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レオンノアの初訪問

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ノア…いや、殿下と夜会に参加してからは
毎日のように殿下のことを考えていた。


私は殿下のことが好きなのだと
心の中で思うと、
心がギュッと締め付けられて苦しくなる。




夜会から1週間が過ぎた日。
早く会いたいと思うのに、
体が怠くて寝室で横になっている私に、
ウィルは毎日様子を見にきてくれた。



「リリィ。大丈夫か?」


「ええ。ただの風邪だと思うのだけれど、
なかなか治らなくて。」



執務を任せっきりにしてごめんなさい
とウィルに告げる。


ウィルはそんなこと気にしてないで早く治せと私の頭を撫でてくれた。






そして、それから体調はどんどん悪化した。






















___





「殿下。」
リリィとの夜会を経て、
毎日上機嫌の私は、
執務をこなすのが早くなっていた。

そんな私に声をかけるのはフレッドだ。




「なんだ、フレッド。」


山住みの書類をどんどん片しながら返事をすると、フレッドは震えるような声で思い口を開いた。


「……リリィの様子がおかしいのです。」


リリィと言われた途端に私は手を止めた。

「リリィがどうかしたのか?」


「……っ。
リリィはなぜかここ1週間ほど
ずっと寝込んでいるのです。」

「1週間もか?」

「はい。初めのうちはリリィも
元気だったのですが、
昨日顔を見に行った時には
会話もできないほどに苦しそうでした。」


1週間も寝込んでいるとなったら
ただ事ではない。

看病に行ってるというフレッドに
嫉妬をするよりも先に、
すぐにリリィの所へ向かわなければ
と馬車の手配をする。




「…殿下。」


「なんだ、こんな時に!」



リリィよりも大事なことはないと言おうとした時、信じられない言葉を耳にした。

「……リリィの魔力が暴走し始めているのかもしれません。」

「っ。なんだと?」

「リリィの様子を見に行くごとに、
制御しているはずの魔力が漏れ、
その量が増えていっているような気がするのです。」



リリィの運命は膨大な魔力を放っておけば死に至るもの。

それを防ぐには運命の相手と結婚しなければならないのだそう。

「今から結婚するとなると
時間がかかるぞ。」




私は王族だ。
どんなに結婚を急いでも、
婚儀まで半年はかかる。



「先程、オーウェン公爵に話をして、
魔女ミアリサのところに行くことに
しました。
もしかすると何か方法があるやもしれません。」



オーウェン公爵は未だフレッドがリリィの運命の相手と思っている。

きっとフレッドに言われて、
その可能性も考えたのだろう。


「……殿下。申し訳ないのですが、
失礼を承知で申します。
…私と一緒に来てください。」





答えはもちろん決まっていた。





急いで準備をし、用意した馬車で城を出る。





フレッドが言うには、馬車で王都を抜け、
歩いて魔女の館へ向かうのだと言う。



私は、街を歩かなければならないので、
馬車の中で髪色を変えて変装をした。












「…魔女に会えるとはな。」




魔女は誰にでも会えるような人物ではない。

私は魔女がどこにいるかも知らなかった。


それなのにフレッドは
魔女の場所を知っており、
何度も伺っているという。






「…リリィが魔女に気に入られているのです。
私はリリィの護衛として行っていただけですので。」




「リリィが?」

「リリィが私に1度栄養剤を
作ってくれたことを覚えていますか?
リリィの魔力を使って万能に育てた薬草を、
ミアリサの手を借りて調薬したようです。」



本来ならリリィの魔力は私に影響しないから、普通に作れば効かないはずだったと思いますと続けた。




馬車を降りてフレッドに続く。



着いたのは町外れの人気のない場所だった。



フレッドは急いでいるからか、
どんどん進んでいく為、
私はフレッドを見失わないように後を追った。




「………はぁ…初めて見たな。」


魔女の館は静かな場所にあった。

受付の女性にミアリサに用が…と伝えると、
受付の女性はコクンと頷き左手を向けて方向を提示した。

足元が光り、光に従って歩くと、
光は扉の前で弾けるように消えた。

「ここですね…。」


「そのようだな…。」




深呼吸をした後、コンコンと扉を叩く。


「ウィルフレッド・ヴァージルです。
魔女ミアリサ、相談があって参りました。」

胸に手を置き一礼する。

私も続けて名乗ることにした。

「レオンノア・サミュエルです。
急な訪問、申し訳ございません。
よろしいでしょうか。」



魔女であるミアリサのいる部屋は
暗くはなく、明るかった。




「…そろそろ来る頃かと思っていました。」



私が占いをしてもらった時と変わらぬ美しさを持つ魔女が言う。

「さあ、細かいことはいいからお座りになりなさい。」





失礼致しますとソファへ座ると、
すぐに本題へと入った。



「遂に暴走したのね。」






「…やはり暴走で間違いなかったのでしょうか。」





医者に診てもらっても、
薬師の薬を飲んでも治らないリリィ。



いつもならフレッドが抑えられる魔力も、
今回は効かないようだった。




「リリィの魔力は特殊なのよ。
リリィは遂にに目覚めたのね。それに反応して魔力が暴走した。」








「どうしたらリリィを治すことができるのか知りたいのです。」



フレッドは焦っているようだった。
それもそのはず、
暴走した魔力は己を滅ぼす。

それを放っておけば死へと繋がるのだ。




「私はオーウェン公爵様には
伝えたはずですよ。
運命の繋がった殿方に魔力を挿入れていただくことで、魔力が混ざり、回数を経るごとに落ち着いてきますよ。と。」





まさか伝えていないなんて…
とミアリサは言う。



私とフレッドは驚いて少し目を逸らした。

「でも流石に、寝込んでいる令嬢の乙女を貰うのはできませんからね。」

「っ!他にも方法はあるのだろうか。」


リリィの乙女は私がもらうと決めているが、
今ではない。


私はリリィに合わせて段階を踏みたいのだ。





「あるにはありますが、
応急処置程度にしかなりません。」

「それは何だ。」






「…キスです。」




私は自身の顔が赤くなるのが分かった。
同様にウィルも顔を赤らめているようだった。




「リリィにキスすれば
リリィの魔力による暴走は
止まるのだろうか。」




聞きたかったことをフレッドが問う。

「ええ、ただ…中和の魔力でなければならないわ。」


そういうと魔女ミアリサも
フレッドも私の方を見た。


「リリィと、…キス……
それでリリィが助かるなら、
嫌われようが無理矢理にでもするさ…。
もう一度、一から信頼してもらえるように
すればいい…っ。」





私たちは魔女ミアリサに助言をもらい、
その足でオーウェン公爵の邸宅へと向かった。
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