年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい

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Story 11

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 ベッドに入るや否や、じゃれるように仁寿が彩を組み敷く。彩は、仁寿の目を見つめ返した。


「先生、やっぱりやめませんか?」


 やめるってなにを。今からしようとしてるコトを? それとも一緒に住むのを? 自分でも意図をつかめない曖昧な問いかけをしてしまった。

 よく考えたら、土曜日の夜もまったく同じ質問をした気がするようなしないような……。ひどく自分が滑稽に思える。気まずさを覚えた彩の視線が、そわそわと仁寿の顔を離れて遠くへ向かって泳ぎ始めた。

 寝室を照らす、優しくてあたたみのあるオレンジ色の照明。彩が光源を探るように目を動かすと、部屋の隅っこに近い天井に埋め込み式のダウンライトを見つけた。

 ふと、カウンセラーから聞いた話が頭をよぎる。カウンセラーによれば、寝る時に使う照明に重要なのは色味と光の強さらしい。睡眠に関係するホルモンの分泌を妨げないよう、弱く柔らかな色調で目に直接光が入らないように、だったかな。

 いつもは部屋を真っ暗にして眠るから、カウンセラーのアドバイスを実生活に活かす機会がなかった。しかしなるほど、ダウンライトとベッドの配置をずらして間接的に光を部屋に散らすとホッとするような心地になるし、なんとかホルモンの分泌が促されるような気がしてくる。

 しかし今、本当に安心感を与えてくれているのは、ダウンライトの暖色じゃなくて先生なのかもしれない。


「聞き覚えのあるセリフだね」


 仁寿が、彩の言葉を真剣には受け取っていない様子でおかしそうに笑みをこぼす。


「なんていうか、わたし……。流されて簡単にしちゃう、ふしだらな女みたいじゃないですか……」

「相手は僕なんだから、ふしだらじゃないでしょ? 大好きな彩さんの声で僕の彩さんを貶めるようなことを言わないで」


 鼻翼をつままれて、彩は困惑したような上目で仁寿に視線を戻した。普段がかわいい雰囲気だから、間近で真剣な顔をされるとギャップに胸がどきっとする。



 ――先生は、嫌われるのが怖くないのかな。



 歯の浮くような言葉を臆せず口にする仁寿を純粋にすごいと思い、同時に恥ずかしさのあまり身が縮んでしまいそうな気持になる。


「彩さん、好きだよ」


 仁寿が、彩のシャツの中に手を滑り込ませて下着に手をかけた。手の平が下着ごと乳房を包んで、指先が柔肌に食い込む。


「ん……っ」


 まるで恋人同士の触れ合いみたいに自然な仁寿の動作が、彩の羞恥心を煽る。頬が焼けるように熱くなるのを感じて、彩は心を落ち着かせようと、状況とはまったく関係のないことに考えを巡らせた。

 下着には寿命があって、特にブラジャーは百回の洗濯がモチ・・の限界なのだとか。いちいち洗濯の回数なんてカウントしないけれど、下着専門店の店員さんのいうとおりに下着だけは定期的に新調するよう心がけている。

 社会人になるまで、下着のデザインにはこだわっても、その機能性にまでは気を遣っていなかった。しかしある日、その下着専門店で店員さんに合わせてもらったブラジャーがすごく体にフィットして、ワイヤーの跡もつかないしかゆくもならない。肩こりだって軽減してとても感動した。もっとも、肩こりするほどグラマラスではないけれど。

 とにかく、たかが下着されど下着。下着って、本当に大事だと思う。だから、いつもちゃんとしたものを身に着けている。そんなわけで、どんな状況下においても「今日の下着やばい!」なんて焦る必要はない。


「あ、そうだ。彩さんは、朝ご飯しっかり食べる人?」

「朝ですか? いつもご飯とお味噌汁、それから卵焼きをしっかり食べます」

「へぇ。僕の勝手なイメージだけど、バターをのっけたトーストとコーヒーを飲んでるかと思った」

「がっかりしました?」

「まさか」


 仁寿が嬉しそうな顔で彩にちゅっと軽くキスをして、ブラジャーのホックを外す。

 両親の影響で和食派だから、朝食にバターをのっけたトーストなんて人生で数えるほどしか食べたことない。

 先生の中で、わたしは一体どんなイメージなんだろう。知りたいけれど、知りたくない。そもそも、どうして先生はわたしを好きなんだろう。その理由も、知りたいけれど知りたくない。


「先生」

「なに?」

「一緒に住む話ですけど、少し考えてもいいですか?」

「んー。断る一択なら、だめ」

「断るもなにも、わたしは……」

「僕を好きになれない?」


 スキニナレナイ。


 先生の優しい声が、鼓膜にぶつかって文字のカケラに分解する。初めてセックスした夜、先生は不眠のことを知ってもわたしを軽蔑しなかった。今だって、病気の話をしたあとなのに、何事もなかったかのようで。

 先生といると、強がりで、弱虫で、ひねくれた面倒な自分が浮き彫りになる。好きになれないのは、百パーセントこちら側の問題だ。先生はなにも悪くない。


「彩さんはさ、僕と初めて会った時のことを覚えてる?」


 矢継ぎ早に飛んできたふいをつくような質問に、彩の目が思わず丸くなる。


「もちろん、覚えていますよ」


 まだ就職したての春。桜が満開で、とてもよく晴れた日だった。先生の印象がよかったから、とてもよく覚えている。

 でも、どうして急に五年前の話なんか持ち出すのだろう。なにかあるのかな。しかし、先生の手はシャツの中で乳房をもみもみしてる。どんな状況なの、これ。


「一度だけ、僕の名前を呼んだよね。じんじゅって」


 嘘。
 初対面で呼び捨て?


 いくら年下の学生だからって、お客さん相手にそんな粗相をするはずないと思うけれど……。

 彩が記憶を漁る間もなく、唇が重なる。やっぱり、先生のキスは気持ちがいい。優しさに体ごと包まれるようで安心する。頭の中が空っぽになる。体中に甘くしびれる成分が染み渡っていくような、不思議な感覚に酔ってしまう。


「ぅん、は……ぁ……」


 彩が、先に耐えきれなくなって息継ぎする。すると、艶めかしい息を吐いて、仁寿の熱い舌が彩の舌を捕まえた。

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