22 / 36
22:遠近透視
しおりを挟む
地味にショックを受けて固まっているちとせと、「なんだ嘘だったのかぁ」と胸を撫で下ろしている薫をよそに、兜人は蓮華に向き直った。
「滝杖先輩はどうして分かったんです?」
「うむ、何を隠そう、うちの能力は 遠近透視だからのう」
そう言われ、兜人は頭の中の知識を探った。確か、近距離でかつ隠れた物を中身を視るのが『透視』、そして遠距離にある物を視るのが『千里眼』と昔から呼ばれるもので、異能力者にはそれらの能力が併発する場合が多く、ひっくるめて 遠近透視と呼んでいる——だったか。
「うちは遠隔視ならフェイズ2、透視ならフェイズ5の 遠近透視者じゃ。そしてこういったESP系の能力試験には互換性が確認されているものがある。この『箱の中身はなんだろなクイズ』もそのうちの一つじゃ。 遠近透視者が箱の中身を透視し、 接触性精神感応者が『隠した』という心理状態の試験者——すなわちちとせの心を読み解く。さすればあら不思議、その二つは同程度の異能力とみなせるのだ」
やっていることが軽く見えるからか、 遠近透視者がただ箱の中身を透視しただけでフェイズ5とは驚きだが——まぁ、他でもない蓮華がそういうのだから間違いないのだろう。
「ということは……」
「薫といったか? お主は間違いなくフェイズ5の 接触性精神感応者ということよ」
——場が一度、静まり返った。
蓮華が一息ついた後、言葉を続ける。
「時に薫、お主、ここに来てどれぐらい経つ? 入島時の進行度は?」
「ええと、ここに来てもう六年になるかな……。進行度は同じだよ、2のままずうっと変わらなかったんだ」
「六年間変わらなかった進行度が、この半年で一気に三つも上がった——これは類を見ない事例じゃな。何らかの事象が関わったとみて然るべきだろう」
「じゃあ、やっぱりクッキーが? でも……」
兜人は言って、首を捻る。そんな摩訶不思議な食べ物が存在するとは思えない。
そこへ、ちとせががらりと話題を変えた。
「話は変わりますけど、薫さん、保育園はどこが経営しているんですか?」
「うん……それなんだよ」
薫は珍しく難しい顔になって、答えた。
「出来過ぎかもしれないけど、保育園を経営しているのは——あの『アマテラス製薬』なんだ」
「——え?」
声を上げた兜人の傍らで、ちとせは口に手をあてがって考え込んでいる。
あのアマテラスが保育園を経営していた。それもこんないわくつきの——?
薫は自分でも半信半疑といった口調で続けた。
「給食はいつも近くの調理センターから運ばれてくるのに、おやつだけアマテラスのトラックが来て運んでくるんだ。園長はアマテラスが出してる子供用栄養補助食品だって話していたけど……」
「お主は何らかの薬剤が入れられている可能性が高い、と思ったのだな」
「うん……。想像、だけどね」
現に薫の進行度がありえない上がり方をしている以上、その想像を完全に否定することはできない。が、それにしても突拍子もない話だ。
保育園の子供たちが、異能力の進行度を上げる薬の実験台に使われている——などと。
「こんなの、誰に言っても信じてもらえないと思って。相手はあのアマテラス製薬だし。けど……クビにされた時思ったんだ。労基局に不当解雇を訴えたら、保育園が調査されたら、もしかしたらこの事態に気づいてくれる人がいるかもしれないって!」
兜人はちとせを振り返った。期せずして蓮華も彼女を見つめている。
ちとせは大きく息を吸い、気持ちを落ち着けるように吐き出した。
「薫さん、よく話してくれましたね。私は……あなたの言うこと、信じます」
「本当かい……!?」
「恵庭先輩」
兜人は厳しい口調で彼女に問う。
「先輩は本当にアマテラスがそんな人体実験じみたことをしていると思うんですか?」
「それは調査してみないと分からないわ」
意外もちとせは冷静に返した。
「ただ保育園側が占環島労基法に沿わず薫さんを解雇していることは事実だもの。これに対して私たち執行官は調査権限がある。薫さんのお話の真偽はアマテラス製薬を調べてから判断しても遅くはないと思うわ」
滔々と語るちとせに、兜人は一つ嘆息した。
彼女の口調には頑として譲らない強さが滲み出ている。ほわほわしているだけの先輩でないことだけは確かなのだ。
「……だから、宗谷くん。一つ、頼まれてもらえないかしら」
そう来ると思っていた。
たとえば真正面から労基局だと告げても、アマテラス製薬の方は応じないだろう。
園長が上と不当解雇の件を相談すると言っている限り、あちらにも数日の猶予を貰うだけの権利はある。
昨日の今日で踏み込む正当な理由をこちらは持っていない。
「どういうことだ、小僧?」
「簡単なことです。自分には——偶然にも、アマテラス製薬にツテがあるんですよ」
「そーなのですよ」
今朝のやりとりを思い出したのか、ちとせはにこりと兜人に微笑みかけた。
「滝杖先輩はどうして分かったんです?」
「うむ、何を隠そう、うちの能力は 遠近透視だからのう」
