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第五章其の二
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北の山の洞窟。
そこに大事な道具が待っている?
あのおばあさんはそういった。
それも、帰りつくために必要な道具が待っているという。
長橋国。
アーテ王女はこのとき、帰る、その問題よりも、はるかに大きく、その、神童伝説に期待を持っていた。
あたしは神童。
この世界を変えに来たもの。
そのことは、直接この国を、よく知ることにつながる。
アーテ王女はこのとき、九十近いおばあさんがいった、伝説の話に、大きな期待をかけていた。
アーテ王女は冒険がしたい。
自身、本の中にあるような世界に対して、強く働きかけを行なうために、この世界にやってきたのである。
アーテ王女はおもった。
帰る?
それは、この国のことを、もっとよく知ってからだ。
われわれのこの、小さな哲学者であるアーテ王女は、行動派の王女である。
北の山の中に、何か不思議なものがあるらしいことを知ると、それに向かって一直線につきすすむタイプの王女様だった。
早速、準備にとりかかった。
まずは、地図を見て、北の山の地図を手に入れる。
そうしていまいる位置と、そうして目的とする場所への直線距離をはじきだすのである。
村長に、アーテ王女は書斎にある本の使用許可をとると、早速アーテ王女は村長の書斎に飛び込んだ。
幾多の本が並んだ、村長の図書室。
それらは、アーテ王女にも、読める範囲の文字で書かれた本だったが、中には何語で書かれたのかわからない本も混じっていた。『奇跡を行う国』で使われている文字なのだろうか。
アーテ王女が書架を順々に見ていくと、やがて、お目当ての本を発見することができた。
アーテ王女のお目当ての本。
すなわち地図帳である。
アーテ王女はその、片手で持つには大きすぎる本を、からだいっぱいに抱え、机へ運ぶと、椅子にたったまま、アーテ王女は早速その本を、めくっていった。
しかし、このときアーテ王女は不思議な光景を目に留めた。
めくるページ、めくるページ、どれもが、どうしたことか、まるで、霧でもかかってしまったかのように、かすれて見えないのである。
目を、アーテ王女がこすっても、それは同じであった。
やっと見えたのは、大きな文字で、『オケストラバーグ』と、書かれた場所の地図である。
まるで地図が、それ以外は見せないぞと、いって、アーテ王女を妨害しているようだった。
この場所にいけと、地図は言っているかのようにおもわれた。
しかし、まあ、それはいい。
アーテ王女はこの、不思議な世界の不思議な地図には目をつぶることにした。
問題は地図である。
大見出しである。
『オケストラバーグ』。
その近くには、バンズの町はあるだろうか。
残念ながら、海岸線を確認することはできなかった。
しかし、ここが、『奇跡を行う国』の首都かと、アーテ王女は納得することができた。
『オケストラバーグ』の町を眺めると、いくつもの長い道路が放射線状にあって、それが一点で交差する、まるで、円グラフのような町並みが見て取れた。計画に計画を重ねて作られたであろう町は、その一点に、なにを持っているのだろうか。国家中央庁舎の文字を発見することができた。
これが、『奇跡を行う国』の中枢なのであろう。
このあと、この場所に、いくことなどあるのだろうか。
しかし今は計画である。
アーテ王女が『オケストラバーグ』の地図から、南西へと、地図をたどると、その地図は、次の次のページに載っていることがわかった。
果たしてそこに、お目当ての町が、バンズの町があるのだろうか。
アーテ王女がめくると、ぴったし。
バンズの港町を、地図の中に発見することができた。
バンズの町。それは、『オケストラバーグ』の南西に位置する。
みると、地図が載っていた。それほど大きな町ではないが、周辺にある、薄ピンク色に塗られた市街地よりは、他を一新するようすが見て取れた。
アーテ王女が地図を眺めると、その北、数キロのところに、霞のなか、なにやら山並みらしいものを発見できた。
もやがかかった山脈。
『オケストラバーグ』と、バンズの港町を隔てる、山並み。
その一部に、ノーザンマウンテンの文字を発見することができた。
ここが、あのおばあさんのいっていた、北の山なのだろうか。
たぶんそうだと、アーテ王女はおもった。
アーテ王女が本にみいっていると、後ろのほうで、ドアの開く音がした。
「なにをしているのです、王女」
「おお、やはりここだったか、アーテ王女」
みると、それは、いつもアーテ王女に学問の質問に来ている青年に、村長だった。
「あんたが何か調べ物をしているというので、ついでにつれてきたんだよ」
村長が言うと、
「また、少しわからないところがでてきたので、質問に来たんですが、お忙しいようでしたら日を改めます」
青年がいった。
「なにを調べておるのだね」
村長が、アーテ王女に近づきながらいった。
