上 下
7 / 7

第七話 永遠

しおりを挟む


 今度の口付けは、先ほどとは比べものにならないくらい荒々しかった。逃げようにも、体を抱きすくめられて身動きが取れない。


「ふっん……っ」


 無我夢中で陽王に応えている間に、腰紐がするりと引き抜かれた。はだけた夜着の中を、骨ばった手が這い回る。脇腹、腰、腹部。そして、胸。感じるところを知りつくしているかのように、陽王の手が強弱をつけて肌をなでる。胸の頂を指で弾かれて、珠月の肌がぞわりと粟立った。

 あっという間に夜着は剥ぎ取られ、貪るような口付けが終わると同時に、身体が仰向けに倒れる。


「ずっと、こうして愛を交わしたかった」


 陽王の真剣な目とささやくような声に、胸がどくんと高鳴る。
 まぶたと左右の頬に、優しい接吻がおりてくる。好きだと言われて、珠月ははにかんで、はい、と頷いた。

 陽王が珠月にまたがって、見せつけるように自分の腰紐を解く。するりと夜着が滑り落ちて、無駄のない均整のとれた筋肉質の体が月明かりに浮かんだ。

 無意識に手が伸びていた。珠月は、胸筋の感触を確かめるように指で押してみた。いつも忙しそうにしているのに、いつ鍛えているのだろう。この状況で、そんな悠長なことを考える自分に驚く。緊張が体中の神経を一周半くらいして、振り切れて、思考が完全におかしくなっているのだ。きっと。


「硬い……」

「こら、あおるな」

「煽ってなんて……!」

「余裕だな」


 くすりと笑って、陽王が首に甘く噛みつく。そして、右手で乳房を愛撫しながら、肌に舌を這わせる。やさしく、時々、小さな音を立てて吸いついて……。

 余裕なわけがない。恥ずかしくて、恥ずかしくて、今にも息が止まってしまいそう。

 舌先が、胸の中心を避けて通り過ぎる。そして、へその周りや脇腹の柔肌をくすぐる。じらすような動きがもどかしい。そのせいで、体の奥が徐々に熱を持ち始めてしまった。はやく……。お願い、はやく触れて……。

 散々じらされたあと、やっと胸の突起を吸われて、珠月はため息のような高い声を出した。舌先で押され、転がされ、時々甘く噛まれて、そこが痛いほどいきり立つ。


「緋尚とは、どのように夜を過ごしていた?」


 陽王が、赤みを帯びて固くなった頂を舌で弄びながら言った。言葉と一緒にかかる息さえも肌を刺激してくすぐったい。

 初めて床を共にした夜、処女だと知られてしまった。信じられないと驚く陽王に、夫はあなたのようなけだものではないと泣きながら叫んだ記憶が頭をよぎる。



 ――どうしてそんなことを聞くの。



 珠月が、いや、と吐息混じりに言う。答えろ、と言わんばかりに陽王が胸の頂に歯を立てた。


「あぁ……んっ、てっ手を……っ、ん、握ってっ……」

「それだけか?」


 珠月が必死に首を縦に振る。


「ならいい。少しでもこの柔らかな肌に触れていたなら、明日にでも首をはねてやるところだ」

「もしかして……、やきもち?」


 悪いか、と拗ねるように言って、陽王は赤くなった乳首をいやらしく舐めて胸の肌に吸いついた。そして、双丘の間に顔を埋める。

 緋尚が女に欲情しない質だと知っていても、珠月と同じ褥で眠っていたなど胸糞が悪い。

 それにしても、と陽王はにんまりする。
 心もとない月明かりのもと、目を潤ませて恥じらう姿の何と可愛らしいことか。もっと見たい。溺れて乱れる姿を。

 珠月の両脚を開いて、陰部に顔を近付ける。それから、薄い恥毛の中に隠れているものをそっと舐めた。


「いやぁ……っ!」


 珠月は腰を小さくひねる。生温い舌に花芯を刺激されて、瞬時に熱が一点に集まってきた。熱い。もう蕩けてしまいそう。


「ん、あっ」


 薄い唇が花芯を吸って、いやらしい音を立てる。同時に、指がゆっくりと会陰をかき分け、迷わず潤んだ蜜口に押し入ってきた。


「やんっ、やめて……っ」


 膣壁を押し上げて、陽王の指が小刻みに中で動く。
 珠月は体をしならせた。気持ちいい。もっとそこを。もっと強く。いや、やめないで……。懇願するように見つめると、陽王は意地の悪い笑みを浮かべ、そこを離れて指を一気に引き抜いた。


