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第二章其の二 奈落の町の町長
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奈落の町の町長
奈落の世界?
アーテ王女が不審な顔をしていると。
「ここよ、あなたが今たっている場所、それが奈落の世界。ようこそ、この世のごみだめ、最後の世界、思想の自由が、最後にのこった場所」
アーテ王女は、少し驚きながらも、少し喜んだ。
「来れたっ」アーテ王女。
「え?」ジル。
わたしはこの場所にきたくて、そうして奇跡を行う国に来ました。
「ここが奈落の世界なの?」
「なに? 奈落の世界に来たくて、『奇跡を行う国』にきたですって? あなた、どういう理解をしているの? こんなところに来たくって、そうしてわざわざやってきたっていうの? いい、ここは表の世界で住めなくなった人間が、最後に訪れる世界なのよ。いわば、ごみだめ、まさにね、いい、あなたは出たくても、二度とは出ることができない世界の住人になりに来たのよ」
だけど、自由なんでしょ?
なにをするにも、考えるにも、発言するにも。
「それはそうだけど・・・・・・あなたみたいな考え方をする人って珍しいわ。珍獣ね、いってみればあんたは」
すると、ジルと名乗った女の子は、
「こっちよ、仲間に紹介するわ。それと、奈落の町の住人たちにもね」
そういうと、ジルは、歩き始めた。
アーテ王女がジルのあとに続いて進むと、
「あなた、何か不思議なところがあるわ。いったいどういうものなのか、それはわたしにはわからないけど、それは、まるで、この世を包み込み、そうしてそのすべてを自身の中に包含してしまうような、凄みがあるわ」
ジルは詩人だ、アーテ王女はおもった。
ジルに続いて、アーテ王女が土管の中のような場所を、歩みを進めると、いくつか曲がり角があって、階段を降り、長い通路をまっすぐ進んだ。やがて、目の前に、とてつもなく広い、ドーム上の構造物が、現れたのは、そうした道を、何度も曲がった後である。
「奈落の町にようこそ、ここが、自由の最後の砦よ」
見ると、町への連絡道のよこっぱしに、それを看板があり。示す文字が読み取れた。
「?」
奈落の町、自由を行なう世界、第六区。
第六区?
ここにはいくつの区画があるのだろうか。
「全部で十二区。それぞれに町長がいて、それぞれに暮らす人々がいる。奈落の世界は地下世界。土管なんかを移動して、別の町とのやりとりが出来る」
町の入り口。
ここから奈落の町、第六区に入ることが出来るのだろう。
見ると、足元には土が、募っていた。
「ああ、これね、運んだのよ。食べ物を栽培するには、何をおいてもまずは、土が必要でしょう?」
看板の前を通る。
そこには、なにやら棒切れをもった、男の子が待機していた。
門番だろうか?
「ジル、なんだ、そいつは」
「大丈夫、仲間よ」
「仲間? それにしてはずいぶんきれいな格好をしているな。まるで地上の世界に住んでいて、毎日毎日。日光で洗濯したような服を着ている」
「・・・・・・・・・・・・」アーテ王女。
「大丈夫よ。あたしが助けたの。警吏に見つかって、たぶん待っていても、この奈落の世界に落とされたでしょうが、一足早く、やってきた、そういうことよ」
「本当だろうな、スパイじゃないか? 上の世界の。もしかしたら、おれたちの動向を調べにやってきた、警吏の手先かもしれないぞ」
「大丈夫だって、あたしがそういうんだから」
「ふん、まあいい、とおれ」
「それで」
と、ジルは、町に向かって歩きながら、
「あなたはいったいなにをしに、この奈落の町にきたというの?」
アーテ王女は答えに詰まった。
なにをしに?
