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ウィルフレッドのその後
しおりを挟む「兄さん。こっちの書類は?」
「隊長!この予定なんですけど。」
毎日質問の多い補佐をカバーしている私は2人の問題児を抱えているようだ。
リリィが無事に殿下と結婚した後、私は
剣軍魔軍を束ねる総隊長という新しい役職についた。
それは隊長と同じ地位ではあるものの、どちらの執務もこなさなければならない、いわば執務だらけの地位だ。
そしてその下に付くのが弟のリオネルとヴィヴィアンだ。
「リオネル。その書類はさっきの書類と同じものだから一緒にまとめておいてくれ。」
「ヴィヴィ。それは次の日にずらして調節してくれ。」
各々の質問に答えながら俺はどんどん執務を片付ける。
すると世間話が好きなヴィヴィが口を開いた。
「最近リリィのところには顔を出しているのですか?」
「…いや、あまり行けていないな。」
「兄さんはやっとリリィ離れができたのだから、暫くリリィに会うことないよ。ティオラだけを見るようにならないと。」
そう。私はリリィの騎士を正式に辞めることとなった。護衛につくことはたまにあっても専属騎士ではない。それはなんだか思っていたよりも寂しいものだった。
「そういえばティオラ嬢も社交界デビューしたんだって?」
「ああ。ついこの間私と一緒に行った。兄さんは仕事だったから行けなかったけど、むしろティオラにとっては良かったと思うよ。」
リオネルの考えたことのようで、俺はティオラの社交界デビューをエスコートすることができなかったのだ。
きっとさぞかしティオラは…
「ティオラは元々綺麗だからな。
色んなところから声が掛かりまくりだったさ。しかも王妃の妹という肩書きまであるんだ、老若男女問わず沢山の人と交流することができた。」
そう。見なくともティオラがどんなでひを飾ったかなどすぐに分かる。
リオネルは自慢気に話しているが私は気が気ではない。
私とティオラは5つも違うのだ。
私がもたもたしているうちにあちこちから縁談が持ちかけられるのではないかと不安で仕方がない。
16になったティオラにはもう婚約を取り付けることができたのだが、すぐにでも結婚したいと思っている。
急ぎすぎ?いや、そんなことはない。
「…そういえば、リリィが新しい植物を開発したんですよね?」
「ああ。先日レオンノアが自慢しにきたよ。“私でも植物を育てることができた”と。」
リリィが開発したのは“愛の花”というもので、想い人を真っ直ぐに想うとその色に染まった花が咲くというものだ。
想いの力を持つリリィはそれを基にして花の種を作った。それは人を想いながら育てることでその人色に花を咲かせるらしいのだが、気持ち一つで咲いたり咲かなかったりするようだ。
この間レオンノアにも見せられ、彼が育てたピンクの花と、リリィの育てた黄色の花が隣り合う姿は彼らを思わせた。
あの花を見たときは羨ましさと安堵が交じり合った気持ちになったのだ。やはり彼にリリィを任せて良かった。そう思う。
そして同時に私もティオラと互いに熱く想いあっていたい。と羨ましくもなった。
その花は展覧会を控えており、1週間後にお披露目される予定だ。想い人がいる者が植物を育てており、それも一緒に飾られるという。
今回の国内のお披露目が成功すれば、それは外交にも繋がるのだが、あの2人は外交というよりは、ただただ人との交流を狙っているらしい。
そして大事なその役は前国王妃であるクロエ様や、サウスユークの皇女であるフィリネル嬢。
そしてその話はリリィの妹であるティオラにも声が掛かった。
時期的にはもう咲いている頃かもしれない。しかし私は忙しさ故にティオラに会うことすら叶わないのだから、花すらも見ることができていない。
するとコンコンと執務室の扉が開いた。
「いいぞ。」
「失礼致します。フィリネルでございますわ。」
綺麗な礼をするフィリネルは、手に鉢植えを持っていた。
「フィリネル嬢。どうかしたのかな?」
彼女はグリニエルに留学をしに来て暫く経っている。彼女の性格も相まってもう大分打ち解けていることで、自由に執務室へと来るようになった。
理由?
それは聞かなくとも分かるだろう。
目当てはリオネルだ。
「リオネルに見せたいものがあるんですの。今は宜しくて?」
「ええ。構いませんよ。ここで宜しいのですか?」
「ありがとうございます、ウィルフレッド様。私は場所は特に気にしませんの、早くリオネルにこれを見せたくて来たのです。」
そう言って見せてきたのは大きく花開く透き通った水色の花だった。
「うおっ。凄いな!
こんなに綺麗な“愛の花”。俺も贈られてみたいなー。」
ヴィヴィは興奮気味に花に近付いてその花に見入っている。
「うふふっ。リオネル様、私の想いは如何ですか?」
「確かに綺麗に咲きましたね。フィリネル様。」
兄である私から見れば、リオネルは以前よりも彼女に対して柔らかくはなった気がする。
しかしリオがフィリネル様に対して特別な感情を持っているかは別だ。
「あの、リオネル様に少しお話があるのです、少し宜しいですか?」
フィリネル様がリオネルの手を引き、執務室から連れ出そうとするところをみると、ここでは話せないことなのだと悟った。
「そんなに時間がかからないのであればこちらは構いませんよ。」
兄として弟の縁を取り持ちたいし、上司として彼を送り出せる。
私がそういうと、フィリネル様はリオを連れて執務室から出て行った。
「それじゃ、私もオーウェン公爵と父のところに顔を出してくるよ。」
「へぇ。ついに結婚の話でもしてくるのですか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるヴィヴィを、いつもならスルーしてしまうのだが、フッとひと笑みして部屋を後にした。
行く理由は仕事のことではあるが、ティオラとの結婚を近々に考えているのは本当だ。
私もいい加減仕事人間から抜け出してティオラと過ごしたいのだから、ヴィヴィにはしっかりと執務をこなせるようになってもらいたいものだ。
そう思っていると、フィリネル様とリオネルの話し声が聞こえてきた。
執務室からあまり離れていない曲がり角。こんな廊下で話していたのか、と思いつつ、内容を盗み聞こうとするほど悪趣味ではない。
私は遠回りにはなるが仕方がないとして、進行方向を変えようと足を向き変えた。
「…ティオラの花が咲かないだと?」
ティオラ。その名前に反応した私の耳は、聞こうと思っていない筈だった会話を聞くために研ぎ澄まされた。
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