狐の嫁入り。…嫁……嫁！？！？俺、男ですけど！？

かわいいんだろうなぁ。

「…狐さんって、耳とかも隠せるんだね…すごい…」
「そんなもの、朝飯前だ。修行を積めば大抵の者はできるようになる」
「へぇ～！狐さんの世界には、こうやって話せる動物ばかりなの？」
「動物……ああ、まぁ、そうだな」
「すごーい！…いいなぁ、行ってみたい」


きゃっきゃうふふと話している動物たちを思い浮かべながらにやにやと締まりのない笑みを浮かべる。


「…お主はすんなりと受け入れるんだな。他の人間は驚いたり、逃げたりするんだが」
「え？…んーまぁ…狐さんをこの目で見ちゃったし、俺自分の目の前で起こった事はすぐに信じちゃうタイプなの。あとは…流されやすいってだけかな」
「なるほどな。…その、狐さんって言うのやめないか？」
「だって名前知らないし…あ、俺は安藤あんどう槇まきっていいます」
「オレはトウガという」


俺の呼び方に嫌そうな顔をした狐さんにパチクリと瞬きをして自己紹介をすれば、名前を教えてくれた。
「トウガさん…」と呟けば「トウガでいい」と訂正された。

ううん、初対面なのに呼び捨てか…。


「…慣れたら、追々で…俺ちょっと呼び捨てって苦手で。あ、でも追々なんてないのかな？トウガさんはお礼がしたいってだけだもんね？でもなぁ…俺別に欲しい物とかやりたい事とかないし…本当にないんだよね。だけどそれは何か、ダメなんだよね？」


狐の姿の時にタメ口で喋っちゃったから敬語を使うと睨まれて、今はタメ口全開だけど呼び捨ては昔から苦手なんだ。
むぅ、と口を尖らせながらーー昔からの癖で悩んだりすると気づいたら口が尖っている。恥ずかしいからやめたいんだけど、癖になっちゃってて無理だって最近は諦めたーー上目でトウガさんを見るとぐっと何か詰まっていた。
……やっぱりまだ本調子じゃないんじゃ…。


「トウガさん、まだ体調悪いなら横になっててもいいよ？」
「む？いや、大丈夫だぞ？……願いがないなら、連れて行ってやろうか」
「へ？どこに？」
「…オレの住む、喋る動物たちがいる世界に」
「い、行けるの！？」
「あぁ。ーーまあ、条件はあるが…どうだ？」
「行く！行きたい！」
「…ふ。決まりだな」


この時、少しでも条件って何？と先に聞いておけばあんな事にはならなかったかもしれない。
でも喋る動物たちだよ！？絶対かわいいよ！
多分条件聞いててもなんだかんだ行ってたかもしれない。