しばらく考えて、「それを探しにきたよう。まあ、観光かな」アーテ王女は答えた。
「観光? 観光・・・・・・あははは、あははは。なに? あんた、この場所に、観光をしにきたの? 馬鹿ね、あははは、あははは、この、地獄のごみだめに、観光をしにきたなんて、おかしい。あははは、あははは」
ジルが笑って、アーテ王女も喜んだ。
そういえば、いつぐらいぶりだろう、笑った人の顔を見たのは。
村長の町では、わらった同世代を見たことはなかった。
それが、今はジルが笑っている。
アーテ王女もつられて笑顔になった。
するとジルが、
「なに、どうしたの? 何がおかしいの?」
あなたが笑ったから、おかしいの。
アーテ王女とジルは、二人で笑った。
アーテ王女は同時におもった、ここには人間らしさが残っている。
人が、人らしくあるために必要な何かが、ここにはある。
アーテ王女が黙っていると、
「いいわ」
と、笑いをとめたジルが、
「あなたを町長のもとへ招待してあげる。きっとあなたは何か別の目的があって、この場所にきたんでしょ? アーテ。それを、今から見つけるといい」
ジルが歩くと、アーテ王女はそれに続いた。
やがて、ジルとアーテ王女は市街地にたどりついた。
バラックの建物がいくつも建っている。
あれは、トタンの家。
ジルは、アーテ王女をともなって、その中で、一番大きな家に、アーテ王女を連れて行った。
町役場
その文字が、家の入り口に見て取れた。
再び、棒切れをもった男の子が、アーテ王女を威圧した。
しかし、それは再びジルに押し殺された。
階段を上がって、一段高床になった、町役場に、アーテ王女は入っていた。
「町長はいますか?」
ジルがいった。
「用はなに? ジル」
受付の女性がいうと、
「あわせたい女の子を連れてきたんですが、どうも、わけありらしくって、一応この町の住人になるかも知れないので、つれてきたんです」
「新規住人ね、いいわ、それじゃあ、町長の面接を行ないます」
「いいわね」と、ジルは、アーテ王女に、いった。「これから町長の面接があるけど、普通に答えればいいから、なに、答えられなくても、この町のどこら辺に住むのかとか、そういうことを決めるにすぎないから、心配しないで」
受付の女性は、なにやら信号を、上に向かって送るようすであった。
来客のサインだろうか、そのようだった。
アーテ王女とジルが二階に上がると、そこには何やら五十代の男性が、急がしそうにタイプに見入ったり、書類に判子を押したりしていた。
ジルが、あいたドアをノックした。
「なんだ」
「来客です」
「客?」
五十代の男性は、そういうと、仕事の手を止めて、
「珍しいな、来客とは、この場所にいると、いろんなことに出くわすが、人が尋ねてくるとは、これはまずない。珍しい」
アーテ王女がジルにともなわれて部屋の中にはいると、
「これはこれは、かわいらしいお客さんだな」
と、奈落の町の町長は、席をアーテ王女にさして、
「どうぞ、まあかけなさい」
アーテ王女が座ると、ジルは、外に出て行くようすであった。
アーテ王女がジルを目で追うと、
「心配しなくてもいいよ、ジルにはあとで思う存分会えるから、で」と、町長は、アーテ王女にむきなおって、「なんの用だろう、わたしに来客とは」
アーテ王女は答えに苦しんだ。
きては見たものの、何をしにきたのかはっきりしない。しばらくの沈黙ののち、アーテ王女が出した答えは、
「観光? 観光? 観光に、この、奈落の世界にやってきたということかい? これは面白い、いや、愉快だ。あんた、本当に、この世界を見物しに、きたと、そういうのかね」
「変ですか?」
アーテ王女が答えると、
「いや、いいもんだ、何をするにも、自身の目で、その対象を捉える。いいことだ、いいことだ。しかし、ここは見たように、奈落の町、表のきれいな世界で見るような建物もないし、なにより遊戯施設なんてものは、町のカジノぐらいのものだ、それも、あんたには到底退屈な、カードゲームがあるだけ、それに、カジノに行きたいのなら、表の世界にいくらでも、立派なのがあろう、そっちにいってみたらどうかね、お嬢さん」
しかし、と、アーテ王女はおもった。
つまり、上の世界は、少しおかしいような気がしまして・・・・・・。
「表の世界は何かひとびとが殺伐としていて、どうも真剣に話をする気にはならない。地下の、人間世界のほうが、わたしの好みに合っていると、そのようにおもいまして・・・・・・」
「そうかい。それはありがとう。あんたはわたしがいいたいことを、すべて言ってくれるよ。あんたに投資したいぐらいだ、あんたなら、金さえ与えられたら、何か、人の驚くべきことをやってのけそうだ。どうだい? あんた、何かしたいことはあるのかね」
アーテ王女はしばらく考えて、
「勉強?」町長はいった。「そうか、文字を習いたいと、そのようにいうのか、いいことだ、人間なにをするにもまずは勉強、そうしておいて、表の世界でも立派にやっていける人間になる、それこそが、人の生きる道というものだ」
「勉強」アーテ王女。
する人は少ないのですか?