そうして、アーテ王女が開いている地図帳をみて、
「ほうほう、地理かい? あんた、地理に関心があったのかい?」
「地理のお勉強中でしたか、それではまた、本格的に日を改めます、お邪魔をしてはならない」
しかし、村長は、「なにをいっとるんだ、たかが地理の勉強、にさん質問する暇ぐらいは、王女にもあるだろう」
アーテ王女は、「ええ、どうぞ、質問をしてください」気丈に答えた。
アーテ王女が答えると、青年は、デカルト哲学についての、スピノザ哲学との相違点について、質問した。
アーテ王女が質問に答えると、
「わかりました、なんだ、そんなことだったのか。いや、問題は解決されました」
アーテ王女が質問に答えられて喜んでいると、
「なあ、アーテ王女」
と、村長がいった。
「あんたも何か質問するといい、もちろん哲学なら、あんたのほうが、知識は豊富なほうだが、地理なら、わしら、『ここ』に住んでいるものにも答えられ、そうして知識も豊富なはずじゃ」
なるほど。
そういう手があったか。
アーテ王女がおもっていると、
「なるほど、北の山ですか」
と、『ノーザンマウンテン』と書かれた地図に見入っているアーテ王女をみて、青年がいった。
「それならわたしも知っている、しかし、アーテ王女、あなたはそこに行くつもりですか?」
「?」
「なんだったかのう、ノーザンマウンテン。いったいそこにはなにがあったかのう」
「なにを言っているんですか、村長」
青年が、いった。
「そこには昔から、『叡智を行なう竜』がいると、伝説的に語られる山じゃないですか」
「え? そうじゃ、そうじゃ、そんなこともあったかのう。いや、ついついうっかりして、忘れておったよ、そうか、『叡智を行なう竜』そんなものがあったか」
「?」
アーテ王女が黙って聞いていると、青年が、話を続ける様子であった。
「『叡智を行なう竜』は、この国の、すべての賢いものにその姿を見せるといわれる存在で、もしもその姿を見たものは、この世界を変えることができるという、伝説を持った存在なのです。あなたも、そこにいくのですか? 今まで最後にその場所にいったのは、千年前、一人の少年だったといわれています。そのときは、その少年は、『叡智を行なう竜』の姿を見られなかったといわれています。もしも『叡智を行なう竜』をその目に写すことができれば、この世のあらゆる精気を、その中に吸収し、また、放出することができるといわれている、竜です」
アーテ王女が話しに聞き入っていると、村長が。
「いや、実はわしも、その場所にいったことがあるのじゃよ、もしかしたら、わしにも、この世界を革命する力があるのかも知れないとな、しかし、そのときは、わしの前には、その竜は、姿を見せてはくれんかった。その竜は、わしに、世界を革命する力はないと、判断したようじゃ」
「かくゆうわたしも」と、青年も、いった。「その、『叡智を行なう竜』に、謁見を求めた一人です。それは、今から三年前のことでした」
千年前の話はどうなったのだろうかと、アーテ王女がおもっていると、
「千年というのは」と、村長が、答えた。「伝説時間じゃよ、もしも、日常の時間と、伝説の時間が交差するようなことが起きれば、あちこちめちゃくちゃになってしまうだろう? 伝説は伝説、日常は日常、そういうことだ」
いや、話がどうもわからない。
アーテ王女がおもっていると、
「つまり、本当にあることは、今がいつかということと、今が、いつではないかということ、そうして、伝説とは、伝説。仮にあったとしても、それは日常とはかけ離れたものであるため、存在はしても、日常とは別個に考えられるということだ。それによれば、あんたのこのあとの行動も、日常的な行動ではあるけれど、時が時だけに、伝説と、そのように呼ばれることがあると、そういうことだ。もしも、あんたが、あえればそれは伝説になる、しかし、もしもあえなければ、それは伝説とはならない。つまり、伝説と、そうではないこととの間にあるのは、あうことができるのか、あるいはできないのか、ということだ」
アーテ王女がわかったようなわからないような顔をしていると、
「それじゃあ」と、青年がいった。
「わたしは教えてもらいたいことは教えてもらいましたので、これでお暇させてもらいます」
「そうか」と、村長が、「それではわしも、日課の庭仕事に戻るかな」
二人の人間はそうして去っていった。
跡に残されたのは、アーテ王女一人。
アーテ王女は一人残されると、しょうがないので机に向かった。
あるのは日常的な出来事だけ、それが、伝説と呼ばれるのは、会うことができるから・・・・・・。
アーテ王女がしばらく二人に話の余韻に浸っていると、どこからともなく風が吹き、
派羅派羅派羅派羅。
地図帳のページを、勝手にめくった。
アーテ王女がその、最後に開かれたページを見ると、そこにはなんとノーザンマウンテンまでの、バンズの港町からの地図が、描かれていた。
「・・・・・・・・・・・・」
