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リリベルの運命

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私は7の時、大きすぎる魔力を父に心配されて魔女の館に連れて行かれた。

魔女の館には心から困っている人しか入れない魔法がかけられているらしく、足を運んでも視てもらえないこともあるらしい。






フードを深く被った受付の女性に「娘の魔力のことで」と伝えると魔女ミアリサのところへと道を示してもらえた。

部屋は沢山あったがどこの部屋に行けばいいのかはすぐに分かった。



足元の光が魔女ミアリサのところへと案内しているのが分かる。




光が1つの扉の前で弾けるように消えると、私と父もその前で立ち止まった。


「ここか…」



父を見上げると少し険しい顔をしており、私は少し怖くなって父の服を掴みそうになった。






トントンと重い扉を叩くとギィと音を立てながら開く。




薄暗く、淡い紫のヴェールに包まれた空間の中に綺麗なウェーブの赤髪を1つに束ねただけの若い女性がいた。



「…っ。」





父は胸の前に手を置き軽い礼を施す。

そんな父に倣って、私もドレスを掴んで礼をした。



「魔女ミアリサ。突然の訪問失礼致します。今日は頼みがあって来たのです。
よろしいでしょうか?」




「ええ。オーウェン公爵様。公爵令嬢様。よくいらっしゃいました。
どうぞここまでお入りください。」


父は促されるままにその部屋へと足を踏み入れ、私も遅れないようにとすぐに後を追う。




しかし、魔女ミアリサの向かい側には椅子が1つしかなかった。


父が座るのだろうと思っていたが、お前が座りなさいと父に促され、私を視るのだから私が座るのかと心で納得して席についた。



椅子に座ると魔女ミアリサがニコニコしているのが見える。



「え、ええと?」

何か話さなければならないのだろうか。
何を話せば良いものかと目を泳がせると、その女性はにっこりと微笑んだ。



「…ごめんなさいね、つい可愛かったものだから。」



「っ!」


かああっと顔が赤くなるのが分かった。


何もしていないはずなのに可愛いと言われたことに、一瞬ドキッと心臓が跳ねたように感じる。




「それね、今お困りになっている公爵令嬢の魔力は。」

「…ああ、そうなのです。生まれつき魔力が多かったのだが、歳を得るごとにどんどん増している…。これをどうやって抑えたらいいのかを知りたい。」






私は自分の話ではあるものの、口を挟むことはできず、父と魔女ミアリサが話しているのを俯きながら聞いていた。




「まずは、私にお名前を教えてくれるかしら?」


「ぁ、リリベル・オーウェンです。」


そっと顔を上げてミアリサを見て言う。


すると机の上にあった水晶玉が反応したのが見えた。



ミアリサはその水晶を黙ってじっと見ており、私は初めて目にする光景に息を飲んだ。






透明だった水晶玉はピンク色のモヤがかかる。


一筋の青いモヤができ、そして一筋の黄色いモヤと交わる。




私は小さい声で凄い…と漏らした。



するとミアリサは目を見開き、先程までとは違う低い声で言った。













『汝。強い魔力は己を滅ぼさんとしよう。
相応の相手を探せ。
膨大な魔力には膨大な魔力を。
かき消す力が鍵となり、中和する力が答えとなる。
間に合わなければ死すのみである。』