「まあね、ここはいわずと知れた、奈落の世界。上の世界で立派にやっていけない人間が、大方転げ落ちて出来た世界だ、たかが知れた人間しか、ここにはいないのさ」
「だけど、自由なんでしょう? 違いますか?」
発言も、何を聞くのも、するのも。
「そうだね、だけど、それを時々逆手に取るやつがいるから困る。知っているだろう? ここにはそのため盗賊団のボスなんてやつもいるんだよ」
しばらくの間。
「それはそうと、あんた、観光してどうするつもりなんだね、ここに住み着く? やめときな、ここは一部の人間を除いて、本当に、奈落の世界。世の中の敗者がやってくる本当に、ついの住処だよ」
アーテ王女は考えた、そういえば、かかしはここにいるのだろうか。
聞いてみると、
「かかし? ああ、あの大っぴらに上の世界の生活を批判した、わら人間か、来たよ、だけど、やめときな、あいつはいまや地獄の腐れ、敗者と化して、裁判の日を、いまや遅しと待っているみ、面会もかなわない、奈落の刑務所に、収監されているよ」
「裁判?」
「そうさ、この世で・・・・・・を批判したものは、決して生きてはいけない。・・・・・・を批判したものは、この世の地獄におとされて、死刑確定判決を待つ身となるのさ、あいつも馬鹿だね、はじめは、しっかりと、上の世界でやっていくすべを持っていたのに、ふとした拍子に変なことをかんがえてしまって、本当に馬鹿なやつさ」
「すると、かかしさんは死刑になるんですか?」
「ああ、あれだけ大袈裟に、・・・・・・を批判したら、ただでは済まないだろう。あたしだって、本当は、それは正しいことだろうとおもうよ、しかしね、自身の生活を犠牲にして、『奇跡を行う国』に立ち向かうなんて、天才以外に考えられないよ。もしもあいつが、もっといろいろなことの出来る天才だったなら、それはそれでゆるされたのだろうが、この世を支配する、・・・・・・とだよ、まともに戦おうなんて、信じられないね」
「死刑はいつ?」
「さあ、もうすぐではないかね、たぶん火あぶりさ。かかしだから、じわりじわりと、火が体に回り、苦痛に顔をゆがめて死ぬだろうよ、あいつは」
「・・・・・・・・・・・・」
「時に、本当にあんた、この世界の住人になるのかい? もしかして、市民権がないから、しょうがなく、ここにきたとか、もしもあんたに、『奇跡を行う国』で、認められている『奇跡』を起こす力があるなら、あんたを上の世界に復帰させる手続きをとることは出来るけど、どうするね? 一応しとく?」
アーテ王女がかかしのことを考えてボーとしていると、
「なあ、あんた、手続きはしておくかい?」
「え」
「手続き」
「あ、はい。」アーテ王女は、はっとしていった。「お願いします」
「わかった、しておこう、で、あんたどういう奇跡が起こせるの? それがないと、上の世界での復帰は難しいな」
「奇跡?」
「そう、奇跡」
「奇跡ってなに?」
「何でもいいんだよ、何か専門的に出来ること、たとえば何かが書けるとか、何かが読めるとか、そういうのでもいいんだよ、なんだい。いってごらん。なにがあんたは出来るんだね?」
アーテ王女が黙っていると、
「あんた、何か出来ることはないのかね? そうなると、ちょっと上の世界での復帰は出来ないかな。そういえば、あんたこれから文字を読むことを覚えるとかいってたね。それでは『奇跡を行う国』の文字が読めないのか、困ったな、それだと、わたしとしても、国立合同庁舎に推薦のしようがない。何か出来ないのかね、何でもいい」
再びアーテ王女は困った。
読める、といっても、それはたいしたことではない。それをもって、奇跡? と、いうわけにはいかない。
奇跡。
このときアーテ王女がおもったのは、出来る出来ない云々よりも、奇跡とは何かということだった。
「あんた、知らんのかね」
と、町長がいった。
「この国はね、かつて奇跡とされたことを積み重なって出来ているんだよ。魔法を使える、文字が読める、書ける、鍵が開けられる、料理が作れる。これらはみな、かつては奇跡とされたことどもなのさ。それらが積み重なって出来たもの、それが、『奇跡を行う国』なのさ。元にあった奇跡を、越えるものが現れて、それが奇跡ではないといわれるまで、それが奇跡としてプライドを持って与えられる、それが、『奇跡を行う国』なのさ」
奇跡?
それは、日常のどこにでもあること?
