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Story 12
しおりを挟む「……んんっ、ふ……ぁ……っ」
何度も角度を変えて、仁寿が貪るように彩の口内を蹂躙する。くちゅっと口の中で唾液が混ざり合って、二人の吐息が重なるたびに耳を刺激する淫靡な音。ぎゅっと目を閉じた彩の鼻先を、仁寿の匂いがかすめた。
――いい香り。
先生以外に、いい匂いがする男の人を知らない。
彩がキスの合間に息を吸い込んだ瞬間、上半身がひやりとした。シャツがまくりあがって、露出した双丘をいじくられる。ブラジャーの寄せ効果を失った乳房が仁寿の手の中で形を変え、つんと勃った乳首を指の腹で円を描くように転がされた。
「は、ぁ……っ」
体を、痛痒いようなむずむずとした刺激が走る。
唾液で濡れた唇を少しだけ離して、仁寿が息を乱しながら「彩さん」と呼んだ。少しかすれたセクシーな低音に、耳が敏感に反応して背中がぞくぞくする。
呼びかけに応えるように開いた彩の目を、熱を孕んだ仁寿の視線が射貫く。彩の左胸が、どくんどくんといつもと違う不規則なリズムを刻み始めた。
「声……。彩さんの声、聞きたい」
懇願するような切なげな仁寿の表情に、胸がどきっとときめいて同時にちくりと痛む。赤い室内灯の明かりが、記憶の底から死霊のようによみがえって脳裏を真っ赤に染めていく。目の奥がじわりと熱くなって、彩は首を左右に振った。
「どうして?」
「変……、だから。わたしの声」
刹那、仁寿の瞳が揺れて、彩が咄嗟に顔を背ける。すると、仁寿のほうを向いている頬にふわりと真綿のようなキスがおりてきた。
「じゃあ、声を我慢する彩さんを堪能しようかな」
「え、ええ?」
「はい、バンザイして」
仁寿が、素直に従う彩のシャツを脱がせてブラジャーまで取り払う。オレンジ色のあたたかな弱光に浮かぶ白い肌。熱を宿した仁寿の視線が、視姦するように彩の裸体を舐めた。
「恥ずかしいから、見ないで」
胸や腹を隠そうとする彩の腕を、仁寿がシーツに優しく縫いとめる。
「今さらだよ。かわいいなぁ、彩さんは」
「もう本当にやめて」
「はい、次はあーんして」
「え、あー……、は、ふ、んっ……」
口の中をまさぐるような深いキスのあと、首から上半身のあちらこちらを舐められて吸われた。じんじんと体がうずいて、お腹の奥が熱い。この熱がどこに発散されるのか。それを先読みするかのように、仁寿の手がするりとショーツの中に潜り込んだ。
「……っ、あぁ……っ」
器用に割れ目を広げて、むくれたクリトリスを指でコリコリと刺激する。ゾワゾワと快感が体中を走り抜けて、思わず変な声が漏れてしまった。
「気持ちいい?」
「……は、い」
「もっと教えてよ。僕に、彩さんのいいところ」
「……なっ、だ、めっ、んんんっ!」
胸の頂を口に含んで甘噛みしながら、仁寿が指を潤み始めた秘口に挿れる。そして、彩の体にこもった熱を掻き出すように二本の指で中を擦った。
「ふ……ぁ、あっ……あぁああんんっ!」
指が粘膜の上を往復する度に、蜜口からじゅわっと生ぬるい体液があふれ出る。勝手に腰が揺れて、体がビクビクと小刻みに震えた。下腹部のうずきが限界に達して、中がぎゅっと締まる。
――やめて、ショーツの替え持って来てないの!
先に脱がせて、お願い!
