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祝福
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私は悔しくなって俯いたが、ガイルの言葉を聞いてすぐに顔を上げた。
「成功だ。ちゃんと間に合ったよ。」
「えっ?」
ガイルを見ると、その腕の中には綺麗な女性が抱かれていた。
彼女は赤い髪に白いワンピースを着ている。名前を聞いたわけではないのに誰なのかがすぐに分かった。
「…カミーリア?」
「ええ。そうです。」
「どうして人の姿に?」
「生命の樹が人と想い合えばそれが可能となるのです。
8年前はカミーリアの後継者がいなかった。しかし今であればシトロンがいる。
だから行動したまでです。
それに、人の姿であれば回復魔法が使えますので、こうやって命を救うことができました。間に合って本当に良かった。」
力を使い果たしたカミーリアは眠っていて起きないようだ。
そして。そうこうしている間にシャノンが起き上がり、ゆっくりと近づいてきた。
「師匠…。」
「シャノンか。」
ガイルはエリザベートの専属騎士。
そしてシャノンの剣魔法の師匠だった。
ということはシャノンとゼノは相弟子となる。何という偶然だろうか。
「師匠。無事で良かった…。」
「ありがとう、シャノン。
戦いは終わりだ。みんなにそう伝えてくれ。」
「はい。分かりました。」
____________
後々話を聞いたことによれば、魔穴を封印した後、ゼノとガイルは魔物が国へと逃げた為、すぐさま戻ったが、残された2人の勇者は各国の討伐隊員と共にその場で残りの魔物を倒して各々の国へと戻ったらしい。
戦いの後、壊れた建物は街の人々の手で直され、2日の日を経て遠征をしていた隊員たちは国に戻ってくることができた。
国では生命の樹が消滅したことに、人々は混乱したが、生命の樹が世界を守ったと知った後は、街で生命の樹をモチーフにした物が露店に沢山並び、大いに街は賑わいを見せた。
しかし、人の姿になったカミーリアが生命の樹だということを国民には伏せておくことになった。
魔穴を封印したガイルは貴族と同等の地位が与えられ、カミーリアを妻に迎えた。美しすぎる彼女は謎の貴婦人として世に知れ渡ったが、男たちからの誘いをガイルが許すはずもなく、仲良く暮らしている。
ガイルはエルピス孤児院、前女主人の1人息子である為、現女主人のセレンナをサポートするオーナーとなり、子どもたちの世話を十分にできるようにと人を雇うようになった。
その為、セレンナの休みもしっかりと確保することができ、充実した日々を送っているらしい。
そして師としての才能のあるガイルは15歳未満の剣魔法学校を設立し、そこの魔法を教える先生としてカミーリアと一緒に勤めることになった。
対してゼノは頭は弱いものの、剣術に優れている為、東の隊長をシャガートに継がせ、剣魔法学校の剣術専門講師として師となった。
平民でも才能があれば剣術や魔法を学ぶことができることとなり、国を守るために志願者は大勢いたのだ。
ゼノはそれと同時に私の騎士を続けたが、あまりそれは仕事のないものになった。
私はシトロンへと足を運ぶのは週に一回で事足りるため、王宮での執務や防御魔法などを覚えるために時間を割くようになった。
その際はカミーリアに教えを乞うたが、教えられたのは魔法だけでなく、男の喜ばせ方もだった。
今まで人間ではなかったカミーリアが、どこでそんな知識を…と思ったが、よくよく考えてみれば400年もの間、人に宿っていたのだからおかしいことでもないと思い直った。
そしてアイリーンとベンジャミン皇子が正式に結婚し、私は王女になることから解放された。生命の樹を守る為の女神と呼ばれるようになった私は、その名に恥じないようにもっと魔法を学びたいと思っている。
そしてなんと私はもうすぐ伯母になることが分かった。