そう言われ、兜人は頭の中の知識を探った。確か、近距離でかつ隠れた物を中身を視るのが『透視』、そして遠距離にある物を視るのが『千里眼』と昔から呼ばれるもので、異能力者にはそれらの能力が併発する場合が多く、ひっくるめて 遠近透視と呼んでいる——だったか。
「うちは遠隔視ならフェイズ2、透視ならフェイズ5の 遠近透視者じゃ。そしてこういったESP系の能力試験には互換性が確認されているものがある。この『箱の中身はなんだろなクイズ』もそのうちの一つじゃ。 遠近透視者が箱の中身を透視し、 接触性精神感応者が『隠した』という心理状態の試験者——すなわちちとせの心を読み解く。さすればあら不思議、その二つは同程度の異能力とみなせるのだ」
やっていることが軽く見えるからか、 遠近透視者がただ箱の中身を透視しただけでフェイズ5とは驚きだが——まぁ、他でもない蓮華がそういうのだから間違いないのだろう。
「ということは……」
「薫といったか? お主は間違いなくフェイズ5の 接触性精神感応者ということよ」
——場が一度、静まり返った。
蓮華が一息ついた後、言葉を続ける。
「時に薫、お主、ここに来てどれぐらい経つ? 入島時の進行度は?」
「ええと、ここに来てもう六年になるかな……。進行度は同じだよ、2のままずうっと変わらなかったんだ」
「六年間変わらなかった進行度が、この半年で一気に三つも上がった——これは類を見ない事例じゃな。何らかの事象が関わったとみて然るべきだろう」
「じゃあ、やっぱりクッキーが? でも……」
兜人は言って、首を捻る。そんな摩訶不思議な食べ物が存在するとは思えない。
そこへ、ちとせががらりと話題を変えた。
「話は変わりますけど、薫さん、保育園はどこが経営しているんですか?」
「うん……それなんだよ」
薫は珍しく難しい顔になって、答えた。
「出来過ぎかもしれないけど、保育園を経営しているのは——あの『アマテラス製薬』なんだ」
「——え?」
声を上げた兜人の傍らで、ちとせは口に手をあてがって考え込んでいる。
あのアマテラスが保育園を経営していた。それもこんないわくつきの——?
薫は自分でも半信半疑といった口調で続けた。
「給食はいつも近くの調理センターから運ばれてくるのに、おやつだけアマテラスのトラックが来て運んでくるんだ。園長はアマテラスが出してる子供用栄養補助食品だって話していたけど……」
「お主は何らかの薬剤が入れられている可能性が高い、と思ったのだな」
「うん……。想像、だけどね」
現に薫の進行度がありえない上がり方をしている以上、その想像を完全に否定することはできない。が、それにしても突拍子もない話だ。
保育園の子供たちが、異能力の進行度を上げる薬の実験台に使われている——などと。
「こんなの、誰に言っても信じてもらえないと思って。相手はあのアマテラス製薬だし。けど……クビにされた時思ったんだ。労基局に不当解雇を訴えたら、保育園が調査されたら、もしかしたらこの事態に気づいてくれる人がいるかもしれないって!」
兜人はちとせを振り返った。期せずして蓮華も彼女を見つめている。
ちとせは大きく息を吸い、気持ちを落ち着けるように吐き出した。
「薫さん、よく話してくれましたね。私は……あなたの言うこと、信じます」
「本当かい……!?」
「恵庭先輩」
兜人は厳しい口調で彼女に問う。
「先輩は本当にアマテラスがそんな人体実験じみたことをしていると思うんですか?」
「それは調査してみないと分からないわ」
意外もちとせは冷静に返した。
「ただ保育園側が占環島労基法に沿わず薫さんを解雇していることは事実だもの。これに対して私たち執行官は調査権限がある。薫さんのお話の真偽はアマテラス製薬を調べてから判断しても遅くはないと思うわ」
滔々と語るちとせに、兜人は一つ嘆息した。
彼女の口調には頑として譲らない強さが滲み出ている。ほわほわしているだけの先輩でないことだけは確かなのだ。
「……だから、宗谷くん。一つ、頼まれてもらえないかしら」
そう来ると思っていた。
たとえば真正面から労基局だと告げても、アマテラス製薬の方は応じないだろう。
園長が上と不当解雇の件を相談すると言っている限り、あちらにも数日の猶予を貰うだけの権利はある。
昨日の今日で踏み込む正当な理由をこちらは持っていない。
「どういうことだ、小僧?」
「簡単なことです。自分には——偶然にも、アマテラス製薬にツテがあるんですよ」
「そーなのですよ」
今朝のやりとりを思い出したのか、ちとせはにこりと兜人に微笑みかけた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
一人息子の勇者が可愛すぎるのだが
碧海慧
ファンタジー
魔王であるデイノルトは一人息子である勇者を育てることになった。
デイノルトは息子を可愛がりたいが、なかなか素直になれない。
そんな魔王と勇者の日常開幕!
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる