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第一章 呪いのはじまり
1:少年の愛 1
しおりを挟む「俺と結婚してくれないか。一緒に俺の国に来てほしい」
ぽかんとしているエルミラを見上げ、蒼い瞳の少年――フィルグラートは膝をついた姿勢を崩さずそう言った。
エルミラは混乱のあまり固まって、ただ彼に取られた自分の右手を見下ろしていた。
頭の中ではこの事態を理解しようと、思考が一生懸命に回転している。たしか今の今までふたりは明日のパーティの話をしていたはずだ。
そうだ、パーティ。エルミラの誕生日パーティ――。
十五歳。明日、とうとうエルミラは、ジルヴェール王国における女性の成人年齢になる。
予定されているパーティは当然、例年以上に豪勢で、半年も前からエルミラはその準備に追われていた。
ドレスの採寸、繰り返される試着、来賓や彼らの国に関する知識の学習、振る舞いの復習。
やらなければならないことは山ほどあった。
たった一晩のパーティを成功させるために。毎日毎日、彼女は必死になっていた。
けれど生来、エルミラはおとなしく勉強していられる娘ではなかったのだ。
彼女は国では『おてんば姫』として有名だった。幼いころから、両親のとめるのも聞かず、城の外で泥も厭わないほど活発に遊び回った。
日光を浴び、ジルヴェール自慢の澄んだ空気を吸うのがこのおてんば姫にとって欠かせない日課。
そして植物を、小川を、小動物を、あるいは虫さえも見て回り、返事もないのに語りかけては楽しげに笑う。
かと言って人間がきらいなわけでもなく、弟妹はもちろん、その時期ジルヴェールに滞在していた隣国の王子――つまりフィルグラートをも巻きこみ、ときには城内の使用人さえも仲間に入れて、にぎやかな日々を過ごしてきた。
ある日には城下町にまでこっそり下りていったこともある。もともと平和な国なので、王女の振る舞いに対する兵士の目はおおらかだった。
それはたとえ王に叱られたとしても、だ。なにしろその王にしたって、兵士たちのクビを飛ばすようなことはなかったのだから。
それが宴が決まってから一転、城内どころかほぼ自室に閉じこもって過ごす日々に変わった。
大事な日を前に、この第一王女に何かあってはならないと、さすがに真剣になった人々の目が常に光っている。
そんな毎日に耐えられるほど、エルミラは残念ながらまだ淑女にはなりきれていなかった。
だから――
「いつものところに行かないか?」
パーティの前日。急にエルミラの部屋をおとなったフィルグラートの申し出に、一も二もなくうなずいたのだ。
――幼なじみで親友でもあるはずの彼が、いつになく真面目な顔つきでいることに、気づきもせずに。
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