このときアーテ王女がおもった疑問はアーテ王女のこのあとに、とてもいい示唆を与えた疑問であるといっていい。アーテ王女は、この世界にあって、幾度もそれを経験し、そうしてしてきた、これが、それである。すなわちだれか、何か、自然を超越した存在に、自身の生活を、抑制し、支配されているような感覚をもったことである。
「・・・・・・・・・・・・」
もしかしたら、自分ははじめから、あたかも自分の手で、生きてきて、そうしてここまでやってきた考えを持っているが、しかし、それらはまるで、何らかの、『自身を超えた存在』に、みちびかれ、やってきたのではあるまいか。そのように、おもったのである。
ホームランしかり、学校しかり。村長の家しかり。
アーテ王女はその地図を見入った。
あるのは日常だけ。
それが伝説的となるのは、会うことができるから。
アーテ王女は二人の会話をおもいだしていた。
アーテ王女が地図帳のページに見入っていると、ひとつの疑問がアーテ王女をおそった。
それでは、どうして千年前の少年は、伝説に残されたのだろうか。
あえなかったのではなかったのだろうか。竜に。
アーテ王女が考えていると、そうか、と、答えがわかった。
鏡の港からやってきたから、そう呼ばれたのだろう。
でも、疑問はまた、膨れ上がった。
どうなったのだろう。
その、世界を改造しえなかった、鏡の港から来た少年は。
このとき、ぞっとしたおもいが、アーテ王女を襲った。
しかし、それ以上、アーテ王女は考えることができなかった。
恐ろしくて、思考を停止する以外なかったからである。
アーテ王女はその少年の末路を、アーテ王女自身と重ね合わせた。
アーテ王女はやはりぞっとした。
鏡の港から来て、しかし、世界を改造しえなかった少年の末路。
帰ることができたのだろうか、その少年は・・・・・・。
しかし、考えても仕方のないことは、考えない主義の、アーテ王女である。
この、破壊的で、戦闘的な哲学者は、自身にできる精一杯のことをして、そうして、それでもどうにもならないことは、天命に任せることにした。
アーテ王女は地図に見入った。
そうして行こうとおもった。
『叡智を行なう竜』? それが果たしてどんな存在かは知らないが、それにあって、そうして自身の末路を決定する予定であった。いや、あえないかもしれない、しかし、そのときはそのとき、それが、自身に課せられた運命である。
アーテ王女は意を決すると、早速旅立ちの準備を始めた。
アーテ王女が用意したのは、村長のうちにあって、アーテ王女にも簡単に容易することができるものである。
まずは、何かを切るのに必要なナイフ。
これは、アーテ王女はキッチンの引き出しにある、折りたたみ式の果物ナイフで準用した。
そうして次は、靴。これについてはあとにまわそう。あまりに書くべき内容と、それを手に入れるまでの経緯が盆雑だからである。
次に、マッチ、ランプ。
これらは、アーテ王女は村長の家の客室に飾ってあるそれと、キッチンにおいてあるマッチをそろえて用を足した。ランプは小さなものであるけれど、アーテ王女が想定していた荷物箱、ポシェットには、最適の大きさであった。
あと、方位磁石。
これは、自室の机の中に、安物そうだけど、使えそうなのが、あることを、アーテ王女はおぼえていた。
アーテ王女がいろいろな荷物を方々からそろえていると、村長のうちで、食事の用意を担当している召使のローランド女史に出くわした。
「あら、王女、どうしたの、何か、いろいろ探しまわって、そうしてどこかに探検したいような顔をしているけど」
ローランド女史には、何も隠せない、まるで、お腹がすく時間帯が理解されるように、何もかも、言われる前から理解してしまう、女性であった。
アーテ王女が詳しい事情を話すと、
「そう、それならお弁当が必要ね、いいわ、作ってあげる、あなた、ステーキサンドと、ビーフカツサンドと、どっちが好きかしら」
アーテ王女が答えると、
「そう、ではビーフカツサンドをつくってあげるわ。冒険には、なんといってもお弁当、これがないと、なにをするにも始まりませんからね」
そういうと、ローランド女史は、どこかへ、たぶん台所へ消えていった。
あとは、なにが必要だろう。
アーテ王女が考えていると、雨が降ったときのことを考えておこうと、おもった。
雨合羽。
傘も悪くはなかったが、何より雨合羽の、両手が開くその性質に、アーテ王女は感銘を受けた。しかし、念のため、アーテ王女は折りたたみがさを持った。
また、着替え。
何か、衣服がぬれたときにそれがなかったら、風邪をひいてしまうだろう。
アーテ王女は村長のうちから配給された、アーテ王女用のTシャツと、靴下、それに下着を荷物にくわえた。
さらに、風邪で思い出した、風邪をひいたときのための、風邪薬、うがい薬。
あとはなにが必要だろう。
新聞紙。これは、何かのときに役に立つ。火をおこしたいとおもったときや、ぬれたものを乾かすとき。
トイレットペーパーはどうしよう。
あとはナイフにホーク、それにスプーン。もしも誰かのうちに厄介になって、それがなかったら、夕食をご馳走になることはできないだろう。
あとは?