この状況で、彩は、日の仕事に履いていく下着の心配をしている自分にびっくりする。しかし、仁寿と彩の体はお構いなしで、全身が痙攣するようにがくがくと震えて背中が反ると同時に、陰孔から快液が大量に飛び散って意識がはじけた。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
荒い息遣いが、遠くで聞こえる。自分の呼吸なのに、自分の呼吸じゃないみたい。
ぼんやりとした視界で仁寿の輪郭が左右に揺れて、開かれた両脚が引き寄せられる。その直後、硬起したものが秘口に押しつけられた。
「……先生。ゴム……、つけて」
整わない呼吸の合間に、なんとかそれだけを声にする。
腫瘍を患った右の卵巣は、卵管ごと切除されてなくなった。とはいっても、主治医によれば、残った左側は正常に機能しているらしい。確率のほどはよく分からないけれど、可能性があるのなら避妊はちゃんとしなくちゃ。
セックスが原因でうつる病気を防ぐ上でも大事だと思うし。この前もベッド脇のゴミ箱に使用済みのが捨てられていたから、改めて言わなくてもよかったのかも知れないけれど。
「つけたよ」
「……ふ」
熱塊にぐぐっと陰孔を広げられて、彩は声を殺そうとぎゅっと唇を噛む。
「彩さん、そんなに強く噛んだら傷になるよ」
「……あ、ああ。すみません」
「どうして謝るの」
仔犬みたいにかわいい笑顔が近づいてくる。
――先生は、どんな気持ちでわたしとセックスしてるのかな。
素肌を見せて触れ合う行為は、心から信頼できる相手とだからできるのだと思う。だから、彼の言葉と嘲笑が、楔のように強く心に打ち込まれてしまった。
壊れてしまったものが元の形に修復するのは、現実界では難しいんじゃないのかな。それが人の心だったらなおさら、現代の科学力を持ってしてもほぼ不可能に近い。
「彩さんと、ずっとこうしていたい」
体を繋げたまま、仁寿が彩を抱きしめる。ぴたりとくっついた胸の皮膚をとおして共鳴する二つの鼓動。リズムも強さもばらばらなのに、なんだかすごく安心する。
不眠になる度に、その場しのぎの最低な方法で解決してきた。どれだけ専門の病院を受診したって、何種類もの薬を試したって、結局はわたしが変わらなければ治らない。過去に縛られている限り、わたしはずっとこのままだ。
「セックスの最中に言うと説得力がないかもしれないけど、僕は彩さんを大切にしたいと思ってるよ。彩さんが嫌がることよりも、喜ぶことをしてあげたい」
「喜ぶこと……」
「あっ、喜ぶことって、セックスのテクニックじゃないからね」
「分かってますよ」
「今すぐに僕を好きになるなんて無理だろうから、とりあえずつき合おうよ」
「とりあえずって」
「彩さんに損はないはずだよ。ほら、僕って素直だし家事も概ねこなすし、彩さんがぐっすり眠れるようにセックスも頑張るし。自傷するような行為で得る睡眠より、僕と仲良くしたほうが睡眠の質ははるかにいいんじゃないかな」
「すごい説得力ですね」
彩が肩を揺らして笑うと、仁寿が嬉しそうな顔をした。
「好きな人の笑顔って、どうしてこんなに素敵なんだろうね。見ているだけで幸せ」
彩の唇を軽く吸って甘噛みして、仁寿が再び動き始める。膣壁を擦る雄茎は、避妊具の存在を忘れてしまうほど熱い。
上半身を起こした仁寿が、彩の両脚を大きく広げて太腿ふとももの裏を押さえる。そして、体重をかけてぐぐっと根元まで挿れて、ゆっくりくびれの辺りまで引いて、また一気に根元まで埋めた。
「ぁ……っん!」
「あぁ……、彩さんの中、とろとろしててすごく気持ちいい。すぐいっちゃいそう」
仁寿が腰を打ちつける度に咥えた昂ぶりがぬるぬると蕩けた蜜口を擦過して、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて恥蜜が溢れる。
ああ、だめだ。いきそう。吐息に溶けそうな苦しまぎれの声がして、何度も激しく奥を突かれた。
「あっ、んんっ……! せんせ……っ、だ、めっ……!」
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