだった? 面接は」
 何とかなった。
 市民権は時間制限のあるものだけど、ほら、もらうことができた。
 時間制限つきの市民カードを提示した。
「すごいじゃない」
 ジルは、驚きながらも悲しげに、
「家はどうするの、やっぱり上のほうがいいのかい?」
 家を用意するとは言われたが、断った。
 何より一ヶ月間くらして、なれたうちのほうがいい。
「そうか」
 と、ジルは安心したげに、
「それ以外には何かいってなかった?」
 ヘルショットに出ろといわれた。
 どうやらわたし、魔術師みたい。
「魔術を使えるの? どんなの? 見せて」
 いわれて、アーテ王女が、ウサギたちのところでやったのと同じように念じると、そこには氷の塊が現れた。
「すごいじゃん、あんた、氷魔使いなんだ」
 氷魔使い?
「氷の魔術を得意とする人々の総称。ほかに何か出せる? もし火炎を出せたら、炎魔使いということになるけど」
 アーテ王女がねじると、そこには今度は燃え盛る火焔が現れた。
「すごい、あんた、デイスナーの才能があるんじゃないの」
「?」
「三種類以上の魔術を操る能力者。これでいかずちの魔術が使えたら、本物」
 そういうので、アーテ王女は再び念じて、すると、手の先にかみなりが沸いた。
「あんた、そうとうな魔力、持っているよ。こんな小さいのに、一日に三回も、魔術が使えるなんて」
 そう?
「そうさ、きっとあんた、ヘルショットに出たら、いいところまでいくとおもうなもちろんもう少し訓練は必要だろうけど」
 アーテ王女は疲れていた。
 できれば家に帰って休みたいとおもうけど。
「そうかい。それではご案内しましょう、アーテ王女様」
 ジルは、うきうき気分であるようだった。
 いったい何にそんなに喜んでいるんだろう。
「え? あたしが喜んでいるって?」
 と、ジルは歩きながら、少しふりむいて、
「当然じゃないか、友達の成功を喜ばないやつはいないよ、あんた、ちょっとおかしいよ」
 そうか、友達、ジルとあたしは友達。
 いい響きだ、アーテ王女はおもった。
 やがて、第六区、アーテ王女の住まいのある区画にたどりついた。
「さあ、今日はもう寝るかい? あたしはこれからちょっと出かけるようがあるけれど、あんたはもう寝るといい。一日に三回も魔術を使って、その上上の世界の高級官僚と対決したんだ。眠るがいいよ」
 アーテ王女はその言に従った。
 靴を脱いで居間に上がり。
 ふとんをしいて、上にタオルケットをかけると、アーテ王女は眠る。
 すると、睡魔はすぐにアーテ王女を襲った。

 アーテ王女は闇のなかにいた。
 どこだろう。
 どうやってきたのだろう。
何をしていたのだろう。
 眠っていた。眠っていて、起きたらここにいた。暗闇。
 アーテ王女があたりを伺うと、向こうのほうに、ぼんやり光がみえるのがみつかった。
 いってみよう。
 アーテ王女が歩みを進めると、前方に見える光は徐々に大きくなっていき。
 半ばぐらいまであるいたことだろうか、光は、おもった以上に大きいことがわかった。遠くから見たときには、さしも大きな光とはおもわなかったが、まるで、伝説の巨竜が巣くう洞窟のようだった。
 伝説の巨竜。
 そういえば、アーテ王女は今までに一度、伝説の、と、呼ばわれる巨竜にあったことがあった。ドロゼードン、そんな名前だっただろうか。鏡を受け取った。
 鏡、それは今どこにあるのだろか。
 アーテ王女はポケット方々探したが、見つからない。
 わすれてきた。どこに?
 部屋。
 アーテ王女はどうしようもなく、ただ、歩くことにした。
 アーテ王女が歩みを、光の方角によって進めると、光の拡大は、歩くによって大きくなり、やがてそれは、大きなビルを飲み込むのに十分な大きさがあることがわかった。
 巨竜がすむにはちょうどいい。
 住んでいるのだろうか、巨竜。竜王。
 アーテ王女さらに近づくと、