アーテ王女が考えていると、
「何の荷物を持っているのかね」
と町長が、アーテ王女の荷物に関心を持った。
アーテ王女がそれを広げると、町長が、何かの奇跡を探しに、ひっくりかえした。
「なるほど、どうやらあんたは雑多な知識を蓄えてきたらしい。あんたの荷物の中に、それが現れているよ。新聞紙にトイレットペーパー、折りたたみナイフに雨合羽、傘、Tシャツ、スプーン、ホーク、ナイフ、靴下か、いったいあんたはなんなんだい? こんなものを持ってきて、この場所で、何をしようと、そういうのかね・・・・・・ん?」
と、町長が、
「これはあんた、手鏡か、いや、そうではない、あんた、こりゃ、伝説の、・・・・・・ではないか」
伝説の・・・・・・?
「それにこっちは」
と、それはアーテ王女が長橋国を旅立つときにもってきた、金の鍵であった。
「こりゃ、あんた、伝説の金の鍵かね、すべての扉を開けてしまうといわれる、伝説の・・・・・・。」
「?」
アーテ王女が黙っていると、問題は勝手に進行するらしかった。
「こりゃ大変だ」と、町長は、あわてた。「大変な伝説を背負った人間がやってきた。これは大変だ、あんた、すぐに上のほうには届出を出しとくから、しばらくは、この住所で滞在しなさい」
すると、町長は、アーテ王女に走り書きしたメモをわたし、鍵をわたし、また、いくらかのお金をわたし、
「大変だ、大変だ」と、何か仕事に戻っていった。「住所がわからなかったら、下の受付か、ジルに聞くんだよ。ジルのやつなんという子供をつれてきたんだ、本当に、盗賊だからって、とんでもないものをつれてきてくれた。いや、ジルはね、盗賊で、上の世界から、ものを盗んで生計を立てているんだよ」
すると、町長は、
「大変だ、大変だ」
また仕事に戻っていった。
「そうそう、あんた名前は?」
「アーテ」
アーテ王女が見ていると、町長は何かをタイプし、そうしてそれの写しをとって、また書簡にまとめると、どこかへ、たぶん郵便屋のほうに去っていった。
アーテ王女は自身荷物をまとめなおすと、階段を降りて、帰る。
住所?
アーテ王女が紙を見ていると、
「あら、お話は終わったの? 何か町長、おかしくなかった?」
と、受付嬢に捕まった。
そのようです。何か、大変なことがおきたご様子。
「お大事に」アーテ王女。
アーテ王女が町役場の外にでると、ジルが待っていた。
「どうだった? 住処はもらえた?」
アーテ王女が住所を書いた紙をわたすと、
「そう、よかったわ。ここにね、あんたが住む。これ、あたしのうちのすぐ近く。案内してあげる」
ジルの好意にアーテ王女はよった。
奈落の世界のアーテ王女
ジルとアーテ王女が町の中を、さまようようにあるいていると、近くに住んでいる、たぶん悪ガキが、声を投げ掛けてきた。
「おい、ジル、なにをよそ者と歩いているんだよ」
「やめときな、ジル、そいつはこの世界の住人じゃない、良かれが移るぞ」
「そうだ、そうだ、きっとそいつは自分だけ、よけりゃいいっていう、上のやつらと一緒だ」
「なに馬鹿なことをいっているの」
とジルが、
「この人はね、しっかり町長から住所を与えられた身分なんだよ、あんたなんか、いまだに瓦礫住まいじゃないか、口を慎むことだね」
「なんだって? 町長に、家を?」
すると、ジルが、
「そうさ、やっと気がついたかい、あんたとは、この子はね、住む世界が違うんだよ」
「なんだい、ジル、お前、気でも触れたのか? まさか、上流階級のお仲間入りした気分かね」
「そんなんじゃないよ。ただ、あんたがあまりに馬鹿だから、そういうことを言ったのさ」
「ふん、いこうぜ、あんな腐れ女ほっといって」
すると、少年たちは、どこか、たぶん遊び場に去っていった。
「気にすることないよ、あいつらは、根はいいやつらなんだ。ただ少し運が悪くって、悩んでいるだけなのさ。生まれが悪い、育ちが悪い、そうしたちょっとずつの運がわるかったために、こんな世界で一生を終える身分になった、そういうことさ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女はだまって、ジルのあとについていった。
しばらく歩く。
すると、大きな街路樹のたった広場があり、いくつかの商店があり。
それらも過ぎると、アーテ王女の家に到着した。
「さあ、ここがあんたの新しいすまいだ」
見ると、バラックながら、つつましくも、こじんまりとした家が、アーテ王女を出迎えた。
アーテ王女は即座にその家を気にいった。
あけていいのかしら?
「どうぞ、これはあなたの家。ご自由にお使いください」
アーテ王女は町長から預かった鍵を使って扉を開けた。
すると、扉はうもなくアーテ王女の行動に反応し、
ガラガラ、がらがら
開かれた。
奈落の世界?