「あっ……、んんっ」


 陽王が覆いかぶさって、ちゅっと軽く口付ける。


「乱れた姿も美しい」

「そっ、そんなこと言わないで。恥ずかしい、から」


 体を起こした陽王が、屹立した自身で会陰をなで回す。どろりと溢れる愛液を絡め、狙いを定めるように猛りの先を蜜口に押し当てる。そして、ずぷりと先端をねじ込んだ。


「ううんっ」


 珠月の眉根が寄る。
 狭い中を広げながら、熱をもたげた楔が奥を目指す。ぐっと穿つように一度だけ最奥を突いて、陽王が浅い位置で抽挿を始めた。膣壁がうごめくのが自分でもわかる。さっき指が触れた場所。一番感じる所だ。


「はぁ……っ、ああっ、んっ」


 珠月は敷布を握りしめて、小波のように官能をくすぐる快感に耐えた。
 陽王を咥えた蜜口から愛液が溢れて粘着質な音がする。そして、時折聞こえる低くて短い艶のある喘ぎ声。あなたも気持ちいい? そう聞きたいのに余裕がなくて手を伸ばす。

 陽王が、その手をつかんで激しく奥を突いた。たっぷりと潤って摩擦のない肉襞を、乱暴にぐちゃぐちゃに擦られる。もうだめ、抗えない。珠月は、背を反らして達した。

 細切れの呼吸に照応して、珠月の胸が大きく上下する。
 陽王は、両腕で珠月の肩を抱きしめた。二重まぶたに縁取られた瞳が、虚ろに視線を泳がせている。

 息を奪うように珠月の唇を塞いで、舌を歯列の間に入れる。すると、すぐに舌が絡みついてきた。快楽の波に飲まれながらも、応えてくるのがいじらしい。そのまま抽挿すると、うねるように締めつけてくる。


「んっ……」


 果てのない波が、また体を昂ぶらせる。珠月は、両腕で陽王を抱きしめた。しっとりと汗ばんだ陽王の肌。ひんやりとした感触のあとに伝わってくる、とても心地いい体温。けれど、それに浸っている時間はなかった。


「あっ、あっ、ああっ……!」


 最奥を激しく攻められて、さっき達したばかりの体が大きく震えた。だらりと敷布に投げ出した手を握り締め、陽王がついばむような口付けをする。


「珠月、可愛い。もっと、もっと欲しい」


 獰猛な光を宿した陽王の目に、ぞくりと身震いする。いつ終わりがくるのだろう。もう全部がおかしくなってしまいそうなのに……。

 ぐるりと体が反転する。困惑する珠月に、陽王がにやりと笑う。


「自分で動いてみろ」

「そっ……、そんな……」

「ほら」


 体を起こすと、陽王を咥えたまま馬乗りの状態になっていた。陽王が見ている。恥ずかしい格好を、嬉しそうに。

 陽王の胸に両手をついて、腰を前後させてみる。こんなおぼつかない動きで、満足できるのだろうか。でも、やり方がわからない。ただ、胎内がすごく気持ちいい。剛直に奥の奥をぐぐっと押されて、びくびくと体が震えるほど――。

