年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい

文字の大きさ
上 下
41 / 43

Story 39

しおりを挟む


 リビングの時計に目をやると、午後九時半を過ぎていた。フリーの時間は、どうしてこんなに過ぎるのが早いのだろう。

 彩は、テレビと照明を消してリビングを出る。そして、すぐにスマートフォンをリビングのテーブルに置いたままだったと気づいて引き返した。


「彩さーん」


 仁寿が、寝室から顔だけを出して呼ぶ。彩はスマートフォンを握り、仁寿のもとへ急いだ。寝室に行くと、仁寿がドライヤーを片手にベッドの上で待ち構えていた。


「彩さん、ここに座ってよ」


 言われるがまま、彩はベッドの足元にあるフットベンチの中央に座る。彩度を落としたダウンライトのオレンジ色の明かりが照らす寝室には、ほのかに甘いアロマの香りが漂っていた。


「願いします」


 背をぴんと伸ばし、律儀に正座をしている彩の背後で仁寿がドライヤーのスイッチを入れる。お風呂上りにタオルで拭いてしばらく時間がたった髪を温風がそよぎ、指先で梳かれると、気持ちがよくて夢見心地になる。

 ピコン。
 彩のスマートフォンがメッセージを受信する。ステータスバーの通知で、それが二年目の研修医からだと分かる。彩は、いつもの癖で画面をタップした。


「彩さん」


 彩の髪を指で梳きながら、仁寿がマナーモードにするように言う。


「もう遅い時間だし、休日なのは相手も分かっているはずだから、急いで返す必要はないんじゃない?」


 でも、と言いかけて、彩は指を画面から離した。休日でも夜遅くても電話がかかってきたら出て、メッセージには遅滞なく返事をするように心がけてきた。

 それが仕事で、当然そうすべきだと思っていたから。まるで体の一部のように、いつもスマートフォンを近くに置いて――。


「休息は大事だよ。オンとオフを上手に切り替えて、心身をリフレッシュしないとね」


 彩が振り返ると、ドライヤーのモーター音が止んだ。


「このドライヤーは、総合病院の看護師さんからオススメされたんだ。その看護師さんね、ヘアドネーションしてて髪のケアに詳しくてさ。彼女にプレゼントするならどのドライヤーがいいか尋ねたら、これがいいって。使い心地はどう?」


 仁寿が、彩の手からスマートフォンを取って電源ボタンを長押しする。



 ――少し強引なやり方かもしれないけど、彩さんは真面目だから。



 年に一度か二度とはいえ、薬が効かないほどの不眠になるのには必ず原因がある。彩さんは一緒にいるだけでいいと言ったけど、それで治るほど軽いとも思えない。だから、心に悪い影響を与えそうなものを思いつく限り取り除いてあげたい。


 ……というのは建前で。



 ――僕との時間を、誰かに邪魔されたくない。



 本音を柔らかな笑顔で隠して、仁寿が電源の切れたスマートフォンとドライヤーをフットベンチの隅に置く。


「あの、仁寿さん」


 彩は、ベッドに上がって仁寿と膝を突き合わせるように座り直した。そして、真剣な顔で仁寿の目を見つめる。本音を見透かされたのかと思った仁寿の顔に一瞬、焦りの色が浮かんだ。


「どうかした?」

「この前、わたしに建築士の仕事をしたくないのか聞いたでしょう?」

「あ、ああ。うん」

「チャレンジしてみようかな、と思いまして」

「そっか」


 内心でほっと胸をなでおろした仁寿が、彩と同じように表情を引き締める。


「建築士の試験は、卒業後にあるんだっけ?」

「そうです。七月に」

「じゃあ、仕事を覚えながら勉強してたの?」

「はい。当時は医局秘書を長く続けるつもりがなかったから、絶対に合格しなくちゃって必死でした」

「それならなおさら、もったいないね。生活のことはなにも心配しなくていいから、もう一度勉強し直してチャレンジしてみなよ。彩さんがやると決めたら、僕は全力で応援するよ」

「ありがとうございます。でも、仁寿さんたち初期研修医三人が研修終了証を受け取る姿を見るまでは、責任を持って今の仕事を頑張ります。すみません、それを仁寿さんに伝えたくて」


 恥ずかしそうに下を向く彩に手を伸ばし、仁寿がそっと頭をなでる。


「サラサラで手触りがいいね、彩さんの髪」

「ドライヤーのお陰です」

「ああ……、もうだめだ。彩さんが、かわいい」

「は、い?」


 どうしてここで、かわいい?
 勢いよく仁寿に抱きつかれて、彩は驚く間もなくベッドの上に仰向けに倒れた。


「彩さん」


 耳たぶを甘い声でなでられて、そのまま食まれる。
 昔、ご近所さんが飼っていたゴールデンリトリバーにじゃれつかれたことがあったが、まさにその時と同じだ。くすぐったくて、のしかかる体が重たくて、あたたかくて。

