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リリベルのヴェステン公爵邸

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ヴェステン公爵邸では質の良いもてなしがされた。色とりどりのディナーを終え、湯あみを済ませる。

ひとつ気になったことはレオンと寝室が分けられたことだった。レオン曰く、2人寝るほどの部屋の広さはないのだろうというのだ。私はそれに納得したが、部屋に入って驚いた。

部屋はひとつだが、それなりに広かった。まさか夫婦で1つの寝室を使うのは一般的ではないのだろうか?
だが、殿下ではなくウィルに教えられたことなので、まさかなと考え直した。

私は1人の方がゆっくり眠れるしいいか。と気にしないことにした。

アマリアに髪の手入れやスキンケアをしてもらう。沢山歩いた為、マッサージも念入りだ。

「アマリア。凄く上手ね。マーサにされているようだわ。」
「それは良かったです。母よりも上手くなれるように沢山させてくださいませ。」
そう言って私の全身をほぐしていく。

一通り終わると明日のドレスを選び始めた。明日は移動だけで、オエストには2日間滞在する予定だ。移動の間はワンピースドレスでいいが、夕方には着くためあまりシンプルすぎないものを選んだ。

「明日もよろしくね。アマリア。」
「はい。ゆっくりとお休みください。」
そう言ってアマリアは部屋を後にした。

コンコン。扉がノックされる。アマリアが何か忘れ物でもしたのだろうかと扉を開いた。

するとそこには湯あみを終えた殿下が立っていた。

「殿下?」
「明日の予定を確認したいのだ。入れてもらえるかな?」
明日は移動だけのはずなので、予定もなにも話すことはないのだが、とりあえず殿下を迎え入れた。

「殿下?明日の予定とは…」そう口を開くとギュッと抱きしめられた。
「ああ、リリィ。」

「?どうかしたのですか?」
そう殿下に聞いた。
「今日はずっとリリィと一緒にいたはずなのに、リリィが遠く感じてね。なんだか恋しくなって来たんだ。」

殿下が言うには、普段の私と執務をこなす私は少し違うらしい。確かに執務をしている時は殿下のことなど考えていない。それは言わないが、とにかく自分が構ってもらえなかったことが寂しかったのだろう。

私はレオンを優しく抱きしめる。

「リリィ。リリィはいつもいい香りがする。」
「ふふっありがとう。」
レオンは私の肩に顔を押しつけてグリグリとしている。それがなんとも言えないほど可愛いと思うのだ。

「リリィ。今日薬をあげた母親に、何をしたんだ?」
「分からないの。」
私は本当に分からない。ただ、ほしいと思っただけだったのだ。

「早く治ってほしい。そう思っただけなの。まあ、ミアリサの薬だもの。効いて当然だと思うわ。」そう言ってニッコリと微笑んだ。

「そうか。あまり危ないことはしないでくれ。私はリリィが大切なのだから。」
そう言ってレオンは私にキスをしてくれた。

「それじゃ、私は部屋に戻るよ。何かあれば来てくれて構わないからね。」

「はい。ゆっくりとお休みください。」
殿下は少し寂しそうに部屋へと戻っていった。

私は明日の準備も整ったのでベッドへと潜る。久しぶりのひとり寝は広々としていた。明かりを消して目を瞑る。そうしてから暫く経つのだが、なぜか眠れる気配がなかった。

「疲れているはずなのになぜ眠れないのかしら。」

私は何度も寝返りを打つ。なぜかしっくりこないのだ。

私は起き上がってベッドの縁へと座った。すると誰かの気配がする。

「誰なの⁈」これでも剣軍の娘だ。人の気配くらいは分かる。

「リリィ。」
現れたのはレオンだった。
「れ、レオン?どうしたの?」

「なんだか眠れなくてね。」そう言ってベッドへと近づいてくる。
「そうなの?私もなぜか眠れないの。疲れているはずなのだけれど…どうしてかしら?」

「それじゃ、リリィが眠れるまでそばにいていいかな?」
きっとそれが目的だったのだろうと思った。
「ええ。それじゃ、お願いするわ。」
「リリィ。今日は…」
「しないわよ。」
キッパリと伝える。当たり前だ。馬車のことをまだ私は怒っているのだ。

「仕方がないか。リリィを抱きしめられるだけで、私は幸せだ。」そう言って一緒にベッドへと入る。

先ほどとは違って動きが制限されてしまう為、窮屈なのにそれが居心地良かった。

「レオン。私レオンがいないと眠れなくなってしまったみたい。」そうレオンに笑いかけると、レオンは嬉しそうに笑ってくれた。

私は直ぐにレオンの腕の中で眠りについた。

次の朝、目を覚ますとレオンはいなかった。今までレオンが先にベッドを出ていくことがなかった為、私は少し寂しくなったが、レオンもこんな気持ちだったのだろうかと思った。

