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ウィルのリリベルとお出かけ

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「ウィルー!」

少し小走りにかけてくる可愛い少女が
転ばないようにと私から彼女へと向かう。

出会った頃は8歳だったリリィは10になり、
良く外に出かけるようになった。


もちろん私と一緒に、さらに護衛騎士1人をつけて歩くのだ。





リリィは装飾の少ない動きやすいワンピースドレスを着ており、今日は一体どこへ行くのだろうかと不思議に思う。

リリィのやることは大体決まっているのだ。







料理はしない。

リリィの料理ははっきり言って美味いのだが、張り切り過ぎて料理に魔力が入ってしまい、邸宅中の使いの者、さらに修練中であった隊員たちが恋煩いに陥るという軽い事件が起きたのだ。




それからはオーウェン公爵様に魔力をコントロールできるようになるまで、料理をすることを止められてしまってからは、厨房に立つことはなく、たまに私にだけ何かを作るだけに留まった。




今日はどこへ行くのかとリリィに聞くと、
今日は花屋へ行って種か苗を見るのだと
返事が返ってくる。



リリィは植物を育てるのが好きなようで、
私がプレゼントした1輪のマーガレットは
とても大事そうに育てていた。


知り合ってから初めて2人で遊んだ時に
贈った一輪花ものだ。





マーガレットには信頼という花言葉があり、これから信頼関係を築くのにいいのではないかと思ったのだ。





リリィが10歳になった誕生日。
リリィ専用の温室が作られた。


毎年誕生日には宝石や装飾品、
ドレスなどを欲しがらず、
本や鉢植えの花、そして庭師を欲しがったのだった。






ついにオーウェン公爵はリリィに専用の温室を用意したようで、そこに植えるものを探しに来たと目的を知らされた。


歩いて王都から出て、
公爵令嬢だと気付かれないように振る舞う。


私はリリィの隣を歩き、
護衛は少し離れた後ろを歩いていた。





しばらく歩くと、
リリィがよく行く花屋フルールに着いた。


フルールは大きい街道に面しており、
外には沢山の花が飾られている。


リリィは慣れたように店に入り、私はその後を追ったが、護衛は店の外で待つようだ。





花屋に入ると様々な花が置かれてあり、
リリィは楽しそうに花を見て歩く。

店主に声をかけて、楽しそうに話し出した。



「お久しぶりです。
今はどんな花が咲いているんですか?」




私は、店主とリリィが楽しそうに話しているのをしばらく見ていた。

リリィはとても愛らしい見た目とは裏腹に
とても好奇心が旺盛だ。

出会うまでは魔力を気にして外に出ることをしなかったようだが、私がリリィの魔力を抑えることができると分かり、今まで我慢していた行動力が顔を出したようだ。





話し終えたのか、リリィが私の方を振り返り、可愛い笑顔を向けて言う。

「ウィル。マーガレットの苗があるんですって!色々な色があるらしいから見に行きたいのだけれどいいかしら?」



植物が好きなリリィの目は輝いていた。

マーガレットが置かれている棚まで移動し、ガラス扉越しにマーガレットを見つめている。するとリリィが口を開いた。






「ウィルに初めてもらったお花もマーガレットだったわよね。」




急だったため私は驚いた。



「……覚えていたんだね。恥ずかしいな。」



「私の温室に初めて植えるのは、マーガレットがいいなってずっと思っていたの。」


「そうだったんだ。
そんなにマーガレットが好きだとは
知らなかったよ。」





「ウィルが初めてプレゼントしてくれたお花だもの、特別に決まっているわ。」


こちらを見てニッコリと笑うリリィに目を奪われた。

彼女の魔力に当たるはずがないというのに、
私は彼女を愛しいと思った。





「…だからね、今日はウィルと一緒に苗を選びたかったの。」


すぐまた棚に目を向ける彼女と同じように、私もガラス越しのマーガレットに目を向けた。

並んでいるのは白、ピンク、黄色、オレンジだ。

「私はやっぱりピンクがいいと思うよ。」

ピンクはリリィの髪色と同じ。
彼女を連想させる可愛らしい色だと思った。




「初めてウィルにもらったマーガレットもピンクだったものね。淡い色で私も好きなの。」

その言葉に幼い頃の自分を褒めてやりたいくらいだった。

内心喜んでいる私をよそに、
でもね、と彼女は続けた。

「黄色もいいと思うの。」
小さい声で恥ずかしそうに言うリリィは
言い表せないほどに可愛すぎた。





黄色といえば私の瞳の色と同じ。
なんだかこのやり取り自体が恥ずかしくなり、リリィの方を向いていられなくなった。