アーテ王女が下を見ると、そこには薄汚れた、アーテ王女の靴下があった。
アーテ王女は汚れた靴下を履きなおしながら、考えた。
そう。
アーテ王女は自身の靴下を履きなおしていて、足元にきがついた。
アーテ王女は、靴をそろえることにした。
思えば、ここまで来て、いまでも足は、靴下履きのままだった。
しかし、今からいくのは、地獄の狭間でもあろうかという、伝説的な洞窟である。
アーテ王女の靴下では、到底歩きまわることができない場所であったろう。
ごつごつした岩。
じゃりじゃりした礫。
きっと、アーテ王女の足は、靴下のままでは血まみれになってしまうのに違いない。
アーテ王女はそのため靴を新調したい気分であった。
そういえば、アーテ王女は一軒の靴屋さんを知っていた。
バンさんと、いったかしら。
アーテ王女はおもった。
あの、初めてこの国にやってきて、アーテ王女の行動に重大な示唆を施した人物である。
アーテ王女がしかし、靴を買うお金がなく困っていると、その問題は、向こうのほうから解決したらしかった。
バンさんが、やってきたのである。
取次ぎが、アーテ王女の元にやってきて、そうしてバンさんが、アーテ王女を尋ねてやってきたことを告げた。
アーテ王女は、応接室で、バンじいさんを出迎えた。
「やあ、やあ、やあ。ひさしぶりじゃな」
二人で軽く挨拶をすると、一人は本題に入った。
「あんたが王女だと知って、わしは驚いた。あんたがまさか、はじめて口を利いたのがわしだと聞いて、驚いた、それで、ひょんなことから、わしはおもった。もしかしたらあんたなら、はけるんじゃないかとね、いや、靴さ。わしは言わずと知れた、靴屋だ。あんたには関係ない、かも知れないが、あんたはいつも、靴を履かず、靴下のままで歩いているからね、もしよかったらわしのところの靴をはいてはくれまいか?」
アーテ王女は願ったりかなったりの気分で、その話を聞いた。
すると、バンじいさんは、
「なに? 北の山に探検に行くんでそのための靴を探していた? そうか、それはちょうどよかった。これは、天文学的一致だとはおもわない? だって、あんたが靴を必要としているときに、おあつらえ向きに、わしも、あんたに靴をプレゼントしようとおもっていたなんて、まあそれはいいか、それより靴だ、実はもう、もってきた。どうだろうわしが作った靴だ。あんたにはたしてはけるかな?」
すると、バンさんは、一組のスニーカーを、アーテ王女の前に差し出した。
それは、茶色の皮で作られた、足のくるぶしまで覆う、ながぐつだった。
アーテ王女がしばらく間を取って、その靴に足を入れると。
どうだろう、靴は、アーテ王女の足を、おもうように受け入れ、アーテ王女は両足とも、靴の中におしこんだ、すると、ぴったし。
アーテ王女はその靴の、あまりの完成度に驚いた。
「おお、ぴったしではないか」
バンじいさんは言った。
「まさかとはおもっていたが、あんたにこの靴がぴったしだとは、いや、本当に驚くべきことだ。これは、千年前の伝説が復活することになるかも知れん」
「?」
「いや、この靴はな、千年前に、この地を訪れた、伝説の鏡の港からの使者が作った靴と、おんなじ型で作った靴なのじゃよ。あるいはとおもったが、それがおまえさんにぴったりだったとは。いや、はや、これは、伝説の、真の伝説の復活になるやも知れん」
千年前?
ではあなたは何歳?
しかしそういうと、バンじいさんは去っていくようすであった。
「おまえさんに靴をプレゼントすることができて、よかった。これでわしも、十分あんたに貢献できたというわけだ、何しろ伝説だからな、わしもその、伝説とやらに、貢献しなくてはならない。よいかな?」
「?」
アーテ王女がバンじいさんを玄関のところまで見送ると、バンは、
「それから、最後に言っておいたほうがいいとおもうから、言うけれど、もう知っているとおもうけど、最後に来た、伝説の少年、彼は今、奈落の世界にいて、伝説などと称して・・・・・・に、はむかった責務を負わされているらしいから、あんたも気をつけることだ。負けないようにね、伝説なんだから、あんたも、しっかり伝説どおり、・・・・・・と、対決して、そうしてしっかり打ち勝ってくれ、伝説なんだから」
少年?
伝説?
打ち負けた?
・・・・・・?
アーテ王女がその話をもっとよく聞こうとして、バンじいさんを呼び止めると、しかしバンさんは、まるで何かにとりつかれたように、その歩みを、進めるらしかった。外まで追っても、バンさんを捕まえることはできなかった。
あとは、あの、アーテ王女に重大な情報を残して消えたおばあさんとおんなじだった。
ただ、さんさんとした太陽だけが、外にはあり。
街路樹に、まぐろい影を残すのみだった。
そこに大事な道具が待っている?