「アマリア。」
「お呼びでしょうか。リリベル様。」
「支度をしたいの。手伝ってくれる?」
「畏まりました。」
動きやすいワンピースドレスだが、刺繍がされていて綺麗なレースのものを昨日選んだ。


「殿下は?」
「自分のお部屋で準備をしております。」
「わかったわ。ありがとう。」
私は王太子妃のスイッチをオンにする。

コンコン。
「失礼致します。」
殿下に用意された部屋に入る。
すると用意がすでに終わっており、遠くの方を見つめている殿下がいた。

「殿下?」
「ああ。今行く。」
「どうかなさいましたか?」
「いや、大丈夫だ。」

大丈夫だというならそれ以上聞くことはできないと私は身を引く。

いつもならギュッと抱きしめて、キスしてくれるのに、今日の殿下はしてくれない。私は不思議に思ったが、そのままヴェステン公爵邸を後にした。


馬車の中は2人だけだ。
殿下はこちらを見ることなくずっと窓の外を見ている。

「殿下?」
「…。」
「何を怒っていらっしゃるのか分かりませんが、ちゃんと言っていただかないと謝りようもございません。」

そう言っても殿下はずっと無言だった。

「リリィが。」
「私が?」
「寝言でフレッドを呼んでいたのだ…」
「は?」

それだけ?いや、殿下にとってはきっと一大事だったのだろう。そうに違いないと自分に言い聞かせる。

例えば自分よりも先に殿下が寝て、その殿下が寝言で、私ではない令嬢の名前を呼んでいたら…

嫌だ。

「ごめんなさい。殿下。」
そう言うと殿下はジッとこちらを見てくる。

「そうだなあ。」
殿下が悪い顔をして笑っている。
ああ、また何か良からぬことを考えているのだろうと思った。

「殿下。寝言のことは謝ります。もし仮に殿下が違う令嬢の名前を寝言で言っていたら、私も殿下みたいに怒ると思います。反省しております。だから許してくださいますか?」

いいだろう。そう言ってくれと目で訴える。しかし、その訴えが殿下に届くことはなかった。

「リリィからのキスが欲しいな。」
そう言ってニッコリとする。前にもやらされたのに、懲りない人だなと思う。私のキスは正直言って下手くそだ。それなのに、やらせようとするのだ。そしてそれを笑おうとしているのだろう。

私は殿下に要求する。
「いいでしょう。ただし、私にキスの仕方をちゃんと教えてください。」
そう言った時、殿下が笑ったことを私は知る由もなかった。


殿下の隣に座り、殿下を見つめる。
「よろしくお願いします。」
キッと殿下を睨む。

「ではまず、優しいキスから。私がやってみせるから、した後にリリィからもしてくれるかい?」
「…っ。はい。」

触れるだけのキス。優しく、ソフトに当ててくる。私はそれを真似した。

「リリィ。上手だよ。次だ。」

ちゅっとリップ音を鳴らす。それを受けて私も殿下にちゅっと鳴らしてキスをする。

そのキスを終えて次へと進む。
キスをした瞬間、唇を急にペロッと舐められる。私はそれに驚いてピクッと反応した。すると殿下の舌が私の口に入ってくる。
「ふっ…んぁ。」
息を漏らすと殿下はそのまま続けた。
「んっ。」深くなったキスを気持ちいいと思う。すると殿下は唇を少し離して口元で喋り始めた。

「上手くしようなんて考えなくていいんだ。したいように、唇で愛情を伝えるように集中してすればいい。」
それを忘れずにやってご覧。と殿下が唇を離す。

私はグッと唇を噛む。もう少しキスしていたかった。朝も優しくキスして欲しかった。こんなに好きなのに…

私はそう思いながらレオンにキスをする。レオンは目を閉じてそれを受け入れてくれた。

レオンが好きだと言うことを唇から伝えるように、優しく、そして唇をはむっと包み込む。恥ずかしさで顔が赤くなる。

それでももっと好きだと伝えたい。
私は揺れる馬車の中で殿下の前に立ち、腰を曲げる。危なくないように殿下の後ろにある壁に手をつくいて殿下の唇にキスをした。少し吸い付くようにしてみせる。するとピクッと殿下が反応した為、少し目を開いて殿下を伺う。

「っ。」
舌を出してくれた殿下に合わせてねっとりと這わせる。そして唇を離した。

銀色の糸が唇を繋ぐ。
「でんか…」
上手くできましたか?そう聞こうと思った時、殿下にキスされて阻まれた。

「んぁっ。んっ…」
それがどんどん深くされていく。
「んっ…ぁ。でん…かぁ。」
するとやっと殿下が離してくれた。

「教えたばかりなのに上達が早いな。」
そう言って笑っている殿下を
私は息を整えながら見つめた。

「私の想いは伝わりましたでしょうか?」

すると殿下が口を開く。
「ああ。リリィは私のことが好きで好きで仕方がないみたいだな。」
そう言って笑っていた。
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