 好意を全身でぶつけられる感じが、言葉にできないくらい嬉しい。


「出張からたった二週間しかたってないのに、すごく会いたかった。また今日みたいに、ただいまってここに帰って来てよ」


 仁寿の声が聴覚からやんわりと体に沁み込んで、ぴんと張ったなにかが緩んでいくような気がした。寝室にそそぐ柔らかな照明の色とアロマの香り、それから仁寿の声や体温すべてが優しくて彩の目に涙が滲む。

 彩は、しがみつくように仁寿の体を抱きしめて頬にキスした。そして、誰かを好きになって大切に思える幸せを噛みしめる。


「あとね、彩さん」


 仁寿が彩の耳から離れて、二人の視線が交わった。


「気遣い上手で上品な彩さんも好きだけど、僕は彩さんの甘えた声とか我儘も聞きたい。だから、僕に敬語を使わないで」

「そ、それは……。ずっとそうしてきたから、今さら」

「大丈夫。何事も、慣れてしまえばなんてことない。彩さんのペースでいいから、ね?」

「……ど、努力してみます」

「うん」


 仁寿がシャツの裾から手を滑りこませて、彩の柔らかな腹部をなでる。


「仁寿さん、わたしも会いたかった……です。電話のあといつも顔を見たくなって、でも忙しいのを分かっているから迷惑かなって思ったら言えなくて。本当は……っ」


 彩の言葉を遮るように顔が近づくと同時に、唇が重なる。舌を絡めながらキスは食らいつくように獰猛になり、仁寿の手が彩の下腹部に触れた。


「ん……、は……あ……っ」


 速度が上がっていく呼吸が口の中で溶け合って、どちらのものか分からない。互いの唾液が混ざる淫靡な音が静かな寝室に響き、羞恥にドクドクッと鼓動が躍る。


「彩さん、かわいい」


 息継ぎをしながら、仁寿が吐息のような声で何度も彩を呼ぶ。その度に心が幸福で満たされて、頭の中が仁寿でいっぱいになっていく。

 下腹部に触れていた手が、するりと滑るように下着の中に潜った。キスだけで感じて、濡れているのが自分でも分かる。

 それを知られるのが恥ずかしくて、彩は脚に力を入れて抵抗した。けれど、そんな抵抗は無意味だというように、仁寿は指先で彩の秘所を擦り、花弁をなで回す。


「ん……っあ……ふ、ぅ……んんっ」


 待って。彩は荒々しいキスに応えながら、仁寿の両肩に手を置いて押し返そうとする。すると、キュッときつく舌を吸われ、湿った蜜口に指を差し込まれた。


「んん……っ、じん……じゅさ……ん……っ」


 指の腹で容赦なく膣壁を擦られて、いやらしい水音が聞こえてくる。体が震えるほど感じる所を何度も何度も弄られた彩の腰が、ぴくんと跳ねた。続けざまに陰核を親指でこねるように押しつぶされて、彩は軽く達してしまった。

 彩の中から指を引き抜いた仁寿が体を起こして、スウェットのパンツと下着をおろす。


「……はぁ、彩さんの全部を独り占めしたい」


 仁寿は、指にたっぷり纏わりついた愛液を屹立した熱塊に塗りつけ、このまま彩の中に押し入りたい衝動を必死に押し殺して避妊具をつけた。そして、とろんとした円らな目をして荒い呼吸を繰り返す彩の下着を脱がせて、剥き出しになった秘唇に自身を押しつける。


「ん……あッ!」


 隘路を押し広げられる感覚に、ぼんやりとしていた彩の意識が鮮明になった。


「仁寿……さん」

「彩さん、愛してるよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美獣と眠る

光月海愛(コミカライズ配信中★書籍発売中
恋愛
広告代理店のオペレーターとして働く晶。22歳。 大好きなバンドのスタンディングライヴでイケオジと出会う。 まさか、新しい上司とも思わなかったし、あの人のお父さんだとも思わなかった。 あの人は―― 美しいけれど、獣……のような男 ユニコーンと呼ばれた一角獣。 とても賢く、不思議な力もあったために、傲慢で獰猛な生き物として、人に恐れられていたという。 そのユニコーンが、唯一、穏やかに眠る場所があった。 それは、人間の処女の懐。 美しい獣は、清らかな場所でのみ、 幸せを感じて眠っていたのかもしれない。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

My HERO

饕餮
恋愛
脱線事故をきっかけに恋が始まる……かも知れない。 ハイパーレスキューとの恋を改稿し、纏めたものです。 ★この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...