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リリベルのココナッツクッキー

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今日は殿下から誘われた通り、
ウィルの仕事の様子を
見に行くことになっている。




ウィルとは毎日というほど会っていたのに、
ミアリサの所に行ってからほぼ会えていないのだ。

ミアリサの館からの帰りは
何か様子が違っていたし、
何かあったのかしらと不安になってくる。




今日は水色のドレスを着て、
登城の準備を進める。



今日はお茶会でないため、
お茶菓子は必要ない。




代わりにウィルに渡すための栄養剤と
ココナッツクッキーを持った。



ウィルと会えない間に
ミアリサの館へと行く用事があり、
その時ミアリサに相談すると、
栄養剤の作り方をレクチャーしてくれたのだ。


薬草を潰し、それを濾す、
それを溶かして熱した後、
飲みやすいようにと爽やかな味のついた液と
混ぜる。すると薄緑色の栄養剤が完成した。



作る間、ウィルのことばかりを考えていた。




この栄養剤は失敗するものではない。
効かなければ体内で水分に代わるだけだから心配はいらないとミアリサに言われた。

その言葉を聞いて安心した。

いくら魔女であるミアリサが私に付いて
調薬したとはいえ、私が作ったものだ。

ウィルに何かあっては困る。





しかし、フレッドに私の魔力は効かない為、別の心配もしなくて済んだ。



私が作った料理を彼だけが
平気に食べられるように、
薬も平気に飲むことができる。
そう教えられた。


そう言われれば栄養剤の効果もないのでは…とも思ったのだが、ミアリサの魔力も入れながら作っているから、大丈夫だとウィンクされた。





私は小瓶1つに栄養剤を入れて
持って帰ったのだ。

それをやっとウィルに渡すことができる。







私は朝食を済ませ、1人馬車へと乗り込む。



時間はまだ午前。






登城するとすぐ、応接間へと案内され、
そこにはすでに殿下がいた。

整った顔立ちをした殿下は、
やはり格好いいという言葉が似合うだろう。

優しく微笑む殿下に私は少し
見惚れてしまった。



「…レオンノア王太子殿下。
本日はお時間を頂きまして
ありがとうございます。」


席へと座る前に私は礼をすると、
途端に彼の表情は曇った。



「リリィ。今は2人しかいないのだ。
いつものようにレオンと
呼んでおくれ。」



「…分かりました。ではレオン殿下。
本日はどうぞよろしくお願い致します。」



私は、寂しそうに眉を下げる彼に負け、
ドレスを掴んで精一杯深く敬意を表した。







「さて、早速だがフレッドのところへ
行くことにしようか。」


「え、よろしいのでしょうか?」

「フレッドのことが気になって、
私との話どころではなくなってしまうかも
しれないからね。」




そう言いながら私に手を差し出す。


エスコートしてくれるということだろうか。


恐れ多いが、折角殿下が出してくださった手を拒めるはずがなかった。





そっと自分の手を重ね、応接間を後にした。

執務室に着くと、廊下側にある小窓から反対の窓際の机で書類と向き合っているウィルが見えた。

ウィルは目元に隈を作り、
なんだか今にも倒れそうな姿をしていた。



「最近はあのような感じなのでしょうか。」



私よりもウィルといる時間の長いであろう殿下にそう問う。


「いや、最近私も会えていなくてな。
タイミングが合わないとばかり思っていた。」





殿下は明らかにやつれている幼馴染をみて、少し驚いているのだろう。




「ウィル…。レオン殿下、大変恐縮ではありますが、執務室に入ってもよろしいでしょうか?」

殿下は突然の願いだというのに、
勿論だ、そのために呼んでいるのだから
会っていくといい。と言ってくださった。




ドアの前に立つと中からドサッと何かが倒れるような音がして、私は青くなり、ドアをノックしてすぐに執務室に入った。

「ウィル!」



床に倒れていた彼に走り寄る。
すると殿下も急いでそばへと来てくれた。


殿下がウィルを抱き起こし、私はウィルに呼びかけていた。

「…ん、リリィ?」

「よかった。気がついたのね。」



ウィルが目を開けたのにホッとした。

そうだ、と薬の存在を思い出してウィルの口へと運ぶ。

こくんこくんとゆっくりだがウィルが飲んだことを確認する。

王太子殿下に手を貸してもらい、

ウィルを執務室にあるソファへと寝かせると
即効性のある薬なのだろうか、
もうすでにウィルの顔色は良くなってきていた。




ソファに横になるウィルと顔を合わせて話す。

「ウィル。どうしたの。
ずっと会えていなかったから心配したのよ。
こんなになるまで仕事して…」


「リリィ。」



大きく深呼吸をしたウィルが口を開いた。

「心配をかけてすまなかった。
考えることが沢山あってね。
次の休みには会いに行こうと
思っていたのだけれど、
リリィには先に伝えておくべきだったよ。
来させてしまって申し訳ない。」


とても申し訳なさそうにウィルが謝る。


「殿下も、お手を煩わせてしまい
申し訳ありません。」

「私は構わない。
リリィがずっと心配していたんだ。
それで、考え事は纏まったのか?」




「…いえ。まだです。
後はどう確認すればいいか
ということだけなのですが。」

小さな声で言うウィルに、言えないのなら言える時に聞こうと殿下は引き下がった。




「ウィル。動けそう?」
私はウィルの体が心配だったため、
医務室に移動した方がいいのではと提案した。

「いや、さっきリリィが飲ませてくれた薬が信じられないほど良く効いてるみたいだ。
…あの薬はどこから?」

「あれは薬じゃなくて栄養剤なの。
私が育てた薬草で私が調薬したものなのだけれど、効いてよかったわ。」


「リリィが作った?」
 
私が作ったものはウィルには効かない。
それを分かっているウィルは確認するかのように聞き返した。

「正確にはだけど。」




そう言うと、
ウィルはミアリサが関係していることに
気付いたのだろうか、納得してくれた。

そしてハッとしていた。





「リリィのおかげで、
考え事が纏まりました。殿下。
今お時間を頂いてもよろしいでしょうか。」


「え、ああ。
今日はこの後何も予定を入れていないから
大丈夫だ。」



ウィルはゆっくりとソファから体を起こすと、話始めた。



「では、まず、リリィにお茶を用意してもらいましょう。」



執務室には自分でお茶を入れて休憩できるように小さな洗い場とカップなどが置いてある。

それを入れるようにと私に指示した。




「え………、…ウィル…。」



私は少し戸惑った。
私の魔力は料理にも影響する。

食べたものは皆魔力に当たってしまうのだ。

ウィルだけは魔力に当たらないため、私の入れた紅茶や作ったスイーツなどを食べることができるが、殿下は違う。


そう口にしようとしたが、
ウィルによって阻まれた。




「リリィ。私の考えが合っているか確認したいんだ。頼む…」









「っ…分かったわ。」
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