 珠月は、敏感になった雌芯を擦りつけるように腰を動かした。


「……っ」


 弾むように揺れる乳房を手で揉みしだきながら、陽王が眉間にしわを寄せて苦しそうな顔をする。


「痛いですか?」

「……いい」

「えっ?」

「気持ちいい」


 もどかしい動きに我慢の限界がきてしまった。陽王は珠月の太腿をなで、下から勢いよく突き上げる。そして、嬌声を上げて蜜を撒き散らす珠月の中に精を放った。

 口で荒い息をしながら、珠月は陽王の体の上にくたりと倒れた。たくましい腕が、ぎゅっと体を抱きしめる。


「愛している、珠月」


 朦朧とする意識の中で、優しい声が聞こえた。あたたかい。珠月の口元が、緩やかな弧を描く。どくんどくんと早鐘を打つような陽王の心音に導かれて、珠月はそのまま眠りに落ちた。





 それからひと月ほど経ったある日、昇陽の王宮は慶事の赤一色に染まった。
 陽王が、正妻である王后を迎えたのだ。たくさんの国々から王族や朝臣たちが招かれ、過去に例を見ないほど盛大な立后の儀が執り行われた。

 珠月は、一足先に紫永宮へ戻った。途中で足を止め、庭の木々に目を向ける。芽吹いた新芽は、いつの間にか淡い桃色の花になっていた。ひらひらと花の蜜を求めて飛んできた蝶が、珠月の衣にとまる。

 金糸で大輪の花が刺繍された真っ赤な衣装。昇陽の王后が、一生に一度、婚儀のときに身にまとうものだ。


「珠月!」


 呼ばれて振り返ると、陽王が駆けてきた。着丈の長い黒の上衣がはためいて、赤い深衣が見えている。近くにきた陽王の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。


「そんなに急いでどうされたのです? 言ってくださればお待ちしましたのに」

「待たせるほどのことではない。ふたり揃って紫永宮の門をくぐりたかっただけだ。今日は、特別な日だからな」

「ふふっ」

「綺麗だ、珠月。詞華王もきっと喜んでおられよう」


 陽王が、軽やかな所作で珠月の手を取る。

 王宮では、何をするにも習わしやしきたりといった規則がつきまとう。それによれば、王后は麗明宮れいめいきゅうに住むことになっているらしい。麗明宮は、紫永宮の目と鼻の先、とても近くに建っている。それなのに陽王は、我が后の住処すみかは紫永宮だと女官長に駄々をこねた。


「王宮は、王の御子が生まれお育ちになられる場所。秩序が乱れます。国の主たる陽王がきまりを破るなど」

「余は王后以外に妻は持たぬ。乱れる秩序がどこにあるのだ」


 こんなやり取りの末、陽王の屁理屈に女官長が万歩譲ってくれたお陰で、珠月は紫永宮での暮らしを続けることになった。

 紫永宮の門の前で、宮女たちが並んでふたりを出迎える。人目をはばからず手をつなぎ、ほほえみ合う陽王と王后に皆が羨望の眼差しを向けた。

 今宵、王宮に灯される火が消えることはない。赤いろうそくに灯される火には、王と王后の魂が深く永遠に結びつき、命がつながるようにとの願いがこめられているそうだ。

 夜の帳がおり、蕾怜が王后になった珠月の部屋へ渡る。それは、春が盛りを迎えたおだやかな吉日のことだった。


 *----- 完 -----*
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

花籠しずく
2024.01.07 花籠しずく

最後まで読みました。最初この2人どうなるのだろうとハラハラしていたのですが、幸せになれてよかったです……!面白かったです。

虹色すかい
2024.01.08 虹色すかい

うまくミスリードできるかな……とドキドキしながら書いていました。
楽しんでいただけて、とってもとっても嬉しいです!
ありがとうございます!!

解除

あなたにおすすめの小説

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

旧王家の兄妹

真木
恋愛
交わるのを恐怖とする一族、旧王家。 旧王家の姫ロザリアもまた交わりを嫌悪し、恐怖していた。ロザリアの心に反して隣国の王は無理やり彼女を妃とし、執拗に求めた末、その身に命が宿る。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!? 「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!! 『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。 ・R18描写のある話には※を付けています。 ・別サイトにも掲載しています。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。