あのおばあさんはそういった。
それも、帰りつくために必要な道具が待っているという。
長橋国。
アーテ王女はこのとき、帰る、その問題よりも、はるかに大きく、その、神童伝説に期待を持っていた。
あたしは神童。
この世界を変えに来たもの。
そのことは、直接この国を、よく知ることにつながる。
アーテ王女はこのとき、九十近いおばあさんがいった、伝説の話に、大きな期待をかけていた。
アーテ王女は冒険がしたい。
自身、本の中にあるような世界に対して、強く働きかけを行なうために、この世界にやってきたのである。
アーテ王女はおもった。
帰る?
それは、この国のことを、もっとよく知ってからだ。
われわれのこの、小さな哲学者であるアーテ王女は、行動派の王女である。
北の山の中に、何か不思議なものがあるらしいことを知ると、それに向かって一直線につきすすむタイプの王女様だった。
早速、準備にとりかかった。
まずは、地図を見て、北の山の地図を手に入れる。
そうしていまいる位置と、そうして目的とする場所への直線距離をはじきだすのである。
村長に、アーテ王女は書斎にある本の使用許可をとると、早速アーテ王女は村長の書斎に飛び込んだ。
幾多の本が並んだ、村長の図書室。
それらは、アーテ王女にも、読める範囲の文字で書かれた本だったが、中には何語で書かれたのかわからない本も混じっていた。『奇跡を行う国』で使われている文字なのだろうか。
アーテ王女が書架を順々に見ていくと、やがて、お目当ての本を発見することができた。
アーテ王女のお目当ての本。
すなわち地図帳である。
アーテ王女はその、片手で持つには大きすぎる本を、からだいっぱいに抱え、机へ運ぶと、椅子にたったまま、アーテ王女は早速その本を、めくっていった。
しかし、このときアーテ王女は不思議な光景を目に留めた。
めくるページ、めくるページ、どれもが、どうしたことか、まるで、霧でもかかってしまったかのように、かすれて見えないのである。
目を、アーテ王女がこすっても、それは同じであった。
やっと見えたのは、大きな文字で、『オケストラバーグ』と、書かれた場所の地図である。
まるで地図が、それ以外は見せないぞと、いって、アーテ王女を妨害しているようだった。
この場所にいけと、地図は言っているかのようにおもわれた。
しかし、まあ、それはいい。
アーテ王女はこの、不思議な世界の不思議な地図には目をつぶることにした。
問題は地図である。
大見出しである。
『オケストラバーグ』。
その近くには、バンズの町はあるだろうか。
残念ながら、海岸線を確認することはできなかった。
しかし、ここが、『奇跡を行う国』の首都かと、アーテ王女は納得することができた。
『オケストラバーグ』の町を眺めると、いくつもの長い道路が放射線状にあって、それが一点で交差する、まるで、円グラフのような町並みが見て取れた。計画に計画を重ねて作られたであろう町は、その一点に、なにを持っているのだろうか。国家中央庁舎の文字を発見することができた。
これが、『奇跡を行う国』の中枢なのであろう。
このあと、この場所に、いくことなどあるのだろうか。
しかし今は計画である。
アーテ王女が『オケストラバーグ』の地図から、南西へと、地図をたどると、その地図は、次の次のページに載っていることがわかった。
果たしてそこに、お目当ての町が、バンズの町があるのだろうか。
アーテ王女がめくると、ぴったし。
バンズの港町を、地図の中に発見することができた。
バンズの町。それは、『オケストラバーグ』の南西に位置する。
みると、地図が載っていた。それほど大きな町ではないが、周辺にある、薄ピンク色に塗られた市街地よりは、他を一新するようすが見て取れた。
アーテ王女が地図を眺めると、その北、数キロのところに、霞のなか、なにやら山並みらしいものを発見できた。
もやがかかった山脈。
『オケストラバーグ』と、バンズの港町を隔てる、山並み。
その一部に、ノーザンマウンテンの文字を発見することができた。
ここが、あのおばあさんのいっていた、北の山なのだろうか。
たぶんそうだと、アーテ王女はおもった。
アーテ王女が本にみいっていると、後ろのほうで、ドアの開く音がした。
「なにをしているのです、王女」
「おお、やはりここだったか、アーテ王女」
みると、それは、いつもアーテ王女に学問の質問に来ている青年に、村長だった。
「あんたが何か調べ物をしているというので、ついでにつれてきたんだよ」
村長が言うと、
「また、少しわからないところがでてきたので、質問に来たんですが、お忙しいようでしたら日を改めます」
青年がいった。
「なにを調べておるのだね」
村長が、アーテ王女に近づきながらいった。
そうして、アーテ王女が開いている地図帳をみて、
「ほうほう、地理かい? あんた、地理に関心があったのかい?」
「地理のお勉強中でしたか、それではまた、本格的に日を改めます、お邪魔をしてはならない」