聞いたときは驚いたが、喜ばしいことだ。私もいずれ…なんて思うが、今はただゼノと共に過ごしたい気持ちで一杯なのだ。
私は純白のレースが沢山あしらわれたドレスに身を包み、王女の姉妹である象徴のティアラを頭に乗せる。
侍女たちの手によって最高の仕上がりになったところで、扉が開かれた。
「…っリア。この上なく綺麗だよ。」
「ふふっ。ありがとうゼノ。」
本当ならば、新婦の初見は式でと決まっているのだが、どうしても一緒に行きたかったのだ。
この先の人生を共に歩み、共に築き上げたい。そんな思いで私たちは式を行う前に国民へのお披露目を行うことに決めた。
「リア。手を。」
もう何度も繋いだその手を取る。
初めはあんなにも緊張しいものだったのに、彼の手は迷いなどなく、私の手をしっかりと導いてくれた。
隣を歩く彼がついに私の夫になる。10年近くも想い続けてきた彼はどんなに見ても格好いい。
「俺のリア。みんなに俺の妻だと言える日が来るなんて、本当に幸せだ。」
「そんなの、私こそそう思っているわ。」
3階にある外へとつながる玉座の塔。
バルコニーのように作られたその場所は、国民たちからよく見える場所だ。
そして私たちはそこへと出る手前で互いに向かい合った。
「リア…」
ゼノは片膝をつき、私の左手を取った。
「一生、リアを守らせてほしい…
…私と生涯を共にして下さい。」
「…ええ。私も。
ゼノを支えさせてほしいわ。」
私がYesを出せば手の甲にキスが落とされた。
「リア。行こうか…」
「ええ。みんなに祝福してもらいましょう。」
ニッコリと笑い合った私たちは国民の祝福を受けるために足を進めた。
それは鳴り止まない拍手や歓声が響き渡る。
私とゼノはにこやかに手を振り、感謝の気持ちを伝え、互いに見つめ合った。
「ゼノ…キスを。」
「でもそれは式でするものじゃ…。
…分かったよ。
リアには勝てそうもないな。」
ゼノはそう言いながらもゆっくりと私にキスをした。
おしどり夫婦と国中に広がることも遅くはないだろう。
私達は国民から認められ、沢山の祝福を受けた。
~fin
「成功だ。ちゃんと間に合ったよ。」
「えっ?」
ガイルを見ると、その腕の中には綺麗な女性が抱かれていた。
彼女は赤い髪に白いワンピースを着ている。名前を聞いたわけではないのに誰なのかがすぐに分かった。
「…カミーリア?」
「ええ。そうです。」
「どうして人の姿に?」
「生命の樹が人と想い合えばそれが可能となるのです。
8年前はカミーリアの後継者がいなかった。しかし今であればシトロンがいる。
だから行動したまでです。
それに、人の姿であれば回復魔法が使えますので、こうやって命を救うことができました。間に合って本当に良かった。」
力を使い果たしたカミーリアは眠っていて起きないようだ。
そして。そうこうしている間にシャノンが起き上がり、ゆっくりと近づいてきた。
「師匠…。」
「シャノンか。」
ガイルはエリザベートの専属騎士。
そしてシャノンの剣魔法の師匠だった。
ということはシャノンとゼノは相弟子となる。何という偶然だろうか。
「師匠。無事で良かった…。」
「ありがとう、シャノン。
戦いは終わりだ。みんなにそう伝えてくれ。」
「はい。分かりました。」
____________
後々話を聞いたことによれば、魔穴を封印した後、ゼノとガイルは魔物が国へと逃げた為、すぐさま戻ったが、残された2人の勇者は各国の討伐隊員と共にその場で残りの魔物を倒して各々の国へと戻ったらしい。
戦いの後、壊れた建物は街の人々の手で直され、2日の日を経て遠征をしていた隊員たちは国に戻ってくることができた。
国では生命の樹が消滅したことに、人々は混乱したが、生命の樹が世界を守ったと知った後は、街で生命の樹をモチーフにした物が露店に沢山並び、大いに街は賑わいを見せた。
しかし、人の姿になったカミーリアが生命の樹だということを国民には伏せておくことになった。