リリィがいる反対側を見つめる私は、顔が赤くなるのがわかった。

赤くなった顔を冷まそうと冷静になれと自分に語りかける。






そんな私を他所にリリィは、決めた。と リ店主の元へと行く。

満足そうに苗を買って歩いてくるリリィを見て、何色のマーガレットにしたのだろうかと思った。

「リリィ、結局何色のマーガレットにしたんだ?」

顔から熱が引いた私は彼女に問いかける。



「うふふ、ピンクと黄色を買ってきたの。」
嬉しそうに、一緒に植えようね。とリリィは笑顔で話す。

私はこの上なく幸せな気持ちになったのだった。






お昼になり、近くのカフェで休んだ。

私はコーヒーにベーコンサンドイッチ、リリィはミルクティーとパンケーキを頼む。

護衛はカウンター席に1人で座っていた。



オーウェン邸宅に着いた後はリリィの温室で初めて植物を植えるのだが、できるなら成功させたいものだと思う。

するとすぐにリリィはひらめいたように言った。

「ルーナンにそばにいてもらいましょう。
植え方を間違えたらマーガレットが可哀想だもの。
やっぱり慣れた人の話が1番よ!」



ルーナンとはリリィが雇った庭師だ。

かなりの曲者で、リリィのことを変な愛情で慕っているのだが、ルーナンという名前に、私は苦笑いしか出なかった。
 






リリィが9歳になったばかりの頃、
私が一緒に出かけることができなかった日、
護衛がほんの少し目を離したうちに
リリィが連れ攫われたことがある。


その犯人がルーナンだ。

ルーナンは可愛らしいものが好きで、街を歩いていたリリィを思いつきで誘拐したのだ。

連れ攫われた時に気を失ったリリィが目を覚まし、連れ攫われた焦りから魔力を解放したのだ。

私のところにリリィが街で連れ攫われたと連絡が来たのと同じ時間に、リリィの魔力を感じてすぐにその場へ向かうと、リリィの魔力に当てられたルーナンがリリィを崇めている不思議な場を見たのだった。





リリィは私を見て安心したのか止まることのない涙を流していた。


彼女に近づくと震えていたためすぐに安心させなければと思ったが、先にキツく縛られていた手を解いた。

縛られていた縄を解くと、リリィは私に抱きついた。



私は驚いたが、小さなリリィの体を抱きしめ、耳元でもう大丈夫だと囁いた。




リリィの魔力はすぐに収まり、ルーナンも少し正気に戻っていた。





「わ、悪かった。ただ、街ですれ違った時に可愛いと思っただけだったんだ。連れ攫おうなんて思わなかったはずなのに…」
それを聞いて俺はハッとする。ルーナンは魔力の影響を受けやすい弱い体質なんだと思った。

街でなんらかの影響でリリィの魔力が少し漏れたのだろう。それに当たったのだ。

だが、私は彼女を怖い目に合わせたルーナンをどう縛り上げて連れて行こうかとそればかり考えていると、スッとリリィが立ち上がり、ルーナンの元へと歩いて行った。

「リリィ!」



私が止めに近づくと、リリィは座り込んでいるルーナンに手を伸ばす。

そして一言。


「私の庭師になってくれないかしら。」
と言った。





その言葉に私もルーナンも顔が崩れるほど驚いた。

「リリィ。何を言っているんだ。
危ない目にあったばかりなんだぞ。」


「ウィル。だって彼の家には沢山の植物があるんだもの。目が覚めてすぐは驚いてしまったけれど、ウィルが来てくれて落ち着いてよく周りを見たら沢山珍しい植物があるのよ!」


と大きな紫色の目をキラキラさせて言った。


私とルーナンは唖然としていた。


それまで喋らなかったルーナンは
くしゃっと髪をにぎり、急に笑い出した。



「俺が怖くないのか?」

「怖くないわ。」

「ここにある植物がわかるのか?」

「ええ。でも分からないものもあるわ。
まだ芽が出ていないそれは何?」

「それはもうそれで花なんだ。」

「えー、凄いわ!」

先ほどまで泣いていたリリィはもういない。
ルーナンと一緒に楽しそうに話しをしていた。



私は頭を抑えて大きなため息をつく。
そしてリリィに声をかけた。

「オーウェン公爵様が探しているだろうから、そろそろ帰るぞ。」


するとリリィがルーナンの手を引く。

「ほら、ルーナンも行こう!」


「…っ。ほ、本当にいいのか?」


「ルーナンがいいの。
こんなに丁寧に植物を育てられる人が悪い人なわけないわ。
沢山植物のことを教えてね。」


ニコニコと彼女が微笑むと、
参ったようにルーナンが眉を下げる。

「本当に今日のことは申し訳ないと思っている。ありがとう。よろしく頼むよ。お嬢様。」と言った。

口数の少ないルーナンは、観念してリリィの庭師になることを決めたようだった。

邸宅に戻った私たちは、
公爵様に訳を話して
どうにか説得に成功したのだった。



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