しかし、村長は、「なにをいっとるんだ、たかが地理の勉強、にさん質問する暇ぐらいは、王女にもあるだろう」
アーテ王女は、「ええ、どうぞ、質問をしてください」気丈に答えた。
アーテ王女が答えると、青年は、デカルト哲学についての、スピノザ哲学との相違点について、質問した。
アーテ王女が質問に答えると、
「わかりました、なんだ、そんなことだったのか。いや、問題は解決されました」
アーテ王女が質問に答えられて喜んでいると、
「なあ、アーテ王女」
と、村長がいった。
「あんたも何か質問するといい、もちろん哲学なら、あんたのほうが、知識は豊富なほうだが、地理なら、わしら、『ここ』に住んでいるものにも答えられ、そうして知識も豊富なはずじゃ」
なるほど。
そういう手があったか。
アーテ王女がおもっていると、
「なるほど、北の山ですか」
と、『ノーザンマウンテン』と書かれた地図に見入っているアーテ王女をみて、青年がいった。
「それならわたしも知っている、しかし、アーテ王女、あなたはそこに行くつもりですか?」
「?」
「なんだったかのう、ノーザンマウンテン。いったいそこにはなにがあったかのう」
「なにを言っているんですか、村長」
青年が、いった。
「そこには昔から、『叡智を行なう竜』がいると、伝説的に語られる山じゃないですか」
「え? そうじゃ、そうじゃ、そんなこともあったかのう。いや、ついついうっかりして、忘れておったよ、そうか、『叡智を行なう竜』そんなものがあったか」
「?」
アーテ王女が黙って聞いていると、青年が、話を続ける様子であった。
「『叡智を行なう竜』は、この国の、すべての賢いものにその姿を見せるといわれる存在で、もしもその姿を見たものは、この世界を変えることができるという、伝説を持った存在なのです。あなたも、そこにいくのですか? 今まで最後にその場所にいったのは、千年前、一人の少年だったといわれています。そのときは、その少年は、『叡智を行なう竜』の姿を見られなかったといわれています。もしも『叡智を行なう竜』をその目に写すことができれば、この世のあらゆる精気を、その中に吸収し、また、放出することができるといわれている、竜です」
アーテ王女が話しに聞き入っていると、村長が。
「いや、実はわしも、その場所にいったことがあるのじゃよ、もしかしたら、わしにも、この世界を革命する力があるのかも知れないとな、しかし、そのときは、わしの前には、その竜は、姿を見せてはくれんかった。その竜は、わしに、世界を革命する力はないと、判断したようじゃ」
「かくゆうわたしも」と、青年も、いった。「その、『叡智を行なう竜』に、謁見を求めた一人です。それは、今から三年前のことでした」
千年前の話はどうなったのだろうかと、アーテ王女がおもっていると、
「千年というのは」と、村長が、答えた。「伝説時間じゃよ、もしも、日常の時間と、伝説の時間が交差するようなことが起きれば、あちこちめちゃくちゃになってしまうだろう? 伝説は伝説、日常は日常、そういうことだ」
いや、話がどうもわからない。
アーテ王女がおもっていると、
「つまり、本当にあることは、今がいつかということと、今が、いつではないかということ、そうして、伝説とは、伝説。仮にあったとしても、それは日常とはかけ離れたものであるため、存在はしても、日常とは別個に考えられるということだ。それによれば、あんたのこのあとの行動も、日常的な行動ではあるけれど、時が時だけに、伝説と、そのように呼ばれることがあると、そういうことだ。もしも、あんたが、あえればそれは伝説になる、しかし、もしもあえなければ、それは伝説とはならない。つまり、伝説と、そうではないこととの間にあるのは、あうことができるのか、あるいはできないのか、ということだ」
アーテ王女がわかったようなわからないような顔をしていると、
「それじゃあ」と、青年がいった。
「わたしは教えてもらいたいことは教えてもらいましたので、これでお暇させてもらいます」
「そうか」と、村長が、「それではわしも、日課の庭仕事に戻るかな」
二人の人間はそうして去っていった。
跡に残されたのは、アーテ王女一人。
アーテ王女は一人残されると、しょうがないので机に向かった。
あるのは日常的な出来事だけ、それが、伝説と呼ばれるのは、会うことができるから・・・・・・。
アーテ王女がしばらく二人に話の余韻に浸っていると、どこからともなく風が吹き、
派羅派羅派羅派羅。
地図帳のページを、勝手にめくった。
アーテ王女がその、最後に開かれたページを見ると、そこにはなんとノーザンマウンテンまでの、バンズの港町からの地図が、描かれていた。
「・・・・・・・・・・・・」
このときアーテ王女がおもった疑問はアーテ王女のこのあとに、とてもいい示唆を与えた疑問であるといっていい。アーテ王女は、この世界にあって、幾度もそれを経験し、そうしてしてきた、これが、それである。すなわちだれか、何か、自然を超越した存在に、自身の生活を、抑制し、支配されているような感覚をもったことである。