魔穴を封印したガイルは貴族と同等の地位が与えられ、カミーリアを妻に迎えた。美しすぎる彼女は謎の貴婦人として世に知れ渡ったが、男たちからの誘いをガイルが許すはずもなく、仲良く暮らしている。
ガイルはエルピス孤児院、前女主人の1人息子である為、現女主人のセレンナをサポートするオーナーとなり、子どもたちの世話を十分にできるようにと人を雇うようになった。
その為、セレンナの休みもしっかりと確保することができ、充実した日々を送っているらしい。
そして師としての才能のあるガイルは15歳未満の剣魔法学校を設立し、そこの魔法を教える先生としてカミーリアと一緒に勤めることになった。
対してゼノは頭は弱いものの、剣術に優れている為、東の隊長をシャガートに継がせ、剣魔法学校の剣術専門講師として師となった。
平民でも才能があれば剣術や魔法を学ぶことができることとなり、国を守るために志願者は大勢いたのだ。
ゼノはそれと同時に私の騎士を続けたが、あまりそれは仕事のないものになった。
私はシトロンへと足を運ぶのは週に一回で事足りるため、王宮での執務や防御魔法などを覚えるために時間を割くようになった。
その際はカミーリアに教えを乞うたが、教えられたのは魔法だけでなく、男の喜ばせ方もだった。
今まで人間ではなかったカミーリアが、どこでそんな知識を…と思ったが、よくよく考えてみれば400年もの間、人に宿っていたのだからおかしいことでもないと思い直った。
そしてアイリーンとベンジャミン皇子が正式に結婚し、私は王女になることから解放された。生命の樹を守る為の女神と呼ばれるようになった私は、その名に恥じないようにもっと魔法を学びたいと思っている。
そしてなんと私はもうすぐ伯母になることが分かった。
聞いたときは驚いたが、喜ばしいことだ。私もいずれ…なんて思うが、今はただゼノと共に過ごしたい気持ちで一杯なのだ。
私は純白のレースが沢山あしらわれたドレスに身を包み、王女の姉妹である象徴のティアラを頭に乗せる。
侍女たちの手によって最高の仕上がりになったところで、扉が開かれた。
「…っリア。この上なく綺麗だよ。」
「ふふっ。ありがとうゼノ。」
本当ならば、新婦の初見は式でと決まっているのだが、どうしても一緒に行きたかったのだ。
この先の人生を共に歩み、共に築き上げたい。そんな思いで私たちは式を行う前に国民へのお披露目を行うことに決めた。
「リア。手を。」
もう何度も繋いだその手を取る。
初めはあんなにも緊張しいものだったのに、彼の手は迷いなどなく、私の手をしっかりと導いてくれた。
隣を歩く彼がついに私の夫になる。10年近くも想い続けてきた彼はどんなに見ても格好いい。
「俺のリア。みんなに俺の妻だと言える日が来るなんて、本当に幸せだ。」
「そんなの、私こそそう思っているわ。」
3階にある外へとつながる玉座の塔。
バルコニーのように作られたその場所は、国民たちからよく見える場所だ。
そして私たちはそこへと出る手前で互いに向かい合った。
「リア…」
ゼノは片膝をつき、私の左手を取った。
「一生、リアを守らせてほしい…
…私と生涯を共にして下さい。」
「…ええ。私も。
ゼノを支えさせてほしいわ。」
私がYesを出せば手の甲にキスが落とされた。
「リア。行こうか…」
「ええ。みんなに祝福してもらいましょう。」
ニッコリと笑い合った私たちは国民の祝福を受けるために足を進めた。
それは鳴り止まない拍手や歓声が響き渡る。
私とゼノはにこやかに手を振り、感謝の気持ちを伝え、互いに見つめ合った。
「ゼノ…キスを。」
「でもそれは式でするものじゃ…。
…分かったよ。
リアには勝てそうもないな。」
ゼノはそう言いながらもゆっくりと私にキスをした。
おしどり夫婦と国中に広がることも遅くはないだろう。
私達は国民から認められ、沢山の祝福を受けた。
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