アーテ王女が不審な顔をしていると。
「ここよ、あなたが今たっている場所、それが奈落の世界。ようこそ、この世のごみだめ、最後の世界、思想の自由が、最後にのこった場所」
アーテ王女は、少し驚きながらも、少し喜んだ。
「来れたっ」アーテ王女。
「え?」ジル。
わたしはこの場所にきたくて、そうして奇跡を行う国に来ました。
「ここが奈落の世界なの?」
「なに? 奈落の世界に来たくて、『奇跡を行う国』にきたですって? あなた、どういう理解をしているの? こんなところに来たくって、そうしてわざわざやってきたっていうの? いい、ここは表の世界で住めなくなった人間が、最後に訪れる世界なのよ。いわば、ごみだめ、まさにね、いい、あなたは出たくても、二度とは出ることができない世界の住人になりに来たのよ」
だけど、自由なんでしょ?
なにをするにも、考えるにも、発言するにも。
「それはそうだけど・・・・・・あなたみたいな考え方をする人って珍しいわ。珍獣ね、いってみればあんたは」
すると、ジルと名乗った女の子は、
「こっちよ、仲間に紹介するわ。それと、奈落の町の住人たちにもね」
そういうと、ジルは、歩き始めた。
アーテ王女がジルのあとに続いて進むと、
「あなた、何か不思議なところがあるわ。いったいどういうものなのか、それはわたしにはわからないけど、それは、まるで、この世を包み込み、そうしてそのすべてを自身の中に包含してしまうような、凄みがあるわ」
ジルは詩人だ、アーテ王女はおもった。
ジルに続いて、アーテ王女が土管の中のような場所を、歩みを進めると、いくつか曲がり角があって、階段を降り、長い通路をまっすぐ進んだ。やがて、目の前に、とてつもなく広い、ドーム上の構造物が、現れたのは、そうした道を、何度も曲がった後である。
「奈落の町にようこそ、ここが、自由の最後の砦よ」
見ると、町への連絡道のよこっぱしに、それを看板があり。示す文字が読み取れた。
「?」
奈落の町、自由を行なう世界、第六区。
第六区?
ここにはいくつの区画があるのだろうか。
「全部で十二区。それぞれに町長がいて、それぞれに暮らす人々がいる。奈落の世界は地下世界。土管なんかを移動して、別の町とのやりとりが出来る」
町の入り口。
ここから奈落の町、第六区に入ることが出来るのだろう。
見ると、足元には土が、募っていた。
「ああ、これね、運んだのよ。食べ物を栽培するには、何をおいてもまずは、土が必要でしょう?」
看板の前を通る。
そこには、なにやら棒切れをもった、男の子が待機していた。
門番だろうか?
「ジル、なんだ、そいつは」
「大丈夫、仲間よ」
「仲間? それにしてはずいぶんきれいな格好をしているな。まるで地上の世界に住んでいて、毎日毎日。日光で洗濯したような服を着ている」
「・・・・・・・・・・・・」アーテ王女。
「大丈夫よ。あたしが助けたの。警吏に見つかって、たぶん待っていても、この奈落の世界に落とされたでしょうが、一足早く、やってきた、そういうことよ」
「本当だろうな、スパイじゃないか? 上の世界の。もしかしたら、おれたちの動向を調べにやってきた、警吏の手先かもしれないぞ」
「大丈夫だって、あたしがそういうんだから」
「ふん、まあいい、とおれ」
「それで」
と、ジルは、町に向かって歩きながら、
「あなたはいったいなにをしに、この奈落の町にきたというの?」
アーテ王女は答えに詰まった。
なにをしに?