「・・・・・・・・・・・・」
もしかしたら、自分ははじめから、あたかも自分の手で、生きてきて、そうしてここまでやってきた考えを持っているが、しかし、それらはまるで、何らかの、『自身を超えた存在』に、みちびかれ、やってきたのではあるまいか。そのように、おもったのである。
ホームランしかり、学校しかり。村長の家しかり。
アーテ王女はその地図を見入った。
あるのは日常だけ。
それが伝説的となるのは、会うことができるから。
アーテ王女は二人の会話をおもいだしていた。
アーテ王女が地図帳のページに見入っていると、ひとつの疑問がアーテ王女をおそった。
それでは、どうして千年前の少年は、伝説に残されたのだろうか。
あえなかったのではなかったのだろうか。竜に。
アーテ王女が考えていると、そうか、と、答えがわかった。
鏡の港からやってきたから、そう呼ばれたのだろう。
でも、疑問はまた、膨れ上がった。
どうなったのだろう。
その、世界を改造しえなかった、鏡の港から来た少年は。
このとき、ぞっとしたおもいが、アーテ王女を襲った。
しかし、それ以上、アーテ王女は考えることができなかった。
恐ろしくて、思考を停止する以外なかったからである。
アーテ王女はその少年の末路を、アーテ王女自身と重ね合わせた。
アーテ王女はやはりぞっとした。
鏡の港から来て、しかし、世界を改造しえなかった少年の末路。
帰ることができたのだろうか、その少年は・・・・・・。
しかし、考えても仕方のないことは、考えない主義の、アーテ王女である。
この、破壊的で、戦闘的な哲学者は、自身にできる精一杯のことをして、そうして、それでもどうにもならないことは、天命に任せることにした。
アーテ王女は地図に見入った。
そうして行こうとおもった。
『叡智を行なう竜』? それが果たしてどんな存在かは知らないが、それにあって、そうして自身の末路を決定する予定であった。いや、あえないかもしれない、しかし、そのときはそのとき、それが、自身に課せられた運命である。
アーテ王女は意を決すると、早速旅立ちの準備を始めた。
アーテ王女が用意したのは、村長のうちにあって、アーテ王女にも簡単に容易することができるものである。
まずは、何かを切るのに必要なナイフ。
これは、アーテ王女はキッチンの引き出しにある、折りたたみ式の果物ナイフで準用した。
そうして次は、靴。これについてはあとにまわそう。あまりに書くべき内容と、それを手に入れるまでの経緯が盆雑だからである。
次に、マッチ、ランプ。
これらは、アーテ王女は村長の家の客室に飾ってあるそれと、キッチンにおいてあるマッチをそろえて用を足した。ランプは小さなものであるけれど、アーテ王女が想定していた荷物箱、ポシェットには、最適の大きさであった。
あと、方位磁石。
これは、自室の机の中に、安物そうだけど、使えそうなのが、あることを、アーテ王女はおぼえていた。
アーテ王女がいろいろな荷物を方々からそろえていると、村長のうちで、食事の用意を担当している召使のローランド女史に出くわした。
「あら、王女、どうしたの、何か、いろいろ探しまわって、そうしてどこかに探検したいような顔をしているけど」
ローランド女史には、何も隠せない、まるで、お腹がすく時間帯が理解されるように、何もかも、言われる前から理解してしまう、女性であった。
アーテ王女が詳しい事情を話すと、
「そう、それならお弁当が必要ね、いいわ、作ってあげる、あなた、ステーキサンドと、ビーフカツサンドと、どっちが好きかしら」
アーテ王女が答えると、
「そう、ではビーフカツサンドをつくってあげるわ。冒険には、なんといってもお弁当、これがないと、なにをするにも始まりませんからね」
そういうと、ローランド女史は、どこかへ、たぶん台所へ消えていった。
あとは、なにが必要だろう。
アーテ王女が考えていると、雨が降ったときのことを考えておこうと、おもった。
雨合羽。
傘も悪くはなかったが、何より雨合羽の、両手が開くその性質に、アーテ王女は感銘を受けた。しかし、念のため、アーテ王女は折りたたみがさを持った。
また、着替え。
何か、衣服がぬれたときにそれがなかったら、風邪をひいてしまうだろう。
アーテ王女は村長のうちから配給された、アーテ王女用のTシャツと、靴下、それに下着を荷物にくわえた。
さらに、風邪で思い出した、風邪をひいたときのための、風邪薬、うがい薬。
あとはなにが必要だろう。
新聞紙。これは、何かのときに役に立つ。火をおこしたいとおもったときや、ぬれたものを乾かすとき。
トイレットペーパーはどうしよう。
あとはナイフにホーク、それにスプーン。もしも誰かのうちに厄介になって、それがなかったら、夕食をご馳走になることはできないだろう。
あとは?