 がるる、がるる。

 うなり声がして、その向こうに、なんらかの存在を読み取った。
 アーテ王女が光の中にはいりこむと、確かにそこには伝説の巨竜ドロゼードンがいた。
 いまだに、囚われの身分である。
 それでも、竜王の誇りを失ってはいない。

 がるる、がるる。

 いったいどういうことなのか、アーテ王女にはわからなかったが、どうやら自分は伝説の竜王の住処に来てしまったらしい。
 竜王、いったいあなたは何もの? わたしを呼んだのはあなた?
 すると、巨竜は、

 馬鹿な。
 人間の子よ。
 わしはお前にそんなつまらんことをさせるために、鏡を与えたのではないわ。

「?」

 お前がえた、魔の力、それは、あの鏡に由来するもの。
 それを、お前は何に使おうというのか。
 わしは、お前に世界を革命する力を与えた。
 それがわからぬか。

 わからない。
 どうしてわたしなの?
 竜王よ。答えて、どうしてわたしが、世界を改造するの?

 馬鹿な。
 自身の言われも忘却したか。
 おまえは人の子。
 それにして、伝説の勇者に由来する家柄。
 馬鹿な、人間の子よ。
 己に与えられた目的も忘れたか。
 わしは覚えているぞ。
 生得的に与えられた目的。

 わたしに与えられた任務?
 それは、この、『奇跡を行う国』ではたされるべき目的なの?

 よいか、人間の子よ。
 自身が勇者であることを忘れるな。
 そうして覚えておくことだ。
 お前の力は偉大。
 人にして、人を超えるもの。
 よいか、覚えておくことだ。

 すると、アーテ王女は突然気がとおくなったとでもいいたげに、どこかへ落ちていくような感覚をあじわった。
 吸い込まれる。
 石の、地面にである。

 よいか、忘れるな、人間の子よ。
 お前の力は偉大。
 人にして、人を超えるもの。
 よいか。

 まって、巨竜、竜王よ、あんたはいったいこのわたしに何をさせたいというの?
 わたしにあてえられた任務とはなに?
 そうしてわたしは何をすればいいの?

 自身の任務を果たせ。
 あるがまま、なすがまま。
 進め。
 もしもお前が曇りなく目によって、それを捉えたならば。
 きっとお前の使命は果たされるだろう。

 $。%。&。

 アーテ王女が目覚めると、もう、日の暮れ方になっていた。
 薄暗い。
 アーテ王女が電灯に灯をともすと、八畳の、埃を知らない畳が、微妙な緑色をしていた。
 夢か。
 アーテ王女はおもった。
 しかし、その夢は、とても夢とは思えないほど鮮明で、まるでアーテ王女が自身の目で、たしかに見てきたといわんばかりの様子をみせていた。
 見ると、靴下が汚れている。
 岩の中を歩いたからだ。
 アーテ王女がおもっていると、
「アーテ、いる? ご飯のしたく、手伝いにきた」
 と、ジルが、扉を勢いよくあけて、
「どうしたの? 何かとてつもなく大きなものを目の当たりにして、そうして、どこからその構造の読み取りを始めていいのか、困っている風なようすをていしているけど・・・・・・」
 アーテ王女はジルに、何事も包みなく話した。
 巨竜、竜王。その話。
 するとジルは、
「なるほどね、確かに大きなことね」
 と、あっさりそれをしりのけて、
「でも、いっていることは至極単純じゃない。あなたはあなたのできる、最大限のことをしろ、巨竜だか、竜王だかは、あんたのおもうがままに進めと、そのようにいっているのよ」
 あっさり片付けられたが、アーテ王女には、いまいちピンと来ないものがあった。
 しかし、ようは簡単。ジルはいう。
 自身の信じた方向に向かっていく。
 それがなんなのか。
 ジルとアーテ王女は食事の用意を始めた、お湯を沸かし、お米を研いで、野菜を切わけ、味噌汁をつくる。
 ジルとアーテ王女は、料理が出来ると、一緒のテーブルで食事を取った。
 決めた、わたし、ジル。
 と、アーテ王女はお味噌汁を飲みながらいった。
 参戦する、ヘルショットに。
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