しばらく考えて、「それを探しにきたよう。まあ、観光かな」アーテ王女は答えた。
「観光? 観光・・・・・・あははは、あははは。なに? あんた、この場所に、観光をしにきたの? 馬鹿ね、あははは、あははは、この、地獄のごみだめに、観光をしにきたなんて、おかしい。あははは、あははは」
ジルが笑って、アーテ王女も喜んだ。
そういえば、いつぐらいぶりだろう、笑った人の顔を見たのは。
村長の町では、わらった同世代を見たことはなかった。
それが、今はジルが笑っている。
アーテ王女もつられて笑顔になった。
するとジルが、
「なに、どうしたの? 何がおかしいの?」
あなたが笑ったから、おかしいの。
アーテ王女とジルは、二人で笑った。
アーテ王女は同時におもった、ここには人間らしさが残っている。
人が、人らしくあるために必要な何かが、ここにはある。
アーテ王女が黙っていると、
「いいわ」
と、笑いをとめたジルが、
「あなたを町長のもとへ招待してあげる。きっとあなたは何か別の目的があって、この場所にきたんでしょ? アーテ。それを、今から見つけるといい」
ジルが歩くと、アーテ王女はそれに続いた。
やがて、ジルとアーテ王女は市街地にたどりついた。
バラックの建物がいくつも建っている。
あれは、トタンの家。
ジルは、アーテ王女をともなって、その中で、一番大きな家に、アーテ王女を連れて行った。
町役場
その文字が、家の入り口に見て取れた。
再び、棒切れをもった男の子が、アーテ王女を威圧した。
しかし、それは再びジルに押し殺された。
階段を上がって、一段高床になった、町役場に、アーテ王女は入っていた。
「町長はいますか?」
ジルがいった。
「用はなに? ジル」
受付の女性がいうと、
「あわせたい女の子を連れてきたんですが、どうも、わけありらしくって、一応この町の住人になるかも知れないので、つれてきたんです」
「新規住人ね、いいわ、それじゃあ、町長の面接を行ないます」
「いいわね」と、ジルは、アーテ王女に、いった。「これから町長の面接があるけど、普通に答えればいいから、なに、答えられなくても、この町のどこら辺に住むのかとか、そういうことを決めるにすぎないから、心配しないで」
受付の女性は、なにやら信号を、上に向かって送るようすであった。
来客のサインだろうか、そのようだった。
アーテ王女とジルが二階に上がると、そこには何やら五十代の男性が、急がしそうにタイプに見入ったり、書類に判子を押したりしていた。
ジルが、あいたドアをノックした。
「なんだ」
「来客です」
「客?」
五十代の男性は、そういうと、仕事の手を止めて、
「珍しいな、来客とは、この場所にいると、いろんなことに出くわすが、人が尋ねてくるとは、これはまずない。珍しい」
アーテ王女がジルにともなわれて部屋の中にはいると、
「これはこれは、かわいらしいお客さんだな」
と、奈落の町の町長は、席をアーテ王女にさして、
「どうぞ、まあかけなさい」
アーテ王女が座ると、ジルは、外に出て行くようすであった。
アーテ王女がジルを目で追うと、
「心配しなくてもいいよ、ジルにはあとで思う存分会えるから、で」と、町長は、アーテ王女にむきなおって、「なんの用だろう、わたしに来客とは」
アーテ王女は答えに苦しんだ。
きては見たものの、何をしにきたのかはっきりしない。しばらくの沈黙ののち、アーテ王女が出した答えは、
「観光? 観光? 観光に、この、奈落の世界にやってきたということかい? これは面白い、いや、愉快だ。あんた、本当に、この世界を見物しに、きたと、そういうのかね」
「変ですか?」
アーテ王女が答えると、
「いや、いいもんだ、何をするにも、自身の目で、その対象を捉える。いいことだ、いいことだ。しかし、ここは見たように、奈落の町、表のきれいな世界で見るような建物もないし、なにより遊戯施設なんてものは、町のカジノぐらいのものだ、それも、あんたには到底退屈な、カードゲームがあるだけ、それに、カジノに行きたいのなら、表の世界にいくらでも、立派なのがあろう、そっちにいってみたらどうかね、お嬢さん」
しかし、と、アーテ王女はおもった。
つまり、上の世界は、少しおかしいような気がしまして・・・・・・。
「表の世界は何かひとびとが殺伐としていて、どうも真剣に話をする気にはならない。地下の、人間世界のほうが、わたしの好みに合っていると、そのようにおもいまして・・・・・・」
「そうかい。それはありがとう。あんたはわたしがいいたいことを、すべて言ってくれるよ。あんたに投資したいぐらいだ、あんたなら、金さえ与えられたら、何か、人の驚くべきことをやってのけそうだ。どうだい? あんた、何かしたいことはあるのかね」
アーテ王女はしばらく考えて、
「勉強?」町長はいった。「そうか、文字を習いたいと、そのようにいうのか、いいことだ、人間なにをするにもまずは勉強、そうしておいて、表の世界でも立派にやっていける人間になる、それこそが、人の生きる道というものだ」
「勉強」アーテ王女。
する人は少ないのですか?