「っ⁈」



冷や汗が流れる中、父は驚く私の肩に手を乗せて安心させようとしてくれる。

これを見ているのは私だけではない。 そしてこれは夢ではない。
そう思った。



ミアリサの口は動いているが、全く違う声。そんな不気味なものに、私は怖くなった。






「コホン。驚かせてごめんなさい。
占う時はいつもこうなってしまうの。」



「………。」


ニコッと笑うミアリサの顔をみてホッとする。するとそのまま占いの結果が話された。




 
「えぇと…。あなたの魔力はこれからどんどん膨大なものへと膨らむわ。あなたがコントロールできないほどにね。」




ゴクリと自身の喉が鳴ったのが分かる。
それは魔女の占いは占い師とは違って必ず当たるものだから。

それ故に易々と魔女とは接触することが出来ない。本当に抱えきれない悩みを持つものしか視てはもらえないのだ。



「あなたの力は自分で抑えるのには限界があるようね。」



「…っ。はい。恥ずかしながら気を張り詰めているときや集中している時は大丈夫なのですが、緊張したり予想外のことが起こると…」


自身の魔力を扱えない。
それを思うと恥ずかしくなった。



「恥ずかしいことではないわ。
それだけ魔力が大きいということなの。
素晴らしい才能よ。でもあなたの魔力は1人ではコントロールできない。
そしてそれをコントロールするためには運命の相手を見つけることが大切だわ。」



ミアリサは水晶玉から手を離し、私の頭に手を乗せると、優しく語りかけてくれた。







「運命の相手…」


「ええ。あなたの運命はそこにある。」


「…。」


魔力のことがあって、年頃の子達と遊ぶことはあまりしたことがない。 

だから、誰かと運命が繋がっているということを理解するのが難しかった。




「……どのような相手なのか、教えてもらうことはできるだろうか。」





占いの様子を静かに後ろで見ていた父が口を開いた。



「容姿は変わるものなのでお伝えできませんが、会おうと思えば会える殿方です。そしてその殿方も令嬢よりは少ないですが、人並み以上に大きな魔力を持っています。」

「大きな魔力…それは貴族以上で間違いないだろうか?」






魔力が人より多いというのは平民にもごく稀にいたりする。父が何を言いたいか分かったかのようにミアリサは言った





「貴族以上です。令嬢が嫁いでもおかしくない家柄で間違い無いでしょう。」







父がホッと胸を撫で下ろしたのが分かる。
「できることなら18になるまでには結婚しなければなりません。
それを過ぎると魔力が暴走し、最悪の場合死に至ります。」

「っ!」




私は目を見開いたまま言葉が出なかった。


「魔女ミアリサ。
娘は確実に結婚できるのだろうか。」


 
「彼女の行い、そして何よりによる手助けを必要とするでしょう。」

父が私の肩に乗せた手に力を入れると、
私は座ったまま父の手の上に自身の手を重ねて父を見上げた。


 


「御令嬢にはまだ難しいかと思いますが、運命の方と魔力を混ぜることで落ち着きます。
回数を経るごとに落ち着いてくるということなので、公爵様が覚えてて頂くといいかと思います。」

私は何のことだか理解できなかったが、父は理解したようだった。

「魔力が多い貴族以上の御子息…
そして18までに結婚か…」



父がボソボソと先程までに伝えられた内容を1人で確認していた。

グリニエルでは16歳から夜会にデビューすることができ、18までに結婚となると時間がとても少ない。


 

「まだ会ったことはないはずです。
しかしきっと、その時が来れば、分かるはずだと思います。」


「……。」


会ったことがない。それもそのはずだ。
私は自身の魔力のせいで人前にはあまり出ないことにしている。

もうすでに出会っているとしたら、親族内にいることとなるだろう。






「人前にもっと出るべきです。
そして見極めなければなりません。
御令嬢の魔力をさせることのできる方に出会えることでしょう。」




「……。」


「……。」






  

長い沈黙を破ったのは魔女ミアリサだった。



「さて、お悩みは解決しましたか?
占いは以上です。もし上手くいかない時はその時またここへいらしてください。」



「ありがとうございます。」



席を立ち一礼すると、魔女ミアリサが私に顔を近づけて耳元で囁いた。
     


「齢15を過ぎたら、1人でここへいらっしゃい。」




私にだけ聞こえるように静かな声だった。きっと父には言えない何かがあるのだろう。

そう思ってコクコクと肯定の意思を伝え、元来た道を戻った。

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