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リリベルの初対面

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翌日、朝早くからお茶会の準備をした。
お父様には昨日の夜に、王太子殿下のお誘いでお茶会に参加することになったことを伝えた。

王太子殿下に誘われるなどと何か目立つようなことをしただろうかと驚いていたお父様だったが、ウィルフレッドがいるなら安心だろうと、首を縦に振ってくれたのだ。




私はマーサが用意してくれたアプリコット色のドレスに袖を通す。



「お嬢様はどんな色もお似合いになりますね。」





落ち着きのある雰囲気のマーサは今年で38。

邸宅にお母様のいない私には母のような存在だ。



「マーサ、何から何まで考えてもらってごめんなさい。…急だったのにありがとう。」






着替えを手伝ってもらいながら、私はマーサに言った。




手土産に選んだのは街で評判のマドレーヌ。


貝殻のような形をしていて見た目もよく、味も美味しいのだ。


軽い朝食をとり、馬車へと乗り込む。
いつものように、馬車の中は私1人だけだ。



もし何かあった時に、馬車内で私の魔力に当たった殿方がいたら思うとゾッとするからだ。


しかし、ウィルと出かける際は一緒に乗ってもらう。


ウィルだけは私の魔力に影響されないのだ。

それ以外はこうして1人で乗るのは仕方がないと思う。









しばらく馬車が揺れると、ゆっくりと馬車が停まった。





城の隣にある別邸。


王族が住む場所は城の隣にある。

今日はそこで茶会が開かれると手紙に書かれていた為、私は時間通りにお茶会が開かれる場所へと向かった。



歩きながら気を引き締める。
間違っても魔力の解放だけは避けなければならない。





お茶会の場所へと案内されると、そのテラスには誰もまだ来ていないようだった。





私はホッとして少し気を緩める。














「リリベル嬢。」




ウィルよりも少し低めの声が聞こえ、
私の体は驚いたのかピクっと少し跳ねてしまった。


公爵令嬢の娘ともあろうものが、声をかけられて驚くなんて恥ずかしい。


私は一瞬魔力を漏らしてしまったが、キュッと気を引き締めて声のした方を振り返る。







すると綺麗に整った顔が見えた。

黄金の髪に赤紫の瞳。
サミュエル家の血筋だということが一目で分かる。






「初めまして。王太子殿下。
本日はお招き頂きまして、
誠にありがとうございます。」






そう言って殿下に綺麗な礼をした後、
顔を上げると笑顔の王太子殿下がこちらを見ていた。

どうやら、私の魔力に当たった気配はないと分かってホッとする。









リリベル嬢。私はレオンノア・サミュエル。
来てくれて嬉しいよ。」


殿下はにこやかに笑って礼をする。
これが国中の令嬢を虜にする顔かとジッと陛下を見てしまった。




「リリベル嬢。
フレッドがくるまで座って待とうか。
…アップルティーでいいかな?」






お茶会の席へとエスコートされ、席へと着くと、丸いテーブルには椅子が3つある。


陛下を見ると、侍女にアップルティーを用意させていた。



普通なら殿方と2人で会うのはよくない。しかし、ここには侍女がいてくれているため、問題にはならないだろう。


デビューしてすぐからお父様に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思った。






「殿下。1つお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか。」


「待った、私はリリベル嬢と仲良くなりたい。私のことはレオンと呼んではくれないだろうか。」







突然の申し入れに目を大きくさせてしまった。王族のことを愛称で呼ぶなど、不敬な行為。


しかし、王族からそう呼べと言われたものを覆す方が更に失礼にあたってしまう。

私はそのまま頷くしかなかった。







「……分かりました。それではお茶会の間だけ、レオン殿下と呼ばせていただきます。」




少し無理やり過ぎたか、いや、でも王太子殿下を愛称で呼ぶなど、簡単なことではないということが伝わってほしいと思った。




「……残念だが、今日は初日だ。
徐々に打ち解けられるように、
頑張らせていただこう。」