「まあね、ここはいわずと知れた、奈落の世界。上の世界で立派にやっていけない人間が、大方転げ落ちて出来た世界だ、たかが知れた人間しか、ここにはいないのさ」
「だけど、自由なんでしょう? 違いますか?」
発言も、何を聞くのも、するのも。
「そうだね、だけど、それを時々逆手に取るやつがいるから困る。知っているだろう? ここにはそのため盗賊団のボスなんてやつもいるんだよ」
しばらくの間。
「それはそうと、あんた、観光してどうするつもりなんだね、ここに住み着く? やめときな、ここは一部の人間を除いて、本当に、奈落の世界。世の中の敗者がやってくる本当に、ついの住処だよ」
アーテ王女は考えた、そういえば、かかしはここにいるのだろうか。
聞いてみると、
「かかし? ああ、あの大っぴらに上の世界の生活を批判した、わら人間か、来たよ、だけど、やめときな、あいつはいまや地獄の腐れ、敗者と化して、裁判の日を、いまや遅しと待っているみ、面会もかなわない、奈落の刑務所に、収監されているよ」
「裁判?」
「そうさ、この世で・・・・・・を批判したものは、決して生きてはいけない。・・・・・・を批判したものは、この世の地獄におとされて、死刑確定判決を待つ身となるのさ、あいつも馬鹿だね、はじめは、しっかりと、上の世界でやっていくすべを持っていたのに、ふとした拍子に変なことをかんがえてしまって、本当に馬鹿なやつさ」
「すると、かかしさんは死刑になるんですか?」
「ああ、あれだけ大袈裟に、・・・・・・を批判したら、ただでは済まないだろう。あたしだって、本当は、それは正しいことだろうとおもうよ、しかしね、自身の生活を犠牲にして、『奇跡を行う国』に立ち向かうなんて、天才以外に考えられないよ。もしもあいつが、もっといろいろなことの出来る天才だったなら、それはそれでゆるされたのだろうが、この世を支配する、・・・・・・とだよ、まともに戦おうなんて、信じられないね」
「死刑はいつ?」
「さあ、もうすぐではないかね、たぶん火あぶりさ。かかしだから、じわりじわりと、火が体に回り、苦痛に顔をゆがめて死ぬだろうよ、あいつは」
「・・・・・・・・・・・・」
「時に、本当にあんた、この世界の住人になるのかい? もしかして、市民権がないから、しょうがなく、ここにきたとか、もしもあんたに、『奇跡を行う国』で、認められている『奇跡』を起こす力があるなら、あんたを上の世界に復帰させる手続きをとることは出来るけど、どうするね? 一応しとく?」
アーテ王女がかかしのことを考えてボーとしていると、
「なあ、あんた、手続きはしておくかい?」
「え」
「手続き」
「あ、はい。」アーテ王女は、はっとしていった。「お願いします」
「わかった、しておこう、で、あんたどういう奇跡が起こせるの? それがないと、上の世界での復帰は難しいな」
「奇跡?」
「そう、奇跡」
「奇跡ってなに?」
「何でもいいんだよ、何か専門的に出来ること、たとえば何かが書けるとか、何かが読めるとか、そういうのでもいいんだよ、なんだい。いってごらん。なにがあんたは出来るんだね?」
アーテ王女が黙っていると、
「あんた、何か出来ることはないのかね? そうなると、ちょっと上の世界での復帰は出来ないかな。そういえば、あんたこれから文字を読むことを覚えるとかいってたね。それでは『奇跡を行う国』の文字が読めないのか、困ったな、それだと、わたしとしても、国立合同庁舎に推薦のしようがない。何か出来ないのかね、何でもいい」
再びアーテ王女は困った。
読める、といっても、それはたいしたことではない。それをもって、奇跡? と、いうわけにはいかない。
奇跡。
このときアーテ王女がおもったのは、出来る出来ない云々よりも、奇跡とは何かということだった。
「あんた、知らんのかね」
と、町長がいった。
「この国はね、かつて奇跡とされたことを積み重なって出来ているんだよ。魔法を使える、文字が読める、書ける、鍵が開けられる、料理が作れる。これらはみな、かつては奇跡とされたことどもなのさ。それらが積み重なって出来たもの、それが、『奇跡を行う国』なのさ。元にあった奇跡を、越えるものが現れて、それが奇跡ではないといわれるまで、それが奇跡としてプライドを持って与えられる、それが、『奇跡を行う国』なのさ」
奇跡?
それは、日常のどこにでもあること?