アーテ王女が下を見ると、そこには薄汚れた、アーテ王女の靴下があった。
アーテ王女は汚れた靴下を履きなおしながら、考えた。
そう。
アーテ王女は自身の靴下を履きなおしていて、足元にきがついた。
アーテ王女は、靴をそろえることにした。
思えば、ここまで来て、いまでも足は、靴下履きのままだった。
しかし、今からいくのは、地獄の狭間でもあろうかという、伝説的な洞窟である。
アーテ王女の靴下では、到底歩きまわることができない場所であったろう。
ごつごつした岩。
じゃりじゃりした礫。
きっと、アーテ王女の足は、靴下のままでは血まみれになってしまうのに違いない。
アーテ王女はそのため靴を新調したい気分であった。
そういえば、アーテ王女は一軒の靴屋さんを知っていた。
バンさんと、いったかしら。
アーテ王女はおもった。
あの、初めてこの国にやってきて、アーテ王女の行動に重大な示唆を施した人物である。
アーテ王女がしかし、靴を買うお金がなく困っていると、その問題は、向こうのほうから解決したらしかった。
バンさんが、やってきたのである。
取次ぎが、アーテ王女の元にやってきて、そうしてバンさんが、アーテ王女を尋ねてやってきたことを告げた。
アーテ王女は、応接室で、バンじいさんを出迎えた。
「やあ、やあ、やあ。ひさしぶりじゃな」
二人で軽く挨拶をすると、一人は本題に入った。
「あんたが王女だと知って、わしは驚いた。あんたがまさか、はじめて口を利いたのがわしだと聞いて、驚いた、それで、ひょんなことから、わしはおもった。もしかしたらあんたなら、はけるんじゃないかとね、いや、靴さ。わしは言わずと知れた、靴屋だ。あんたには関係ない、かも知れないが、あんたはいつも、靴を履かず、靴下のままで歩いているからね、もしよかったらわしのところの靴をはいてはくれまいか?」
アーテ王女は願ったりかなったりの気分で、その話を聞いた。
すると、バンじいさんは、
「なに? 北の山に探検に行くんでそのための靴を探していた? そうか、それはちょうどよかった。これは、天文学的一致だとはおもわない? だって、あんたが靴を必要としているときに、おあつらえ向きに、わしも、あんたに靴をプレゼントしようとおもっていたなんて、まあそれはいいか、それより靴だ、実はもう、もってきた。どうだろうわしが作った靴だ。あんたにはたしてはけるかな?」
すると、バンさんは、一組のスニーカーを、アーテ王女の前に差し出した。
それは、茶色の皮で作られた、足のくるぶしまで覆う、ながぐつだった。
アーテ王女がしばらく間を取って、その靴に足を入れると。
どうだろう、靴は、アーテ王女の足を、おもうように受け入れ、アーテ王女は両足とも、靴の中におしこんだ、すると、ぴったし。
アーテ王女はその靴の、あまりの完成度に驚いた。
「おお、ぴったしではないか」
バンじいさんは言った。
「まさかとはおもっていたが、あんたにこの靴がぴったしだとは、いや、本当に驚くべきことだ。これは、千年前の伝説が復活することになるかも知れん」
「?」
「いや、この靴はな、千年前に、この地を訪れた、伝説の鏡の港からの使者が作った靴と、おんなじ型で作った靴なのじゃよ。あるいはとおもったが、それがおまえさんにぴったりだったとは。いや、はや、これは、伝説の、真の伝説の復活になるやも知れん」
千年前?
ではあなたは何歳?
しかしそういうと、バンじいさんは去っていくようすであった。
「おまえさんに靴をプレゼントすることができて、よかった。これでわしも、十分あんたに貢献できたというわけだ、何しろ伝説だからな、わしもその、伝説とやらに、貢献しなくてはならない。よいかな?」
「?」
アーテ王女がバンじいさんを玄関のところまで見送ると、バンは、
「それから、最後に言っておいたほうがいいとおもうから、言うけれど、もう知っているとおもうけど、最後に来た、伝説の少年、彼は今、奈落の世界にいて、伝説などと称して・・・・・・に、はむかった責務を負わされているらしいから、あんたも気をつけることだ。負けないようにね、伝説なんだから、あんたも、しっかり伝説どおり、・・・・・・と、対決して、そうしてしっかり打ち勝ってくれ、伝説なんだから」
少年?
伝説?
打ち負けた?
・・・・・・?
アーテ王女がその話をもっとよく聞こうとして、バンじいさんを呼び止めると、しかしバンさんは、まるで何かにとりつかれたように、その歩みを、進めるらしかった。外まで追っても、バンさんを捕まえることはできなかった。
あとは、あの、アーテ王女に重大な情報を残して消えたおばあさんとおんなじだった。
ただ、さんさんとした太陽だけが、外にはあり。
街路樹に、まぐろい影を残すのみだった。
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