レオン殿下は私の無礼を咎めることなく笑ってくれた。



「私もリリィと呼ばせてもらっても良いだろうか。」




「……。」


答えは言わなくても分かる通りイエスしかない。




「光栄です。
本日はよろしくお願い申し上げます。」



作った上辺だけの笑顔で殿下に接した。





「ところで、君の話を遮ってしまったね。私に尋ねたいこととは何だろうか?」




顔の前で手を合わせ組み、私に聞いた。




「……本日はどのようなご用件で私をお茶会に招待してくださったのでしょうか。」




「…。」



私は公爵家ではあるが、社交界にはデビューしたばかり。

王族と繋がりがあるのは騎士隊長である父や文官である兄、そして王太子殿下の側近であるウィルだけで、私に声をかけるには不自然だった。













「…それはフレッドの幼馴染というリリィに会ってみたかったからさ。
フレッドの口からは今まで女性の話なんて聞いたことがなかった。
それなのに、この間はとても楽しそうに君を話をしていたからね。
君に会ってみたかったんだ。」   






「……そう、なんですか。」



何かヘマをして目をつけられたわけではなくて良かったと安堵する。






「実際に会ってみて思ったが、君は美しいね。」






持っていた紅茶を置き、まあ、ありがとうございます。と思ってもいない返事を返した。



美しい、可愛い、どれほど言われても嬉しくはなかった。


顔色は変わらないと思っていたが、先程やはり私が驚いた時に漏れた、魔力に当たったのだろう。



私は周りの人の言う美しいや可愛いを素直に受け止めきれない…


魔力に当たった人の感情はきっと本心ではないから…。


そう思えば思うほど、この力が憎くて仕方がなかった。




「…。」




少し考え込んでしまった私を心配そうにレオン殿下は覗き込んでいる。




「あ、そういえば、ウィルフレッド様はまだいらっしゃいませんね。」





さすがに殿下の前でウィルを愛称で呼ぶことができず、そう口にした。





「リリィ。私の前では愛称で呼んでも構わないよ。
いつもフレッドにはリリィリリィと散々聞かされているからね。
フレッドとは長い付き合いなのかな?」



私はウィルが私の知らない時に私の話をしていることが嬉しかった。


殿下はウィルのことをフレッドと呼んでいるらしい。

確かにウィルのことをフレッドと呼ぶ人は多く、ウィルと呼んでいるのは私だけだと気付く。



「ええ、まあ。8歳の頃ですから、10年もいないくらいですけど。」


ウィルの話になったことで、私の顔が少しほぐれた気がする。

「ほう…そういう顔もするんだな。」




小さな声だったからか、殿下の言葉を聞き逃してしまった。






何と言ったのか確認しようと口を開いたところで、ウィルが到着したのが見えた。

私の視線の先にウィルがいると分かった殿下はウィルに声をかけた。




「フレッド。遅かったじゃないか。リリィを待たせるわけにはいかないから、もう始めてしまっていたよ。」

はははと笑う殿下を他所に、ウィルは黒い笑顔をしていた。


「ええ。時間を遅らせて知らせたようで遅くなりましたが、私の本日分の書類は片付けさせていただきましたから、お茶会を終えたらリリィと共に帰らせていただきます。
…随分とリリィと話されたようですね。」


ニッコリと笑うウィルはなんだか怖く見える。

それを見た殿下は少し引きつった笑顔を浮かべているようだった。




しかしウィルが来てくれたことで、私は肩の力が抜けた。


リラックスできた私はその後、殿下の側にいるときのウィルの話を沢山聞かせて貰い、お茶会は特に問題なく終えることができた。








そろそろお開きだという時、
来週もまたお茶会をするから参加してほしいと言われた。





今この場で仰るということはウィルも来るということだろう。
そう思った私は




「分かりました。楽しみにしております。」と緊張の取れた顔で殿下に微笑んだ。

「ではまた…。
本日は誠にありがとうございました。
素敵な時間でしたわ。」




とスカートを掴んで礼をした。



それからウィルのエスコートで馬車に行き、一緒に邸宅まで揺られたのである。






帰るまでの道のり、私は緊張から解放されて隣にいるウィルの肩を借りて眠ってしまった。
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