アーテ王女が考えていると、
「何の荷物を持っているのかね」
と町長が、アーテ王女の荷物に関心を持った。
アーテ王女がそれを広げると、町長が、何かの奇跡を探しに、ひっくりかえした。
「なるほど、どうやらあんたは雑多な知識を蓄えてきたらしい。あんたの荷物の中に、それが現れているよ。新聞紙にトイレットペーパー、折りたたみナイフに雨合羽、傘、Tシャツ、スプーン、ホーク、ナイフ、靴下か、いったいあんたはなんなんだい? こんなものを持ってきて、この場所で、何をしようと、そういうのかね・・・・・・ん?」
と、町長が、
「これはあんた、手鏡か、いや、そうではない、あんた、こりゃ、伝説の、・・・・・・ではないか」
伝説の・・・・・・?
「それにこっちは」
と、それはアーテ王女が長橋国を旅立つときにもってきた、金の鍵であった。
「こりゃ、あんた、伝説の金の鍵かね、すべての扉を開けてしまうといわれる、伝説の・・・・・・。」
「?」
アーテ王女が黙っていると、問題は勝手に進行するらしかった。
「こりゃ大変だ」と、町長は、あわてた。「大変な伝説を背負った人間がやってきた。これは大変だ、あんた、すぐに上のほうには届出を出しとくから、しばらくは、この住所で滞在しなさい」
すると、町長は、アーテ王女に走り書きしたメモをわたし、鍵をわたし、また、いくらかのお金をわたし、
「大変だ、大変だ」と、何か仕事に戻っていった。「住所がわからなかったら、下の受付か、ジルに聞くんだよ。ジルのやつなんという子供をつれてきたんだ、本当に、盗賊だからって、とんでもないものをつれてきてくれた。いや、ジルはね、盗賊で、上の世界から、ものを盗んで生計を立てているんだよ」
すると、町長は、
「大変だ、大変だ」
また仕事に戻っていった。
「そうそう、あんた名前は?」
「アーテ」
アーテ王女が見ていると、町長は何かをタイプし、そうしてそれの写しをとって、また書簡にまとめると、どこかへ、たぶん郵便屋のほうに去っていった。
アーテ王女は自身荷物をまとめなおすと、階段を降りて、帰る。
住所?
アーテ王女が紙を見ていると、
「あら、お話は終わったの? 何か町長、おかしくなかった?」
と、受付嬢に捕まった。
そのようです。何か、大変なことがおきたご様子。
「お大事に」アーテ王女。
アーテ王女が町役場の外にでると、ジルが待っていた。
「どうだった? 住処はもらえた?」
アーテ王女が住所を書いた紙をわたすと、
「そう、よかったわ。ここにね、あんたが住む。これ、あたしのうちのすぐ近く。案内してあげる」
ジルの好意にアーテ王女はよった。
奈落の世界のアーテ王女
ジルとアーテ王女が町の中を、さまようようにあるいていると、近くに住んでいる、たぶん悪ガキが、声を投げ掛けてきた。
「おい、ジル、なにをよそ者と歩いているんだよ」
「やめときな、ジル、そいつはこの世界の住人じゃない、良かれが移るぞ」
「そうだ、そうだ、きっとそいつは自分だけ、よけりゃいいっていう、上のやつらと一緒だ」
「なに馬鹿なことをいっているの」
とジルが、
「この人はね、しっかり町長から住所を与えられた身分なんだよ、あんたなんか、いまだに瓦礫住まいじゃないか、口を慎むことだね」
「なんだって? 町長に、家を?」
すると、ジルが、
「そうさ、やっと気がついたかい、あんたとは、この子はね、住む世界が違うんだよ」
「なんだい、ジル、お前、気でも触れたのか? まさか、上流階級のお仲間入りした気分かね」
「そんなんじゃないよ。ただ、あんたがあまりに馬鹿だから、そういうことを言ったのさ」
「ふん、いこうぜ、あんな腐れ女ほっといって」
すると、少年たちは、どこか、たぶん遊び場に去っていった。
「気にすることないよ、あいつらは、根はいいやつらなんだ。ただ少し運が悪くって、悩んでいるだけなのさ。生まれが悪い、育ちが悪い、そうしたちょっとずつの運がわるかったために、こんな世界で一生を終える身分になった、そういうことさ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女はだまって、ジルのあとについていった。
しばらく歩く。
すると、大きな街路樹のたった広場があり、いくつかの商店があり。
それらも過ぎると、アーテ王女の家に到着した。
「さあ、ここがあんたの新しいすまいだ」
見ると、バラックながら、つつましくも、こじんまりとした家が、アーテ王女を出迎えた。
アーテ王女は即座にその家を気にいった。
あけていいのかしら?
「どうぞ、これはあなたの家。ご自由にお使いください」
アーテ王女は町長から預かった鍵を使って扉を開けた。
すると、扉はうもなくアーテ王女の行動に反応し、
ガラガラ、がらがら
開かれた。
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